StudyMed医師国家試験

1歳2か月、まだ歩かない―「歩行は1歳6か月まで」を知れば不要な検査は避けられる

第104回医師国家試験 B問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第27問

つかまり立ちはできるが,歩行のできない1歳2か月の幼児への対応で適切なのはどれか。

  1. a.頭部CT
  2. b.経過観察
  3. c.脳波検査
  4. d.甲状腺ホルモン測定
  5. e.股関節エックス線撮影

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳幼児の運動発達の目安と、その個人差の幅を理解しているかを問う問題だ。ポイントは「いま何ができているか」と「歩行獲得の正常範囲はいつまでか」の2点。まずは粗大運動発達の流れを思い出してみよう。
医学生医学生
首すわりが3〜4か月、寝返りが5〜6か月、ひとりすわりが7〜8か月……CBTの前に語呂合わせで覚えました。
ドクタードクター
いいね。その先は、はいはいが8〜9か月、つかまり立ちが9〜10か月、つたい歩きが10〜11か月、そしてひとり歩きが1歳から1歳3か月ごろというのが目安だ。
医学生医学生
そうすると1歳2か月で歩けないのは、少し遅れているということになりませんか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。ひとり歩きは1歳前後で約半数ができるようになり、1歳3〜4か月ごろまでに大部分が歩き始める。ただ個人差が大きくて、1歳6か月までに歩ければ正常範囲とされているんだ。
医学生医学生
だから1歳6か月児健診で「ひとり歩き」を確認するんですね。小児科実習で健診の見学に行ったとき、問診票に項目がありました。
ドクタードクター
その通り。逆に言えば、1歳6か月を過ぎても歩けなければ運動発達の遅れとして精査を考える。この子はすでにつかまり立ちまで獲得していて、ひとり歩きの一歩手前まで来ている。しかも頭囲の異常やけいれん、筋緊張の異常、下肢の左右差といった気になる所見も示されていない。
医学生医学生
となると、正解は経過観察ですね。でも、親御さんが心配していたら何か検査をしてあげたくなる気もします。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、根拠のない検査は子どもに負担をかけるだけなんだ。たとえば頭部CTはどうだろう。
医学生医学生
脳の器質的な病気を調べる検査ですよね。ただ、乳幼児は放射線の影響を受けやすいと放射線医学の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。さらに撮影には鎮静が必要になることも多い。頭部CTは大頭症や小頭症、神経学的な異常を伴う発達遅滞などで考える検査で、今回は適応がない。脳波検査も同じで、けいれん発作があり、てんかんを評価したいときや、著しい発達の遅れ・退行があるときに行うものだ。
医学生医学生
甲状腺ホルモンの測定はどうですか。クレチン症だと発達が遅れると習いました。
ドクタードクター
いい連想だ。先天性甲状腺機能低下症では発達の遅れに加えて、低身長、巨舌などの特有の顔貌、便秘、皮膚の乾燥、遷延性黄疸などを伴い、検査では遊離T4低値・TSH高値になる。ただ日本では新生児マス・スクリーニングでTSHなどを測っているから、多くは症状が出る前に見つかって治療されている。今回はそれを疑わせる所見がないね。
医学生医学生
股関節のエックス線は、先天性股関節脱臼を疑う場合でしょうか。
ドクタードクター
そう、発育性股関節形成不全だね。開排制限や大腿皮膚溝の非対称、脚長差があり、立位やはいはいに左右差が出ることもある。つかまり立ちができていて左右差の記載もないから根拠はない。ちなみに乳児期の股関節評価には被曝のない超音波検査がよく使われる。
医学生医学生
つまり、つかまり立ちまでできて他に異常がなければ、いまは正常範囲の個人差と考えて見守る、ということですね。
ドクタードクター
その通り。実際の外来では、保護者に発達の目安を説明して不安を和らげ、1歳6か月児健診などで歩行を確認する流れになる。大事なのは運動だけを見ないことだ。微細運動、言語、社会性も併せて評価する。1歳6か月ごろなら、積み木を2〜3個積む、なぐり書きをする、意味のある単語をいくつか話す、指さしをする、といったことが目安になる。
医学生医学生
逆に、すぐ精査に進むべきサインはありますか。
ドクタードクター
いわゆるレッドフラッグだね。できていたことができなくなる発達の退行、頭囲の異常や急な拡大、筋緊張の著しい低下や亢進、反射の異常や左右差、けいれん、そして複数領域にわたる遅れ。これらがあれば年齢にかかわらず、画像や脳波、血液検査、遺伝学的検査などで原因を探す。評価には遠城寺式やデンバー式などのスクリーニング検査も役立つよ。
医学生医学生
「正常範囲の幅」と「レッドフラッグ」をセットで覚えておけば、検査しすぎも見逃しも防げそうです。

まとめ

ひとり歩きの獲得は1歳〜1歳3か月ごろが目安ですが個人差が大きく、1歳6か月までに歩ければ正常範囲とされます。そのため、つかまり立ちまでできていて他に異常所見のない1歳2か月児が歩けないだけであれば、経過観察が適切な対応です。頭部CTや脳波検査、甲状腺ホルモン測定、股関節エックス線撮影は、頭囲異常、けいれん、クレチン症を疑う症状、下肢の左右差などの根拠があるときに行う検査であり、乳幼児では被曝や鎮静の負担にも配慮が必要です。一方で、発達の退行、頭囲異常、筋緊張異常、複数領域の遅れなどのレッドフラッグがあれば速やかに精査します。発達の目安と正常範囲の幅を正しく理解することは、保護者の不安に寄り添いながら過不足のない診療を行うための基本です。

解答・解説

正解はbです

本問は、乳幼児の運動発達の標準的な時期(キーマイルストーン)と、その個人差の幅を理解しているかを問う問題である。

標準的な粗大運動発達の目安

・首すわり:3〜4か月 ・寝返り:5〜6か月 ・ひとりすわり:7〜8か月 ・はいはい:8〜9か月 ・つかまり立ち:9〜10か月 ・つたい歩き:10〜11か月 ・ひとり歩き:1歳〜1歳3か月ごろ ひとり歩きは1歳前後で約半数ができるようになり、1歳3〜4か月ごろまでに大部分(約90%)が歩き始める。ただし獲得時期の個人差は大きく、1歳6か月(1歳半)までに歩ければ正常範囲とみなされる。逆に1歳6か月になっても歩けない場合は運動発達の遅れとして精査を考える。わが国の1歳6か月児健康診査で「ひとり歩き」が確認項目になっているのもこのためである。 本例は1歳2か月でつかまり立ちまでは獲得しており、ひとり歩きの直前の段階に到達している。この時点で歩けないことは正常範囲の個人差として十分に説明できる。問題文には、頭囲の異常、けいれん、筋緊張の異常、特異な顔貌、下肢の左右差などの異常所見も示されていない。したがって、侵襲や放射線被曝を伴う検査をすぐに行う必要はなく、発達の経過を観察するのが適切な対応である。 実際の診療では、運動発達だけでなく、微細運動(小さな物をつまむ、容器に出し入れする)、言語(意味のある単語を話す、簡単な言葉を理解する)、社会性(まねをする、指さしをする)などの他の領域も併せて評価する。正常と遅滞の境目にある児は「発達境界児」として保護者に助言しながら経過を追う。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部CT

    不適切である。頭部CTは、大頭症(頭囲が大きい。水頭症などを疑う)や小頭症(頭囲が小さい。脳の形成異常などを疑う)、神経学的な異常所見を伴う発達遅滞などで脳の器質的病変を調べるときに考慮する検査である。本例は正常範囲の発達と考えられ、頭囲などの異常も示されていない。乳幼児は放射線の影響を受けやすく、撮影時に鎮静が必要になることも多いため、適応のない検査は避けるべきである。

  2. ○b.  経過観察

    適切である。ひとり歩きの獲得時期には個人差があり、1歳6か月までに歩ければ正常範囲とされる。本例は1歳2か月ですでにつかまり立ちができ、ひとり歩き直前の段階まで発達しているため、現時点では異常と判断する根拠がない。保護者に発達の目安を説明して不安を和らげ、1歳6か月児健診などの機会に歩行の獲得を確認する。1歳6か月を過ぎても歩けない場合や、他の領域の遅れ、発達の退行などがみられた場合に精査へ進む。

  3. ×c.  脳波検査

    不適切である。脳波検査は、けいれん発作などがあり、てんかんの診断や病型の評価を行う場合や、著しい発達の遅れ・退行があり脳機能の異常を疑う場合に行う。本例にはけいれんの既往も明らかな発達遅滞もなく、脳波検査を行う理由はない。

  4. ×d.  甲状腺ホルモン測定

    不適切である。先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)では、発達の遅れに加えて、低身長、特有の顔貌(巨舌、眼瞼の腫れぼったさなど)、便秘、徐脈、皮膚の乾燥、遷延性黄疸などの症状を伴う。検査では甲状腺ホルモン(遊離T4など)が低値、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高値となる。わが国では新生児マス・スクリーニングでTSHなどを測定しており、多くは症状が出る前に発見・治療される。本例にはこれらを疑わせる所見がなく、測定の必要性は低い。

  5. ×e.  股関節エックス線撮影

    不適切である。発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)では、開排制限、大腿皮膚溝の非対称、脚長差などがみられ、歩行開始後には跛行(はこう)がみられることがある。患側の下肢にうまく体重をかけられないため、はいはいや立位に左右差が出ることもある。本例ではつかまり立ちが可能で、こうした左右差の記載もないため、エックス線撮影を行う根拠はない。また乳幼児では放射線被曝を避ける配慮も必要であり、乳児期の股関節評価には超音波検査が用いられることも多い。

乳幼児の発達の評価

発達は粗大運動、微細運動、言語、社会性(対人関係)などの領域に分けて評価する。代表的な評価法として遠城寺式乳幼児分析的発達検査法や、デンバー式発達スクリーニング検査(DENVER II)などがある。デンバー式では、各項目について同年齢の児の何%が通過するかが示されており、個人差の幅を踏まえて判定できるようになっている。

1歳6か月ごろの主な発達の目安

・粗大運動:ひとり歩きができる ・微細運動:積み木を2〜3個積む、なぐり書きをする ・言語:意味のある単語をいくつか話す ・社会性:指さしをする、簡単な指示を理解する 1歳6か月の時点で「歩かない」「意味のある言葉を話さない」場合は発達の遅れを疑い、精査の対象とする。

精査を考えるべき所見(レッドフラッグ)

・獲得していた能力が失われる(発達の退行) ・頭囲の異常(大頭・小頭)、急激な頭囲拡大 ・筋緊張の著しい低下や亢進、反射の異常、左右差 ・けいれん発作 ・複数の発達領域にわたる遅れ これらがある場合は、年齢にかかわらず原因検索(画像検査、脳波、血液検査、遺伝学的検査など)を検討する。

POINT

・つかまり立ちは9〜10か月、ひとり歩きは1歳〜1歳3か月ごろが目安である。 ・ひとり歩きは1歳6か月までに獲得すれば正常範囲であり、1歳6か月で歩けなければ運動発達の遅れを疑う。 ・他の異常所見のない1歳2か月児が歩けないだけであれば、経過観察でよい。 ・乳幼児では放射線被曝や鎮静の負担を考え、適応のない画像検査は行わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。