StudyMed医師国家試験

「つくる」と「押し出す」は別のホルモン―授乳を支えるプロラクチンとオキシトシン

第120回医師国家試験 F問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第33問

乳汁の産生または分泌に直接的に作用するホルモンはどれか。2つ選べ。

  1. a.エストリオール
  2. b.オキシトシン
  3. c.プロゲステロン
  4. d.プロスタグランディン
  5. e.プロラクチン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は授乳の生理を問う問題だ。ポイントは、乳汁が「つくられる」段階と、つくられた乳汁が「押し出される」段階を分けて考えること。そして、乳腺を「育てる」ホルモンと、乳汁に「直接働く」ホルモンを区別できるかが問われているよ。
医学生医学生
乳汁といえばまずプロラクチンですよね。名前からして乳汁に関係していそうです。
ドクタードクター
その通り。プロラクチンは下垂体前葉から分泌され、乳腺の腺房細胞に作用して乳糖やカゼインなどの乳蛋白、脂肪の合成を促す。乳汁の「産生」に直接作用する最も重要なホルモンだ。では、もう一つはどうかな。
医学生医学生
エストロゲンやプロゲステロンも妊娠中に増えて乳房が大きくなるので、乳汁に関わっているのかなと迷いました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。エストロゲンは乳管の伸長・分枝を、プロゲステロンは小葉・腺房の発育を促す。つまり授乳の「準備」はするけれど、乳汁をつくる作用はない。むしろ妊娠中は胎盤から大量に出るこれらのホルモンが、プロラクチンの乳腺への作用を妨げているんだ。
医学生医学生
だから妊娠中はプロラクチンが高くても、本格的な乳汁分泌は起こらないんですね。
ドクタードクター
そう。分娩で胎盤が娩出されるとエストロゲンとプロゲステロンが急減し、抑制が外れて乳汁分泌が始まる。エストリオールは胎児副腎と胎盤の共同作業でつくられるエストロゲンで、乳汁分泌にはむしろ抑制的に働く側だ。プロゲステロンも「抑制が解除される」という間接的な関与にとどまる。
医学生医学生
産科の講義で、胎盤遺残があると乳汁分泌が遅れることがあると聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎盤片が残るとプロゲステロンの低下が不十分になり、乳汁分泌が遅れることがある。今の話とつながるでしょう。では残るオキシトシンとプロスタグランディンはどうかな。
医学生医学生
どちらも子宮を収縮させるイメージがあります。分娩誘発で使う薬ですよね。
ドクタードクター
そう、共通点はそこ。でも乳汁への作用は大きく違う。オキシトシンは視床下部の室傍核・視索上核で合成され、下垂体後葉から放出される。児が乳頭を吸う吸啜刺激が神経を介して視床下部に伝わると反射的に放出され、腺房や乳管を取り巻く筋上皮細胞を収縮させて乳汁を押し出す。これが射乳反射で、乳汁の「分泌(射出)」に直接作用するホルモンだ。
医学生医学生
プロラクチンが「つくる」、オキシトシンが「押し出す」ですね。どちらも吸啜刺激で増えるんですか。
ドクタードクター
その通り。授乳のたびに産生と射出が繰り返されるから、頻回の授乳が乳汁分泌を維持するんだ。一方プロスタグランディンはアラキドン酸由来の局所ホルモンで、陣痛の発来や子宮頸管の熟化、炎症・疼痛に関わるが、乳汁の産生や射出には直接働かない。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、授乳中にお腹が痛むと話していた褥婦さんがいました。あれもオキシトシンでしょうか。
ドクタードクター
いい観察だね。オキシトシンは子宮筋も収縮させて子宮復古を促すから、授乳中に後陣痛を感じることがある。また、児の泣き声を聞くだけで放出されることもある一方、痛みや強いストレスでは放出が抑えられる。授乳環境を整えることが大事な理由の一つだよ。
医学生医学生
プロラクチンのほうは、ドパミンで抑えられているんでしたよね。
ドクタードクター
そう。視床下部からのドパミンが抑制的に調節しているから、抗精神病薬や制吐薬などのドパミン受容体遮断薬では高プロラクチン血症による乳汁漏出が起こりうる。逆にカベルゴリンなどのドパミン作動薬は乳汁分泌の抑制に使われる。さらに授乳中の高プロラクチン状態はGnRH分泌を抑えて排卵を抑制し、授乳性無月経の原因になる。
医学生医学生
分娩時の大出血のあとに乳汁が出ない場合はSheehan症候群を疑う、というのもCBTの勉強で出てきました。
ドクタードクター
まさにそれ。下垂体の壊死でプロラクチンが出なくなり、産後の乳汁分泌不全が初発症状になることがある。授乳のホルモンを理解しておくと、こうした病態にも自然につながるよ。

まとめ

乳汁分泌は、下垂体前葉のプロラクチンが腺房細胞に作用して乳汁を「つくる」段階と、視床下部で合成され下垂体後葉から放出されるオキシトシンが筋上皮細胞を収縮させて乳汁を「押し出す」射乳の段階に分けて理解します。どちらも児の吸啜刺激で分泌が高まり、頻回の授乳が乳汁分泌を維持します。エストロゲン(エストリオールなど)とプロゲステロンは乳腺の発育を促しますが、妊娠中はプロラクチンの作用を妨げており、胎盤娩出後の急減が乳汁分泌開始の引き金となります。プロスタグランディンは陣痛や頸管熟化に関与し、乳汁分泌には直接関与しません。ドパミンによるプロラクチン抑制、授乳性無月経、Sheehan症候群などの臨床知識にもつながる重要な生理です。

解答・解説

正解はb, eです

授乳は、乳腺の腺房細胞で乳汁が「つくられる」段階(乳汁産生)と、つくられた乳汁が乳管を通って乳頭から「押し出される」段階(射乳)に分けて考えると整理しやすい。 前者を直接担うのが下垂体前葉から分泌されるプロラクチン、後者を直接担うのが視床下部で合成され下垂体後葉から放出されるオキシトシンである。どちらも児が乳頭を吸う刺激(吸啜刺激)によって分泌が高まり、授乳のたびに乳汁の産生と射出が繰り返される。 一方、妊娠中に胎盤から大量に分泌されるエストロゲン(エストリオールなど)とプロゲステロンは、乳腺組織を発育させて授乳の準備を整えるが、同時にプロラクチンの乳腺への作用を妨げて乳汁分泌を抑えている。分娩で胎盤が娩出されるとこれらが急減し、抑制が外れて本格的な乳汁分泌が始まる。 したがって「乳汁の産生または分泌に直接作用する」という条件を満たすのは、プロラクチンとオキシトシンの2つである。乳腺の「発育」に働くホルモンと、乳汁の「産生・射出」に働くホルモンを区別できるかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  エストリオール

    誤り。エストリオールは妊娠中に胎児(副腎)と胎盤の共同作業(胎児胎盤系)で大量に産生されるエストロゲンの一種である。エストロゲンは主に乳管の伸長・分枝を促して乳腺の発育に関わるが、乳汁をつくる作用はない。むしろ妊娠中の高濃度のエストロゲンは、プロラクチンの乳腺への作用を妨げて乳汁分泌を抑えている。分娩後の急減が乳汁分泌開始のきっかけとなる点でも、乳汁分泌には抑制的に働くホルモンといえる。

  2. ○b.  オキシトシン

    正しい。オキシトシンは視床下部の室傍核・視索上核で合成され、下垂体後葉から放出される。乳頭への吸啜刺激が神経を介して視床下部に伝わると反射的に放出され、乳腺の腺房と乳管を取り巻く筋上皮細胞を収縮させて、蓄えられた乳汁を乳頭へ押し出す(射乳反射)。乳汁の「分泌(射出)」に直接作用するホルモンである。児の泣き声を聞くなどの心理的刺激でも放出されうる一方、痛みや強いストレスでは放出が抑えられる。また産褥期には子宮筋を収縮させて子宮復古を促し、授乳中に下腹部の痛み(後陣痛)を感じることがあるのはこのためである。

  3. ×c.  プロゲステロン

    誤り。プロゲステロンは妊娠中、主に胎盤から分泌され、乳腺の小葉・腺房(乳汁をつくる袋状の構造)の発育を促す。しかし同時にプロラクチンによる乳汁産生を抑えており、妊娠中に本格的な乳汁分泌が起こらないのは主にこの作用による。分娩後に胎盤がなくなりプロゲステロンが急減することで抑制が外れ、乳汁分泌が始まる。乳汁分泌に対しては「抑制が解除される」という間接的な関与にとどまり、直接産生・分泌を起こすホルモンではない。なお、胎盤片が子宮内に遺残するとプロゲステロンの低下が不十分となり、乳汁分泌が遅れることがある。

  4. ×d.  プロスタグランディン

    誤り。プロスタグランディンはアラキドン酸からつくられる局所ホルモン(生理活性脂質)で、子宮筋の収縮(陣痛の発来、分娩誘発)や子宮頸管の熟化、炎症・発熱・疼痛などに関与する。分娩誘発薬や子宮収縮薬として用いられるが、乳汁の産生や射出に直接働く作用はない。

  5. ○e.  プロラクチン

    正しい。プロラクチンは下垂体前葉の乳腺刺激ホルモン産生細胞から分泌され、乳腺の腺房細胞に作用して、乳汁の成分(乳糖、カゼインなどの乳蛋白、脂肪)の合成を促す。乳汁の「産生」に直接作用する最も重要なホルモンである。妊娠中から血中濃度は上昇しているが、胎盤由来のエストロゲン・プロゲステロンに作用を妨げられているため、本格的な乳汁産生は分娩後に始まる。分娩後は吸啜刺激のたびに分泌が増え、授乳の継続によって乳汁産生が維持される。プロラクチンの分泌は視床下部から出るドパミンによって抑制的に調節されており、ドパミン受容体を遮断する薬(抗精神病薬、制吐薬など)では高プロラクチン血症による乳汁漏出が起こりうる。

乳腺の発育から授乳までの流れ

・思春期: エストロゲンにより乳管が発育する。 ・妊娠中: エストロゲンが乳管を、プロゲステロンが小葉・腺房を発育させる。プロラクチンや胎盤由来のヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)も乳腺の発育を助ける。ただし高濃度のエストロゲン・プロゲステロンがプロラクチンの作用を妨げるため、本格的な乳汁分泌は起こらない。 ・分娩後: 胎盤娩出によりエストロゲン・プロゲステロンが急減し、プロラクチンが働けるようになって乳汁分泌が始まる。分娩後数日以内に分泌されるのが初乳(免疫グロブリン、特に分泌型IgAに富む)で、その後、移行乳を経て成乳となる。 ・授乳期: 吸啜刺激により、下垂体前葉からプロラクチン(乳汁産生)、下垂体後葉からオキシトシン(射乳)が分泌される。頻回の授乳が乳汁分泌を維持する。

プロラクチンとオキシトシンの比較

・プロラクチン: 下垂体前葉。腺房細胞に作用し乳汁を産生させる。視床下部からのドパミンで抑制される。授乳中の高プロラクチン状態はゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を抑え、排卵を抑制する(授乳性無月経)。 ・オキシトシン: 視床下部(室傍核・視索上核)で合成、下垂体後葉から放出。筋上皮細胞を収縮させ射乳を起こす。子宮収縮作用もあり、子宮復古を促す。

関連事項

・ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)はプロラクチン分泌を抑えるため、乳汁分泌の抑制や高プロラクチン血症の治療に用いられる。 ・分娩時の大量出血による下垂体壊死(Sheehan症候群)では、産後の乳汁分泌不全が初発症状となることがある。

POINT

・乳汁を「つくる」のはプロラクチン(下垂体前葉)、「出す(射乳)」のはオキシトシン(下垂体後葉)。いずれも吸啜刺激で分泌が増える。 ・エストロゲンは乳管、プロゲステロンは小葉・腺房の発育を促すが、妊娠中はプロラクチンの作用を妨げて乳汁分泌を抑制している。 ・分娩後の胎盤娩出に伴うエストロゲン・プロゲステロンの急減が、乳汁分泌開始の引き金となる。 ・プロスタグランディンは子宮収縮・頸管熟化に関与し、乳汁分泌とは関係しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。