芽球から好中球まで「全員集合」―好塩基球増多が告げる慢性骨髄性白血病の正体
第104回医師国家試験 D問題 第32問
国試問題にチャレンジ
53歳の男性。会社の健康診断で白血球増多を指摘され来院した。10年前から高血圧の治療を受けている。喫煙は20本/日を30年間。肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球430万,Hb 12.8 g/dL,Ht 42%,白血球18,500(骨髄芽球2%,前骨髄球2%,骨髄球5%,後骨髄球7%,桿状核好中球4%,分葉核好中球60%,好酸球8%,好塩基球7%,リンパ球5%),血小板35万。 原因として最も考えられるのはどれか。
- a.感染
- b.喫煙
- c.薬物
- d.アレルギー
- e.遺伝子異常
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
無症状の白血球増多で、骨髄芽球から成熟好中球までが途切れなく末梢血に出現し(白血病裂孔なし)、好塩基球・好酸球増多を伴う場合は、慢性骨髄性白血病の慢性期を考えます。原因は造血幹細胞に後天的に生じたt(9;22)転座によるPh染色体とBCR-ABL1融合遺伝子で、恒常的に活性化したチロシンキナーゼが顆粒球の過剰産生を引き起こします。感染・喫煙・ステロイドなどによる反応性の白血球増多は成熟好中球が主体で未熟細胞や好塩基球増多を伴わず、類白血病反応ではNAPスコアが上昇する点も鑑別に役立ちます。治療の中心はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬で、予後は大きく改善しました。白血球数だけでなく分画の「質」を読む習慣は、健診異常の評価から血液疾患の診断まで幅広く役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・53歳男性。無症状で、健康診断の白血球増多を契機に受診した。発熱など感染を示す症状はなく、肝脾腫も触知しない。 ・白血球18,500/μLと増加している。 ・白血球分画に、本来は骨髄の中にしか存在しない未熟な顆粒球(骨髄芽球2%、前骨髄球2%、骨髄球5%、後骨髄球7%)が出現している。芽球から成熟好中球まで、あらゆる成熟段階の細胞がそろって見られる。 ・好酸球8%(約1,500/μL)、好塩基球7%(約1,300/μL)と、好酸球・好塩基球の増加を伴う。特に好塩基球の増加は目立つ所見である。 ・Hb 12.8 g/dLと貧血は軽度で、血小板35万/μLは基準範囲上限付近に保たれている。 ・高血圧治療歴と1日20本×30年の喫煙歴がある。
診断へのプロセス
白血球増多をみたら、まず「どの細胞が増えているか」と「未熟な細胞が出ているか」を確認する。 ・感染症、喫煙、ステロイドなどの薬物、ストレスなどによる反応性の白血球増多では、増えるのは主に成熟好中球(桿状核を含む)であり、骨髄芽球が出現することはほとんどない。重症感染症で骨髄球などが出る類白血病反応でも、好塩基球の増加は伴わない。 ・急性白血病では芽球が大量に出現し、成熟段階の途中の細胞が抜け落ちる「白血病裂孔」がみられる。また正常造血が抑えられて貧血や血小板減少を伴うことが多い。 ・本症例のように、芽球から成熟好中球まで各段階の顆粒球が連続して増加し(白血病裂孔がない)、好塩基球・好酸球増加を伴い、無症状で偶然発見されるという経過は、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)の慢性期に典型的である。
設問の考え方
CMLは、造血幹細胞で9番染色体と22番染色体の間に相互転座t(9;22)(q34;q11)が起こり、短くなった22番染色体(フィラデルフィア〈Ph〉染色体)上にBCR-ABL1融合遺伝子が生じることで発症する。この融合遺伝子がつくるBCR-ABL1蛋白は常に活性化したチロシンキナーゼで、造血細胞の増殖を止めどなく促す。したがって白血球増多の原因は後天的な遺伝子異常である。
選択肢考察
- ×a. 感染
誤り。細菌感染症では成熟好中球と桿状核好中球が増える(核の左方移動)が、本症例は発熱などの感染症状がなく、無症状である。また、感染による反応性増多で骨髄芽球が末梢血に出ることはまれであり、好塩基球の増加も説明できない。重症感染症などで未熟な顆粒球が出現する類白血病反応はCMLとの鑑別になるが、明らかな基礎疾患があり、好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアが上昇する点でCML(NAPスコア低下)と区別できる。
- ×b. 喫煙
誤り。喫煙は慢性的な気道の炎症などにより、成熟好中球を中心とした軽度の白血球増多を起こすことが知られている。また、赤血球の増加(ストレス多血症や一酸化炭素ヘモグロビン増加による二次性多血症)の原因にもなる。しかし喫煙による白血球増多では骨髄芽球や骨髄球などの未熟な細胞は出現せず、好塩基球の増加も伴わないため、本症例の所見は説明できない。
- ×c. 薬物
誤り。副腎皮質ステロイドは骨髄からの好中球放出の促進や血管壁への付着の減少により、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤は顆粒球産生の刺激により白血球を増加させる。しかし、ステロイドでみられるのは成熟好中球の増加であり、本症例ではそのような薬剤の使用歴もない。降圧薬で本症例のような未熟顆粒球の出現や好塩基球増多は起こらない。
- ×d. アレルギー
誤り。気管支喘息やアレルギー性鼻炎、薬物アレルギーなどでは好酸球が増加することがあるが、白血球全体が大きく増えることは少なく、骨髄芽球などの未熟な顆粒球が出現することもない。本症例の好酸球増加は、好塩基球増加とともにCMLの腫瘍性増殖の一部としてとらえるべきである。
- ○e. 遺伝子異常
正しい。本症例は慢性骨髄性白血病(CML)であり、その原因は造血幹細胞に後天的に生じたt(9;22)(q34;q11)転座によるBCR-ABL1融合遺伝子である。BCR-ABL1蛋白は恒常的に活性化したチロシンキナーゼで、細胞増殖シグナルを出し続け、アポトーシスを抑えるため、各成熟段階の顆粒球が過剰につくられる。遺伝子異常といっても親から受け継ぐ遺伝性のものではない。確定診断は骨髄や末梢血の染色体検査でPh染色体を、FISH法やRT-PCR法でBCR-ABL1融合遺伝子を検出して行う。
慢性骨髄性白血病(CML)の概要
骨髄増殖性腫瘍の一つで、造血幹細胞のBCR-ABL1融合遺伝子による腫瘍性疾患である。中高年に多く、放射線被曝が危険因子として知られる。約半数は無症状のまま健康診断などの白血球増多で見つかる。
病期
・慢性期:白血球増多(各成熟段階の顆粒球)、好塩基球・好酸球増多、血小板増多を伴うことも多い。脾腫が主要な身体所見だが、本症例のように触れないこともある。 ・移行期(進行期):芽球や好塩基球がさらに増え、治療抵抗性となる。 ・急性転化期:芽球が20%以上(WHO分類)となり急性白血病と同様の状態になる。骨髄性のほか、リンパ性に転化することもある。
検査所見
・末梢血:白血球増多、骨髄芽球〜成熟好中球の連続した出現(白血病裂孔なし)、好塩基球・好酸球増多。 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア:低下(類白血病反応や真性多血症では上昇し、鑑別に役立つ)。 ・血清ビタミンB12、LDH、尿酸の上昇。 ・骨髄:著明な過形成、M/E比(顆粒球系/赤芽球系の比)の上昇。 ・染色体:Ph染色体[t(9;22)(q34;q11)]。遺伝子:BCR-ABL1融合遺伝子(major BCR型、p210蛋白)。
治療
・BCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI):イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブなど。慢性期の多くの患者で長期生存が得られ、予後は大きく改善した。 ・効果は血液学的反応、染色体検査による細胞遺伝学的反応、定量PCRによるBCR-ABL1遺伝子量で評価する(分子遺伝学的反応)。 ・ABL1のT315I変異など耐性例にはポナチニブやアシミニブが用いられる。 ・TKI抵抗性例や急性転化例では同種造血幹細胞移植を検討する。 ・深い分子遺伝学的奏効が長く続く患者では、TKIの中止を試みることもある。
Ph染色体の意義
Ph染色体はCMLのほぼ全例にみられるが、成人の急性リンパ性白血病(ALL)の20〜30%程度にもみられ、この場合はminor BCR型(p190蛋白)が多い。
反応性白血球増多との比較
感染症、喫煙、ステロイド、ストレス、妊娠などによる白血球増多は、成熟好中球が主体で、未熟な顆粒球はほとんどみられず、NAPスコアは正常〜上昇する。
POINT
・無症状の白血球増多+骨髄芽球〜成熟好中球の連続した出現(白血病裂孔なし)+好塩基球・好酸球増多 → 慢性骨髄性白血病(CML)。 ・原因はt(9;22)によるPh染色体とBCR-ABL1融合遺伝子(後天的な遺伝子異常、チロシンキナーゼの恒常的活性化)。 ・NAPスコア低下、血清ビタミンB12上昇が特徴。 ・治療の中心はチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど)。 ・感染・喫煙・薬物(ステロイド)による白血球増多は成熟好中球が主体で、未熟な細胞や好塩基球増多は伴わない。
