胎盤は下へ、子宮底は上へ―後産期の剝離徴候を読み解く
第104回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
児娩出後の胎盤剝離徴候として正しいのはどれか。
- a.恥骨結合上縁を圧迫すると,腟外に出た臍帯が引き戻される。
- b.子宮底を軽く叩くと,臍帯を持った手にその衝撃が伝わる。
- c.臍帯が児娩出直後と比べて下がってくる。
- d.子宮底が児娩出直後と比べて下降する。
- e.産婦が尿意を訴える。
対話形式の解説
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医学生まとめ
分娩第3期には、子宮の収縮によって胎盤が子宮壁から剝がれ、子宮下部から腟へと下降します。剝離を確認せずに臍帯を強く牽引すると子宮内反症などを招くため、外からの所見で剝離を判断します。代表的な徴候は、臍帯が下降するAhlfeld徴候、子宮底が上昇し右に傾くSchröder徴候、恥骨上を圧迫しても臍帯が引き込まれないKüstner徴候、子宮底を叩いても振動が臍帯に伝わらないStrassmann徴候、直腸圧迫による便意を訴えるMikulicz-Radecki徴候です。「胎盤は下へ、子宮底は上へ、子宮と臍帯の連動は消える」と原理で理解すれば、ひっかけの選択肢にも対応できます。胎盤娩出後の欠損確認や弛緩出血の予防まで含めて理解することが、安全な分娩管理の基本となります。
解答・解説
正解はcです
分娩は第1期(開口期)、第2期(娩出期)、第3期(後産期)に分けられる。児が娩出されてから胎盤と卵膜(後産)が娩出されるまでを分娩第3期という。 児が娩出されると子宮は急に縮み、胎盤が付着していた面(胎盤付着部)の面積も小さくなる。胎盤そのものは縮まないため、子宮壁とのあいだにずれが生じる。そこへ後産期陣痛が加わって胎盤の一部が剝がれ、その隙間に出血して胎盤後血腫ができる。この血腫が剝離をさらに押し広げ、胎盤はやがて子宮壁から完全に離れて子宮下部から腟へ下りてくる。 胎盤が剝がれる前に臍帯を強く引くと、子宮内反症や臍帯の断裂、胎盤の一部が子宮内に残る遺残を招く危険がある。そのため、胎盤が剝がれたことを外からの所見で確認してから娩出させる。これが胎盤剝離徴候であり、人名を冠した徴候として整理されている。 剝離した胎盤は子宮体部から子宮下部・腟へと移動する。子宮と胎盤、臍帯のつながりがなくなるので、次のような変化が起こる。 ・胎盤が下がる分だけ、腟外の臍帯が下がる(Ahlfeld徴候)。 ・子宮体部は空になって縮み、下部に入った胎盤に押し上げられて、子宮底はむしろ上がる(Schröder徴候)。 ・子宮を押したり叩いたりしても、その動きが臍帯に伝わらない(Küstner徴候、Strassmann徴候)。 ・腟内の胎盤が直腸を圧迫する(Mikulicz-Radecki徴候)。 この変化を押さえれば、各選択肢の正誤を判断できる。
選択肢考察
- ×a. 恥骨結合上縁を圧迫すると,腟外に出た臍帯が引き戻される。
Küstner(キュストナー)徴候に関する記述である。恥骨結合のすぐ上を手で押し込むと、子宮体部が上方へ押し上げられる。胎盤がまだ子宮壁に付いていれば、子宮とともに胎盤も上がるため、臍帯は腟内へ引き込まれる。胎盤が剝がれていれば、子宮が動いても胎盤と臍帯はついていかない。そのため、臍帯は引き込まれず、そのままか、わずかに押し出される。この記述は「剝離していない」ときの所見であり、剝離徴候としては誤りである。
- ×b. 子宮底を軽く叩くと,臍帯を持った手にその衝撃が伝わる。
Strassmann(シュトラスマン)徴候に関する記述である。臍帯を軽く張った状態で持ち、もう一方の手で子宮底を軽く叩く。胎盤が子宮壁に付いていれば、振動が子宮、胎盤、臍帯の順に伝わり、臍帯を持つ手に感じられる。胎盤が剝がれていれば、子宮と胎盤のつながりが絶たれているので、振動は臍帯に伝わらない。この記述は「剝離していない」ときの所見であり、剝離徴候としては誤りである。
- ○c. 臍帯が児娩出直後と比べて下がってくる。
Ahlfeld(アールフェルト)徴候である。児の娩出直後に、腟の出口(外陰部)の高さで臍帯に鉗子をかけたり印を付けたりしておく。胎盤が剝がれて子宮下部や腟へ下りてくると、それに引っぱられて臍帯も腟外へ出てくる。そのため、鉗子や印の位置が児娩出直後より下がる。一般に、鉗子が10cm程度下がれば剝離したとみなす目安とされる。胎盤が剝がれて下降したことを直接反映する、代表的な剝離徴候である。
- ×d. 子宮底が児娩出直後と比べて下降する。
Schröder(シュレーダー)徴候に関する記述である。児娩出直後の子宮底は臍の高さ前後にある。胎盤が剝がれて子宮下部へ下りると、空になった子宮体部は硬く縮んで細長くなる。そして下部にある胎盤に押し上げられるかたちで、子宮底はむしろ上昇し、臍より上に位置するようになる。同時に、子宮体部は右へ傾くことが多い(S状結腸が左側にあるためとされる)。子宮底は「上がる」のが剝離の所見であり、「下降する」とする本記述は誤りである。なお、胎盤が娩出された後は、子宮底は臍の下まで下がる。
- ×e. 産婦が尿意を訴える。
Mikulicz-Radecki(ミクリッツ・ラデッキー)徴候に関する記述である。剝離した胎盤が腟の中へ下りてくると、腟の後ろにある直腸が圧迫され、産婦は便意(いきみたい感じ)を訴える。訴えるのは尿意ではなく便意であり、本記述は誤りである。
胎盤剝離徴候のまとめ(剝離したときの所見)
・Schröder徴候: 子宮底が上昇して臍より上になり、子宮体部は細く硬くなって右に傾く。 ・Küstner徴候: 恥骨結合上縁を圧迫しても、臍帯が腟内に引き込まれない。 ・Ahlfeld徴候: 腟外の臍帯(に付けた鉗子)が下降する。 ・Strassmann徴候: 子宮底を軽く叩いても、振動が臍帯に伝わらない。 ・Mikulicz-Radecki徴候: 腟内の胎盤が直腸を圧迫し、便意を訴える。 覚え方としては、「剝がれた胎盤は下へ、子宮底は上へ。子宮と臍帯の連動は消える」と整理するとよい。
胎盤の剝離様式
・Schultze様式: 胎盤の中央から剝がれ、胎児面(臍帯の付いている面)から娩出される。多くはこの様式で、胎盤後血腫は胎盤とともに出てくるため、娩出前の外出血は少ない。 ・Duncan様式: 胎盤の辺縁から剝がれ、母体面から娩出される。剝離の途中から外出血がみられる。
分娩第3期の管理
分娩第3期の所要時間は通常15〜30分程度である。30分以上たっても胎盤が娩出されない場合は、癒着胎盤なども念頭に置いて対応する。剝離徴候を確認したら、腹壁の上から子宮を支えつつ臍帯を軽く牽引して胎盤を娩出させる(Brandt-Andrews法など)。剝離前の強い臍帯牽引や子宮底の強い圧迫は、子宮内反症の原因となるため避ける。胎盤娩出後は、胎盤や卵膜に欠損がないか確認し、子宮収縮と出血量を観察する。弛緩出血の予防には、子宮収縮薬(オキシトシン)の投与や子宮底マッサージが用いられる。
POINT
・胎盤剝離の本質は、「胎盤は下降し、子宮と臍帯の動きの連動がなくなる」ことである。 ・Ahlfeld徴候: 臍帯(鉗子)が下降する。本問の正解である。 ・Schröder徴候: 子宮底は上昇し、右に傾く(下降ではない)。 ・Küstner徴候: 恥骨上を圧迫しても臍帯が引き込まれない。 ・Strassmann徴候: 子宮底を叩いても振動が臍帯に伝わらない。 ・Mikulicz-Radecki徴候: 訴えるのは便意である(尿意ではない)。 ・剝離前に臍帯を強く牽引すると、子宮内反症の危険がある。
