健診で見つかった白血球増多と脾腫―慢性骨髄性白血病は「無症状でも治療する」
第120回医師国家試験 A問題 第32問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。白血球増多を主訴に来院した。健康診断で白血球数増多を指摘され,紹介受診した。自覚症状はない。体温36.3℃。眼瞼結膜に貧血を認めず,体表リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝を触知しない。左肋骨弓下に脾を4cm触知する。血液所見:赤血球480万,Hb 14.4g/dL,Ht 46%,白血球31,200(骨髄球5%,後骨髄球1%,桿状核好中球2%,分葉核好中球54%,好酸球5%,好塩基球7%,単球6%,リンパ球20%),血小板62万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.1g/dL,IgG 1,041mg/dL(基準861~1,747),IgA 297mg/dL(基準93~393),IgM 80mg/dL(基準33~183),総ビリルビン0.4mg/dL,AST 23U/L,ALT 18U/L,LD 445U/L(基準124~222),ALP 74U/L(基準38~113),尿素窒素21mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,尿酸5.8 mg/dL,血糖94mg/dL,Ca 9.5mg/dL。骨髄塗抹Wright-Giemsa染色標本を下に示す。 次に行うのはどれか。

- a.経過観察
- b.同種骨髄移植
- c.殺細胞性抗癌薬投与
- d.チロシンキナーゼ阻害薬投与
- e.免疫チェックポイント阻害薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
無症状の白血球増多に脾腫を伴い、末梢血で骨髄球から成熟好中球まで各段階の顆粒球が連続して出現し、好塩基球増加や血小板増多がみられる場合は、慢性骨髄性白血病(CML)を考えます。NAPスコア低値が類白血病反応との鑑別に役立ち、確定診断はPhiladelphia染色体t(9;22)またはBCR::ABL1融合遺伝子の検出で行います。慢性期の第一選択は、異常なBCR::ABL1チロシンキナーゼを直接阻害するイマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬で、無症状でも経過観察とはせず早期に治療を始めます。同種造血幹細胞移植はTKI抵抗例や急性転化期などに限られ、殺細胞性抗癌薬は急性転化期や一時的な白血球減少目的での使用にとどまります。病態の分子機序がそのまま治療標的となったCMLは分子標的治療の代表例であり、病態と治療を結びつけて理解する好例です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳の男性。自覚症状はなく、健康診断で白血球増多を指摘された。発熱などの感染症を示す所見はない。 ・身体所見では左肋骨弓下に脾を4cm触知する(脾腫)。リンパ節腫大や貧血はない。 ・末梢血:白血球31,200/μLと増加。分画には正常の末梢血には出てこない幼若な顆粒球(骨髄球5%、後骨髄球1%)が現れ、桿状核球・分葉核球まで、さまざまな成熟段階の好中球系細胞がそろっている。芽球はみられない。好酸球(5%、約1,500/μL)と好塩基球(7%、約2,200/μL)が増加している。血小板も62万/μLと増加。Hbは正常である。 ・LD 445U/Lと上昇(細胞の増殖・崩壊が盛んなことを反映)。 ・骨髄塗抹標本:細胞密度が高く、骨髄芽球から成熟好中球までの各成熟段階の顆粒球系細胞が増加している(過形成骨髄)。芽球の明らかな増加はない。
診断のプロセス
無症状の白血球増多と脾腫から、まず骨髄増殖性腫瘍を考える。成熟段階の途中が抜け落ちることなく幼若顆粒球から成熟好中球まで連続して増え、好塩基球の増加と血小板増多を伴う所見は、慢性骨髄性白血病(CML)の典型像である。感染症などによる類白血病反応でも幼若顆粒球が出ることはあるが、好塩基球増加や脾腫は伴いにくい。芽球が少ないことから病期は慢性期と考えられる。確定診断には、骨髄細胞の染色体検査でPhiladelphia染色体(t(9;22))を、またはFISH法やRT-PCR法でBCR::ABL1融合遺伝子を確認する。
設問の考え方
CML慢性期の標準治療は、病気の原因であるBCR::ABL1チロシンキナーゼの働きを抑える、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の内服である。本問では遺伝子検査の結果は示されていないが、臨床像はCML慢性期として典型的であり、確認のうえTKIを開始する流れとなる。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
CMLは無治療だと数年の経過で移行期・急性転化期(芽球が急増し急性白血病のような状態になる)へ進み、予後が不良になる。慢性期のうちにTKIで治療を開始し、分子レベルでの奏効を目指すことが重要であり、経過観察は適切でない。無症状でも治療の対象となる点が、同じ慢性白血病でも初期には経過観察とすることが多い慢性リンパ性白血病と異なる。
- ×b. 同種骨髄移植
同種造血幹細胞移植はCMLを根治しうる唯一の治療だが、移植関連死亡などの危険を伴う。TKIの登場で慢性期の長期生存が可能になったため、移植は複数のTKIが効かない例や耐えられない例、T315I変異など特定の耐性変異をもつ例、移行期・急性転化期の例などに限って検討する。初発の慢性期に最初に選ぶ治療ではない。
- ×c. 殺細胞性抗癌薬投与
急性転化期には、急性白血病に準じた多剤併用の化学療法(殺細胞性抗癌薬)をTKIと組み合わせて行うことがある。また、白血球が著しく多い場合に、診断確定までの短期間ヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア)で白血球数を下げることがある。しかし本例は慢性期で白血球数も3万程度であり、殺細胞性抗癌薬を主体とした治療を行う理由はない。
- ○d. チロシンキナーゼ阻害薬投与
CMLは、9番と22番染色体の相互転座によって生じるBCR::ABL1融合遺伝子が、常に活性化したチロシンキナーゼを作り続けることで、造血細胞が無秩序に増殖する疾患である。TKIはこの異常な酵素を直接阻害する分子標的薬で、慢性期CMLの第一選択である。イマチニブ(第1世代)、ニロチニブ・ダサチニブ・ボスチニブ(第2世代)などがあり、多くの患者で長期の寛解と、一般人口に近い生命予後が得られるようになった。
- ×e. 免疫チェックポイント阻害薬投与
免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体のニボルマブ・ペムブロリズマブなど)は、T細胞にかかったブレーキを外して腫瘍に対する免疫応答を強める薬である。悪性黒色腫、肺癌などの固形癌や、血液腫瘍では再発・難治性の古典的Hodgkinリンパ腫などに用いられるが、CMLには適応がない。
慢性骨髄性白血病(CML)の概要
・骨髄増殖性腫瘍の一つで、造血幹細胞レベルでt(9;22)(q34;q11)転座が起こり、短くなった22番染色体(Philadelphia染色体)上にBCR::ABL1融合遺伝子が生じる。 ・中高年に多く、多くは健診での白血球増多で偶然見つかる。症状があれば、脾腫による腹部膨満感、全身倦怠感、体重減少など。
検査所見の特徴
・末梢血:白血球増多(幼若顆粒球から成熟好中球まで各段階がそろう)、好塩基球・好酸球増加、血小板増多がしばしばみられる。 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアは低値(類白血病反応や真性多血症では高値)。 ・血清ビタミンB12、LD、尿酸が上昇しうる。 ・骨髄:著明な過形成、顆粒球系細胞の増加、巨核球の増加。
病期
慢性期 → 移行期 → 急性転化期と進行する。急性転化期には芽球が著増し、骨髄性のほかリンパ性の急性転化もある。なお現在のWHO分類第5版では移行期の区分が廃止され、慢性期と急性転化期の2期に整理されている。
治療
・慢性期:TKI(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブなど)の内服。治療効果は血液学的効果、細胞遺伝学的効果(Ph染色体の消失)、分子遺伝学的効果(RT-PCRによるBCR::ABL1 mRNA量の低下)で評価する。 ・TKI耐性では、別のTKIへの変更を行う。T315I変異にはポナチニブ、ABL1のミリストイル結合部位に作用するアシミニブなどが用いられる。 ・深い分子遺伝学的効果が長期間持続した例では、TKIの中止(無治療寛解)を試みることがある。 ・同種造血幹細胞移植は、TKI抵抗例・不耐容例や急性転化期などで検討する。
POINT
・無症状の白血球増多+脾腫+幼若顆粒球の出現+好塩基球増加+血小板増多 → 慢性骨髄性白血病(CML)を考える。 ・確定診断はPhiladelphia染色体(t(9;22))またはBCR::ABL1融合遺伝子の検出。NAPスコアは低値。 ・慢性期の第一選択はチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)。 ・同種造血幹細胞移植はTKI抵抗例・急性転化期などに限る。
