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血液はどこを余分に回るのか―流れを追えば見える「左室容量負荷」の正体

第103回医師国家試験 I問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第9問

左室容量負荷をきたすのはどれか。

  1. a.動脈管開存症
  2. b.僧帽弁狭窄症
  3. c.心房中隔欠損症
  4. d.大動脈弁狭窄症
  5. e.三尖弁閉鎖不全症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心疾患ごとに「どの心腔に、どんな種類の負荷がかかるか」を問う問題だ。暗記で片づけたくなるけれど、血液の流れを順に追えば自然に答えが出る。まずは負荷の2つの型、圧負荷と容量負荷の違いから整理しよう。
医学生医学生
生理学の講義で、圧負荷は後負荷、容量負荷は前負荷の増大だと習いました。
ドクタードクター
その通り。圧負荷は出口が狭い、あるいは送り出す先の圧が高いために、高い圧を出さないと血液を駆出できない状態だ。心筋は壁を厚くして対応し、内腔は保たれる求心性肥大になる。容量負荷は、逆流やシャントで同じ血液が何度も同じ心腔を通り、流れ込む量が増えた状態。こちらは内腔が広がる遠心性肥大になる。
医学生医学生
つまり「左室が拡張期に受け取る血液が増えるかどうか」を考えればいいんですね。
ドクタードクター
まさにそこが着眼点だ。では、狭窄性の弁膜症から見てみよう。大動脈弁狭窄症はどうかな。
医学生医学生
左室の出口が狭いので……血液が溜まって容量負荷、と思ってしまいそうです。
ドクタードクター
よくある誤解だね。大動脈弁狭窄症では、左室は狭い出口を押し通すために高い収縮期圧を出す必要がある。これは典型的な左室圧負荷で、求心性肥大になる。非代償期に収縮能が落ちて二次的に拡大することはあるけれど、負荷の本質は圧負荷だ。
医学生医学生
僧帽弁狭窄症も同じ発想なら、狭い僧帽弁の上流にある左房に圧負荷がかかる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。左房圧が上がって肺うっ血、肺高血圧へと進めば、最終的には右室の圧負荷にもつながる。一方、左室への流入はむしろ制限されるから、左室は小さめになるのが特徴なんだ。容量負荷とは逆だね。
医学生医学生
三尖弁閉鎖不全症は逆流なので容量負荷ですが、右心系の話ですよね。
ドクタードクター
そう。収縮期に右室から右房へ逆流した血液が、拡張期にまた右室へ戻るので、右房・右室の容量負荷になる。左室には影響しない。頸静脈の大きなv波や、吸気で増強する収縮期雑音、つまりRivero-Carvallo徴候が手がかりだ。
医学生医学生
残るは心房中隔欠損症と動脈管開存症ですね。どちらも左右シャントなので、両方とも左室容量負荷に見えてしまいます。
ドクタードクター
ここが本問の一番のポイントだ。左右シャントでは、短絡した血液が肺を回って戻ってくる経路上の心腔に容量負荷がかかる。心房中隔欠損症では、左房から右房へ短絡した血液が右室、肺動脈、肺を通って左房へ戻る。ところが左房に戻った血液の一部は、左室に入る前にまた欠損孔から右房へ抜けてしまうんだ。
医学生医学生
だから余分な血液が回るのは右房・右室・肺血管で、左室は素通りされるんですね。小児科の実習で、不完全右脚ブロックとII音の固定性分裂を確認した子がいたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。どちらも右室容量負荷を反映した所見だ。一方、動脈管開存症では、大動脈から肺動脈へ短絡した血液が肺を通って左房、そして左室へ戻ってくる。左室は体循環に必要な量に短絡分を上乗せして拍出しなければならず、左房と左室が拡大する。これが正解だ。
医学生医学生
短絡の位置が房室弁より上流か下流かで、負荷のかかる場所が変わるわけですね。心室中隔欠損症も左室容量負荷になりますか。
ドクタードクター
その通り。心室中隔欠損症も短絡血が肺を回って左房・左室に戻るので、左房・左室の容量負荷だ。短絡が収縮期に起こって血液が直接肺動脈へ出るから、右室の容量負荷は目立たない。ただし短絡量が多く肺高血圧を伴えば、右室圧負荷も加わる。
医学生医学生
ほかに左室容量負荷をきたす疾患も整理しておきたいです。
ドクタードクター
左心系の逆流性弁膜症、つまり大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症が代表だ。Valsalva洞動脈瘤が右心系へ破裂した場合も、大動脈レベルの短絡なので左室容量負荷になる。動脈管開存症では、胸部X線で左第2弓・第4弓の突出、心電図で左室肥大所見、聴診で連続性雑音がそろうのが典型だよ。
医学生医学生
心エコーで壁厚と内腔径を見れば、求心性か遠心性か区別できるということですね。
ドクタードクター
そう。臨床ではまず壁が厚いのか、内腔が広いのかを見て、圧負荷か容量負荷かを推定する。そこから血液の流れを逆算すれば、原因疾患の候補がかなり絞れる。暗記表に頼るより、毎回流れを頭の中で描く癖をつけておこう。

まとめ

心腔への負荷には、出口の抵抗に打ち勝つための圧負荷(求心性肥大)と、流入血液量の増加による容量負荷(遠心性肥大)があります。左室容量負荷をきたすのは、大動脈弁閉鎖不全症・僧帽弁閉鎖不全症などの左心系逆流性弁膜症と、心室中隔欠損症・動脈管開存症・Valsalva洞動脈瘤破裂など、短絡血が肺を回って左房・左室に戻る心室・大血管レベルの左右シャントです。心房中隔欠損症は左房に戻った血液が再び右房へ抜けるため右心系の容量負荷となり、大動脈弁狭窄症は左室圧負荷、僧帽弁狭窄症は左房圧負荷、三尖弁閉鎖不全症は右心系容量負荷です。血液の流れを順にたどって「どの心腔に余分な血液が入るか」を考える習慣は、心エコーや胸部X線の読影、先天性心疾患の病態理解に直結します。

解答・解説

正解はaです

心臓にかかる負荷の2つの型

心腔にかかる負荷は、圧負荷(後負荷の増大)と容量負荷(前負荷の増大)に大別される。 ・圧負荷: 心室の出口が狭い、あるいは駆出先の圧が高いため、高い圧を発生させなければ血液を送り出せない状態である。心筋は壁を厚くして対応し、内腔の拡大を伴わない求心性肥大となる。 ・容量負荷: 心腔に流れ込む血液量が正常より多い状態である。逆流やシャント(短絡)によって同じ血液が何度も同じ心腔を通ることで生じ、内腔が拡大する遠心性肥大となる。

左室容量負荷の考え方

「左室が拡張期に受け取る血液量が増えるかどうか」を血流の経路に沿って追うと判断しやすい。 ・逆流性弁膜症: 大動脈弁閉鎖不全症では大動脈から左室へ、僧帽弁閉鎖不全症では左室から左房へ逆流した血液が再び左室に戻るため、左室に余分な血液が流入する。 ・シャント疾患: 短絡部位が「三尖弁・僧帽弁より下流(心室レベル・大血管レベル)」にある左右シャントでは、短絡した血液が肺を回って左房→左室へ戻ってくるため、左房と左室が容量負荷を受ける。一方、心房レベルの左右シャント(心房中隔欠損症)では、左房に戻った血液の一部が左室に入る前に右房へ抜けるため、容量負荷は右房・右室・肺血管にかかり、左室にはかからない。 本問の選択肢のうち、左室の流入血液量が増えるのは大動脈レベルで左右シャントを生じる動脈管開存症である。

選択肢考察

  1. ○a.  動脈管開存症

    動脈管開存症(PDA: patent ductus arteriosus)では、出生後も閉鎖しなかった動脈管を通って、圧の高い大動脈から肺動脈へ血液が流れる(左→右シャント)。短絡血の分だけ肺血流が増え、その血液は肺静脈→左房→左室へと戻るため、左房と左室の容量負荷となる。左室は体循環に必要な量に短絡量を加えた血液を拍出しなければならず、左室拡大をきたす。胸部X線での左第2弓・第4弓の突出、心電図での左室肥大所見、連続性雑音が特徴である。

  2. ×b.  僧帽弁狭窄症

    僧帽弁狭窄症では弁口が狭いため、左房から左室へ血液が流れにくくなる。左房は狭い弁口を通すために高い圧を必要とし、左房の圧負荷と拡大をきたす(さらに肺うっ血・肺高血圧を介して右室の圧負荷に至る)。左室への流入量はむしろ制限されるため、左室は拡大せず、容量負荷はかからない。左室が小さめであることが本症の特徴の一つである。

  3. ×c.  心房中隔欠損症

    心房中隔欠損症(ASD: atrial septal defect)では、心房レベルで左房から右房へ血液が短絡する。短絡血は右房→右室→肺動脈と流れて肺血流を増やし、左房へ還流するが、左房に戻った血液の一部は再び欠損孔から右房へ流れるため、左室に入る血液量は増えない。したがって容量負荷は右房・右室にかかり(右室容量負荷)、左室容量負荷は起こらない。胸部X線での右第2弓・左第2弓の突出、心電図での不完全右脚ブロックや右軸偏位、II音の固定性分裂が特徴である。

  4. ×d.  大動脈弁狭窄症

    大動脈弁狭窄症では左室の出口が狭いため、左室は高い収縮期圧を発生させて血液を駆出する必要がある。これは典型的な左室の圧負荷であり、壁が厚くなる求心性左室肥大をきたすが、代償期には内腔は拡大しない。容量負荷ではない。なお、非代償期に左室収縮能が低下すると二次的に左室が拡大することはあるが、負荷の本質は圧負荷である。

  5. ×e.  三尖弁閉鎖不全症

    三尖弁閉鎖不全症では、収縮期に右室から右房へ血液が逆流し、逆流した血液が拡張期に再び右室へ流入する。そのため右房と右室に容量負荷がかかり、両者が拡大する。右心系にとどまる病変であり、左室への流入量を増やすことはないので、左室容量負荷はきたさない。頸静脈の収縮期拍動(v波の増高)、肝の拍動、吸気で増強する収縮期雑音(Rivero-Carvallo徴候)が特徴である。

主な心疾患と負荷の部位

・大動脈弁狭窄症: 左室圧負荷 ・大動脈弁閉鎖不全症: 左室容量負荷(加えて駆出量増大による圧負荷も伴う) ・僧帽弁狭窄症: 左房圧負荷 → 肺高血圧 → 右室圧負荷 ・僧帽弁閉鎖不全症: 左房・左室容量負荷 ・三尖弁閉鎖不全症: 右房・右室容量負荷 ・肺動脈弁狭窄症: 右室圧負荷 ・心房中隔欠損症: 右房・右室容量負荷 ・心室中隔欠損症: 左房・左室容量負荷(短絡量が多く肺高血圧を伴えば右室圧負荷も加わる) ・動脈管開存症: 左房・左室容量負荷 ・Valsalva洞動脈瘤破裂(右心系への破裂): 左室容量負荷 ・房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉: 心房間短絡による右心系容量負荷に加え、房室弁逆流や心室間短絡を伴う型では左室容量負荷も生じる

シャント部位と容量負荷の覚え方

左右シャントでは、短絡した血液が「肺を通って戻ってくる経路上」の心腔に容量負荷がかかる。心房レベル(ASD)では右房→右室→肺→左房の経路で、左房に戻った血液はまた右房へ抜けるので左室は含まれない。心室レベル(VSD)や大血管レベル(PDA)では、肺→左房→左室の経路となるため、左房・左室が容量負荷を受ける(VSDでは短絡が収縮期に起こり血液が直接肺動脈へ出るため、右室の容量負荷は目立たない)。

心筋肥大の形

圧負荷では壁厚が増し内腔が保たれる求心性肥大、容量負荷では内腔が拡大し壁厚は相対的に保たれる遠心性肥大となる。心エコーで壁厚と内腔径をみると区別できる。

POINT

・左室容量負荷をきたすのは、左心系の逆流性弁膜症(大動脈弁閉鎖不全症・僧帽弁閉鎖不全症)と、心室・大血管レベルの左右シャント(心室中隔欠損症・動脈管開存症・Valsalva洞動脈瘤破裂など)。 ・心房中隔欠損症は右室容量負荷であり、左室容量負荷ではない。 ・狭窄性弁膜症は上流の心腔の圧負荷(大動脈弁狭窄症→左室、僧帽弁狭窄症→左房)。 ・圧負荷は求心性肥大、容量負荷は遠心性肥大(内腔拡大)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。