生後3か月が分かれ目―乳児の細菌性髄膜炎は「莢膜をもつ2菌」を狙え
第104回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
乳児の細菌性髄膜炎の起炎菌として頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.大腸菌
- b.緑膿菌
- c.肺炎球菌
- d.インフルエンザ菌
- e.B群溶血性レンサ球菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌性髄膜炎の起炎菌は年齢によって大きく変わり、新生児期〜生後3か月ごろは産道由来のB群溶血性レンサ球菌と大腸菌が、移行抗体が減る生後3か月以降の乳幼児では莢膜をもつインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌が主体となります。成人・高齢者では肺炎球菌が最多で、緑膿菌は脳外科術後やシャント留置例などの特殊な状況に限られます。乳児では髄膜刺激症状が乏しく、発熱・不機嫌・哺乳不良・大泉門膨隆が診断の手がかりとなるため、疑ったら髄液検査を行い、年齢から想定される菌をカバーする抗菌薬を速やかに開始します。Hibワクチンと肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種化により乳幼児の髄膜炎は大きく減り、相対的にGBSの割合が上がるなど疫学も変化しています。「感染経路と免疫の発達」から起炎菌を理解しておくと、初期治療の抗菌薬選択にもそのまま活かせます。
解答・解説
正解はc, dです
【テーマ】年齢によって異なる細菌性髄膜炎の起炎菌 細菌性髄膜炎(化膿性髄膜炎)は、細菌がくも膜下腔に侵入して起こる重篤な感染症であり、年齢によって主な起炎菌が大きく変わるのが特徴である。これは、感染の入り口と宿主の免疫状態が年齢によって異なるためである。 ・新生児期~生後3か月ごろ:分娩時に母親の産道の菌に曝露されて感染することが多く、B群溶血性レンサ球菌(GBS)と大腸菌が二大起炎菌である。リステリア菌もこの時期の起炎菌として知られる。 ・乳児期(生後3か月以降)~幼児期:母親から胎盤を通じて受け取った移行抗体(IgG)が減少し、莢膜をもつ細菌に対する抗体が自前で十分に作れない時期に当たる。このため、上気道に定着したインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌が血流を介して髄膜に達し、髄膜炎を起こしやすい。 したがって、乳児の細菌性髄膜炎の起炎菌として頻度が高いのは肺炎球菌とインフルエンザ菌である。
選択肢考察
- ×a. 大腸菌
大腸菌はGBSと並ぶ新生児期の細菌性髄膜炎の代表的な起炎菌である。特にK1莢膜抗原をもつ株が髄膜炎を起こしやすい。母体の腟・腸管の常在菌として分娩時に児へ伝播することが多い。低出生体重児や早産児で頻度が高く、尿路奇形に伴う尿路感染症から菌血症・髄膜炎に至ることもある。生後3か月以降の乳児では主要な起炎菌ではない。
- ×b. 緑膿菌
緑膿菌は健常者にはほとんど病原性を示さない弱毒菌で、免疫不全者や入院患者に起こる日和見感染・院内感染の原因菌である。髄膜炎はまれで、脳神経外科手術後、脳室ドレナージや脳室腹腔シャントなどの人工物留置例、免疫不全者などに限られる。健常な乳児に起こる市中発症の細菌性髄膜炎の起炎菌としての頻度は低い。
- ○c. 肺炎球菌
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はグラム陽性双球菌で、多糖体の莢膜をもつため食細胞による貪食を受けにくい。鼻咽頭に定着した菌が血流に入り、髄膜炎を起こす。生後3か月以降の乳幼児の細菌性髄膜炎で、インフルエンザ菌と並ぶ主要な起炎菌である。死亡率が高く、難聴などの後遺症も残しやすい。また高齢者を含む成人の細菌性髄膜炎でも最も多い起炎菌である。現在は小児用肺炎球菌結合型ワクチンが定期接種となっており、ワクチン非含有の血清型による感染が問題となっている。
- ○d. インフルエンザ菌
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)はグラム陰性桿菌で、髄膜炎の原因となるのは主に莢膜をもつb型(Hib)である。ワクチン導入前の日本では、生後3か月以降の乳幼児の細菌性髄膜炎の起炎菌として最も多かった。乳幼児はHibの莢膜多糖体に対する抗体を自力で作りにくいため感染しやすい。なお、名前に「インフルエンザ」とあるが、インフルエンザの原因ではない(かつてインフルエンザの原因と誤って考えられたことに由来する名称である)。Hibワクチンの定期接種化により、Hib髄膜炎は激減した。
- ×e. B群溶血性レンサ球菌
B群溶血性レンサ球菌(group B Streptococcus:GBS、Streptococcus agalactiae)は母体の腟や直腸に常在し、分娩時に児に垂直感染する。新生児期の細菌性髄膜炎・敗血症の最も重要な起炎菌であり、重篤化しやすい。生後7日未満の早発型は敗血症・肺炎が多く、生後7日~3か月ごろの遅発型では髄膜炎が多い。予防のため、妊娠35~37週に腟・直腸の培養検査を行い、保菌妊婦には分娩時にペニシリン系抗菌薬を投与する。生後3か月以降の乳児では主要な起炎菌ではない。
年齢別の細菌性髄膜炎の主な起炎菌
・新生児~生後3か月:B群溶血性レンサ球菌、大腸菌(そのほかリステリア菌など)。 ・生後3か月以降の乳幼児:インフルエンザ菌b型、肺炎球菌。 ・学童~成人:肺炎球菌が最多。髄膜炎菌も原因となる(日本では少ないが、学生寮など集団生活での流行が問題となる)。 ・高齢者・免疫不全者:肺炎球菌に加え、リステリア菌、グラム陰性桿菌が増える。 ・脳外科手術後・シャント留置例:ブドウ球菌(MRSAを含む)、緑膿菌などのグラム陰性桿菌。
症状と診断
・年長児・成人では発熱、頭痛、嘔吐、項部硬直、Kernig徴候などの髄膜刺激症状、意識障害。 ・乳児では髄膜刺激症状がはっきりしないことが多く、発熱、不機嫌、哺乳不良、けいれん、大泉門膨隆が手がかりとなる。 ・髄液検査:初圧上昇、多核球優位の細胞数増加、蛋白上昇、糖低下(髄液糖/血糖比の低下)。グラム染色・培養で起炎菌を同定する。
治療
・起炎菌判明前から、年齢に応じて想定される菌をカバーする抗菌薬を速やかに開始する。乳幼児では耐性肺炎球菌やβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ菌を考慮し、第三世代セフェム系(セフトリアキソンなど)にカルバペネム系やバンコマイシンを併用することが多い。 ・Hib髄膜炎などでは、難聴などの神経学的後遺症を減らす目的で抗菌薬投与直前または同時に副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)を用いることがある。
ワクチンによる変化
日本では2013年からHibワクチンと小児用肺炎球菌結合型ワクチンが定期接種となり、乳幼児のHib髄膜炎はほぼみられなくなり、肺炎球菌髄膜炎も減少した。これに伴い、生後数か月の乳児ではGBSによる遅発型感染症の占める割合が相対的に高まっている。
POINT
・新生児期の起炎菌:B群溶血性レンサ球菌、大腸菌(+リステリア菌)。 ・生後3か月以降の乳幼児:インフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌。 ・成人・高齢者:肺炎球菌が最多。 ・乳児の髄膜炎は髄膜刺激症状が乏しく、大泉門膨隆・哺乳不良・不機嫌が手がかり。 ・Hibワクチン・肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種により乳幼児の髄膜炎は大きく減少した。
