加熱で防げる菌、防げない菌―芽胞と耐熱性毒素で見抜く食中毒予防
第119回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
食中毒の予防で加熱が最も有効なのはどれか。
- a.Bacillus cereus
- b.Campylobacter jejuni
- c.Clostridium botulinum
- d.Clostridium perfringens
- e.Staphylococcus aureus
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
細菌性食中毒の予防で加熱が最も確実に効くのは、芽胞を作らず、食品中の毒素ではなく菌そのものが腸管に感染して発症する感染型の菌であり、代表がカンピロバクターです。カンピロバクターは熱に弱く、鶏肉を中心部まで十分加熱し、生食や二次汚染を避けることで予防でき、感染後のGuillain-Barré症候群も重要な知識です。一方、セレウス菌、ウェルシュ菌、ボツリヌス菌は耐熱性の芽胞を作り、黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンやセレウス菌の嘔吐毒は耐熱性のため、加熱だけでは発症を防げず、低温保存や速やかな喫食、手指衛生、高圧滅菌などが予防の柱となります。「芽胞の有無」と「毒素の耐熱性」という二つの軸で整理すると、原因食品や潜伏期、予防策まで一貫して理解でき、食中毒の診療や公衆衛生指導にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
問われていること
細菌性食中毒の予防の基本は「つけない(汚染防止)」「増やさない(低温保存・速やかな喫食)」「やっつける(加熱)」の3原則である。ただし、加熱がどこまで効くかは原因菌によって大きく異なる。本問は、加熱が予防策として最も有効に働く菌を選ばせる問題である。
考え方
加熱の効果を判断するには、次の2点を確認すればよい。 1. 菌が芽胞(がほう:栄養状態が悪いときに形成する耐久型構造で、熱・乾燥・消毒薬に強い)を作るか 2. 食品中にあらかじめ産生された毒素が発症の原因になるか、その毒素が熱に強いか 芽胞を作る菌(Bacillus属、Clostridium属)は通常の調理加熱では芽胞が死滅せず、加熱後の放置中に発芽・増殖してしまう。また、食品中で産生された耐熱性毒素(黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン、セレウス菌の嘔吐毒)は、加熱で菌を殺しても毒素が残るため発症を防げない。 これに対し、芽胞を作らず、食品中の毒素ではなく生きた菌そのものが腸管に感染して発症する「感染型」の菌で、しかも熱に弱いものは、喫食前に中心部まで十分加熱すれば確実に予防できる。選択肢のうちこの条件をすべて満たすのはカンピロバクター(Campylobacter jejuni)である。
選択肢考察
- ×a. Bacillus cereus
誤り。セレウス菌は土壌などに広く分布するGram陽性の好気性桿菌で、耐熱性の芽胞を形成する。米飯・焼きそば・チャーハンなどの穀類加工品が原因になりやすい。芽胞は炊飯程度の加熱では死滅せず、調理後に室温で放置されると発芽・増殖する。日本で多い嘔吐型では、食品中で産生される嘔吐毒(セレウリド)が原因であり、この毒素は120℃程度の加熱にも耐えるほど耐熱性が強い。したがって再加熱しても発症を防げず、加熱は予防策として有効性が低い。予防には調理後の速やかな喫食や低温保存が重要である。なお下痢型の原因となるエンテロトキシンは易熱性である。
- ○b. Campylobacter jejuni
正しい。カンピロバクター・ジェジュニはGram陰性のらせん状(S字状)桿菌で、微好気性(酸素濃度が数%程度の環境を好む)である。芽胞を形成せず、熱や乾燥に弱いため、中心部まで十分に加熱(一般に中心温度75℃で1分以上が目安)すれば死滅する。発症は食品中の毒素ではなく、摂取された菌が腸管に定着・侵入して起こる感染型であるため、加熱で菌を殺せばそのまま予防につながる。主な感染源は鶏肉で、鶏刺し・鶏たたき・加熱不十分な焼き鳥や、生肉を扱った手指・まな板からの二次汚染が典型である。少ない菌量(数百個程度)でも感染が成立するため、生食を避け、十分加熱することが最も重要な予防策となる。潜伏期は2〜7日程度とやや長く、発熱・腹痛・下痢(ときに血便)を呈する。感染後数週でGuillain-Barré症候群を合併することがある点も重要である。
- ×c. Clostridium botulinum
誤り。ボツリヌス菌はGram陽性の偏性嫌気性桿菌で、非常に耐熱性の高い芽胞を形成する。芽胞は100℃の煮沸程度では死滅せず、死滅させるには120℃・4分程度の加圧加熱が必要とされる。缶詰・瓶詰・真空パック食品・いずしなど、酸素の少ない環境で芽胞が発芽し、神経毒(ボツリヌス毒素)を産生する。この毒素自体は易熱性で、80℃で20分あるいは100℃で数分の加熱で失活するため、喫食直前の十分な加熱は確かに有効である。しかし、通常の調理温度では芽胞が生き残り、嫌気的な保存条件で再び毒素が作られうるため、予防の中心は加熱だけでなく製造時の高圧滅菌・低温保存・容器の膨張など異常食品を食べないことにある。加熱だけで確実に予防できるカンピロバクターと比べると、「最も有効」とはいえない。なお乳児ボツリヌス症の原因となる蜂蜜の芽胞は加熱では除けないため、1歳未満には蜂蜜を与えない。
- ×d. Clostridium perfringens
誤り。ウェルシュ菌はGram陽性の嫌気性桿菌で、耐熱性芽胞を形成する。カレー・シチュー・煮物など大量調理された食品が原因となりやすい。加熱調理で他の菌が死滅し、鍋の中が嫌気状態になる一方で芽胞は生き残り、ゆっくり冷める間(とくに40〜50℃前後)に急速に発芽・増殖する。摂取された大量の菌が腸管内で芽胞を形成する際にエンテロトキシンを産生し、腹痛・水様性下痢を起こす(嘔吐や発熱は少ない)。このように加熱が芽胞を選択的に残す方向に働くため、加熱は予防として不十分であり、調理後は速やかに小分けして急冷する、長時間の室温放置を避けることが予防の要点である。
- ×e. Staphylococcus aureus
誤り。黄色ブドウ球菌はGram陽性球菌で、ヒトの皮膚・鼻腔に常在し、手指の化膿創が汚染源として重要である。おにぎり・弁当・サンドイッチなど手作業の多い食品で、食品中で増殖する際にエンテロトキシン(腸管毒)を産生する。菌自体は芽胞を作らず加熱で死滅するが、エンテロトキシンは耐熱性で100℃・30分の加熱でも失活しない。そのため、毒素が産生された後に加熱しても発症を防げない(毒素型)。潜伏期は1〜6時間(平均3時間程度)と短く、激しい嘔吐が特徴である。予防には手指の傷がある人が調理に携わらないこと、手洗い、食品の低温保存が重要である。
細菌性食中毒の発症様式による分類
・感染型(菌が腸管で増殖・侵入して発症): カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌など。原因菌は一般に熱に弱く、十分な加熱で予防できる。潜伏期はやや長い(半日〜数日)。 ・生体内毒素型(摂取された菌が腸管内で毒素を産生): ウェルシュ菌、腸管出血性大腸菌(ベロ毒素)、セレウス菌下痢型など。 ・毒素型(食品内毒素型、食品中で産生された毒素を摂取して発症): 黄色ブドウ球菌、セレウス菌嘔吐型、ボツリヌス菌。潜伏期が短い傾向がある(ボツリヌスは数時間〜数日)。
加熱が効きにくい理由の整理
・芽胞が耐熱性: セレウス菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌(Bacillus属・Clostridium属) ・毒素が耐熱性: 黄色ブドウ球菌エンテロトキシン、セレウス菌嘔吐毒(セレウリド) ・毒素が易熱性: ボツリヌス毒素(80℃20分、100℃数分で失活)
主な原因食品
・カンピロバクター: 鶏肉(生・加熱不十分)、二次汚染 ・サルモネラ: 鶏卵、食肉 ・腸炎ビブリオ: 魚介類(好塩性、真水に弱い) ・黄色ブドウ球菌: おにぎり、弁当 ・セレウス菌: 米飯、焼きそば ・ウェルシュ菌: カレー、シチューなどの大量調理食品 ・ボツリヌス菌: 缶詰、真空パック食品、いずし、乳児では蜂蜜
ノロウイルスとの鑑別
潜伏期の短い毒素型食中毒は嘔吐を伴うことが多く、ノロウイルス感染症との鑑別が必要になる。ノロウイルスは冬季に多く、二枚貝の生食のほか、ヒトからヒトへの接触・飛沫感染が多いため、問診では食事歴に加えて嘔吐・下痢のある人との接触歴も確認する。なおノロウイルスの失活には中心温度85〜90℃・90秒以上の加熱が推奨される。
POINT
・加熱で予防しやすいのは、芽胞を作らない感染型の菌(カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなど)である。 ・芽胞形成菌(セレウス菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌)は通常の調理加熱では芽胞が生き残る。 ・黄色ブドウ球菌エンテロトキシンとセレウス菌嘔吐毒は耐熱性で、加熱しても失活しない。 ・ボツリヌス毒素は易熱性だが、芽胞は高耐熱性である。 ・カンピロバクター: 鶏肉、潜伏期2〜7日、Guillain-Barré症候群の先行感染。
