乳汁を止めるのはドパミンの仕事―プロラクチンの「ブレーキ」で解く薬の作用
第118回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
乳汁分泌を抑制するのはどれか。
- a.スルピリド
- b.パロキセチン
- c.プレドニゾロン
- d.ブロモクリプチン
- e.メトクロプラミド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
プロラクチンは他の下垂体前葉ホルモンと異なり、視床下部からのドパミンによって抑制的に調節されています。そのため、ブロモクリプチンやカベルゴリンなどのドパミン作動薬はプロラクチンを下げて乳汁分泌を抑制し、高プロラクチン血症の治療や産褥期の乳汁分泌抑制に用いられます。一方、スルピリドやメトクロプラミドなどのD2受容体遮断薬はブレーキを外して高プロラクチン血症を起こし、乳汁漏出や無月経の原因となり、SSRIなどの抗うつ薬、一部の降圧薬、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤も同様の原因になり得ます。ステロイドには乳汁分泌を抑える作用は臨床的に認められません。「ドパミン=プロラクチンのブレーキ」という一本の軸を持っておけば、薬剤性の乳汁漏出や無月経の鑑別、内服薬の確認といった臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
テーマ
乳汁分泌に影響する薬剤を、プロラクチン(PRL)の分泌調節の観点から整理できるかを問う問題である。
プロラクチン分泌の調節
プロラクチンは下垂体前葉のPRL産生細胞から分泌され、乳腺に作用して乳汁の産生を促すホルモンである。他の下垂体前葉ホルモンと異なり、視床下部からは主に「抑制性」の調節を受けている。視床下部の神経細胞から放出されたドパミンが下垂体門脈を通ってPRL産生細胞のドパミンD2受容体に結合し、PRL分泌を常に抑えている(ドパミンはPRL抑制因子として働く)。
正解を導く考え方
・ドパミン受容体を刺激する薬(ドパミン作動薬)→PRL分泌がさらに抑えられる→乳汁分泌は抑制される。 ・ドパミンD2受容体を遮断する薬(抗精神病薬、一部の消化管運動改善薬・制吐薬など)→ドパミンによる抑制が外れる→高プロラクチン血症となり、乳汁漏出や月経異常をきたす。 したがって、選択肢の中でドパミン作動薬であるものを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. スルピリド
ベンザミド系の抗精神病薬で、低用量では胃・十二指腸潰瘍、中等量ではうつ病、高用量では統合失調症に用いられる。ドパミンD2受容体遮断作用が強く、しかも下垂体は血液脳関門の外にあるため影響を受けやすく、高プロラクチン血症を高頻度に起こす。乳汁漏出や無月経の原因薬剤の代表であり、乳汁分泌はむしろ促進される。
- ×b. パロキセチン
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で、うつ病や不安症などに用いられる。セロトニンはPRL分泌を促す方向に働くため、SSRIで高プロラクチン血症や乳汁漏出をきたすことがある。乳汁分泌を抑制する薬ではない。重大な副作用としてはセロトニン症候群、悪性症候群などが知られている。
- ×c. プレドニゾロン
合成副腎皮質ステロイド(糖質コルチコイド)であり、抗炎症・免疫抑制作用を目的に用いられる。プロラクチン分泌や乳汁産生を抑える作用は臨床的に認められず、乳汁分泌の抑制には用いられない。
- ○d. ブロモクリプチン
麦角アルカロイド誘導体のドパミン作動薬で、下垂体PRL産生細胞のドパミンD2受容体を刺激してプロラクチン分泌を抑え、乳汁分泌を抑制する。高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、乳汁漏出・無月経症候群など)、産褥期の乳汁分泌抑制、先端巨大症、パーキンソン病などに用いられる。副作用として悪心・嘔吐、起立性低血圧があり、産褥期の使用では血圧上昇、脳血管障害、心筋梗塞、痙攣などに注意が必要である。
- ×e. メトクロプラミド
ドパミンD2受容体遮断薬で、制吐薬・消化管運動改善薬として使われる。ドパミンによるPRL分泌抑制を解除するため高プロラクチン血症を起こし、乳汁漏出や月経異常の原因となる。乳汁分泌は促進される方向であり誤りである。錐体外路症状(急性ジストニアなど)も代表的な副作用である。
高プロラクチン血症をきたす主な薬剤
・抗精神病薬(スルピリド、ハロペリドール、リスペリドン、クロルプロマジンなど):D2受容体遮断 ・消化管運動改善薬・制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン):D2受容体遮断 ・抗うつ薬(SSRI、三環系抗うつ薬) ・降圧薬(メチルドパ:ドパミン合成の阻害、レセルピン:ドパミンの枯渇) ・H2受容体拮抗薬(シメチジンなど) ・エストロゲン製剤・経口避妊薬:PRL産生細胞を刺激する 多くは原因薬剤の中止や変更で改善する。
薬剤以外の高プロラクチン血症の原因
・プロラクチノーマ(下垂体腺腫の中で最も頻度が高い) ・視床下部・下垂体茎の障害(非機能性下垂体腺腫などによる下垂体茎の圧迫で、ドパミンが下垂体に届かなくなる) ・原発性甲状腺機能低下症(視床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン〈TRH〉の増加がPRL分泌も刺激する) ・慢性腎不全(PRLのクリアランス低下) ・生理的:妊娠、授乳、乳頭刺激、ストレス
高プロラクチン血症の症状
女性では乳汁漏出、無月経・月経不順、不妊(PRLが視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモン〈GnRH〉分泌を抑えるため)。男性では性欲低下、勃起障害、女性化乳房など。腺腫が大きければ頭痛や両耳側半盲などの視野障害をきたす。
治療に使うドパミン作動薬
ブロモクリプチン、カベルゴリン、テルグリド。カベルゴリンは作用時間が長く週1~2回の内服でよく、副作用も比較的少ないため、プロラクチノーマの第一選択として広く用いられる。ブロモクリプチンとカベルゴリンには、産褥期の乳汁分泌抑制の適応もある(死産後などで授乳しない場合に用いる)。
POINT
・プロラクチン分泌は視床下部からのドパミンによって抑制的に調節されている。 ・ドパミン作動薬(ブロモクリプチン、カベルゴリン、テルグリド)→PRL低下→乳汁分泌抑制。 ・ドパミンD2受容体遮断薬(スルピリド、メトクロプラミド、ドンペリドン、抗精神病薬)→高プロラクチン血症→乳汁漏出・無月経。 ・SSRI、三環系抗うつ薬、メチルドパ、レセルピン、H2受容体拮抗薬、エストロゲン製剤も高プロラクチン血症の原因となる。
