お腹の「どこが」膨らんでいるか―全体性膨隆と限局性膨隆を見分ける視診の基本
第104回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
腹部で限局性の膨隆を示すのはどれか。
- a.肥満
- b.腹水
- c.鼓腸
- d.ヘルニア
- e.イレウス
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腹部膨隆は、まず全体性か限局性かを区別することが鑑別の出発点です。全体性膨隆の原因は5F(Fat・Fluid・Flatus・Feces・Fetus)として整理でき、肥満、腹水、鼓腸、イレウス、宿便、妊娠子宮などが該当し、肥満では臍が陥凹し腹水では臍が平坦化・突出して蛙腹や濁音界移動を伴う点が鑑別に役立ちます。限局性膨隆は腹壁ヘルニア(臍・鼠径・大腿・腹壁瘢痕)や臓器腫大、腫瘍・嚢胞などでみられ、膨隆の部位が原因臓器を示唆します。ヘルニアは腹圧で目立ち臥位で還納するのが典型で、還納できない有痛性の膨隆は嵌頓として緊急対応が必要であり、イレウスの原因検索でも鼠径部の確認が欠かせません。膨隆の分布と部位に注目する視診の基本は、日常の腹部診察や救急の場面で確実に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
腹部膨隆とは、腹腔内・腹壁・後腹膜のいずれかの容積が増えて、腹部が前方や側方へ張り出した状態である。視診ではまず、膨隆が「腹部全体に及ぶ(びまん性)」か「一部に限られる(限局性)」かを区別することが、原因を絞り込む第一歩になる。 腹部全体の膨隆の代表的な原因は、英語の頭文字をとって「5F」と覚えられる。 ・Fat(脂肪:肥満) ・Fluid(液体:腹水) ・Flatus(ガス:鼓腸、イレウス) ・Feces(便:高度の便秘・宿便) ・Fetus(胎児:妊娠子宮) これらは腹腔全体や腹壁全体に内容物が増えるため、腹部が全体として丸く張り出す。 一方、限局性の膨隆は、特定の臓器の腫大(肝腫大・脾腫・膀胱充満など)、腹腔内腫瘍・嚢胞、急性胃拡張、腹壁の異常(腹直筋離開、ヘルニア)などでみられ、膨隆している部位が原因臓器や病変の位置を示唆する。 本問の選択肢のうち、肥満・腹水・鼓腸・イレウスはいずれも全体的な膨隆をきたす病態であり、特定の部位に膨隆を生じるのはヘルニアである。
選択肢考察
- ×a. 肥満
誤り。肥満では皮下脂肪と内臓脂肪(腸間膜・大網など)が腹部全体に増えるため、びまん性の膨隆となる。臍の部分は皮膚が深部組織とつながっているため周囲の脂肪ほど持ち上がらず、臍は深く陥凹するのが特徴である。この点は、臍が平坦化・突出しやすい腹水との鑑別に役立つ。
- ×b. 腹水
誤り。腹水は、肝硬変・特発性門脈圧亢進症・うっ血性心不全・ネフローゼ症候群・癌性腹膜炎などにより、腹腔内に生理的な量を超えて液体が貯留した状態である。液体は腹腔全体に広がるため、膨隆は全体性となる。仰臥位では液体が重力で側腹部に移動して横に広がる「蛙腹」を呈し、立位では下腹部が張り出す。大量になると臍は平坦化あるいは突出する。身体所見では、体位によって濁音の境界が移動する濁音界移動(shifting dullness)や、波動(fluid wave)が参考になる。
- ×c. 鼓腸
誤り。鼓腸は腹部に多量のガスが貯留した状態で、腸管内のガス(イレウス、腹膜炎や急性膵炎・薬剤・低カリウム血症などによる腸管運動低下、巨大結腸症など)と、腸管外の腹腔内ガス(消化管穿孔による遊離ガス、腸管嚢胞様気腫症の破裂など)がある。いずれも腹部が全体的に膨隆し、打診で広範囲に鼓音を呈する。臍は平坦あるいは突出することがある。
- ○d. ヘルニア
正解。腹壁ヘルニアは、腹壁の弱い部分や欠損部を通って腹腔内の臓器(主に腸管や大網)が皮下へ脱出したもので、その部位だけが限局性に膨隆する。代表例は、臍部の臍ヘルニア、鼠径部の鼠径ヘルニア(外鼠径・内鼠径)、鼠径靱帯の下の大腿ヘルニア、手術創部の腹壁瘢痕ヘルニアである。立位や咳・いきみなど腹圧がかかると膨隆が目立ち、臥位や用手的に押し戻すと縮小・消失する(還納性)のが典型的である。膨隆が還納できなくなり、疼痛・発赤を伴う場合は嵌頓を疑い、腸管の血流障害(絞扼)に至る前に速やかな対応が必要である。
- ×e. イレウス
誤り。イレウス(腸閉塞)では、腸管の通過障害によって閉塞部より口側の腸管にガスと液体が貯留し、腹部は全体的に膨隆(鼓腸)する。腹壁を通して腸の蠕動が見えたり(蠕動不穏)、機械的閉塞では金属音が聴取されたりすることがある。視診の際は、癒着性イレウスの原因となる手術瘢痕の有無や、閉塞の原因となりうる鼠径部の嵌頓ヘルニアを見落とさないことが大切である。
腹部膨隆の分類
・全体性(びまん性)膨隆:肥満、腹水、鼓腸、イレウス、妊娠子宮、宿便(高度便秘)、巨大卵巣腫瘍(非常に大きい場合)など ・限局性膨隆:臓器腫大(肝腫大・脾腫・水腎症・膀胱充満)、腹腔内腫瘍・嚢胞、急性胃拡張、腹直筋離開、腹壁ヘルニア(臍・鼠径・大腿・腹壁瘢痕)、腹壁腫瘍・膿瘍
限局性膨隆の部位と主な原因
・右季肋部:肝腫大、胆嚢腫大(Courvoisier徴候) ・左季肋部:脾腫 ・心窩部:胃拡張、膵嚢胞 ・下腹部正中:膀胱充満(尿閉)、妊娠子宮、子宮筋腫 ・臍部:臍ヘルニア ・鼠径部:鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア
全体性膨隆の鑑別のコツ
・肥満:臍が陥凹、打診は大きな変化なし ・腹水:蛙腹、臍の平坦化・突出、濁音界移動、波動 ・鼓腸・イレウス:打診で広範な鼓音、イレウスでは腸蠕動音の異常(機械的閉塞で亢進・金属音、麻痺性で減弱・消失)
ヘルニアの用語
・還納性:脱出した内容を腹腔内に戻せる状態 ・嵌頓:ヘルニア門で締め付けられ還納できなくなった状態 ・絞扼:嵌頓により血流障害が起きた状態。腸管壊死の危険があり緊急手術を要する
POINT
・腹部膨隆は、まず全体性か限局性かを区別する。 ・全体性膨隆の原因は5F(Fat・Fluid・Flatus・Feces・Fetus):肥満、腹水、鼓腸・イレウス、宿便、妊娠。 ・限局性膨隆の原因は、臓器腫大、腫瘍・嚢胞、腹壁ヘルニア(臍・鼠径・大腿・腹壁瘢痕)など。 ・肥満では臍が陥凹し、腹水では臍が平坦化・突出する。 ・還納できない有痛性のヘルニアは嵌頓を疑う。
