「食べるとお腹が痛い」は機能のサイン―過敏性腸症候群と警告症状の見分け方
第105回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
過敏性腸症候群の症状はどれか。
- a.発熱
- b.浮腫
- c.血便
- d.食後腹痛
- e.体重減少
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常が慢性的に続くものの、それを説明する器質的病変が見つからない機能性消化管疾患です。胃結腸反射の過剰と内臓知覚過敏を背景に、食後に腹痛が起こりやすく、排便で軽快しやすいのが典型で、脳腸相関を介してストレスでも増悪します。一方、発熱・血便・体重減少・浮腫・貧血・夜間症状・50歳以上での新規発症などは器質的疾患を示唆する警告症状であり、大腸癌や炎症性腸疾患などの精査が必要です。診断はRomeⅣ基準を用い、治療は生活・食事指導を基本に病型に応じた薬物療法や心理療法を組み合わせます。「機能性疾患では起こり得ない症状」を見抜く考え方は、IBSに限らず、見逃してはいけない疾患を拾い上げる臨床推論の基本になります。
解答・解説
正解はdです
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘、あるいはその両方)が慢性的に続くが、内視鏡や血液検査などで症状を説明できる器質的疾患(腫瘍・炎症・潰瘍などの形のある病変)が見つからない「機能性消化管疾患」である。 この問題を解く鍵は、IBSの症状と、器質的疾患を疑わせる「警告症状(アラームサイン)」を区別することである。 ・IBSの症状:腹痛・腹部不快感、下痢や便秘などの便通異常、腹部膨満感。腹痛は食後に起こりやすく、排便と関連して変化(多くは排便で軽快)する。 ・警告症状:発熱、血便、意図しない体重減少、貧血、夜間に目を覚ますほどの腹痛・下痢、50歳以上での新規発症、大腸癌や炎症性腸疾患の家族歴、腹部腫瘤など。 警告症状がみられる場合は、IBSと安易に判断せず、大腸癌、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)、感染性腸炎などの器質的疾患を検索する必要がある。選択肢のうち発熱・浮腫・血便・体重減少はいずれも器質的疾患を示唆する所見であり、IBSに特徴的な症状は食後腹痛である。
選択肢考察
- ×a. 発熱
発熱は感染症、炎症性疾患(炎症性腸疾患など)、悪性腫瘍、膠原病などの器質的・炎症性疾患で生じる。IBSは炎症を伴わない機能性疾患であるため発熱はきたさない。腹痛や下痢に発熱を伴う場合は、感染性腸炎や炎症性腸疾患などを考える。
- ×b. 浮腫
浮腫は心不全(心性)、ネフローゼ症候群や腎不全(腎性)、肝硬変(肝性)、甲状腺機能低下症(内分泌性)、低栄養などによる低アルブミン血症、薬剤性などで生じる。消化器疾患では、腸管からタンパク質が漏れ出る蛋白漏出性胃腸症や吸収不良症候群で低アルブミン血症による浮腫をきたすことがあるが、IBSでは栄養状態は保たれ、浮腫はみられない。
- ×c. 血便
血便は消化管の粘膜が傷ついたり、血管に異常があったりすることで起こり、大腸癌、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性腸炎、大腸憩室出血、痔核などの器質的疾患を示唆する。IBSでは粘膜に病変がないため血便はみられず、血便があればIBSと判断する前に大腸内視鏡検査などで原因を調べるべき警告症状である。
- ○d. 食後腹痛
IBSでは、食事をとると胃の伸展などを刺激として大腸の運動が亢進する反射(胃結腸反射)が過剰に起こりやすく、さらに腸管の知覚過敏(通常では痛みと感じない刺激でも痛みを感じる)があるため、食後に腹痛や便意が誘発されやすい。腹痛は排便と関連して変化し、排便により軽快することが多い。ストレスで増悪することも特徴であり、食後腹痛はIBSに典型的な症状である。
- ×e. 体重減少
体重減少は、悪性腫瘍、炎症性腸疾患、吸収不良症候群、甲状腺機能亢進症、糖尿病、神経性やせ症などでみられる。IBSでは食事摂取や消化吸収は保たれており、原則として体重減少はきたさない。意図しない体重減少は器質的疾患を疑う警告症状であり、精査が必要である。
IBSの病態
腸管の運動異常、内臓知覚過敏、心理的要因(不安・抑うつ・ストレス)が関与し、脳と腸が自律神経や神経伝達物質・ホルモンを介して互いに影響し合う「脳腸相関」が重要と考えられている。感染性腸炎の後に発症する感染後IBSもあり、腸内細菌叢の変化や腸粘膜の軽微な炎症の関与も指摘されている。若年〜中年に多く、有病率は一般人口の1割前後とされる。
診断基準(RomeⅣ基準)
最近3か月間、平均して週1日以上、繰り返す腹痛があり、以下の2項目以上を伴うもの。 1. 排便に関連する 2. 排便頻度の変化を伴う 3. 便形状(外観)の変化を伴う (少なくとも診断の6か月以上前に症状が始まり、最近3か月間は上記を満たしていること) 診断には、警告症状の有無の確認と、必要に応じた血液検査・便潜血検査・大腸内視鏡検査などによる器質的疾患の除外が重要である。
病型分類
便の性状(ブリストル便形状スケール)により、便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)に分けられる。
治療
生活習慣・食事の改善(規則正しい食事、刺激物や脂肪の多い食事・アルコールの制限、低FODMAP食など)が基本である。薬物療法として、高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)、消化管運動調節薬、抗コリン薬(腹痛に対して)、プロバイオティクスを用い、下痢型にはセロトニン5-HT3受容体拮抗薬(ラモセトロン)、便秘型にはグアニル酸シクラーゼC受容体作動薬(リナクロチド)などを使う。心理的要因が強い場合は抗うつ薬や抗不安薬、認知行動療法などの心理療法を組み合わせる。
POINT
・IBSは腹痛と便通異常が慢性的に続き、器質的疾患がない機能性消化管疾患。 ・腹痛は食後に起こりやすく、排便と関連して変化(多くは排便で軽快)する。 ・発熱、血便、体重減少、貧血、夜間症状、50歳以上での発症などの警告症状はIBSでは説明できず、器質的疾患の精査が必要。 ・病態の中心は腸管運動異常・内臓知覚過敏・心理的要因(脳腸相関)。 ・診断はRomeⅣ基準(最近3か月、週1日以上の腹痛+排便関連・排便頻度変化・便形状変化のうち2項目以上)。
