StudyMed医師国家試験

「治療しない」も立派な選択―低リスク骨髄異形成症候群の向き合い方

第104回医師国家試験 D問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第31問

68歳の男性。家族から顔色不良を指摘され来院した。体温36.5℃。脈拍84/分,整。血圧120/70 mmHg。眼瞼結膜に貧血を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球240万,Hb 8.0 g/dL,Ht 25%,白血球2,300(桿状核好中球2%,分葉核好中球45%,好酸球6%,好塩基球1%,単球8%,リンパ球38%),血小板7.8万。染色体検査は正常核型であった。骨髄塗抹May-Giemsa染色標本(A)(B)を別に示す。  対応として適切なのはどれか。

第104回 D問題 第31問の問題画像
  1. a.経過観察
  2. b.抗菌薬投与
  3. c.抗癌化学療法
  4. d.免疫抑制薬投与
  5. e.副腎皮質ステロイド投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の汎血球減少から診断を絞り込み、そのうえで「今どう対応すべきか」を判断する問題だ。診断名を当てるだけでなく、病気の重さを見積もる視点が問われている。まず、血算をどう読むかな。
医学生医学生
3系統とも減っているので汎血球減少です。ヘマトクリットと赤血球数からMCVを出すと約104 fLで、大球性貧血ですね。
ドクタードクター
しっかり計算できているね。高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少なら、鑑別には巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、急性白血病、脾機能亢進症などが挙がる。ここで骨髄塗抹のMay-Giemsa染色を見ると、細胞成分は豊富で低形成ではなく、多核の赤芽球や核の分裂異常、巨赤芽球様の変化といった形態異常、つまり異形成がみられる。
医学生医学生
骨髄が低形成でないなら、再生不良性貧血は否定的ですね。でも巨赤芽球様の変化があるなら、ビタミンB12欠乏も考えたくなります。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。ただ、多核赤芽球や核の断片化など複数の異形成を伴い、3系統の減少が高齢者にじわじわ起きている点は骨髄異形成症候群を示唆する。骨髄は正〜過形成なのに末梢血では減っている、これを無効造血という。末梢血に芽球がなく肝脾腫もないから、急性白血病や脾機能亢進症も考えにくい。
医学生医学生
血液内科の実習で、MDSは前白血病状態だと教わりました。それなら早めに抗癌剤で叩いたほうがいいのでは。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。MDSは一括りにできず、国際予後スコアリングシステム、IPSSやその改訂版のIPSS-Rで、骨髄芽球比率、染色体異常、血球減少の程度からリスクを評価して方針を決める。今回の症例はどう評価できるかな。
医学生医学生
末梢血に芽球がなくて、染色体は正常核型です。好中球は白血球に好中球比率をかけると約1,080で、1,000は保たれています。
ドクタードクター
その通り。熱も出血もなく、症状は顔色不良程度。これは低リスクMDS、昔の分類でいう不応性貧血に相当すると考えられる。低リスクMDSは白血病化や生命予後の悪化までに長い時間がかかることが多く、治療の副作用が利益を上回りかねない。だから、無症状で輸血も不要な段階では定期的に血球数を確認しながら経過観察するのが基本なんだ。
医学生医学生
抗菌薬は、好中球が少ないので予防的に使うべきかと思いました。
ドクタードクター
体温は正常で感染徴候はなく、好中球も重い易感染性が問題になる500未満には至っていない。感染がないのに抗菌薬を使っても耐性菌などの不利益が上回る。発熱したときに速やかに治療すればいいんだ。
医学生医学生
抗癌化学療法は、高リスクの場合に考えるもの、ということですね。
ドクタードクター
そう。急性骨髄性白血病に準じた化学療法や、アザシチジンなどの脱メチル化薬、同種造血幹細胞移植は、骨髄芽球が増えた高リスクMDSや白血病に移行した例が対象だ。低リスクで行うと骨髄抑制による感染や出血の害が大きい。
医学生医学生
免疫抑制薬は再生不良性貧血の治療で習いました。MDSでは使わないんですか。
ドクタードクター
抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリンは再生不良性貧血の標準治療で、MDSでも低リスクで骨髄が低形成の例など、T細胞による造血抑制が疑われる一部に考慮されることはある。でも今回は骨髄が低形成でなく、無症状だから今すぐ行う対応ではない。副腎皮質ステロイドはMDSの血球減少を改善する標準治療ではなく、感染や糖尿病、骨粗鬆症などの副作用ばかりが問題になる。
医学生医学生
ステロイドが効くのは、自己免疫性溶血性貧血や免疫性血小板減少症のように免疫が原因の血球減少ですね。
ドクタードクター
よく整理できているね。では経過観察の先も押さえておこう。貧血症状が強くなれば赤血球輸血やエリスロポエチン製剤を考える。5q-症候群ではレナリドミド、環状鉄芽球を伴う例ではルスパテルセプトという選択肢もある。輸血を繰り返すと鉄過剰症になるので鉄キレート療法も必要になる。
医学生医学生
経過観察中に芽球が出てきたり、血球が急に下がったりしたら要注意ということですね。
ドクタードクター
その通り。経過観察は「何もしない」ではなく、血球数や芽球の出現を定期的に追い、リスクの変化を見逃さない能動的な管理なんだ。それと、MDSと診断する前にビタミンB12・葉酸欠乏や薬剤、アルコールなど異形成を起こす他の原因を除外することも忘れないように。

まとめ

高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少で、骨髄が正〜過形成かつ血球に異形成を認めれば骨髄異形成症候群を考え、骨髄が低形成なら再生不良性貧血を考えます。MDSはIPSS/IPSS-Rで芽球比率・染色体異常・血球減少の程度からリスクを評価し、芽球増加がなく正常核型で症状のない低リスク例では、定期的な血球数の確認による経過観察が基本です。貧血が進めば輸血やエリスロポエチン製剤などの支持療法を加え、脱メチル化薬や同種造血幹細胞移植、化学療法は高リスク例が対象となります。感染徴候のない抗菌薬投与や、MDSの標準治療ではないステロイドは適切ではありません。診断だけでなくリスクに応じて「治療しない」選択ができることは、高齢者医療で特に大切な臨床判断です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・68歳男性。家族に顔色不良を指摘されて受診したが、発熱・出血症状などの訴えはない。バイタルサインは安定し、肝脾腫もない。 ・Hb 8.0 g/dLの貧血、白血球2,300/μL、血小板7.8万/μLで、3系統すべてが減少している(汎血球減少)。 ・平均赤血球容積(MCV)=Ht/赤血球数×10=25÷240×1,000≒104 fLであり、大球性貧血である。 ・白血球分画に芽球はみられず、好中球(桿状核2%+分葉核45%)は2,300×0.47≒1,080/μLと1,000/μL以上保たれている。 ・染色体は正常核型。 ・骨髄塗抹標本では細胞成分が豊富で(低形成ではない)、多核や核の分裂異常を示す赤芽球、巨赤芽球様の変化など、形態異常(異形成)のある血球がみられる。

診断へのプロセス

高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少の鑑別には、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)、急性白血病、骨髄への腫瘍浸潤、脾機能亢進症などがある。 ・骨髄が低形成でないことから再生不良性貧血は否定的である。 ・末梢血に芽球がなく、肝脾腫もないことから急性白血病や脾機能亢進症は考えにくい。 ・骨髄が正〜過形成であるにもかかわらず末梢血球が減少している状態(無効造血)と、赤芽球系の異形成から、MDSと診断するのが妥当である。巨赤芽球性貧血でも巨赤芽球はみられるが、多核赤芽球や核の断片化など複数の異形成を伴う点、3系統の減少が高齢者に緩徐に生じている点がMDSを示唆する。

リスク評価と治療方針

MDSの治療は、国際予後スコアリングシステム(IPSS、改訂版はIPSS-R)で骨髄芽球比率・染色体異常・血球減少の程度から予後を評価し、低リスクか高リスクかで方針を分ける。本症例は、末梢血に芽球がなく、骨髄の芽球増加も示されず、染色体は正常核型、好中球も1,000/μL以上あり、自覚症状や感染・出血もないことから、低リスクMDS(かつての分類でいう不応性貧血〈RA〉に相当)と考えられる。 低リスクMDSでは白血病への移行や生命予後の悪化までに長い時間がかかることが多く、治療自体の副作用や負担が利益を上回ることもある。そのため、症状がなく輸血も必要としない段階では、定期的に血球数を確認しながら経過観察を行うのが基本である。貧血の症状が強くなれば赤血球輸血などの支持療法を追加する。

選択肢考察

  1. ○a.  経過観察

    適切である。芽球の増加や染色体異常がなく、好中球も1,000/μL以上保たれ、感染や出血などの症状もない低リスクMDSでは、積極的な治療を急ぐ必要はない。定期的に血液検査で血球数と芽球の出現を追跡し、貧血症状が強まれば赤血球輸血、血球減少が進行すれば造血刺激因子などの治療を検討する。

  2. ×b.  抗菌薬投与

    適切でない。本症例は体温36.5℃で感染徴候がなく、好中球数も約1,080/μLと、重い易感染性が問題となる500/μL未満の水準には至っていない。感染症がない状態での予防的な抗菌薬投与は必要なく、耐性菌の出現などの不利益が上回る。発熱などの感染徴候が出たときに速やかに治療すればよい。

  3. ×c.  抗癌化学療法

    適切でない。抗癌化学療法(急性骨髄性白血病に準じた多剤併用療法)や、脱メチル化薬(アザシチジンなど)、同種造血幹細胞移植は、骨髄芽球が増加している高リスクMDSや、急性骨髄性白血病へ移行した例が対象である。芽球増加がなく正常核型の低リスクMDSに行うと、骨髄抑制による感染や出血などの副作用の害が大きく、適応とならない。

  4. ×d.  免疫抑制薬投与

    適切でない。抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やシクロスポリンによる免疫抑制療法は、再生不良性貧血の標準治療であり、MDSでは低リスクで骨髄が低形成の例など、T細胞による造血抑制の関与が疑われる一部の症例に限って、輸血を要する高度な血球減少がある場合に考慮される。本症例は骨髄が低形成ではなく、無症状で輸血も必要ない段階であるため、今すぐ行う対応ではない。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド投与

    適切でない。副腎皮質ステロイドは、MDSの血球減少を改善する標準的な治療ではない。長期投与による感染症、糖尿病、骨粗鬆症などの副作用が問題となるだけで利益に乏しい。ステロイドが治療の中心となるのは急性リンパ性白血病の多剤併用療法や、自己免疫性溶血性貧血・免疫性血小板減少症などの免疫学的機序による血球減少である。

骨髄異形成症候群(MDS)の概要

造血幹細胞に遺伝子異常が生じてクローン性に増殖するが、正常な血球へうまく成熟できずに骨髄内で死んでしまう(無効造血)疾患群である。その結果、骨髄は正〜過形成なのに末梢血では血球が減少する。高齢者に多く、一部は急性骨髄性白血病(AML)へ移行するため、前白血病状態ともいわれる。抗癌薬や放射線治療の後に発症する二次性(治療関連)MDSもある。

検査所見

・末梢血:1〜3系統の血球減少。貧血は大球性〜正球性のことが多い。 ・骨髄:正〜過形成で、形態異常(異形成)を伴う。  赤芽球系:多核赤芽球、核の断片化・出芽、巨赤芽球様変化、環状鉄芽球  顆粒球系:偽Pelger核異常(2分葉の低分葉好中球)、顆粒の減少・消失  巨核球系:微小巨核球、単核・分離多核の巨核球 ・染色体異常:-5/5q-、-7/7q-、+8、20q-などが多い。5q-単独は比較的予後が良く、-7や3つ以上の複雑核型は予後不良である。 ・ビタミンB12・葉酸欠乏や、銅欠乏、薬剤、アルコールなど異形成を起こす他の原因を除外する必要がある。

分類

かつてのFAB分類では、骨髄芽球比率や環状鉄芽球の有無から、不応性貧血(RA)、環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)、芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)、移行期のRAEB(RAEB-t)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)に分けた。現在のWHO分類では、異形成の系統数、環状鉄芽球、芽球比率、特定の遺伝子・染色体異常などに基づいて細分類され、骨髄芽球20%以上はAMLとして扱う。

リスク評価と治療

・予後予測にはIPSS/IPSS-R(骨髄芽球比率、染色体異常、血球減少の程度)が用いられる。 ・低リスク群:無症状なら経過観察。貧血に対しては赤血球輸血、エリスロポエチン製剤(ダルベポエチンなど)。5q-症候群にはレナリドミド、環状鉄芽球を伴う例にはルスパテルセプトが用いられる。一部では免疫抑制療法も考慮される。頻回輸血では鉄過剰症に対して鉄キレート療法を行う。 ・高リスク群:脱メチル化薬(アザシチジン)、若年で全身状態が良ければ同種造血幹細胞移植(唯一の根治療法)、AMLに準じた化学療法。

鑑別:再生不良性貧血

汎血球減少を呈するが、骨髄は低形成(脂肪髄)で、血球の形態異常は目立たない。治療は免疫抑制療法(ATG+シクロスポリン)やトロンボポエチン受容体作動薬、造血幹細胞移植である。

POINT

・高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少+骨髄は正〜過形成+血球の異形成 → 骨髄異形成症候群(MDS)。 ・骨髄が低形成なら再生不良性貧血を考える。 ・MDSはIPSS/IPSS-Rでリスクを評価し治療方針を決める。 ・低リスクで無症状 → 経過観察(必要に応じて輸血などの支持療法)。 ・高リスク → アザシチジン、同種造血幹細胞移植、化学療法。 ・MCV=Ht(%)/赤血球数(百万/μL)×10、好中球絶対数=白血球数×好中球比率を計算できるようにする。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。