狭い腎動脈が血圧を上げる―腎血管性高血圧は「レニンの左右差」で見抜く
第105回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
腎血管性高血圧症について正しいのはどれか。
- a.左右腎静脈レニン活性〈PRA〉比が診断に有用である。
- b.高齢者では線維筋性異形成が原因として最も多い。
- c.全高血圧患者の約30%を占める。
- d.高カリウム血症を合併する。
- e.薬物治療が第1選択である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腎血管性高血圧は、腎動脈狭窄による腎虚血がレニン分泌を高め、RAA系の活性化を介して血圧を上げる二次性高血圧で、全高血圧の約1%を占めます。二次性アルドステロン症の状態となるため低カリウム血症を伴いやすく、原因は高齢者では粥状動脈硬化、若年女性では線維筋性異形成や高安動脈炎が代表的です。片側性狭窄では患側腎のレニン分泌が増え健側が抑制されるため、左右腎静脈レニン活性比(おおむね1.5以上)が狭窄の機能的意義の評価に有用です。治療は原因除去を目指す血行再建が基本で、線維筋性異形成ではPTRAが第一選択ですが、動脈硬化性狭窄では現在は内科治療が基本とされ、両側狭窄や単腎の狭窄ではACE阻害薬・ARBを原則避けます。治療抵抗性高血圧や腹部血管雑音などの手がかりから「治せる高血圧」を拾い上げる視点は、日常診療で非常に重要です。
解答・解説
正解はaです
腎血管性高血圧症(renovascular hypertension)は、腎動脈の狭窄や閉塞によって起こる二次性高血圧である。原因を取り除けば高血圧が改善しうる代表的な疾患の一つであり、その病態・原因・検査・治療を整理しておく必要がある。
病態
腎動脈が狭くなると、その先の腎臓に流れ込む血液が減り、腎臓の傍糸球体装置は「血圧が下がった」と感知してレニンを多く分泌する。レニンはアンジオテンシノゲンからアンジオテンシンⅠをつくり、これがアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンⅡとなる。アンジオテンシンⅡは強い血管収縮作用をもつとともに、副腎皮質からアルドステロンを分泌させ、ナトリウムと水の貯留を起こす。こうしてレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)が活性化し、血圧が上昇する。アルドステロンの作用でカリウムが尿中に失われるため、低カリウム血症を伴いやすい(二次性アルドステロン症)。
原因
中高年・高齢者では粥状動脈硬化が大部分を占め、若年者(特に女性)では線維筋性異形成、若年女性では高安動脈炎(大動脈炎症候群)も原因となる。
診断の考え方
片側の腎動脈狭窄では、狭窄側(患側)の腎臓からだけレニンが過剰に分泌されるため、左右の腎静脈血のレニン活性を比べると患側が高くなる。この左右差は、狭窄が血圧上昇の原因となっているかどうか(機能的意義)の判定に役立つ。 これらを踏まえると、選択肢のうち正しいのは「左右腎静脈レニン活性比が診断に有用である」である。
選択肢考察
- ○a. 左右腎静脈レニン活性〈PRA〉比が診断に有用である。
カテーテルを左右の腎静脈に挿入して採血し、それぞれの血漿レニン活性(PRA)を測定する検査を腎静脈レニン比測定(分腎静脈採血)という。片側性の腎動脈狭窄では、虚血になった患側腎からレニンが過剰に分泌される一方、健側腎では高血圧によってレニン分泌が抑えられるため、左右比(患側/健側)が大きくなる。一般に1.5以上であれば片側性の腎血管性高血圧を示唆し、血行再建によって降圧効果が期待できるかを判断する材料となる。侵襲的な検査であり、現在は画像検査で狭窄を確認したうえで、必要に応じて行われる位置づけである。
- ×b. 高齢者では線維筋性異形成が原因として最も多い。
高齢者(中高年者)の腎血管性高血圧の原因として最も多いのは粥状動脈硬化であり、腎動脈の起始部(入口部)に狭窄を生じやすい。喫煙、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化の危険因子をもち、冠動脈疾患や末梢動脈疾患を合併していることが多い。線維筋性異形成は動脈壁の平滑筋や線維組織が異常に増殖する非炎症性・非動脈硬化性の疾患で、若年〜中年の女性に多く、腎動脈の中遠位部に狭窄と拡張が交互に並ぶ「数珠状(string of beads)」の血管造影像が特徴である。
- ×c. 全高血圧患者の約30%を占める。
腎血管性高血圧は全高血圧患者の約1%程度とされ、30%は明らかに過大である。高血圧の大部分(約9割)は原因を特定できない本態性高血圧であり、二次性高血圧全体でも高血圧患者の約1割程度である。二次性高血圧のなかでは、原発性アルドステロン症(高血圧患者の約5〜10%)や腎実質性高血圧のほうが頻度が高い。ただし、治療抵抗性高血圧、若年発症、高齢での急な増悪などでは腎血管性高血圧の頻度が高くなるため、積極的に疑う必要がある。
- ×d. 高カリウム血症を合併する。
腎虚血によりレニン分泌が増え、アンジオテンシンⅡを介してアルドステロン分泌が増加する(二次性アルドステロン症)。アルドステロンは腎の集合管でナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促すため、腎血管性高血圧では高カリウム血症ではなく低カリウム血症を合併しやすい。なお、両側性狭窄などで腎機能が高度に低下した場合や、ACE阻害薬・ARBを使用した場合にはカリウムが上昇することがあるが、疾患そのものの特徴としては低カリウム血症である。
- ×e. 薬物治療が第1選択である。
腎血管性高血圧は、狭窄を解除すれば高血圧が改善・治癒しうる二次性高血圧であり、原因となる狭窄に対する血行再建が治療の中心と位置づけられる。特に線維筋性異形成では、経皮的腎動脈形成術(PTRA:カテーテルの先端のバルーンで狭窄部を拡げる治療)の効果が高く、第一選択である。狭窄の形態によっては外科的なバイパス術なども行われる。一方、動脈硬化性の腎動脈狭窄では、大規模臨床試験で血行再建(ステント留置)が薬物療法単独を明らかに上回らなかったことから、現在は降圧薬(ACE阻害薬・ARB、カルシウム拮抗薬など)・スタチン・抗血小板薬などによる内科治療が基本とされ、治療抵抗性高血圧、急速な腎機能低下、反復する急性肺水腫(flash pulmonary edema)などの場合に血行再建が検討される。したがって現在では原因によって方針が異なるが、本問は「原因を除去できる二次性高血圧では血行再建を優先する」という原則を問うものとして誤りと判断する。
腎血管性高血圧を疑う手がかり
・30歳未満での高血圧発症、または55歳以上での新規発症・急な増悪 ・3剤以上の降圧薬でもコントロールできない治療抵抗性高血圧、悪性高血圧 ・腹部(上腹部・側腹部)の血管雑音(約半数で聴取) ・ACE阻害薬やARBの開始後に血清クレアチニンが急上昇する(開始前の30%以上の上昇など) ・左右の腎臓の大きさの差(長径で1.5cm以上)、原因不明の腎萎縮 ・低カリウム血症、血漿レニン活性の上昇 ・説明のつかない反復性の急性肺水腫
検査
・腎動脈ドプラ超音波検査:非侵襲的なスクリーニング。狭窄部の血流速度の上昇などで評価する。 ・CT血管造影(CTA)、MR血管造影(MRA):狭窄部位の形態評価。 ・カプトプリル負荷試験・カプトプリル負荷レノグラム:ACE阻害薬投与後のレニン反応や患側腎機能の低下をみる。 ・腎動脈造影:確定診断のゴールドスタンダードで、同時にPTRAを行える。 ・腎静脈レニン比測定:片側狭窄の機能的意義(降圧効果の予測)の評価。
原因疾患の比較
粥状動脈硬化:中高年〜高齢者、男性に多い。腎動脈起始部の狭窄。全身の動脈硬化を合併しやすい。 線維筋性異形成:若年〜中年女性に多い。腎動脈中遠位部の数珠状狭窄。PTRAの効果が高い。 高安動脈炎(大動脈炎症候群):若年女性に多い大血管炎。炎症が活動性であれば副腎皮質ステロイドなどで治療する。
降圧薬の注意点
ACE阻害薬とARBは、狭窄側の腎臓で糸球体濾過を維持するために働いているアンジオテンシンⅡ(輸出細動脈の収縮)を抑えるため、糸球体濾過量が急激に低下することがある。両側腎動脈狭窄や単腎(腎臓が一つ)の腎動脈狭窄では急性腎障害をきたすおそれがあるため、原則として用いない。片側性狭窄では有効な降圧薬であるが、少量から開始し、腎機能と血清カリウムを慎重にモニターする。
POINT
・腎血管性高血圧は腎動脈狭窄→腎虚血→レニン分泌亢進→RAA系活性化により生じる二次性高血圧で、高血圧患者の約1%。 ・原因:高齢者は粥状動脈硬化、若年女性は線維筋性異形成や高安動脈炎。 ・高レニン・高アルドステロン(二次性アルドステロン症)により低カリウム血症を呈しやすい。 ・左右腎静脈レニン比(1.5以上)は片側性狭窄の機能的診断に有用。 ・腹部血管雑音、ACE阻害薬・ARB開始後の腎機能悪化、腎サイズの左右差は重要な手がかり。 ・線維筋性異形成ではPTRAが第一選択。動脈硬化性狭窄では現在は内科治療が基本で、血行再建は適応を選んで行う。 ・両側腎動脈狭窄・単腎の狭窄ではACE阻害薬・ARBは原則使用しない。
