2〜3 mmの切開で視界がよみがえる―白内障手術の「標準」を押さえよう
第104回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
加齢性白内障に対する眼内レンズ挿入を伴う手術治療で正しいのはどれか。
- a.高齢者では全身麻酔下で行うことが望ましい。
- b.水晶体超音波乳化吸引術が主に行われる。
- c.糖尿病を合併する場合は眼内レンズ挿入の適応がない。
- d.術後約1か月は抗菌薬の内服が必要である。
- e.眼内レンズは定期的に入れ替える必要がある。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
加齢性白内障は水晶体蛋白の変性による混濁で、薬物では改善せず、生活に支障が出れば手術が根本治療となります。標準術式は小切開から超音波で核を砕いて吸引する水晶体超音波乳化吸引術(PEA)で、残した水晶体嚢内に折りたたみ式眼内レンズを挿入し、点眼やテノン嚢下麻酔などの局所麻酔で短時間に行えます。糖尿病合併例でも眼内レンズ挿入の適応となりますが、術前の血糖・網膜症評価と術後の黄斑浮腫・感染への注意が必要です。術後管理は抗菌薬・ステロイド・NSAIDsの点眼が中心で、眼内レンズは原則生涯留置し、晩期に多い後発白内障はNd:YAGレーザー後嚢切開で治療します。手術の流れと合併症をセットで理解しておくことは、高齢化社会で最も多く行われる手術の一つを患者に説明するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はbです
加齢性白内障は、加齢に伴って水晶体(眼球内でカメラのレンズの役割を担う透明な組織)の蛋白質が変性し、混濁する疾患である。薬物で混濁を元に戻すことはできず、視力障害が日常生活に支障をきたす段階になれば手術が根本治療となる。 現在の標準術式は、角膜または強角膜に2〜3 mm程度の小さな切開を置き、水晶体前嚢を円形に切開(CCC:連続円形切嚢)したうえで、超音波で水晶体の核を砕きながら吸引除去する「水晶体超音波乳化吸引術(PEA:phacoemulsification and aspiration)」である。後嚢(水晶体を包む袋の後ろ側)は残し、その袋の中に折りたためる眼内レンズ(IOL:intraocular lens)を挿入する。 本問では、この標準的な手術の流れ(麻酔法・術式・適応・術後管理・長期経過)を一通り理解しているかが問われている。ポイントは、①局所麻酔で短時間に行える低侵襲手術であること、②術式はPEA+IOL挿入が主流であること、③全身疾患があっても多くは適応となること、④術後管理の中心は点眼であること、⑤眼内レンズは原則として生涯留置することの5点である。
選択肢考察
- ×a. 高齢者では全身麻酔下で行うことが望ましい。
誤り。白内障手術は通常、点眼麻酔やテノン嚢下麻酔(眼球を包む膜であるテノン嚢の下に局所麻酔薬を注入する方法)などの局所麻酔で行われ、手術時間も多くは15〜30分程度と短い。高齢者は心肺機能の低下や併存疾患を持つことが多く、全身麻酔の合併症リスクはむしろ高くなるため、あえて全身麻酔を選ぶ理由はない。全身麻酔が選択されるのは、小児、認知症や不随意運動などで安静が保てない患者、強い不安を訴える患者など、限られた場合である。
- ○b. 水晶体超音波乳化吸引術が主に行われる。
正解。現在の白内障手術のほとんどは、水晶体超音波乳化吸引術で混濁した水晶体の中身を除去し、残した水晶体嚢の中に眼内レンズを固定する方法である。小切開で済むため術後の乱視が少なく、創が自己閉鎖しやすいので縫合を要しないことが多く、視力の回復も早い。かつて主流だった水晶体嚢外摘出術(ECCE:核を丸ごと取り出すため大きな切開が必要)や水晶体嚢内摘出術(ICCE:水晶体を嚢ごと摘出)は、核が非常に硬い症例やチン小帯(水晶体を支える線維)が脆弱な症例など、特殊な場合に限って用いられる。
- ×c. 糖尿病を合併する場合は眼内レンズ挿入の適応がない。
誤り。糖尿病は白内障の発症を早める危険因子であり、糖尿病患者の白内障手術は日常的に行われ、眼内レンズも通常どおり挿入される。ただし、術前に血糖コントロールを整えること、糖尿病網膜症の有無と活動性を評価すること、術後に黄斑浮腫や網膜症の悪化、感染が起こりやすいことに注意して経過をみることが必要である。網膜症の眼底検査・治療の妨げになる混濁を除く目的でも、手術が積極的に行われる。
- ×d. 術後約1か月は抗菌薬の内服が必要である。
誤り。術後管理の中心は点眼であり、抗菌薬点眼、ステロイド点眼、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼を数週間〜1か月程度続けるのが一般的である。目的は術後眼内炎(細菌が眼内に入って起こる重篤な感染症)の予防と、術後炎症・嚢胞様黄斑浮腫の抑制である。抗菌薬の内服は、行う場合でも術直後の数日程度にとどまり、1か月も続ける必要はない。
- ×e. 眼内レンズは定期的に入れ替える必要がある。
誤り。眼内レンズはアクリルなど生体適合性の高い素材でできており、劣化しにくいため、原則として生涯そのまま留置する。交換が検討されるのは、レンズの偏位・脱臼、度数の大きな誤差、レンズ自体の混濁(グリスニングや石灰化など)で視機能が障害された場合などに限られる。なお、術後に視力が再び低下する原因として最も多いのは後発白内障(残した後嚢の混濁)であるが、これはレンズの入れ替えではなく、Nd:YAGレーザーで後嚢を切開して治療する。
白内障の原因
加齢性が最も多い。そのほか、糖尿病、ステロイド(全身・点眼)の長期使用、アトピー性皮膚炎、外傷、ぶどう膜炎、放射線、先天性(風疹など)が原因となる。
白内障手術の流れ
①点眼麻酔やテノン嚢下麻酔 ②角膜(強角膜)小切開 ③連続円形切嚢(CCC)で前嚢を円形に切り取る ④水晶体超音波乳化吸引術(PEA)で核と皮質を除去 ⑤水晶体嚢内に折りたたみ式眼内レンズを挿入 術後は抗菌薬・ステロイド・NSAIDsの点眼を数週間〜1か月程度行う。日帰り手術も広く行われている。
主な術後合併症
・術後眼内炎:頻度は低いが視力予後に関わる重大な合併症。術後数日以内の急激な視力低下、眼痛、充血、前房蓄膿で疑う。 ・嚢胞様黄斑浮腫(Irvine-Gass症候群):術後数週〜数か月で起こりうる。糖尿病やぶどう膜炎の眼で起こりやすい。 ・後発白内障:残した後嚢が混濁するもの。最も頻度の高い晩期合併症で、Nd:YAGレーザー後嚢切開術で治療する。 ・眼内レンズ偏位・脱臼、眼圧上昇、網膜剥離など。
眼内レンズの種類
単焦点眼内レンズが基本で、遠方か近方のどちらかにピントを合わせ、他方は眼鏡で補う。多焦点眼内レンズや乱視矯正用(トーリック)眼内レンズも使われている。
POINT
・加齢性白内障の標準手術は、水晶体超音波乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入である。 ・麻酔は点眼麻酔やテノン嚢下麻酔などの局所麻酔が基本。全身麻酔は小児や安静を保てない患者などに限られる。 ・糖尿病を合併していても眼内レンズ挿入の適応となる(術後の黄斑浮腫・感染・網膜症悪化に注意)。 ・術後管理は抗菌薬・ステロイド・NSAIDsの点眼が中心で、内服を長期間続ける必要はない。 ・眼内レンズは原則生涯留置する。後発白内障はYAGレーザー後嚢切開で治療する。
