ホルモンが分かれば症状が読める―膵内分泌腫瘍の「組合せ」に潜む低カリウムの罠
第103回医師国家試験 I問題 第26問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。
- a.VIPoma ―― 高カリウム血症
- b.インスリノーマ ―― 低血糖
- c.ガストリノーマ ―― 消化性潰瘍
- d.グルカゴノーマ ―― 壊死性遊走性紅斑
- e.ソマトスタチノーマ ―― 胆石
対話形式の解説
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医学生まとめ
機能性膵内分泌腫瘍の症状は、腫瘍が産生するホルモンの生理作用が過剰に現れたものとして理解できます。インスリノーマは空腹時低血糖、ガストリノーマは難治性消化性潰瘍(Zollinger-Ellison症候群)、ソマトスタチノーマは糖尿病・胆石・脂肪便を呈し、グルカゴノーマでは糖尿病に加えて特徴的な壊死性遊走性紅斑がみられます。VIPomaは大量の水様性下痢で便中にカリウムと重炭酸を失うため、高カリウム血症ではなく低カリウム血症と代謝性アシドーシスをきたし、無酸症と合わせてWDHA症候群と呼ばれます。膵内分泌腫瘍ではMEN1の合併を念頭に、家族歴や血清カルシウム値、下垂体病変も確認することが大切です。ホルモンの作用から症状を推論する姿勢は、内分泌疾患全般を理解するうえでの土台になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、膵臓の内分泌腫瘍(現在は膵神経内分泌腫瘍〈pancreatic neuroendocrine neoplasm〉と総称される)のうち、ホルモンを過剰に分泌して症状を起こす「機能性腫瘍」と、その代表的な症候との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」型であることに注意する。 機能性膵内分泌腫瘍の症状は、基本的に「腫瘍が産生するホルモンの生理作用が過剰に現れたもの」と考えれば推測できる。 ・インスリン → 血糖を下げる → 低血糖 ・ガストリン → 胃酸分泌を促す → 消化性潰瘍 ・VIP(血管作動性腸管ペプチド)→ 腸管からの水・電解質分泌を促す → 大量の水様性下痢 ・グルカゴン → 血糖を上げ、アミノ酸を糖新生に消費する → 糖尿病、低アミノ酸血症 ・ソマトスタチン → 各種ホルモン分泌・消化管運動を抑制する → 糖尿病、胆石、脂肪便 ただし、グルカゴノーマの壊死性遊走性紅斑のように、ホルモン作用から直接には連想しにくい特徴的症候もあるため、これは個別に覚えておく必要がある。VIPomaでは大量の下痢によって腸液中のカリウムが失われるため、生じるのは高カリウム血症ではなく低カリウム血症である。この点が本問の誤りの組合せとなる。
選択肢考察
- ○a. VIPoma ―― 高カリウム血症
誤った組合せであり、これが正解である。VIPomaは血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal peptide:VIP)を過剰分泌する腫瘍である。VIPは腸管上皮のcAMPを増加させて水とCl⁻、HCO₃⁻、K⁺の分泌を促し、1日数リットルに及ぶ大量の分泌性水様性下痢(絶食でも止まらない)を引き起こす。この結果、便中へカリウムが大量に失われて低カリウム血症となり、また重炭酸の喪失により代謝性アシドーシスをきたす。さらにVIPは胃酸分泌を抑制するため、低酸症ないし無酸症を伴う。これらの頭文字をとってWDHA症候群(Watery Diarrhea, Hypokalemia, Achlorhydria)と呼ばれ、報告者の名からVerner-Morrison症候群ともいう。高カリウム血症ではなく低カリウム血症が正しい。
- ×b. インスリノーマ ―― 低血糖
正しい組合せである。インスリノーマは膵β細胞由来の腫瘍で、血糖値に関係なくインスリンを自律的に分泌するため、特に空腹時(早朝や運動後)に低血糖発作を起こす。症状は、交感神経刺激症状(発汗、動悸、振戦)と中枢神経のブドウ糖不足による症状(意識障害、異常行動、けいれん)である。古典的にはWhippleの三徴(①空腹時の低血糖症状、②発作時の低血糖〈血糖値50 mg/dL未満程度〉、③ブドウ糖投与による症状の速やかな改善)で知られる。低血糖時にもインスリン分泌が抑制されない(低血糖時のインスリン・Cペプチド不適切高値)ことが診断の根拠となる。機能性膵内分泌腫瘍のなかで最も頻度が高く、多くは良性・単発である。
- ×c. ガストリノーマ ―― 消化性潰瘍
正しい組合せである。ガストリノーマはガストリンを過剰分泌する腫瘍で、膵臓のほか十二指腸にも好発する。ガストリンが胃壁細胞からの胃酸分泌を持続的に刺激するため、難治性・再発性・多発性の消化性潰瘍を生じ、十二指腸球部より肛門側(下行脚や空腸)などの非典型的な部位に潰瘍ができることもある。大量の胃酸が小腸に流入すると膵酵素が失活し、下痢や脂肪便もきたす。この病態をZollinger-Ellison症候群という。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)に合併する頻度が比較的高い。
- ×d. グルカゴノーマ ―― 壊死性遊走性紅斑
正しい組合せである。グルカゴノーマは膵α細胞由来の腫瘍で、グルカゴン過剰による耐糖能障害(糖尿病)、体重減少、貧血、深部静脈血栓症、舌炎・口角炎などを呈する。最も特徴的なのが壊死性遊走性紅斑(necrolytic migratory erythema)で、陰部・臀部・下肢・口囲などに環状の紅斑が生じ、中心部が水疱・びらん・痂皮化しながら辺縁へ拡大・移動していく。成因は完全には解明されていないが、グルカゴンがアミノ酸を糖新生に動員することによる低アミノ酸血症や、亜鉛・必須脂肪酸の欠乏などの栄養障害が関与すると考えられている。皮疹が診断の端緒となることがある。
- ×e. ソマトスタチノーマ ―― 胆石
正しい組合せである。ソマトスタチノーマは膵δ細胞(または十二指腸)由来の腫瘍で、ソマトスタチン過剰により多くの消化管ホルモンや膵内外分泌が抑制される。具体的には、インスリン分泌抑制による糖尿病、コレシストキニン分泌抑制による胆囊収縮不全から生じる胆石症、膵外分泌低下による脂肪便・下痢、胃酸分泌低下などがみられ、糖尿病・胆石・脂肪便を三徴とする。なお、ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど)を先端巨大症や神経内分泌腫瘍の治療に長期使用した場合にも、同じ機序で胆石ができやすいことが知られている。
機能性膵神経内分泌腫瘍のまとめ
・インスリノーマ(β細胞):空腹時低血糖、Whippleの三徴。機能性腫瘍で最多、約90%が良性。 ・ガストリノーマ(G細胞、膵・十二指腸):Zollinger-Ellison症候群(難治性消化性潰瘍、下痢)。悪性例が多く、MEN1合併が比較的多い。 ・VIPoma:WDHA症候群(水様性下痢、低カリウム血症、無酸症)。代謝性アシドーシス、高カルシウム血症、耐糖能異常、顔面紅潮を伴うことがある。 ・グルカゴノーマ(α細胞):壊死性遊走性紅斑、糖尿病、体重減少、貧血、血栓症。 ・ソマトスタチノーマ(δ細胞):糖尿病、胆石、脂肪便・下痢。
疫学と関連事項
膵内分泌腫瘍は膵腫瘍全体の数%程度とまれである。機能性腫瘍ではインスリノーマが最も多く、次いでガストリノーマで、その他はきわめてまれである。近年は画像検査の普及により、ホルモン症状を伴わない非機能性腫瘍が偶然発見される例が増えている。 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)は、副甲状腺(過形成・腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症)、膵・十二指腸神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫を生じる常染色体顕性(優性)遺伝性疾患であり、膵内分泌腫瘍を診たら家族歴や血清カルシウム値、下垂体病変の有無を確認する。
下痢と電解質
下痢便にはカリウムと重炭酸が多く含まれるため、大量の下痢では低カリウム血症と代謝性アシドーシス(アニオンギャップ正常)をきたす。これに対し、嘔吐では胃酸(H⁺、Cl⁻)の喪失により代謝性アルカローシスと低カリウム血症を生じる。
POINT
・VIPoma=WDHA症候群:水様性下痢、低カリウム血症、無酸症(高カリウム血症ではない) ・インスリノーマ=空腹時低血糖(Whippleの三徴) ・ガストリノーマ=Zollinger-Ellison症候群(難治性消化性潰瘍) ・グルカゴノーマ=壊死性遊走性紅斑、糖尿病 ・ソマトスタチノーマ=糖尿病、胆石、脂肪便 ・膵内分泌腫瘍ではMEN1の可能性を考える
