届出先は保健所長―食中毒を「法律・分類・統計」の3本柱で整理する
第114回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
食中毒について正しいのはどれか。
- a.食中毒患者を診断したときは保健所長に届け出る。
- b.サルモネラ菌による食中毒で発熱を起こすことはない。
- c.黄色ブドウ球菌食中毒の予防には食品の食前加熱が有効である。
- d.カンピロバクターによる食中毒の潜伏期間は2~3週間である。
- e.我が国での食中毒による患者数では腸炎ビブリオによるものが最も多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
食中毒(疑いを含む)を診断・検案した医師は、食品衛生法に基づき直ちに最寄りの保健所長へ届け出る義務があり、これが保健所による原因調査と被害拡大防止の出発点になります。細菌性食中毒は、サルモネラやカンピロバクターなどの感染型(発熱を伴いやすく潜伏期間が比較的長い)と、黄色ブドウ球菌などの毒素型(潜伏期間が短く、耐熱性エンテロトキシンのため加熱では予防できない)に分けて整理すると理解しやすくなります。カンピロバクターの潜伏期間は2〜5日程度で、ギラン・バレー症候群の合併に注意が必要です。国内の患者数はノロウイルスが最多、事件数はアニサキスが最多で、腸炎ビブリオはかつての主要原因から大きく減少しました。法的手続き・発症機序・疫学を結びつけて覚えることが、試験だけでなく実際の診療や公衆衛生対応にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
問われていること
食中毒に関する法的手続きと、主な原因微生物の特徴(発症機序、潜伏期間、予防法、発生状況)を総合的に問う問題である。
食中毒の届出
食中毒は食品衛生法で定められた届出の対象であり、医師が食中毒患者(疑いを含む)を診断したり、その死体を検案したりしたときは、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。届出を受けた保健所は、原因食品や原因施設の調査、被害拡大の防止に当たる。感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)による届出とは別の制度であり、腸管出血性大腸菌感染症のように両方の届出が必要になる場合もある。
細菌性食中毒の分類
・感染型:食品とともに摂取した菌が腸管内で増殖したり、腸管粘膜に侵入したりして発症する。サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオなどが代表で、発熱を伴うことが多く、潜伏期間は比較的長い(半日〜数日)。 ・毒素型(食品内毒素型):菌が食品中で増殖する際に作った毒素を摂取して発症する。黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌が代表で、潜伏期間が短く、菌そのものが体内で増える必要はない。 ・生体内毒素型:腸管内で増殖した菌が産生する毒素で発症する。ウェルシュ菌、腸管出血性大腸菌などが含まれる。
考え方
この分類と、各菌の潜伏期間・毒素の耐熱性、さらに近年の国内統計(患者数はノロウイルスが最多)を押さえていれば、各選択肢の正誤を判断できる。
選択肢考察
- ○a. 食中毒患者を診断したときは保健所長に届け出る。
食品衛生法により、食中毒の患者やその疑いのある者を診断した医師、または食中毒で死亡した者やその疑いのある死体を検案した医師は、直ちに(運用上は24時間以内を目安に)最寄りの保健所長に届け出る義務がある。条文番号は従来第58条であったが、2018年の法改正後は第63条となっている。届出先は都道府県知事や厚生労働大臣ではなく保健所長である点に注意する。
- ×b. サルモネラ菌による食中毒で発熱を起こすことはない。
サルモネラ食中毒は感染型であり、菌が腸管粘膜に侵入して炎症を起こすため、38℃以上の発熱を伴うことが多い。潜伏期間は半日〜3日程度(多くは12〜48時間)で、腹痛、下痢(時に粘血便)、悪心・嘔吐がみられる。原因食品としては鶏卵や食肉が代表的である。乳幼児や高齢者では菌血症を起こして重症化することもある。
- ×c. 黄色ブドウ球菌食中毒の予防には食品の食前加熱が有効である。
黄色ブドウ球菌食中毒は毒素型で、菌が食品中で増殖する際に産生したエンテロトキシン(腸管毒)を摂取して起こる。このエンテロトキシンは耐熱性で、通常の加熱調理では壊れない。加熱で菌自体は死滅しても毒素は残るため、食べる直前の加熱は予防にならない。予防の要点は、手指に傷や化膿巣のある人が調理をしない、手洗いや手袋の使用で食品を汚染させない、調理後は低温で保存して菌を増やさない、といった点にある。潜伏期間は1〜6時間(平均3時間前後)と短く、激しい嘔吐が特徴で、発熱は通常みられない。おにぎり、弁当、乳製品などが原因食品となりやすい。
- ×d. カンピロバクターによる食中毒の潜伏期間は2~3週間である。
カンピロバクター食中毒の潜伏期間は2〜5日(幅をとって1〜7日)程度であり、細菌性食中毒の中では長い部類に入るが、2〜3週間ではない。主な原因は加熱不十分な鶏肉(鶏刺し、鶏たたきなど)で、少量の菌でも感染が成立する。発熱、腹痛、下痢(時に血便)がみられる。感染後数週間で、合併症としてギラン・バレー症候群(末梢神経が障害されて四肢の筋力が低下する自己免疫疾患)を発症することがある点も重要である。
- ×e. 我が国での食中毒による患者数では腸炎ビブリオによるものが最も多い。
近年の日本では、食中毒の患者数が最も多い病因物質はノロウイルスである(2018年は約8,500人で、全体の半数近くを占めた)。ノロウイルスは1件当たりの患者数が多い大規模な集団発生を起こしやすい。事件数(発生件数)ではアニサキスやカンピロバクターが上位を占める。腸炎ビブリオはかつて日本の細菌性食中毒の主要な原因であったが、魚介類の低温流通や加工基準の整備により激減し、2018年の患者数は約220人にとどまる。
主な食中毒の特徴
・黄色ブドウ球菌:毒素型。潜伏期間1〜6時間。激しい嘔吐。耐熱性エンテロトキシンのため加熱しても予防できない。 ・セレウス菌(嘔吐型):毒素型。潜伏期間1〜6時間。チャーハンなど穀類が原因。嘔吐毒(セレウリド)は耐熱性。 ・ボツリヌス菌:毒素型。潜伏期間は通常12〜36時間。神経毒により眼瞼下垂、複視、嚥下障害、呼吸筋麻痺などをきたす。毒素は易熱性で、十分な加熱で失活する。乳児ではハチミツが原因となる乳児ボツリヌス症がある。 ・腸炎ビブリオ:感染型。潜伏期間8〜24時間程度。好塩性で、夏季の魚介類が原因。真水や加熱に弱い。 ・サルモネラ:感染型。潜伏期間半日〜3日程度。発熱を伴う。鶏卵・食肉。 ・カンピロバクター:感染型。潜伏期間2〜5日。鶏肉。ギラン・バレー症候群の合併。 ・ウェルシュ菌:生体内毒素型。潜伏期間6〜18時間程度。カレーやシチューなど大量調理後に室温で放置した煮込み料理。芽胞は加熱に耐える。 ・腸管出血性大腸菌(O157など):潜伏期間3〜8日程度。ベロ毒素による血便、溶血性尿毒症症候群(HUS)。感染症法の3類感染症でもある。 ・ノロウイルス:潜伏期間24〜48時間程度。嘔吐・下痢。冬季に多く、二枚貝や調理従事者を介した汚染で起こる。アルコールが効きにくく、消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いる。 ・アニサキス:寄生虫。サバ、イカなどの生食で、数時間後に激しい心窩部痛。−20℃で24時間以上の冷凍や十分な加熱で死滅するが、酢じめでは死滅しない。
加熱しても予防できない食中毒
耐熱性毒素を食品中で作るもの(黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン、セレウス菌の嘔吐毒)や、加熱で壊れない自然毒(フグ毒のテトロドトキシンなど)が該当する。
国内の発生状況(近年の傾向)
・患者数:ノロウイルスが最多 ・事件数:アニサキスが最多で、カンピロバクターがこれに次ぐ
POINT
・食中毒(疑いを含む)を診断・検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長へ届け出る(食品衛生法) ・感染型(サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ)は発熱を伴いやすい ・黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンは耐熱性で、食前加熱では予防できない ・カンピロバクターの潜伏期間は2〜5日、合併症にギラン・バレー症候群 ・国内の食中毒患者数はノロウイルスが最多、事件数はアニサキスが最多
