その手術は「何を、どこに」触れるのか―手技から読み解く産科手術の合併症
第104回医師国家試験 G問題 第4問
国試問題にチャレンジ
産科手術と合併症の組合せで正しいのはどれか。
- a.帝王切開術 ―― 膀胱損傷
- b.吸引分娩術 ―― Erb麻痺
- c.頸管縫縮術 ―― 子宮穿孔
- d.鉗子分娩術 ―― 臍帯脱出
- e.骨盤位牽出術 ―― 帽状腱膜下血腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
産科手術の合併症は、その手技が何に対してどこで操作するかから考えると整理できます。帝王切開術では膀胱を剝離・圧排して子宮下部を切開するため膀胱損傷が代表的な合併症で、反復帝王切開や分娩進行後の緊急手術では危険が高まります。吸引分娩・鉗子分娩は児頭を牽引するため帽状腱膜下血腫や頭血腫などの児頭損傷と軟産道損傷を、骨盤位牽出術や肩甲難産はErb麻痺や鎖骨骨折を起こしやすく、頸管縫縮術では子宮穿孔ではなく破水・感染・出血が問題となります。臍帯脱出は骨盤位や児頭未固定での破水が危険因子です。手技と合併症を機序で結びつけて理解することは、術前の説明や術後・出生後の観察のポイントを押さえることにもつながります。
解答・解説
正解はaです
代表的な産科手術について、その手技の性質から起こりうる合併症を結びつけられるかを問う問題である。 合併症は「その手技が何を、どこに対して行うか」から考えると整理しやすい。 ・帝王切開術:下腹部を開腹し、膀胱を剝離・圧排して子宮下部を切開する → 膀胱・尿管・腸管など隣接臓器の損傷、出血、感染、血栓塞栓症など。 ・吸引分娩・鉗子分娩:頭位の児頭に器具をかけて牽引する → 児頭の損傷(頭血腫、帽状腱膜下血腫、頭皮損傷、頭蓋内出血など)と母体の軟産道損傷。 ・骨盤位牽出術:骨盤位で児の体幹・上肢・後続児頭を牽引・娩出する → 上肢や頸部の過伸展による腕神経叢麻痺、鎖骨・上腕骨骨折、後続児頭の娩出困難による低酸素など。 ・頸管縫縮術:子宮頸部の外側に糸をかけて締める → 破水、出血、感染(絨毛膜羊膜炎)、子宮収縮の誘発など。 このように手技と合併症を対応させると、正しい組合せは帝王切開術と膀胱損傷である。
選択肢考察
- ○a. 帝王切開術 ―― 膀胱損傷
膀胱は子宮下部の前面に接しており、帝王切開では膀胱子宮窩の腹膜を切開して膀胱を下方へ剝離したうえで子宮下部を切開する。このため膀胱損傷は帝王切開の代表的な手術合併症の一つである。前回帝王切開による癒着がある場合や、分娩が進行して児頭が深く下降した状態での緊急帝王切開では、膀胱が引き上げられたり剝離が困難になったりして損傷の危険が高まる。
- ×b. 吸引分娩術 ―― Erb麻痺
Erb麻痺は第5・第6頸神経根(C5・C6)を中心とする上位腕神経叢の損傷で、頭部と肩が引き離される方向に強い牽引がかかることで生じる。典型的には骨盤位牽出術の際や、頭位分娩で児頭娩出後に肩が引っかかる肩甲難産の際に起こる。吸引分娩のカップは児頭に装着して頭を引くものであり、器具自体によって直接生じる合併症は頭皮・頭蓋の損傷(帽状腱膜下血腫、頭血腫など)である。Erb麻痺は吸引分娩に特有の合併症として対応させるものではない。
- ×c. 頸管縫縮術 ―― 子宮穿孔
頸管縫縮術(Shirodkar法、McDonald法)は、子宮頸管無力症に対して頸部の外側から糸をかけて締める手術であり、子宮内腔に器具を挿入しないため子宮穿孔は起こりにくい。主な合併症は前期破水、出血、感染(絨毛膜羊膜炎)、子宮収縮の誘発であり、特に胎胞が頸管外へ膨隆している状態で行う緊急縫縮では破水の危険が高い。子宮穿孔は子宮内容除去術(流産手術など)や子宮内避妊器具の挿入で問題となる合併症である。
- ×d. 鉗子分娩術 ―― 臍帯脱出
臍帯脱出は、破水時に児の先進部と骨盤の間にすき間があることで臍帯が先進部より先に下降する状態であり、骨盤位(特に足位)、横位、児頭の未固定、羊水過多などが危険因子である。鉗子分娩は児頭が十分に下降・固定した段階で行う手技なので、臍帯脱出の原因にはならない。鉗子分娩の合併症は、児の顔面・頭部の損傷(顔面神経麻痺、頭蓋骨骨折、頭蓋内出血など)と母体の腟・会陰・頸管裂傷などの軟産道損傷である。
- ×e. 骨盤位牽出術 ―― 帽状腱膜下血腫
帽状腱膜下血腫は、頭皮の帽状腱膜と頭蓋骨膜の間の疎な結合組織に出血が広がるもので、吸引分娩で最も起こりやすく、鉗子分娩でもみられる。この腔は縫合線を越えて広がるため大量出血となり、出血性ショックや高ビリルビン血症を来しうる。骨盤位牽出術では児頭を器具で牽引しないため、これに対応する合併症ではない。骨盤位牽出術で問題となるのは腕神経叢麻痺、鎖骨・上腕骨骨折、後続児頭娩出困難などである。
新生児の頭部の分娩損傷(浅い順)
・産瘤:頭皮下の浮腫。縫合線を越える。数日で消失。 ・帽状腱膜下血腫:帽状腱膜と骨膜の間の出血。縫合線を越えて広がり、大量出血によるショックの危険がある。吸引分娩が主な危険因子。 ・頭血腫:骨膜下の出血。骨膜が縫合線に付着しているため縫合線を越えない。波動を触れ、吸収に数週〜数か月かかる。
腕神経叢麻痺
・Erb麻痺(上位型、C5・C6):上肢は肩で内旋・内転、肘で伸展、前腕回内、手関節屈曲した「waiter's tip position」をとる。Moro反射は患側で消失するが、把握反射は保たれる。 ・Klumpke麻痺(下位型、C8・Th1):手の麻痺が主体で、把握反射が消失する。Th1の交感神経線維が障害されるとHorner症候群を伴う。 ・危険因子:巨大児、肩甲難産、骨盤位分娩。
頸管縫縮術
・Shirodkar法:膀胱・直腸を剝離して内子宮口に近い高さで縫縮する。 ・McDonald法:腟部に巾着縫合をかける簡便な方法。 ・通常は妊娠37週前後で抜糸する。陣痛発来や破水時には速やかに抜糸する。
POINT
・帝王切開術 → 膀胱損傷(膀胱を剝離して子宮下部を切開するため) ・吸引・鉗子分娩 → 帽状腱膜下血腫、頭血腫、軟産道損傷 ・骨盤位牽出術・肩甲難産 → Erb麻痺、鎖骨骨折 ・頸管縫縮術 → 破水、感染、出血(子宮穿孔ではない) ・臍帯脱出 → 骨盤位・横位・児頭未固定での破水
