StudyMed医師国家試験

同じレトロウイルスでも正反対―HTLV-1が生む「増える」T細胞腫瘍、成人T細胞白血病

第103回医師国家試験 I問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第7問

成人T細胞白血病で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.抗HIV抗体陽性である。
  2. b.液性免疫能が低下する。
  3. c.T細胞受容体遺伝子の再構成を認める。
  4. d.臨床経過は慢性から急性まで多様である。
  5. e.化学療法への反応は良好である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は成人T細胞白血病、略してATLの基本事項を問う問題だ。原因ウイルス、障害される免疫、腫瘍としての性質、臨床病型、治療反応性という5つの軸で整理すると迷わずに解ける。まず、原因ウイルスは何だったかな。
医学生医学生
HTLV-1です。でも、選択肢の抗HIV抗体にも一瞬引っかかりました。どちらもCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスなので。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。HIVはかつてHTLV-IIIと呼ばれていた時期もあるくらいだ。ただ、両者の作用は正反対なんだ。HIVはCD4陽性T細胞を壊して減らし、AIDSを起こす。HTLV-1は感染したCD4陽性T細胞を不死化・腫瘍化させて増やす。ATLで陽性になるのは抗HTLV-1抗体だよ。
医学生医学生
微生物学の講義で、HTLV-1は母乳感染が主で九州・沖縄に多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。プロウイルスとしてT細胞の染色体に組み込まれ、数十年の潜伏期を経て、感染者のごく一部が中高年になって発症する。では免疫の話。T細胞の腫瘍なのだから、どちらの免疫が落ちると思う?
医学生医学生
T細胞が増えているなら、むしろ免疫は強くなりそうな気もします……。
ドクタードクター
そう考えたくなるけど、増えている腫瘍細胞は正常なヘルパーT細胞として働かない。制御性T細胞に似た性質をもつこともあり、T細胞を介した免疫応答がむしろ強く抑えられる。だから低下するのは細胞性免疫で、液性免疫が主に落ちるわけではない。ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、糞線虫症などの日和見感染が問題になるんだ。
医学生医学生
なるほど、液性免疫の低下という選択肢は誤りですね。次のT細胞受容体遺伝子の再構成はどう考えればいいですか。
ドクタードクター
T細胞は胸腺で分化するとき、TCR遺伝子のV・D・J領域を組み換えて細胞ごとに違う受容体をつくる。正常なT細胞集団は無数のクローンの寄せ集めだから、再構成パターンはばらばら。ところがATLは1個の感染T細胞から増えた単クローン性腫瘍なので、サザンブロットやPCRで単一の再構成として検出される。T細胞由来であることと腫瘍性であることを同時に示す証拠になるんだ。
医学生医学生
免疫学で習ったV(D)J組換えが、腫瘍のクローン性の証明に使われるんですね。HTLV-1プロウイルスの組み込みが単クローン性というのも同じ発想ですか。
ドクタードクター
まさにそう。プロウイルスの単クローン性組み込みは確定診断に用いられる。だから再構成を認めるという選択肢は正しい。続いて臨床経過について、ATLの病型分類は覚えているかな。
医学生医学生
急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つだったと思います。
ドクタードクター
正解、下山分類だね。急性型は白血球増加、高カルシウム血症、LDH高値、臓器浸潤を伴い急速に進む。リンパ腫型はリンパ節腫大が主体。慢性型は比較的ゆっくり進み、くすぶり型は皮膚病変だけのことも多い。慢性型やくすぶり型から急性型へ移行することもある。つまり臨床経過は慢性から急性まで多様で、これも正しい選択肢だ。
医学生医学生
最後の化学療法への反応は良好、というのは、血液内科の実習で予後が厳しい病気だと聞いたので誤りだと思いました。
ドクタードクター
その判断で合っている。ATLは化学療法に抵抗性で再発しやすく、急性型やリンパ腫型では多剤併用化学療法を行っても生存期間中央値は1年前後にとどまる。抗CCR4抗体のモガムリズマブも使われるが、根治を目指せるのは適応のある患者への同種造血幹細胞移植だ。一方で慢性型やくすぶり型は、予後不良因子がなければ経過観察とすることが多い。
医学生医学生
まとめると、正しいのはTCR遺伝子の再構成と、臨床経過の多様性の2つですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、腫瘍細胞の形質と検査所見も押さえておこう。腫瘍細胞はCD4陽性、CD25陽性、CCR4陽性の成熟T細胞で、核に深い切れ込みのある花細胞、flower cellが特徴的だ。高カルシウム血症は腫瘍細胞がPTHrPなどを産生することによる。
医学生医学生
高カルシウム血症で意識障害を起こして救急搬送される、という症例問題を見たことがあります。
ドクタードクター
臨床でも大事なポイントだね。それからHTLV-1はATL以外に、緩徐進行性の痙性対麻痺や排尿障害を起こすHAM/TSPやぶどう膜炎の原因にもなる。母子感染予防のために妊婦健診で抗HTLV-1抗体を調べ、陽性なら人工栄養などを検討する、という公衆衛生的な視点も覚えておこう。
医学生医学生
HIVとの違い、細胞性免疫低下、単クローン性、病型の多様性、治療抵抗性――5つの軸で整理すると忘れにくいです。

まとめ

成人T細胞白血病(ATL)は、母乳感染が主体のレトロウイルスHTLV-1により、CD4陽性・CD25陽性の成熟T細胞が単クローン性に増殖する腫瘍で、TCR遺伝子再構成やプロウイルスの単クローン性組み込みがその証拠となります。HIVがCD4陽性T細胞を破壊するのに対し、HTLV-1は腫瘍化させて増やすという違いがあり、いずれも細胞性免疫低下による日和見感染を起こします。病型は急性型・リンパ腫型・慢性型・くすぶり型と多様で、花細胞や高カルシウム血症が特徴的です。化学療法に抵抗性で予後不良であり、根治の可能性があるのは同種造血幹細胞移植に限られます。原因ウイルス・免疫・クローン性・病型・治療という軸で整理することは、他の造血器腫瘍を学ぶうえでも役立つ考え方です。

解答・解説

正解はc, dです

成人T細胞白血病(ATL、成人T細胞白血病・リンパ腫:ATLLとも呼ぶ)は、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1:human T-cell leukemia virus type 1)の感染が原因で起こる、成熟T細胞の腫瘍である。

病態の流れ

HTLV-1は主に母乳(母子感染)で、ほかに性交渉や輸血(現在は献血時のスクリーニングで防がれている)で感染する。ウイルスは逆転写されたDNA(プロウイルス)としてCD4陽性T細胞の染色体に組み込まれ、数十年の潜伏期間を経て、一部の感染者(生涯発症率はおよそ5%)でATLを発症する。発症者の多くは中高年で、わが国では九州・沖縄地方に感染者が多い。腫瘍細胞は1個の感染細胞に由来する単クローン性の増殖であり、プロウイルスの組み込み部位やT細胞受容体遺伝子の再構成パターンがすべての腫瘍細胞で共通している。

考え方

本問では、①原因ウイルス(HTLV-1であってHIVではない)、②障害される免疫(T細胞の腫瘍なので細胞性免疫)、③腫瘍の性質(T細胞の単クローン性増殖)、④臨床病型の多様性、⑤予後・治療反応性、の5点を整理すれば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  抗HIV抗体陽性である。

    誤り。ATLの原因はHTLV-1であり、陽性となるのは抗HTLV-1抗体である。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とHTLV-1はどちらもCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスで、HIVはかつてHTLV-IIIと呼ばれていたこともあり混同しやすいが、別のウイルスである。HIVはCD4陽性T細胞を破壊して減少させ後天性免疫不全症候群(AIDS)を起こすのに対し、HTLV-1は感染したCD4陽性T細胞を不死化・腫瘍化させて増殖させる点が大きく異なる。

  2. ×b.  液性免疫能が低下する。

    誤り。ATLで主に障害されるのは細胞性免疫である。腫瘍細胞は正常なヘルパーT細胞としての機能をもたず、制御性T細胞に似た性質(CD25、FOXP3陽性など)を示すこともあり、T細胞を介した免疫応答が強く抑制される。このためニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、糞線虫症、真菌感染症などの日和見感染を合併しやすい。B細胞による抗体産生(液性免疫)の低下が主体ではない。

  3. ○c.  T細胞受容体遺伝子の再構成を認める。

    正しい。T細胞は胸腺で分化する過程で、T細胞受容体(TCR)遺伝子のV・D・J領域を組み換え(再構成)、細胞ごとに異なる受容体をつくる。正常のT細胞集団は多数のクローンからなるため再構成パターンは多様であるが、ATLは1個の感染T細胞から増えた単クローン性腫瘍なので、サザンブロット法やPCR法で単一の再構成バンドとして検出される。これはT細胞由来であることと腫瘍性(単クローン性)であることの証拠となる。同様に、HTLV-1プロウイルスの単クローン性の組み込みもATLの確定診断に用いられる。

  4. ○d.  臨床経過は慢性から急性まで多様である。

    正しい。ATLは臨床像と経過により、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4病型に分類される(下山分類)。急性型は白血球増加、高カルシウム血症、LDH高値、臓器浸潤を伴い急速に進行する。リンパ腫型は末梢血中の異常細胞が少なくリンパ節腫大が主体である。慢性型はリンパ球増加が持続し比較的ゆっくり経過し、くすぶり型は末梢血の異常リンパ球がわずかで皮膚病変のみのことも多い。慢性型やくすぶり型から急性型へ移行(急性転化)することもある。

  5. ×e.  化学療法への反応は良好である。

    誤り。ATLは化学療法に抵抗性で、再発しやすく予後不良である。急性型・リンパ腫型(アグレッシブATL)では多剤併用化学療法(VCAP-AMP-VECP療法、mLSG15)が行われるが、生存期間中央値は1年前後にとどまる。治療選択肢として抗CCR4抗体モガムリズマブが用いられ、根治を目指せる唯一の方法は若年で適応のある患者に対する同種造血幹細胞移植である。一方、慢性型(予後不良因子なし)やくすぶり型では、化学療法をせずに経過観察することが多い。

ATLの主な特徴

・原因:HTLV-1(レトロウイルス)。感染経路は母乳(最多)、性交渉、輸血。妊婦健診で抗HTLV-1抗体を調べ、陽性の場合は人工栄養などで母子感染の予防を図る。 ・腫瘍細胞の形質:CD2+、CD3+、CD4+、CD8−、CD25+(IL-2受容体α鎖)、CCR4+ の成熟T細胞。CD7は陰性のことが多い。 ・形態:核に深い切れ込みがあり花びらのような形をした花細胞(flower cell)が特徴的。 ・検査所見:白血球増加(異常リンパ球)、LDH上昇、可溶性IL-2受容体上昇、高カルシウム血症(腫瘍細胞が副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)などを産生するため)。 ・症状:リンパ節腫大、肝脾腫、皮膚病変(紅斑、結節)、高カルシウム血症による意識障害、日和見感染。 ・診断:抗HTLV-1抗体陽性+末梢血・組織の異常T細胞+HTLV-1プロウイルスの単クローン性組み込み。

HTLV-1が関連するその他の疾患

・HTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP):緩徐進行性の痙性対麻痺、排尿障害 ・HTLV-1ぶどう膜炎(HU)

HIVとの比較

・HIV:CD4陽性T細胞を破壊・減少させる → AIDS ・HTLV-1:CD4陽性T細胞を腫瘍化・増殖させる → ATL いずれもCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスであり、細胞性免疫不全による日和見感染を起こす点は共通する。

POINT

・ATLの原因はHTLV-1(HIVではない)。母乳感染が主で、九州・沖縄に多い。 ・CD4+、CD25+の成熟T細胞の単クローン性腫瘍で、TCR遺伝子再構成とプロウイルスの単クローン性組み込みを認める。 ・病型は急性型・リンパ腫型・慢性型・くすぶり型と多様。 ・細胞性免疫低下による日和見感染、高カルシウム血症、花細胞が特徴。 ・化学療法抵抗性で予後不良。根治の可能性があるのは同種造血幹細胞移植。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。