老いて衰えるもの、変わらないもの、むしろ高まるもの―加齢変化を正しく見分ける
第104回医師国家試験 B問題 第28問
国試問題にチャレンジ
高齢者で低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.脳脊髄液圧
- b.眼の調節機能
- c.顔面表在感覚
- d.高音域の聴力
- e.心臓交感神経機能
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
加齢で確実に低下する代表的な機能は、水晶体の弾性低下による眼の調節力(老視)と、蝸牛基底回転の変性による高音域の聴力(高音漸傾型の加齢性難聴)です。一方、脳萎縮で髄液腔は広がっても脳脊髄液圧はほぼ変わらず、顔面の表在感覚も高齢者で保たれるため、低下があれば病的原因を考えます。心臓交感神経は、圧受容体反射の感度低下を補うためにむしろ活動が亢進し、心臓のβ受容体反応性が落ちることで最大心拍数が低下するという二面性をもちます。加齢変化を「低下・不変・亢進」に分けて整理しておくことは、生理的変化と病的変化を見分け、高齢者を的確に診療するための基礎になります。
解答・解説
正解はb, dです
本問は、加齢に伴う生理的変化のうち「低下するもの」を2つ選ぶ問題である。高齢者では多くの機能が衰えるため、つい「すべて低下する」と考えがちだが、変化しないもの、あるいは代償的にむしろ亢進するものもある点が問われている。 選択肢を整理すると次のようになる。 ・明確に低下するもの:眼の調節機能(老視)、高音域の聴力(加齢性難聴) ・ほぼ変わらないもの:脳脊髄液圧、顔面の表在感覚(感じる能力自体) ・むしろ亢進するもの:心臓交感神経の活動性 老視と加齢性難聴は、高齢者のほぼ全員に程度の差はあれ認められる代表的な感覚器の加齢変化であり、確実に押さえておきたい。一方で、交感神経系は「活動は高まっているが、心臓側の反応性は落ちている」という二面性をもつため、選択肢の表現を正確に読むことが必要である。
選択肢考察
- ×a. 脳脊髄液圧
低下しない。加齢により脳は萎縮し、脳室や脳溝、くも膜下腔といった髄液を容れる空間は拡大する。しかし空間が広がっても髄液の産生・吸収のバランスは保たれており、脳脊髄液圧そのものは加齢で大きく変化しない。成人の側臥位での腰椎穿刺による正常な髄液圧はおおむね70〜180 mmH2O程度である。なお、高齢者では髄液圧が正常範囲にありながら脳室が拡大し、歩行障害・認知障害・尿失禁をきたす特発性正常圧水頭症がみられることがある。
- ○b. 眼の調節機能
低下する。近くを見るときには、毛様体筋が収縮してチン小帯がゆるみ、水晶体が自らの弾性で厚く膨らむことで屈折力を増やしている(調節)。加齢とともに水晶体は硬くなって弾性を失い、毛様体筋の働きも弱まるため、調節できる幅(調節力)が次第に小さくなる。調節力は小児期から少しずつ減り始め、40歳代で近くの文字が見えにくくなるとして自覚されることが多い。これが老視(いわゆる老眼)であり、凸レンズ(近用眼鏡)で矯正する。
- ×c. 顔面表在感覚
低下するとはいえない。加齢に伴い末梢神経の伝導速度はやや遅くなり、下肢遠位部を中心に振動覚が低下しやすいことが知られている。しかし顔面の表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)を感じる能力は一般に高齢者でも保たれる。顔面にはっきりとした感覚低下がみられる場合は、加齢によるものと考えず、三叉神経障害や脳幹・大脳の病変などの病的な原因を疑うべきである。
- ○d. 高音域の聴力
低下する。加齢性難聴(老人性難聴)は、主に蝸牛の基底回転にある有毛細胞やらせん神経節細胞の変性によって起こる感音難聴である。蝸牛では基底回転側が高い音を担当するため、高音域から聴力が低下し、オージオグラムでは高音漸傾型を示す。通常は両側性・左右対称性にゆっくり進行し、語音の聞き取り(語音弁別能)も低下しやすい。これに対し、メニエール病は低音域から障害されやすい点が対照的である。
- ×e. 心臓交感神経機能
低下するとはいえない。心臓交感神経は心拍数や心収縮力を高め、血圧やホメオスタシス(体内環境の恒常性)の維持に働く。加齢により動脈が硬くなると、血圧の変化を感知する圧受容器の感度(圧受容体反射)が鈍くなる。これを補うように交感神経の活動性はむしろ高まっており、高齢者では血中ノルアドレナリン濃度も上昇する傾向にある。ただし、心臓側のβアドレナリン受容体を介した反応性は低下するため、運動時などに心拍数が上がりにくい(最大心拍数の低下)。つまり「交感神経の活動が低下する」のではなく、「活動は亢進し、それに対する心臓の反応が鈍る」と理解するのが正しい。
主な加齢変化の整理
低下するもの: ・感覚器:眼の調節力(老視)、高音域の聴力(加齢性難聴)、振動覚(特に下肢)、嗅覚、味覚の閾値上昇 ・循環:最大心拍数、心臓のβ受容体反応性、圧受容体反射の感度、左室の拡張能 ・呼吸:肺活量、1秒量、動脈血酸素分圧(PaO2) ・腎:腎血流量、糸球体濾過量(GFR)、尿濃縮能 ・その他:基礎代謝量、筋肉量、細胞内液量(体内総水分量)、耐糖能、免疫能 増加・亢進するもの: ・収縮期血圧、脈圧 ・残気量 ・交感神経活動(血中ノルアドレナリン) ・体脂肪の割合 ほぼ不変のもの: ・脳脊髄液圧 ・全肺気量 ・赤血球数・ヘモグロビンは基準範囲内で保たれる(貧血は加齢ではなく病的変化として扱う)
加齢性難聴とメニエール病の聴力像
加齢性難聴は両側対称性の高音漸傾型感音難聴であり、補聴器が主な対策となる。メニエール病は内リンパ水腫によって回転性めまい・耳鳴・耳閉感を伴って低音部の感音難聴を反復し、初期には主に片側に起こる。
POINT
・加齢で確実に低下するのは、眼の調節力(老視)と高音域の聴力(加齢性難聴、高音漸傾型)である。 ・脳萎縮で髄液腔は広がるが、脳脊髄液圧は変わらない。 ・顔面の表在感覚は高齢でも保たれ、低下があれば病的原因を考える。 ・高齢者では圧受容体反射の感度低下を補うため交感神経活動はむしろ亢進し、心臓のβ受容体反応性は低下する。
