StudyMed医師国家試験

新生児の出血斑と大腿の暗赤色腫瘤―血小板を「食べる」腫瘍が起こす消費性凝固障害

第104回医師国家試験 A問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第34問

生後12日の新生児。出血斑を主訴に来院した。在胎40週2日,体重3,300 gで出生した。出生時から左大腿部に直径5 cmの暗赤色の腫瘤があり,血管腫の疑いにて経過観察とし,生後6日目に退院した。生後8日から顔面と前胸部とに出血斑が出現し,増加してきた。血液所見:赤血球280万,Hb 8.5 g/dL,Ht 25%,白血球5,800,網赤血球8.3%,血小板8,000,PT 16.2秒(基準12.2),APTT 65.4秒(基準対照32.2)。血液生化学所見:AST 56 IU/L,ALT 23 IU/L。CRP 0.1 mg/dL。  この疾患でみられる検査所見はどれか。

  1. a.血漿フィブリノゲンの上昇
  2. b.血液凝固第Ⅴ因子の上昇
  3. c.血漿FDPの上昇
  4. d.Coombs試験陽性
  5. e.骨髄巨核球の減少

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生まれつきの血管性腫瘤をもつ新生児に出血斑が広がってきた症例だ。テーマは「血小板減少と凝固障害が同時に起きているとき、体の中で何が起きているか」。腫瘤の存在と、血小板・PT・APTTの組み合わせに注目して考えてみよう。
医学生医学生
血小板がかなり少ないので、まずは新生児の免疫性血小板減少を考えました。母体の抗体が移行するタイプです。
ドクタードクター
鑑別の入り口としてはいい発想だね。ただ、母体由来の抗体による血小板減少なら、凝固因子には影響しないからPTやAPTTは正常のはずだ。この症例では両方とも延長している。つまり一次止血も二次止血も障害されているんだ。
医学生医学生
新生児の出血といえばビタミンK欠乏も小児科の講義で習いましたが、あれはPT・APTTが延長するタイプですよね。
ドクタードクター
その通り。でもビタミンK欠乏性出血症では血小板数は正常だ。血小板も凝固因子も両方減っている、しかも感染の所見はない。となると「どこかで血小板と凝固因子が一緒に使われている」、つまり消費性凝固障害を考えることになる。
医学生医学生
使われている場所が、大腿の暗赤色の腫瘤ということですか。
ドクタードクター
そう。大きな血管性腫瘍の中では異常な血管内皮に血小板が捕まって活性化し、局所で凝固が延々と進む。これがKasabach-Merritt現象(症候群)だ。凝固亢進が全身に波及するとDICの状態になり、皮膚に出血斑が広がってくる。
医学生医学生
網赤血球が多いのは、出血で赤血球が失われているからでしょうか。
ドクタードクター
出血に加えて、異常な血管の中で赤血球が機械的に壊される微小血管障害性溶血も関わっていると考えられる。いずれにしても骨髄はしっかり反応して造血している、というサインだね。では、この病態でみられる検査所見を選択肢ごとに考えよう。フィブリノゲンはどうなる?
医学生医学生
凝固で使われるので……下がる、ですね。上昇はおかしいと思います。
ドクタードクター
正解。フィブリノゲンはトロンビンでフィブリンに変わる材料だから、凝固が続けば消費されて低下する。低フィブリノゲン血症は本症の重要な所見で、重症度や治療効果の目安にもなる。第Ⅴ因子も同じ理屈だ。
医学生医学生
第Ⅴ因子も凝固カスケードで消費されるから低下する。PT・APTTの両方が延びているのもそれで説明がつきますね。
ドクタードクター
その通り。次に、FDPの上昇はどうかな。
医学生医学生
血栓ができると、それを溶かそうとして線溶が働くので……FDPは上がるはずです。CBT対策でDICは「凝固因子は減って、FDPとDダイマーは増える」と覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。プラスミンがフィブリンやフィブリノゲンを分解してできるのがFDPで、凝固亢進に続く二次線溶の結果として上昇する。これが正解だね。では、Coombs試験陽性はどう考える?
医学生医学生
溶血があるなら陽性になりそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。Coombs試験は赤血球に抗体や補体が付いているかを調べる検査で、自己免疫性溶血性貧血や血液型不適合による新生児溶血性疾患で陽性になる。本症の溶血は血管内での機械的破壊だから、抗体は関与せず陰性だ。
医学生医学生
なるほど、溶血の「原因」で考えるんですね。最後の骨髄巨核球の減少は、血小板が減っているなら減りそうですが。
ドクタードクター
これもよくある誤解だね。血小板は骨髄で作られなくなったのではなく、末梢で消費されている。だから骨髄は補おうとして巨核球を増やし、正常〜増加になる。巨核球が減るのは再生不良性貧血や骨髄が腫瘍細胞に置き換わった場合など、産生低下による血小板減少だ。
医学生医学生
ITPで骨髄巨核球が保たれるのと同じ考え方ですね。血液内科の実習で骨髄スメアを見せてもらったのを思い出しました。
ドクタードクター
いい連想だ。「産生低下か、破壊・消費か」で巨核球の数が分かれる。最後に臨床的な注意点も押さえておこう。かつて本症は通常のいちご状血管腫に合併すると考えられていたけれど、現在は主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫が原因で、通常の乳児血管腫では起こらないとされている。
医学生医学生
乳児血管腫にはプロプラノロールが効くと習いましたが、本症にも使えますか。
ドクタードクター
本症には効果が乏しいとされる。治療は副腎皮質ステロイド、ビンクリスチン、シロリムスなどの薬物療法が中心で、可能なら切除や塞栓術も考える。もうひとつ大事なのが血小板輸血の扱いだ。輸血した血小板が腫瘍に捕まって腫瘍の腫脹を悪化させることがあるから、活動性出血や手術時など必要な場面に限って慎重に行う。
医学生医学生
血小板が少ないからすぐ輸血、とはいかないんですね。数字だけ見て動かないように気をつけます。

まとめ

巨大な血管性腫瘍をもつ乳児に著明な血小板減少とPT・APTT延長がみられたら、腫瘍内で血小板と凝固因子が消費されるKasabach-Merritt現象を考えます。検査所見はDICとして整理でき、血小板・フィブリノゲン・第Ⅴ因子などの凝固因子は低下し、二次線溶の亢進によりFDP・Dダイマーは上昇します。溶血は機械的破壊によるためCoombs試験は陰性、血小板減少は消費性のため骨髄巨核球は正常〜増加します。原因腫瘍は主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫で、治療はステロイド、ビンクリスチン、シロリムスなどが中心であり、血小板輸血は腫瘍の増悪を招きうるため慎重に行います。「何が減り、何が増えるか」を病態から導く考え方は、新生児の出血傾向の鑑別やDIC全般の理解に直結します。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・正期産(在胎40週2日)、出生体重3,300 gで、周産期に大きな問題はない。 ・出生時から左大腿部に直径5 cmの暗赤色の腫瘤があり、血管性腫瘍が疑われていた。 ・生後8日から顔面・前胸部に出血斑が出現し増加している。 ・血小板8,000/μLと著明な減少。PT 16.2秒(基準12.2)、APTT 65.4秒(対照32.2)といずれも延長しており、凝固因子の不足もある。つまり、血小板による一次止血と凝固因子による二次止血の両方が障害されている。 ・Hb 8.5 g/dLと、新生児としては明らかな貧血(生後2週前後の正常値はおおむね13〜18 g/dL程度)があり、網赤血球8.3%と増加しているので、骨髄の造血は保たれ、赤血球の喪失(出血や破壊)に反応していると考えられる。 ・CRP 0.1 mg/dLで感染症を示唆する炎症所見はない。

診断へのプロセス

新生児の血小板減少の鑑別には、母体由来の抗体による免疫性血小板減少(同種免疫性新生児血小板減少症、母体ITPによるもの)、感染症(敗血症、先天感染)、骨髄の造血障害(先天性の骨髄不全など)、消費の亢進(DIC:播種性血管内凝固)などがある。本例では、 ・血小板減少に加えてPT・APTTが延長しており、凝固因子も消費されている ・感染徴候がない ・巨大な血管性腫瘍が存在する ことから、腫瘍内で血小板が捕捉・活性化されて凝固が進み、血小板と凝固因子が消費されるKasabach-Merritt現象(Kasabach-Merritt症候群)と考えられる。凝固亢進が全身に及び、DICの状態となって出血斑が広がっている。

設問の考え方

本症の検査所見は消費性凝固障害(DIC)の所見として整理できる。凝固が亢進すると血小板・フィブリノゲン・凝固因子(第Ⅴ因子、第Ⅷ因子など)が使われて減少し、できた血栓を溶かす二次線溶が亢進してフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)やDダイマーが増加する。血小板は末梢で消費されているので、骨髄はそれを補おうとして巨核球を増やす。この理解があれば、病名を思いつかなくても正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  血漿フィブリノゲンの上昇

    フィブリノゲンは凝固の最終段階でトロンビンによりフィブリンに変換される凝固因子である。Kasabach-Merritt現象では腫瘍内で凝固が持続的に進むため、フィブリノゲンは大量に消費されて低下する。低フィブリノゲン血症は本症の特徴的な所見であり、重症度や治療効果の指標にもなる。上昇はしない。

  2. ×b.  血液凝固第Ⅴ因子の上昇

    第Ⅴ因子は、第Ⅹa因子と複合体を作ってプロトロンビンをトロンビンに変える反応を促進する凝固因子である。凝固が亢進した状態では、フィブリノゲンや第Ⅷ因子と同様に消費されて低下する。PT・APTTの両方が延長していることも、こうした共通系を含む凝固因子の消費を反映している。

  3. ○c.  血漿FDPの上昇

    FDP(フィブリン/フィブリノゲン分解産物)は、プラスミンがフィブリンやフィブリノゲンを分解してできる物質である。凝固が亢進して血管内にフィブリン血栓ができると、それを溶かそうとして線溶系(二次線溶)が活性化し、FDPや、安定化フィブリンの分解産物であるDダイマーが上昇する。Kasabach-Merritt現象は腫瘍内の凝固亢進とそれに続く線溶亢進を特徴とするため、FDPの上昇がみられる。

  4. ×d.  Coombs試験陽性

    Coombs試験(直接抗グロブリン試験)は、赤血球の表面に抗体や補体が結合しているかを調べる検査で、自己免疫性溶血性貧血や血液型不適合による新生児溶血性疾患などで陽性となる。本症の貧血は、出血に加え、異常な血管内で赤血球が機械的に壊される溶血(破砕赤血球を伴う微小血管障害性溶血)によるもので、抗体は関与しない。したがってCoombs試験は陰性である。

  5. ×e.  骨髄巨核球の減少

    本症の血小板減少は、骨髄での産生が落ちているためではなく、腫瘍内で血小板が捕捉・消費されるため(消費性の減少)である。骨髄は減った血小板を補おうとして反応性に巨核球を増やすので、骨髄巨核球は正常〜増加となる。網赤血球が増えていることからも骨髄の造血能は保たれていると判断できる。骨髄巨核球の減少は、再生不良性貧血や先天性無巨核球性血小板減少症など、産生低下による血小板減少でみられる。

Kasabach-Merritt現象(症候群)

・乳児期の血管性腫瘍に、著明な血小板減少と消費性凝固障害(低フィブリノゲン血症、FDP・Dダイマー上昇、PT・APTT延長)、微小血管障害性溶血性貧血を伴う病態である。 ・腫瘍内の異常な血管内皮に血小板が捕捉されて活性化し、凝固が局所で持続的に進むことで起こる。重症化すると全身性のDICとなり、出血や、腫瘍の急速な増大・心不全などで命に関わる。 ・かつては通常の乳児血管腫(いちご状血管腫)に合併すると考えられていたが、現在では、原因となるのは主にカポジ肉腫様血管内皮腫(kaposiform hemangioendothelioma)や房状血管腫(tufted angioma)であり、通常の乳児血管腫では起こらないことがわかっている。 ・腫瘍は急に大きくなり、暗赤色〜紫色で硬く、緊満した外観を呈することが多い。 ・治療:副腎皮質ステロイド、ビンクリスチン、mTOR阻害薬のシロリムスなどの薬物療法が中心である。可能であれば切除や塞栓術も考慮する。血小板輸血は腫瘍内での血小板捕捉を増やして腫瘍の腫脹を悪化させることがあるため、活動性出血や手術時など必要な場合に限って慎重に行う。なお、乳児血管腫に有効なプロプラノロールは本症には効果が乏しい。

DIC(播種性血管内凝固)の検査所見

・減少するもの:血小板、フィブリノゲン、凝固因子(第Ⅴ、第Ⅷ因子など)、アンチトロンビン ・増加・延長するもの:FDP、Dダイマー、PT、APTT、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT:凝固活性化の指標)、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC:線溶活性化の指標) ・末梢血塗抹では破砕赤血球がみられることがある。

血小板減少の原因による骨髄巨核球の違い

・産生低下(再生不良性貧血、白血病などによる骨髄置換、先天性無巨核球性血小板減少症):巨核球は減少 ・破壊・消費の亢進(ITP、DIC、Kasabach-Merritt現象、血栓性微小血管症):巨核球は正常〜増加

新生児期の出血傾向の鑑別

・ビタミンK欠乏性出血症:PT・APTTは延長するが、血小板数は正常。 ・同種免疫性新生児血小板減少症・母体ITP由来の血小板減少:血小板は減少するが、PT・APTTは正常。 ・DIC(敗血症、仮死、Kasabach-Merritt現象など):血小板減少とPT・APTT延長の両方がみられ、フィブリノゲン低下、FDP上昇を伴う。

POINT

・巨大な血管性腫瘍+著明な血小板減少+凝固障害 → Kasabach-Merritt現象(腫瘍内での消費性凝固障害、DIC)。 ・DICでは、血小板・フィブリノゲン・凝固因子は消費されて低下し、線溶亢進によりFDP・Dダイマーは上昇する。 ・消費による血小板減少では、骨髄巨核球は正常〜増加する。 ・本症の溶血は機械的破壊によるもので、Coombs試験は陰性。 ・原因腫瘍は主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫で、通常の乳児血管腫では起こらない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。