そのマスク、本当に必要?―空気感染を見抜いてN95を使い分ける
第104回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
予防のため医療従事者がN 95マスクを使うのはどれか。
- a.梅毒
- b.結核
- c.非結核性抗酸菌症
- d.サイトメガロウイルス感染症
- e.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉肺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
N95マスクは0.3μm程度の微粒子を95%以上捕集できる高性能マスクで、医療従事者が空気中を漂う飛沫核を吸い込まないようにするために用います。空気感染する代表疾患は結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)であり、これらでは患者を陰圧個室に収容し、医療従事者はフィットテストとユーザーシールチェックを行ったうえでN95マスクを着用します。非結核性抗酸菌症は通常ヒトからヒトへ感染せず、MRSAは主に接触感染、サイトメガロウイルスや梅毒は体液や直接接触で伝播するため、N95マスクの適応にはなりません。また、咳をする結核患者自身にはN95ではなくサージカルマスクを着用させる点も重要です。病原体ごとの感染経路を理解し、標準予防策と感染経路別予防策を正しく使い分けることは、自分自身と他の患者を院内感染から守る医療者の基本です。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】感染経路別予防策とN95マスクの適応 N95マスクは、空気中の微粒子(0.3μm程度の粒子)を95%以上捕集できる性能をもつ医療用の高性能マスク(レスピレータ)である。顔に密着させて使うことで、空気中を漂う微小な病原体を吸い込むのを防ぐ。 病原体の感染経路には主に接触感染・飛沫感染・空気感染がある。咳やくしゃみで出る飛沫(直径5μm以上)は重いので1~2m程度で落下するが、飛沫の水分が蒸発して残った飛沫核(直径5μm以下)は長時間空中を漂い、離れた場所の人にも吸入される。この飛沫核によって広がるのが空気感染(飛沫核感染)であり、医療従事者がN95マスクを着用するのはこの空気感染を防ぐためである。 空気感染する代表的な疾患は、結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)の3つである。したがって選択肢のうちN95マスクを用いるのは結核である。
選択肢考察
- ×a. 梅毒
梅毒はTreponema pallidumによる感染症で、主な感染経路は性的接触による粘膜・皮膚の病変部との直接接触である。妊婦から胎児への経胎盤感染(先天梅毒)や、まれに輸血による感染もある。空気を介して感染することはないため、N95マスクは不要であり、標準予防策で対応する。
- ○b. 結核
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は、排菌している肺結核患者の咳などで生じた飛沫核に含まれて空中を漂い、吸入によって感染する空気感染の代表的な病原体である。そのため、医療従事者は結核(疑いを含む)患者に接する際にN95マスクを着用し、患者は陰圧の空気感染隔離室に収容する。着用時は毎回、顔との密着を確認するユーザーシールチェックを行い、あらかじめフィットテストで自分に合うサイズを選んでおく。
- ×c. 非結核性抗酸菌症
非結核性抗酸菌(Mycobacterium avium complexなど)は土壌や水系などの環境中に広く存在し、環境から吸入などで感染すると考えられている。結核と同じ抗酸菌であるが、通常ヒトからヒトへは感染しないため、患者の隔離やN95マスクは必要ない。塗抹で抗酸菌が陽性の段階では結核との区別がつかないため、結核が否定されるまでは空気予防策をとることがある点には注意する。
- ×d. サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルス(CMV)は唾液、尿、母乳、精液・腟分泌物、血液などの体液を介して感染し、経胎盤感染(先天性CMV感染症)や臓器移植・輸血でも伝播する。多くは不顕性感染のまま体内に潜伏し、免疫不全状態で再活性化して網膜炎・肺炎・腸炎などを起こす。空気感染はしないので、標準予防策(体液に触れる際の手袋着用、手指衛生など)で対応する。
- ×e. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉肺炎
MRSAの院内伝播は主に医療従事者の手指や医療器具を介した接触感染による。鼻腔や皮膚に保菌している場合、その菌が自身の感染源となることもある。予防の基本は標準予防策に接触予防策(手袋・ガウンの着用、個室管理または集団隔離、器具の専用化)を加えることであり、処置ごとの手指衛生の徹底が最も重要である。MRSA肺炎患者の喀痰吸引など飛沫を浴びる可能性がある処置ではサージカルマスクを用いるが、N95マスクの適応ではない。
標準予防策と感染経路別予防策
・標準予防策(スタンダードプリコーション):感染症の有無にかかわらず、すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜を感染性があるものとして扱う考え方。手指衛生、状況に応じた手袋・ガウン・マスク・ゴーグルの使用、咳エチケットなどが含まれる。 ・感染経路別予防策:標準予防策に上乗せして行う。 空気予防策:結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)。陰圧個室、医療従事者はN95マスク。麻疹・水痘は免疫をもつ職員が対応するのが望ましい。 飛沫予防策:インフルエンザ、風疹、流行性耳下腺炎、百日咳、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症、溶連菌咽頭炎など。患者から1m以内で接する際にサージカルマスクを着用し、個室または集団隔離とする。 接触予防策:MRSAなどの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬、流行性角結膜炎など。手袋・ガウンの着用、器具の専用化。
マスクの使い分け
・医療従事者を空気中の飛沫核から守る → N95マスク。 ・感染源である患者が咳をする場合 → 飛沫核になる前の飛沫の段階で拡散を抑えるため、患者にはサージカルマスクを着用させる。患者にN95マスクを着用させる必要はない。
補足
新型コロナウイルス感染症などで、気管挿管・気管支鏡・喀痰吸引などエアロゾルが発生する処置を行う場合にもN95マスクが推奨される。
POINT
・空気感染(飛沫核感染)の3疾患:結核・麻疹・水痘(播種性帯状疱疹を含む)。 ・空気予防策:医療従事者はN95マスク、患者は陰圧個室へ。 ・結核患者自身にはサージカルマスクを着用させる。 ・非結核性抗酸菌症はヒト-ヒト感染しないため隔離不要。 ・MRSAは接触感染が主で、手指衛生が最重要。
