寝たきりの子の「吐く・むせる・肺炎」―重症心身障害児と胃食道逆流症
第104回医師国家試験 C問題 第11問
国試問題にチャレンジ
重症心身障害児で頻度が高いのはどれか。
- a.食道アカラシア
- b.胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
- c.胃潰瘍
- d.蛋白漏出性胃腸症
- e.過敏性腸症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
重症心身障害児は重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態で、長時間の臥床、筋緊張亢進や側弯による腹圧上昇、食道裂孔ヘルニア、下部食道括約筋の機能低下、経管栄養などが重なるため、胃食道逆流症の合併頻度が高くなります。本人が症状を訴えにくいため、嘔吐・吐血・貧血・体重増加不良、誤嚥性肺炎の反復や喘鳴、不機嫌などから周囲が疑うことが重要です。診断には上部消化管造影や24時間食道pHモニタリングを用い、体位や栄養注入の工夫、酸分泌抑制薬で改善しなければ噴門形成術や胃瘻造設を検討します。食道アカラシア、胃潰瘍、蛋白漏出性胃腸症、過敏性腸症候群は重症心身障害児に特徴的な合併症ではありません。患者の身体的特徴から合併症を推論する考え方は、重症心身障害児の在宅医療や小児の診療全般で役立ちます。
解答・解説
正解はbです
※この問題は、厚生労働省の発表により、正解した受験者は採点対象に含め、不正解の受験者は採点対象から除外する扱いとされています。
重症心身障害児とは、重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複している児を指す(児童福祉法上の概念で、判定には大島分類が広く用いられる)。原因は周産期の低酸素性虚血性脳症、脳性麻痺、先天異常、重症の中枢神経感染症の後遺症などさまざまであるが、共通して次のような特徴がある。 ・長時間の臥床、体幹の側弯・変形 ・筋緊張の異常(亢進による腹圧上昇、あるいは低下) ・嚥下障害とそれに伴う誤嚥 ・てんかんの合併と抗てんかん薬の使用 これらはいずれも胃内容物が食道へ逆流しやすくなる条件である。腹圧の上昇、側弯による食道裂孔部の変形(食道裂孔ヘルニアの合併)、下部食道括約筋(LES)の機能低下、臥位姿勢などが重なり、胃食道逆流症(GERD)の合併頻度が非常に高い。逆流した胃内容物の誤嚥は誤嚥性肺炎を繰り返す原因となり、逆流性食道炎は吐血・貧血・体重増加不良・不機嫌などとして現れる。 本問では、重症心身障害児の身体的特徴から、どの消化管疾患が起こりやすいかを推論できるかが問われている。 なお、本問は正解した受験者については採点対象に含め、不正解の受験者については採点対象から除外された。問題としての正答は胃食道逆流症で定まっているが、重症心身障害児の合併症というやや専門的な内容が、必修問題(すべての医師が必ず身につけるべき基本事項を問う枠)で問う水準としては妥当でないと判断されたためと考えられる。
選択肢考察
- ×a. 食道アカラシア
誤り。食道アカラシアは、食道壁内のアウエルバッハ神経叢の変性によって、嚥下時に下部食道括約筋が十分に弛緩せず、食道の蠕動も障害される疾患である。食物が食道内に停滞し、嚥下困難・口腔内への逆流・体重減少をきたす。発症は主に若年〜中年の成人で、小児ではまれであり、重症心身障害児に特に多いという関連はない。胃内容物が逆流するGERDとは、括約筋の働きが逆方向に異常である点も対照的である。
- ○b. 胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
正解。重症心身障害児では、長時間の臥床、筋緊張亢進や側弯に伴う腹圧上昇、食道裂孔ヘルニアの合併、下部食道括約筋の機能低下、経管栄養などが重なり、胃食道逆流症の頻度が高い。症状として嘔吐・吐血(コーヒー残渣様)、鉄欠乏性貧血、体重増加不良のほか、逆流物の誤嚥による誤嚥性肺炎の反復や喘鳴といった呼吸器症状が目立つ。本人が症状を訴えられないことが多いため、不機嫌や筋緊張の増強として表れることもあり、周囲が積極的に疑う必要がある。診断には上部消化管造影、24時間食道pHモニタリング(近年は多チャンネル食道インピーダンス・pH検査)、上部消化管内視鏡を用いる。治療は体位の工夫、栄養剤の半固形化や注入速度の調整、酸分泌抑制薬などから始め、難治例では噴門形成術(Nissen法など)や胃瘻造設を行う。なお、胃食道逆流症は重症心身障害児のほか、先天性食道閉鎖症術後、食道裂孔ヘルニア、先天性心疾患の児などにも多く、基礎疾患のない難治性喘息の一因としても知られる。
- ×c. 胃潰瘍
誤り。小児の胃潰瘍は、新生児・乳幼児期には重症感染症・手術・熱傷・ステロイドなどのストレスや薬剤を誘因とする急性の二次性潰瘍が多く、学童期以降では成人と同様にヘリコバクター・ピロリ感染などによる一次性潰瘍が増える。重症心身障害児でもストレスや薬剤による消化管出血が起こることはあるが、胃食道逆流症ほど特徴的に高頻度で合併する疾患ではない。治療は酸分泌抑制薬などによる保存療法が基本で、ピロリ菌陽性なら除菌を行う。
- ×d. 蛋白漏出性胃腸症
誤り。蛋白漏出性胃腸症は、血漿蛋白(主にアルブミン)が消化管腔へ過剰に漏れ出して低蛋白血症・浮腫をきたす病態の総称である。原因は腸リンパ管拡張症などのリンパ系の異常、炎症性腸疾患・アレルギー性胃腸症などの消化管粘膜障害、Fontan手術後などの右心系圧上昇による静脈・リンパうっ滞などであり、重症心身障害児との特別な関連はない。
- ×e. 過敏性腸症候群
誤り。過敏性腸症候群は、器質的な異常がないのに腹痛と便通異常(下痢・便秘)が慢性的に続く機能性消化管疾患で、心理社会的ストレスとの関連が強く、思春期以降に多い。重症心身障害児との関連は認められない。重症心身障害児で問題になりやすい便通異常は、運動量の低下・筋緊張異常・水分摂取不足などによる慢性便秘である。
重症心身障害児とは
重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態の児。大島分類では、運動機能が「寝たきり」または「座れる」までで、IQが35以下の区分(1〜4)が該当する。医学的な診断名ではなく、行政・福祉上の概念である。
重症心身障害児に多い合併症
・呼吸器:誤嚥性肺炎の反復、上気道閉塞、睡眠時無呼吸、呼吸不全(気管切開・人工呼吸を要することがある) ・消化器:胃食道逆流症、嚥下障害、慢性便秘、上腸間膜動脈症候群 ・神経:てんかん(難治例が多い)、筋緊張異常 ・骨格:側弯症、関節拘縮、股関節脱臼、骨粗鬆症と骨折 ・その他:栄養障害、体温調節障害、尿路結石
胃食道逆流症の発生機序(重症心身障害児)
・筋緊張亢進や側弯による腹圧上昇 ・食道裂孔ヘルニアの合併、His角の鈍化 ・下部食道括約筋の一過性弛緩の増加 ・長時間の臥位、経管栄養
小児胃食道逆流症の検査と治療
検査:上部消化管造影、24時間食道pHモニタリング、多チャンネル食道インピーダンス・pH検査、上部消化管内視鏡 治療:体位(上体挙上・腹臥位など)、栄養剤の半固形化・注入法の工夫、酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬・プロトンポンプ阻害薬)、消化管運動改善薬。難治例では腹腔鏡下噴門形成術(Nissen法など)と胃瘻造設を検討する。
POINT
・重症心身障害児は、臥床・腹圧上昇・側弯・食道裂孔ヘルニア・嚥下障害などにより胃食道逆流症の合併が多い。 ・誤嚥性肺炎を繰り返す重症心身障害児では、胃食道逆流症を積極的に疑う。 ・診断は上部消化管造影、24時間食道pHモニタリングなど。難治例は噴門形成術(Nissen法など)。 ・本問は、正解した受験者のみ採点対象とする部分的な採点除外となった。
