StudyMed医師国家試験

白く濁る赤ちゃんの瞳―風疹が水晶体に残す爪痕

第104回医師国家試験 E問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第6問

風疹ウイルスの胎児感染と関連するのはどれか。

  1. a.輪部デルモイド
  2. b.先天無虹彩
  3. c.先天白内障
  4. d.網膜芽細胞腫
  5. e.赤緑色覚異常

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠中の風疹感染が胎児の眼にどんな異常を残すかを問う問題だ。選択肢には眼の先天異常が並んでいるけれど、それぞれ「原因は何か」で仕分けると答えが見えてくる。まず、先天性風疹症候群と聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
微生物学の講義で、三大症状は心疾患・難聴・白内障だと習いました。
ドクタードクター
その通り。妊婦が風疹ウイルスに初めて感染すると、ウイルスが胎盤を越えて胎児に感染し、器官形成中の組織を傷害する。これが先天性風疹症候群だ。三大症状は先天性心疾患、感音難聴、白内障。心疾患では動脈管開存症や肺動脈狭窄が代表的だね。
医学生医学生
感染する時期によってリスクは変わるんですか。
ドクタードクター
大きく変わる。器官形成期にあたる妊娠初期、特に12週頃までの初感染で最も危険が高く、20週を過ぎるとまれになる。ただし難聴は妊娠中期の感染でも単独で起こりうるし、出生時には気づかれにくいこともある。
医学生医学生
では答えは先天白内障ですね。でも、どうしてウイルスで水晶体が濁るんでしょう。
ドクタードクター
風疹ウイルスは形成途中の水晶体線維細胞に持続感染して傷害するんだ。水晶体の中心部が濃く濁る核白内障の形をとることが多く、小眼球を伴うこともある。ほかの選択肢も、原因の違いで整理しておこう。輪部デルモイドはどうかな。
医学生医学生
角膜の縁にできる白っぽいしこりですよね。眼科の実習で写真を見ましたが、感染とは結びつきませんでした。
ドクタードクター
その感覚で正しい。輪部デルモイドは皮膚に似た組織が本来と違う場所にできた分離腫で、胎生期の発生異常と考えられている。耳介の奇形や脊椎異常を伴うGoldenhar症候群の一症状として出ることがあるね。
医学生医学生
先天無虹彩は、白内障や緑内障を合併すると聞いたので少し迷いました。
ドクタードクター
合併症として白内障が出ることはあるけれど、原因はPAX6遺伝子の異常だ。近くのWT1遺伝子まで含めて欠失すると、Wilms腫瘍・無虹彩・泌尿生殖器異常・精神発達遅滞をまとめたWAGR症候群になる。ウイルス感染とは関係ないよ。
医学生医学生
網膜芽細胞腫はRB1遺伝子で、Knudsonの2ヒット説ですよね。CBTの頻出事項でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。白色瞳孔や斜視で見つかることが多い小児の眼の悪性腫瘍で、遺伝子変異が原因だ。白色瞳孔という点では白内障と見た目が似ることもあるから、臨床では鑑別が大切になる。赤緑色覚異常はどうだろう。
医学生医学生
X連鎖潜性遺伝なので、男性に多い遺伝性の特性ですね。
ドクタードクター
そう、日本人男性の約5%にみられ、色覚以外の視機能は通常保たれる。つまり今回の選択肢は、発生異常・遺伝子異常・腫瘍・遺伝性の特性、そして感染による先天白内障という構成なんだ。
医学生医学生
原因で分類すれば、感染と結びつくのは白内障だけということですね。ほかのTORCH症候群でも眼の異常は出ますか。
ドクタードクター
出るよ。トキソプラズマやサイトメガロウイルスは網脈絡膜炎、先天梅毒は晩期に角膜実質炎を起こす。胎内感染で白内障とくれば風疹、と覚えておくといい。風疹では白内障のほかに緑内障や、ごま塩状眼底と呼ばれる色素性網膜症もみられる。
医学生医学生
白内障が見つかった赤ちゃんは、すぐ手術するんでしょうか。
ドクタードクター
乳児期の白内障を放置すると視覚の発達が妨げられて弱視になるから、早期の手術と、その後の屈折矯正・弱視訓練が重要だ。それから予防の話も大事。風疹ワクチンは弱毒生ワクチンだから妊娠中は接種できない。妊娠を希望する女性や家族は妊娠前に接種し、接種後は約2か月避妊する。妊婦健診で抗体価が低ければ分娩後早めの接種を勧めるんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、妊婦健診の風疹抗体価をチェックしていた意味がよく分かりました。
ドクタードクター
それに、先天性風疹症候群の児は長期間ウイルスを排出するから、周囲への感染対策も必要になる。母子だけでなく社会全体で防ぐ病気だと意識しておこう。

まとめ

妊娠初期、特に12週頃までに妊婦が風疹ウイルスに初感染すると、胎児に先天性風疹症候群が生じ、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄)・感音難聴・白内障が三大症状となります。眼では、水晶体線維細胞への持続感染による先天白内障のほか、緑内障、小眼球、ごま塩状眼底もみられます。輪部デルモイドは発生異常、先天無虹彩はPAX6異常、網膜芽細胞腫はRB1異常、赤緑色覚異常はX連鎖潜性遺伝と、ほかの眼疾患は原因がまったく異なります。乳児期の白内障は弱視予防のため早期治療が必要であり、生ワクチンである風疹ワクチンを妊娠前に接種することが最大の予防策です。眼の先天異常を「原因」で整理する視点は、TORCH症候群全体の理解にもつながります。

解答・解説

正解はcです

妊婦が風疹ウイルスに初めて感染すると、ウイルスが胎盤を通って胎児に感染し、器官形成中の組織を傷害する。その結果として生じる先天異常の総称が先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)である。胎児感染の頻度と障害の重さは感染した時期に強く左右され、器官形成期にあたる妊娠初期(特に妊娠12週頃まで)の感染で最も危険が高い。妊娠20週を過ぎた感染でCRSとなることはまれである。 CRSの三大症状は、先天性心疾患、感音難聴、白内障である。心疾患では動脈管開存症や肺動脈(弁・末梢)狭窄が代表的である。眼の異常には、白内障のほか緑内障、小眼球、色素性網膜症(ごま塩状眼底)がある。このほか、胎児発育不全による低出生体重、血小板減少による紫斑、肝脾腫、黄疸、精神運動発達遅滞などを伴うことがある。年長になってから糖尿病などが現れることもある。 本問では、眼科の先天異常のうち、風疹ウイルスの胎内感染で起こるものを選ぶ。それは三大症状の一つである先天白内障である。そのほかの選択肢は、発生異常・遺伝子変異・腫瘍・遺伝性の色覚特性であり、ウイルス感染とは原因が異なる。

選択肢考察

  1. ×a.  輪部デルモイド

    輪部デルモイド(角膜輪部デルモイド)は、角膜と結膜の境目(輪部)にできる、黄白色で表面に毛を伴うこともある先天性の良性腫瘤である。皮膚に似た組織が本来と異なる場所にできた分離腫(コリストーマ)であり、胎生期の発生異常と考えられている。耳介の奇形や副耳、脊椎の異常を伴うGoldenhar症候群(眼耳脊椎異形成症)の一症状として現れることがある。風疹ウイルスの胎内感染との関連は知られていない。

  2. ×b.  先天無虹彩

    先天無虹彩は、虹彩が生まれつきほとんど形成されない疾患である。染色体11p13にあるPAX6遺伝子の異常が原因で、常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとるものが多い。黄斑の低形成や眼振、白内障、緑内障、角膜の混濁を伴いやすい。近くにあるWT1遺伝子も含めて欠失すると、Wilms腫瘍・無虹彩・泌尿生殖器異常・精神発達遅滞をまとめたWAGR症候群となる。遺伝子の異常による疾患であり、風疹ウイルス感染とは関係しない。

  3. ○c.  先天白内障

    先天白内障は、CRSの三大症状(先天性心疾患・感音難聴・白内障)の一つである。風疹ウイルスは、形成途中の水晶体の線維細胞に持続的に感染して傷害し、水晶体を混濁させる。水晶体の中心部(核)が濃く濁る核白内障の形をとることが多く、片眼・両眼いずれにも起こり、小眼球を伴うこともある。乳児期の白内障は、そのままにすると視覚の発達が妨げられて弱視となるため、早い時期の手術と、その後の屈折矯正・弱視訓練が重要である。なお、先天白内障の原因には遺伝性のもの、ガラクトース血症などの代謝疾患、Down症候群などの染色体異常もある。

  4. ×d.  網膜芽細胞腫

    網膜芽細胞腫は、乳幼児の網膜に発生する悪性腫瘍で、小児の眼の悪性腫瘍として最も多い。がん抑制遺伝子RB1(染色体13q14)の両方の対立遺伝子が働かなくなることで発症する(Knudsonの2ヒット説)。生まれつき1つの変異をもつ遺伝性の例では、両眼に発症することが多い。瞳孔が白く光る白色瞳孔や斜視で気付かれることが多い。遺伝子変異による腫瘍であり、風疹ウイルスの胎内感染とは関係しない。

  5. ×e.  赤緑色覚異常

    赤緑色覚異常(先天赤緑色覚異常)は、網膜の錐体にある赤または緑の視物質(オプシン)の遺伝子の異常による、先天的な色覚の特性である。その遺伝子はX染色体上にあり、X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとる。日本人の男性の約5%、女性の約0.2%にみられ、色覚以外の視機能は通常保たれる。遺伝性のものであり、風疹ウイルスの胎内感染とは関係しない。

先天性風疹症候群(CRS)の主な症状

・三大症状: 先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、感音難聴、白内障 ・その他の眼の異常: 緑内障、小眼球、色素性網膜症(ごま塩状眼底) ・新生児期の症状: 低出生体重、血小板減少性紫斑、肝脾腫、黄疸、骨の透亮像 ・そのほか: 小頭症、精神運動発達遅滞。年長になってから糖尿病や甲状腺疾患などが現れることもある。 難聴は、妊娠中期の感染でも単独で起こりうる。また、出生時には目立たず、後になって気付かれることもある。

診断と予防

・妊婦の診断: 風疹HI抗体価の上昇、風疹特異的IgM抗体の検出などで行う。IgM抗体は感染から長期間陽性が続くことがあるため、感染時期の判断には注意が必要である。 ・児の診断: 臍帯血や出生後の血液で風疹特異的IgM抗体を検出する。咽頭ぬぐい液や尿などからウイルス遺伝子(PCR)を検出する。CRSの児は長期間ウイルスを排出するため、周囲への感染対策が必要である。 ・予防: 風疹ワクチンは弱毒生ワクチンのため、妊娠中は接種できない。妊娠を希望する女性とその家族は、妊娠前に接種しておくことが大切である。接種後は約2か月間避妊する。妊婦健診で抗体価が低い妊婦には、分娩後早めの接種を勧める。CRSは感染症法で全数把握の対象(五類感染症)である。

ほかの胎内感染と眼の異常

・トキソプラズマ: 網脈絡膜炎 ・CMV: 網脈絡膜炎 ・梅毒: 角膜実質炎(晩期先天梅毒) 胎内感染(TORCH症候群)の中で、白内障とくれば風疹を想起する。

POINT

・CRSの三大症状は先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄)、感音難聴、白内障である。 ・眼の異常は、白内障のほか緑内障、小眼球、色素性網膜症(ごま塩状眼底)である。 ・妊娠初期(特に12週頃まで)の初感染ほどCRSの危険が高い。 ・風疹ワクチンは生ワクチンのため妊娠中は接種しない。妊娠前に接種しておく。 ・他の選択肢の原因: 無虹彩はPAX6(WAGR症候群)、網膜芽細胞腫はRB1、赤緑色覚異常はX連鎖潜性遺伝、輪部デルモイドは発生異常(Goldenhar症候群)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。