StudyMed医師国家試験

政府・国際機関・民間―3本の柱で読み解く日本の国際保健医療協力

第104回医師国家試験 G問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第33問

我が国の国際保健医療協力について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.非政府機関〈NGO〉の活動の主体は企業である。
  2. b.世界保健機関〈WHO〉では東アジア地域に属している。
  3. c.国際労働機関〈ILO〉に加盟して労働者の健康を擁護している。
  4. d.国際協力機構〈JICA〉の国際保健協力をWHOを通して行っている。
  5. e.政府開発援助〈ODA〉による資金協力を無償と有償とで行っている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日本が国際保健医療協力にどんな枠組みで関わっているかを問う問題だ。ポイントは「政府による協力(ODA)」「国際機関を通じた協力」「民間による協力(NGO)」の3本柱に分けて整理すること。この枠組みさえ頭にあれば、各選択肢の正誤はかなり判断しやすくなるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で出てきた気はするんですが、略語が多くてごちゃごちゃになっていました。
ドクタードクター
略語の多さで混乱しやすい分野だからね。まず政府による協力から。ODA、つまり政府開発援助は、政府や政府関係機関が開発途上国の発展や福祉の向上のために資金や技術を提供するものだ。大きく分けて、相手国に直接行う二国間援助と、国際機関への拠出を通じて行う多国間援助がある。
医学生医学生
二国間援助の中身は、資金をあげるのと貸すのの2つでしょうか。
ドクタードクター
惜しい、もう一つある。二国間援助は技術協力、無償資金協力、有償資金協力の3つだ。無償資金協力は返済義務のない資金供与で、所得水準の低い国の病院や給水施設の整備、ワクチンや医療機材の供与などに使われる。有償資金協力は円借款などの低金利・長期返済の貸付で、規模の大きいインフラ整備に使われることが多い。だから「ODAによる資金協力を無償と有償とで行っている」という記述は正しい。
医学生医学生
その3つを実際に担っているのがJICAですね。
ドクタードクター
そう。JICAは外務省所管の独立行政法人で、2008年以降は技術協力・無償・有償の3つを一元的に実施している。専門家派遣や研修員の受け入れ、保健施設の整備などを、相手国政府と直接協力して進めるんだ。
医学生医学生
だとすると、「JICAの国際保健協力をWHOを通して行っている」というのは違和感がありますね。
ドクタードクター
いい気づきだ。JICAはあくまで二国間協力の実施機関で、WHOを経由して活動しているわけではない。WHOへの分担金や拠出金は多国間援助として政府が拠出するもので、別の枠組みなんだ。現場でJICAとWHOが連携することはあっても、「WHOを通して行う」というのは誤りだよ。
医学生医学生
次は国際機関ですね。ILOは労働の機関なので、医療協力とは関係なさそうに思えてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところだね。ILOは1919年にベルサイユ条約に基づいて設立され、今は国連の専門機関の一つだ。政府・使用者・労働者の三者の代表が参加する三者構成が特徴で、労働安全衛生や労働条件、社会保障に関する国際労働基準を条約や勧告として定めている。日本は創設時からの加盟国で、一時脱退した後に1951年に復帰している。
医学生医学生
社会医学の産業保健の授業でも、ILO条約の話が出てきました。労働者の健康を守るという点で、国際保健とつながっているんですね。
ドクタードクター
その通り。だから「ILOに加盟して労働者の健康を擁護している」は正しい。では、WHOで日本が属している地域はどこだと思う?
医学生医学生
地理的には東アジアなので、東アジア地域……ではないんですか?
ドクタードクター
多くの人がそう答えるけれど、WHOに「東アジア地域」という区分は存在しない。6つの地域はアフリカ、アメリカ、南東アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋で、日本は西太平洋地域に属し、地域事務局はフィリピンのマニラにある。中国や韓国、オーストラリアも同じ西太平洋地域だ。紛らわしいのが南東アジア地域で、こちらはインドのニューデリーに事務局があり、インドやタイ、インドネシアなどが属している。
医学生医学生
日本は南東アジアでも東アジアでもなく、西太平洋。マニラとセットで覚えます。最後のNGOですが、企業が主体というのは違いますよね。
ドクタードクター
正解。NGOは政府から独立した非営利の市民団体で、日本ではNPO法人、公益財団法人、宗教法人、任意団体などの形をとる。企業は利益を追求する営利組織だから、NGOの活動主体ではない。企業が寄付やCSR活動でNGOを支援することはあるけれど、それは支援者の立場だよ。
医学生医学生
NGOは「政府ではない」、NPOは「営利目的ではない」ことを強調した呼び方で、中身はかなり重なっている、という理解でいいですか。
ドクタードクター
それで大丈夫。国際協力の分野ではNGOと呼ぶことが多いね。医療チームの派遣や母子保健、感染症対策、災害時の緊急援助など、草の根レベルの活動を担っている。発展として、多国間援助の相手先も押さえておこう。WHOのほかに、予防接種や栄養改善、安全な水を支援するUNICEF、HIV/AIDS対策を統括するUNAIDS、リプロダクティブ・ヘルスを扱うUNFPA、途上国への融資を行う世界銀行などがある。
医学生医学生
将来、臨床をやりながらJICAやNGOで海外の医療支援に関わる先輩の話を聞いたことがあります。どの枠組みで動いているのかを知っておくと、キャリアを考えるときにも役立ちそうですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。同じ「海外で医療支援」でも、政府の二国間協力なのか、国際機関なのか、民間のNGOなのかで、立場も資金の流れも違う。試験対策としてだけでなく、自分が関わるときの地図として持っておくといいよ。

まとめ

日本の国際保健医療協力は、政府によるODA、WHOやILOなど国際機関を通じた協力、民間のNGOによる協力の3本柱で整理できます。ODAの二国間援助は技術協力・無償資金協力・有償資金協力(円借款など)からなり、いずれもJICAが実施しますが、JICAはWHOを経由せず相手国と直接協力する機関であり、WHOへの拠出は多国間援助という別の枠組みです。日本はILOに加盟して労働者の健康・安全の国際基準づくりに関与し、WHOでは東アジアではなく西太平洋地域(事務局はマニラ)に属します。NGOは非営利の市民団体で、企業は活動主体ではなく支援者の立場にとどまります。略語を3本柱の地図の上に置いて理解することが、正誤判断だけでなく、将来国際協力に携わる際の基礎にもなります。

解答・解説

正解はc, eです

本問は、我が国が国際保健医療協力にどのような枠組みで関わっているかを問うている。整理の軸は次の3つである。

1. 政府による協力(ODA)

政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)は、政府や政府関係機関が開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上を目的として行う資金・技術の提供である。ODAは大きく、相手国に直接行う「二国間援助」と、国際機関への拠出・出資を通じて行う「多国間援助」に分かれる。二国間援助はさらに、技術協力、無償資金協力(返済義務のない資金供与)、有償資金協力(円借款など、低利・長期の貸付)の3つに分けられ、2008年以降はこの3つをいずれも独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)が一元的に実施している。

2. 国際機関を通じた協力

我が国は世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関に加盟・拠出し、多国間の枠組みで保健・労働・福祉の向上に関与している。WHOは世界を6つの地域に分けて地域事務局を置いており、日本は西太平洋地域(事務局はフィリピン・マニラ)に属する。

3. 民間による協力(NGO)

非政府組織(Non-Governmental Organization:NGO)は、政府から独立した非営利の市民団体であり、医療チームの派遣、母子保健、感染症対策、災害時の緊急援助など、草の根レベルの活動を担っている。 この枠組みを押さえると、各選択肢の正誤は判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  非政府機関〈NGO〉の活動の主体は企業である。

    NGOは政府から独立して活動する非営利の団体であり、担い手は市民である。日本では特定非営利活動法人(NPO法人)、公益財団法人・公益社団法人、社会福祉法人、宗教法人、任意団体などの形をとる。企業は利益を追求する営利組織であるため、NGOの活動主体とはいえない。企業が寄付や社会貢献活動(CSR)でNGOを支援することはあるが、それはあくまで支援者の立場である。

  2. ×b.  世界保健機関〈WHO〉では東アジア地域に属している。

    WHOの地域区分は、アフリカ、アメリカ(汎米保健機構:PAHOが兼務)、南東アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋の6地域であり、「東アジア地域」という区分は存在しない。日本は西太平洋地域に属し、地域事務局はフィリピンのマニラに置かれている。同じ西太平洋地域には中国、韓国、オーストラリアなどが含まれる。紛らわしい南東アジア地域(事務局はインドのニューデリー)には、インド、タイ、インドネシアなどが属する。

  3. ○c.  国際労働機関〈ILO〉に加盟して労働者の健康を擁護している。

    ILOは1919年にベルサイユ条約に基づいて設立され、現在は国際連合の専門機関の一つである。政府・使用者・労働者の三者の代表が参加する(三者構成)のが特徴で、労働条件の改善、労働安全衛生、社会保障などに関する国際労働基準(条約・勧告)を定めている。日本は創設時からの加盟国であり、一時脱退した後、1951年に復帰している。ILOへの加盟を通じて労働者の健康や安全の確保に国際的に関与しているので、正しい。

  4. ×d.  国際協力機構〈JICA〉の国際保健協力をWHOを通して行っている。

    JICAは外務省所管の独立行政法人で、日本のODAのうち二国間援助(技術協力、無償資金協力、有償資金協力)を実施する機関である。保健分野でも専門家派遣、研修員の受け入れ、病院・保健施設の整備などを相手国政府と直接協力して行っており、WHOを経由して活動しているわけではない。WHOへの分担金・拠出金は多国間援助として政府(厚生労働省・外務省)が拠出するものであり、JICAの二国間協力とは別の枠組みである。現場でJICAとWHOが連携することはあっても、「WHOを通して行う」という記述は誤りである。

  5. ○e.  政府開発援助〈ODA〉による資金協力を無償と有償とで行っている。

    ODAの二国間援助における資金協力には、返済義務のない無償資金協力と、低金利・長期返済の条件で資金を貸し付ける有償資金協力(円借款など)の2種類がある。無償資金協力は所得水準の低い国を主な対象とし、病院や給水施設の整備、ワクチンや医療機材の供与などに用いられる。有償資金協力は比較的規模の大きいインフラ整備などに用いられることが多い。いずれも現在はJICAが実施しているので、正しい。

日本のODAの体系

・二国間援助:技術協力、無償資金協力、有償資金協力(円借款など)→ 実施機関はJICA ・多国間援助:WHO、UNICEF、国連人口基金(UNFPA)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、世界銀行などの国際機関への拠出・出資

保健医療に関わる主な国際機関

・WHO(世界保健機関):1948年設立、本部ジュネーブ。保健分野の国連専門機関。日本は1951年に加盟、西太平洋地域に属する。 ・ILO(国際労働機関):1919年設立、本部ジュネーブ。政府・使用者・労働者の三者構成。 ・UNICEF(国連児童基金):子どもの生存・発達・保護を支援(予防接種、栄養改善、安全な水など)。 ・UNAIDS(国連合同エイズ計画):HIV/AIDS対策を統括。 ・UNFPA(国連人口基金):人口問題、リプロダクティブ・ヘルス。 ・世界銀行:途上国への融資・技術支援。

WHOの6地域と地域事務局所在地

アフリカ(コンゴ共和国・ブラザビル)、アメリカ(米国・ワシントンD.C.)、南東アジア(インド・ニューデリー)、ヨーロッパ(デンマーク・コペンハーゲン)、東地中海(エジプト・カイロ)、西太平洋(フィリピン・マニラ)

NGOとNPO

NGOは「政府ではない」ことを、NPOは「営利を目的としない」ことを強調した呼び方で、実体は重なる部分が大きい。国際協力の分野ではNGOと呼ばれることが多い。

POINT

・日本はWHOの西太平洋地域に属する(地域事務局はマニラ)。「東アジア地域」は存在しない。 ・日本はILOに加盟しており、労働者の健康・安全の国際基準づくりに関与している。 ・ODAの二国間資金協力には無償資金協力と有償資金協力(円借款)があり、技術協力と合わせてJICAが実施する。 ・JICAは二国間協力の実施機関であり、WHOなど国際機関への拠出(多国間援助)とは別の枠組み。 ・NGOは非営利の市民団体で、企業(営利組織)は活動主体ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。