食中毒は夏だけじゃない―冬に山をつくるノロウイルスと日本の食中毒統計
第103回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
我が国の食中毒で正しいのはどれか。
- a.患者数は近年激減している。
- b.死者数は毎年100名を超えている。
- c.病因物質の判明率は50%以下である。
- d.夏季に加え11,12月にも多発している。
- e.サルモネラ属菌に起因する患者が最も多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
わが国の食中毒は、細菌性食中毒が増える夏季と、ノロウイルスが流行する冬季(11月頃から増え12~3月にピーク)の二峰性に発生します。患者数で最多の病因物質は多くの年でノロウイルスであり、かつて上位だったサルモネラ属菌や腸炎ビブリオは大きく減少しました。患者数は集団発生の有無で年ごとに大きく変動し、死者数は例年数名~十数名で主因はフグ毒や毒キノコなどの自然毒、病因物質の判明率は90%以上です。ノロウイルスはアルコールが効きにくく次亜塩素酸ナトリウムで消毒するなど、疫学の知識は院内感染対策や保健所への届出(24時間以内)といった実際の臨床行動にも直結します。
解答・解説
正解はdです
わが国の食中毒は、食品衛生法に基づき、診察した医師が24時間以内に最寄りの保健所長へ届け出ることになっており、その集計が厚生労働省の食中毒統計として毎年公表されている。本問はこの統計から読み取れる疫学的特徴を問うものである。 押さえておくべき傾向は次のとおりである。 ・患者数:年ごとの大規模集団発生の有無で大きく変動し、一定方向の急激な増減はない(出題当時は年間2万~4万人前後で推移していた)。 ・死者数:少なく、例年数名から十数名程度で、主な原因はフグ毒や毒キノコなどの自然毒である。 ・病因物質の判明率:保健所の調査により90%を超える事例で病因物質が特定されている。 ・原因物質:患者数ではノロウイルスが多くの年で最多である。事件数(発生件数)では、近年は寄生虫のアニサキスやカンピロバクターが上位を占める。 ・季節性:細菌性食中毒は高温多湿の夏季に多く、ノロウイルスによる食中毒は冬季(11月~3月頃)に多い。このため年間を通じて夏と冬の二峰性を示す。 特に、ノロウイルスが冬季に流行することを知っていれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 患者数は近年激減している。
誤り。食中毒の患者数は、学校給食や仕出し弁当などで数百~数千人規模の集団発生が起こるかどうかによって年ごとに大きく上下する。出題当時は年間2万~4万人程度の範囲で増減を繰り返しており、激減という傾向はみられなかった。なお2020年代には新型コロナウイルス感染症流行下の会食自粛などの影響で1万人前後に減った年もあるが、これも持続的な激減とはいえない。
- ×b. 死者数は毎年100名を超えている。
誤り。食中毒による死者数は例年数名から十数名程度であり、100名を超えることはない。死亡例の多くはフグ毒(テトロドトキシン)や毒キノコ、有毒植物(イヌサフランやグロリオサ、トリカブトなど)といった自然毒によるものである。細菌性では腸管出血性大腸菌感染後の溶血性尿毒症症候群(HUS)などで死亡例が出ることがある。
- ×c. 病因物質の判明率は50%以下である。
誤り。保健所が患者の便や吐物、残品の食品、調理従事者などを検査して原因を調べるため、届出事例の90%以上(年によっては95%を超える)で病因物質が判明している。50%以下という低い判明率ではない。
- ○d. 夏季に加え11,12月にも多発している。
正しい。サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌などの細菌は気温・湿度が高いと食品中で増えやすく、細菌性食中毒は夏季(6~9月頃)に多い。一方、ノロウイルスは低温・乾燥した環境で感染力を保ちやすく、11月頃から増え始めて12~3月に流行のピークを迎える。ノロウイルスは食中毒の患者数で最多を占めることが多いため、食中毒全体としては夏季に加えて冬季にも多発する。
- ×e. サルモネラ属菌に起因する患者が最も多い。
誤り。かつては細菌性食中毒の中でサルモネラ属菌や腸炎ビブリオが上位を占めていたが、鶏卵の衛生管理の強化や魚介類の低温流通の普及などにより大きく減少した。現在、病因物質別の患者数で最も多いのはノロウイルスであることが多く(患者全体の半数前後を占める年も多い)、サルモネラ属菌による患者は全体の1割程度以下である。
ノロウイルス食中毒の特徴
・感染経路:汚染された生ガキなどの二枚貝の生食・加熱不十分な摂取、ウイルスを保有する調理従事者の手指を介した食品汚染、患者の吐物や便からの接触・飛沫感染(ヒトからヒトへの感染)。10~100個程度のごく少量のウイルスで感染が成立する。 ・潜伏期:24~48時間。 ・症状:悪心・嘔吐、下痢、腹痛、微熱。通常1~3日で回復するが、乳幼児や高齢者では脱水や吐物の誤嚥に注意する。 ・予防:食品の中心温度85~90℃で90秒以上の加熱、流水と石けんによる手洗い。アルコール消毒は効きにくく、吐物・便の処理や環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いる。
主な食中毒の原因物質と特徴
・カンピロバクター:鶏肉の生食・加熱不足。潜伏期2~7日。後にGuillain-Barré症候群を起こすことがある。細菌性の事件数で上位。 ・サルモネラ属菌:鶏卵、食肉。潜伏期12~48時間。発熱を伴う胃腸炎。 ・腸炎ビブリオ:海産魚介類。好塩性で夏季に多い。 ・黄色ブドウ球菌:おにぎりなど手作業で調理した食品。耐熱性の毒素(エンテロトキシン)による毒素型で、潜伏期は1~6時間と短く嘔吐が主体。 ・腸管出血性大腸菌(O157など):牛肉、生野菜。ベロ毒素による血便、HUS。1996年に全国で集団発生した。 ・ウエルシュ菌:カレーやシチューなど大量調理後に室温放置した食品。 ・アニサキス:サバ、アジ、イカなどの生食。近年は事件数で最多となっている。 ・自然毒:フグ毒、毒キノコ、有毒植物。死亡例の多くを占める。
POINT
・食中毒は夏季(細菌性)と冬季(ノロウイルス)の二峰性に発生する。 ・患者数で最多の病因物質は多くの年でノロウイルス。事件数では近年アニサキスやカンピロバクターが多い。 ・死者数は例年数名~十数名で、主因はフグ毒・毒キノコなどの自然毒。 ・病因物質の判明率は90%以上。 ・食中毒を診断した医師は24時間以内に保健所長へ届け出る(食品衛生法)。
