試験のストレス?それとも―若い女性の朝の嘔気で最初に聞くべきこと
第104回医師国家試験 C問題 第30問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,30と31の問いに答えよ。 19歳の女性。嘔気を主訴に来院した。 現病歴:1か月前から早朝および空腹時に嘔気を感じるようになった。嘔気は食事により悪化する。症状は軽度で日常生活に支障をきたしていない。嘔吐は伴わず,腹痛,下痢および黒色便を認めたことはなかった。発熱もなかった。食欲は保たれており,体重減少はない。通学している専門学校で試験が続き,ストレスを感じていた。 既往歴:12歳時に急性虫垂炎で虫垂切除術。 生活歴:アパートで一人暮らし。アルバイトはしていない。 家族歴:特記すべきことはない。
確認すべき項目はどれか。
- a.渡航歴
- b.最終月経
- c.複視の有無
- d.鮮魚の生食歴
- e.関節痛の有無
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生殖年齢の女性が、腹痛・下痢・発熱・体重減少などの随伴症状を伴わない軽い嘔気を早朝や空腹時に訴える場合、まず妊娠初期のつわりを疑い、最終月経を確認します。つわりは妊娠5〜6週ごろに始まり8〜10週ごろにピークを迎え、hCGの推移とよく重なります。複視(頭蓋内圧亢進)、鮮魚の生食歴(アニサキス・食中毒)、渡航歴(輸入感染症)、関節痛(膠原病)はいずれも本例の経過や随伴症状に合わず、優先度は低くなります。ストレスなどの心因を原因とするのは妊娠や器質的疾患を否定してからであり、本人の申告だけでなく妊娠反応で客観的に確認することが大切です。妊娠の有無は放射線検査や薬剤選択にも直結するため、「女性を見たら妊娠を考える」姿勢は、あらゆる診療科で求められる基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・19歳の女性(生殖年齢) ・1か月前からの嘔気。早朝と空腹時に強く、食事で悪化する ・症状は軽く日常生活に支障がない。嘔吐はない ・腹痛、下痢、黒色便(上部消化管出血を示す所見)、発熱はいずれもない ・食欲は保たれ、体重減少もない ・学校の試験が続いており、ストレスがある ・既往歴は12歳時の虫垂切除のみ。一人暮らし
鑑別の考え方
嘔気の原因は非常に幅広く、消化器疾患(胃炎、消化性潰瘍、感染性腸炎、食中毒、寄生虫症)、中枢神経疾患(脳腫瘍などによる頭蓋内圧亢進)、内分泌・代謝異常、薬剤、心因性、そして妊娠が挙がる。多くの器質的疾患では腹痛・下痢・発熱・頭痛・体重減少などの随伴症状を伴い、それが原因を絞り込む手がかりになる。 本例ではそうした随伴症状がすべて否定されており、全身状態も良い。そのうえで「生殖年齢の女性」が「早朝・空腹時に強い嘔気」を「約1か月前から」訴えているという組み合わせは、妊娠初期の嘔気(つわり、妊娠嘔吐)に非常によく合う。つわりは妊娠5〜6週ごろに始まり、8〜10週ごろに最も強くなり、多くは12〜16週ごろまでに軽快する。空腹時に悪化するのが特徴で、食べ物のにおいや食事で誘発されることもある。症状が軽く体重減少もないため、治療を要する妊娠悪阻ではなく、生理的範囲のつわりが疑われる。 試験のストレスによる心因性(機能性)の嘔気も考えたくなるが、ストレスという分かりやすい情報に飛びついて妊娠を見逃すのは典型的な落とし穴である。心因性と判断するのは、器質的原因や妊娠を否定してからである。
設問の考え方
「女性を見たら妊娠を考えよ」は臨床の基本原則である。妊娠の有無は、診断そのものだけでなく、その後の検査(X線・CTなど放射線を用いる検査)や薬剤投与の可否にも直結するため、生殖年齢の女性ではまず確認すべき項目である。問診ではまず最終月経(開始日、周期、量が普段どおりだったか)を尋ね、あわせて性交歴や避妊の有無を確認する。19歳という年齢を考え、プライバシーに配慮し、同伴者がいれば席を外してもらうなどして聴取する。本人が妊娠を否定しても、月経歴だけで除外せず、次の段階で妊娠反応検査による客観的な確認を行うのが原則である。
選択肢考察
- ×a. 渡航歴
渡航歴は、旅行者下痢症、腸チフス、A型肝炎、マラリアなど海外で感染する疾患を疑う場合に重要となる。しかしこれらは通常、発熱、下痢、腹痛、全身倦怠感などを伴う。本例は発熱も下痢もなく、1か月にわたって全身状態が良好であり、輸入感染症を疑わせる所見に乏しい。生活歴にも旅行をうかがわせる情報はなく、優先して確認すべき項目ではない。
- ○b. 最終月経
生殖年齢の女性が、ほかに随伴症状のない軽い嘔気を早朝・空腹時に訴えており、妊娠初期のつわりを最も疑う状況である。最終月経の開始日を聴取すれば、月経が遅れているかどうか、妊娠しているとすれば何週相当か(最終月経開始日を妊娠0週0日として数える)を推定できる。嘔気が1か月前から続いていることは、妊娠5〜6週ごろにつわりが始まるという経過とも矛盾しない。あわせて性交歴や避妊の状況も尋ね、最終的には妊娠反応で確認する。
- ×c. 複視の有無
脳腫瘍などで頭蓋内圧が亢進すると、早朝の頭痛や嘔気・嘔吐がみられ、外転神経麻痺により複視が生じることがある。したがって「早朝の嘔気」から頭蓋内病変を連想するのは誤りではない。しかし本例には頭痛がなく、頭蓋内圧亢進の嘔吐は食事と関係なく突然起こる(噴出性嘔吐)ことが多いのに対し、本例では空腹時に強く嘔吐を伴わない。まず確認すべきは、頻度がはるかに高く見逃しの影響が大きい妊娠の有無である。
- ×d. 鮮魚の生食歴
鮮魚の生食歴は、アニサキス症(生食後数時間で起こる激しい心窩部痛)や腸炎ビブリオ食中毒(腹痛、下痢、発熱)などを疑う際に聴取する。これらは急性の経過で腹痛や下痢を伴うのが典型であり、腹痛・下痢・発熱のない1か月続く軽い嘔気には合わない。
- ×e. 関節痛の有無
関節痛は、全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなどの膠原病、あるいはウイルス感染症を考える際の手がかりとなる。膠原病では発症初期に食欲不振などの消化器症状がみられることもあるが、その場合は発熱、倦怠感、体重減少、皮疹などを伴うことが多い。本例は食欲も体重も保たれ全身症状もなく、膠原病を優先して疑う根拠はない。まずは妊娠の確認が先である。
つわりと妊娠悪阻
・つわり(妊娠嘔吐):妊娠初期の妊婦の50〜80%にみられる嘔気・嘔吐、食欲不振、嗜好の変化などの生理的な症状。妊娠5〜6週ごろに始まり、8〜10週ごろにピークとなり、12〜16週ごろまでに自然に軽快することが多い。空腹時、特に早朝に強くなりやすい。 ・妊娠悪阻:つわりが重症化し、食事摂取が困難となって脱水、体重減少(妊娠前から5%以上が目安)、ケトン体尿、電解質異常などをきたした状態。入院のうえ輸液が必要となることがある。ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症は重篤な合併症であり、ブドウ糖を含む輸液の際にはビタミンB1を補充する。 ・症状の強さや時期は、胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の推移(妊娠8〜10週ごろにピーク)とよく重なる。hCGが異常高値となる多胎妊娠や胞状奇胎ではつわりが強くなりやすい。
生殖年齢女性の診療で妊娠を確認する意義
・腹痛、嘔気、無月経、不正性器出血などの主訴では、常に妊娠(正常妊娠、異所性妊娠、流産など)を鑑別に入れる。 ・妊娠の有無により、放射線検査や使用できる薬剤が変わる。 ・患者本人の「妊娠の可能性はない」という申告は必ずしも正確ではない。月経歴・性交歴を聴取したうえで、疑わしければ妊娠反応で確認する。 ・思春期〜若年の患者では、家族の前では話しにくいことがあるため、プライバシーに配慮した問診が求められる。
最終月経と妊娠週数
・妊娠週数は最終月経の開始日を妊娠0週0日として数える(28日周期の場合、排卵・受精はおよそ2週0日ごろ)。 ・次の月経予定日が妊娠4週0日にあたり、一般的な尿妊娠検査薬はこのころから陽性となる。
POINT
・生殖年齢の女性の嘔気・腹痛では、まず妊娠を疑い、最終月経を確認する。 ・早朝・空腹時に強く、随伴症状のない軽い嘔気は、妊娠初期のつわりに典型的である。 ・ストレスなどの心因を原因とするのは、妊娠や器質的疾患を否定してからにする。 ・妊娠の有無は、その後の放射線検査や薬物療法の選択にも影響する。
