StudyMed医師国家試験

「ただの脂肪肝」では終わらない―インスリン抵抗性から肝硬変・肝癌までをつなぐ

第103回医師国家試験 I問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第27問

脂肪肝で正しいのはどれか。

  1. a.肝CT値は増加する。
  2. b.肝硬変には進行しない。
  3. c.肝細胞癌を合併しない。
  4. d.インスリン感受性が低下する。
  5. e.肝にコレステロールが沈着する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は脂肪肝の基本を幅広く問う問題だ。画像所見、病態、自然経過、たまる脂質の種類という4つの切り口で整理すると、一つずつ正誤が判断できる。まず、脂肪肝とはどんな状態か説明できるかな。
医学生医学生
肝細胞に脂肪がたまった状態ですよね。健診でよく指摘されるイメージがあります。
ドクタードクター
そうだね。正確には、肝細胞内に中性脂肪、つまりトリグリセリドを主体とする脂肪滴が過剰にたまった状態で、病理学的には肝細胞の5%以上に脂肪沈着があるものをいう。原因として多いのはアルコールの過剰摂取、肥満、糖尿病や糖質の摂りすぎだ。ここで一つ確認。たまる脂肪はコレステロールだろうか。
医学生医学生
脂肪というとコレステロールを思い浮かべてしまいますが、今のお話だと中性脂肪が主体なんですね。
ドクタードクター
その通り。遊離脂肪酸が肝臓にたくさん流れ込む、肝臓で脂肪酸の合成が増える、β酸化が落ちる、VLDLとして肝臓の外へ運び出せない、といった理由で中性脂肪が脂肪滴としてたまる。コレステロールが沈着するという選択肢は誤りだ。次は画像。CT値はどうなると思う?
医学生医学生
脂肪が増えるなら、何かが「増える」ので CT値も上がりそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。CT値はX線の吸収の度合いで、脂肪はおおむねマイナス100 HU前後の低吸収物質なんだ。だから脂肪がたまった肝臓はCT値が低下する。正常では単純CTで肝臓は脾臓と同じかやや白く見えるけれど、脂肪肝では肝臓が脾臓より黒っぽくなり、相対的に肝内の血管が白く浮かび上がって見える。
医学生医学生
放射線科の実習で、肝臓と脾臓の濃さを比べるように言われたのはそういう意味だったんですね。超音波だと逆に白く見えるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。超音波では肝実質のエコー輝度が上がるbright liverになり、肝腎コントラストが強くなる。深部ではエコーが減衰して、肝内の血管が見えにくくなる。CTでは低吸収、超音波では高輝度、とセットで覚えておくと混乱しないよ。では本題の病態に移ろう。肥満と脂肪肝をつなぐキーワードは何だろう。
医学生医学生
インスリン抵抗性でしょうか。糖尿病の講義でメタボリックシンドロームの話と一緒に出てきました。
ドクタードクター
正解。これが正しい選択肢、インスリン感受性が低下する、だ。内臓脂肪型肥満では、大きくなった脂肪細胞から遊離脂肪酸がたくさん放出され、TNF-αなどの炎症性物質が増えてアディポネクチンが減る。すると骨格筋や肝臓でインスリンが効きにくくなる。代償的に高インスリン血症になると、肝臓での脂肪合成が進み、肝臓への遊離脂肪酸の流入も増えて、さらに脂肪がたまる。
医学生医学生
脂肪肝になった肝臓自体もインスリンが効きにくくなるなら、悪循環になりますね。
ドクタードクター
まさにそう。脂肪のたまった肝臓では、インスリンで糖の産生を抑えにくくなる。だから脂肪肝はメタボリックシンドロームの肝臓での表現とも言われ、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧を合併しやすいんだ。では残りの2つ。脂肪肝は肝硬変にならない、肝細胞癌を合併しない、という記述はどうかな。
医学生医学生
脂肪肝は可逆的で良性、と思っていたので、正しそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
昔はそう考えられていたけれど、今は否定されている。単純な脂肪沈着の段階なら禁酒や減量で改善しうる。ただ、アルコール性では飲酒を続けるとアルコール性肝炎や肝線維症を経て肝硬変に至る。非アルコール性でも、一部は肝細胞の風船様変性や炎症を伴う脂肪肝炎に進み、線維化が進めば肝硬変になる。この脂肪肝炎は以前NASHと呼ばれていたけれど、2023年の国際的な名称変更で、代謝異常を伴うものはMASHと呼ばれるようになった。
医学生医学生
病理実習でMallory-Denk体を見たのはアルコール性肝炎の標本でしたが、脂肪肝炎でも見られるんですね。肝細胞癌のほうはどうですか。
ドクタードクター
脂肪肝炎から肝硬変に進めば、肝細胞癌のリスクは当然高まる。しかも脂肪肝炎では、肝硬変に至る前の段階から肝細胞癌が出ることがあるのが厄介な点だ。ウイルス性肝炎の治療が進んだ結果、近年わが国では、アルコール性や代謝性といった非ウイルス性の肝細胞癌の割合が増えているんだよ。
医学生医学生
脂肪肝を「健診でよくある軽い所見」と思っていると、見逃しにつながるということですね。
ドクタードクター
その意識が大事だ。臨床では、線維化がどこまで進んでいるかが予後を最もよく決める。確定診断は肝生検だけれど、実際にはFIB-4 indexのような血液検査ベースのスコアや、エラストグラフィによる肝硬度測定で線維化を評価することが多い。治療の基本は原因への対策で、アルコール性なら禁酒、代謝性なら食事と運動による減量だ。体重の7〜10%程度減らすと脂肪肝炎や線維化の改善が期待できる。合併する糖尿病や脂質異常症、高血圧の治療も並行して行う。
医学生医学生
脂肪肝は肝臓だけの問題ではなく、全身の代謝異常の窓口として診る必要があるんですね。

まとめ

脂肪肝は肝細胞に中性脂肪(トリグリセリド)を主体とする脂肪滴が蓄積した状態で、コレステロールの沈着ではありません。脂肪は低吸収物質なのでCTでは肝のCT値が低下して脾より低吸収となり、超音波では高輝度肝(bright liver)や肝腎コントラストの増強を示します。肥満に伴う脂肪肝はインスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)と悪循環を形成し、メタボリックシンドロームの肝臓における表現型と位置づけられます。単純な脂肪沈着は可逆的ですが、アルコール性肝障害や脂肪肝炎(NASH、現在はMASH)では線維化が進んで肝硬変や肝細胞癌に至りうるため、線維化の評価と、禁酒・減量など原因への介入が重要です。脂肪肝を全身の代謝異常の一部として捉える視点は、健診から専門診療まで幅広い場面で役立ちます。

解答・解説

正解はdです

脂肪肝とは、肝細胞内に中性脂肪(トリグリセリド)を主体とする脂肪滴が過剰に蓄積した状態であり、病理学的には肝細胞の5%以上に脂肪沈着がみられるものをいう。原因として多いのは、①アルコールの過剰摂取、②肥満、③糖尿病・糖質の過剰摂取であり、そのほか薬剤(副腎皮質ステロイドなど)、低栄養、内分泌疾患なども原因となる。 本問は脂肪肝の基本的事項を幅広く問うている。押さえるべき論点は次の4つである。 ①画像所見:脂肪は水や軟部組織よりX線吸収が小さいため、脂肪が蓄積した肝臓はCTで低吸収(CT値低下)となる。 ②病態:肥満に伴う脂肪肝はインスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)と密接に関係し、メタボリックシンドロームの肝臓における表現型と位置づけられる。 ③自然経過:単純な脂肪沈着だけなら可逆的で予後良好なことが多いが、炎症と肝細胞障害を伴う脂肪性肝炎に進むと線維化が進行し、肝硬変、さらには肝細胞癌に至りうる。 ④沈着する脂質の種類:主体は中性脂肪である。 これらを踏まえると、「脂肪肝は良性で進行しない」という古い理解は現在では否定されており、インスリン抵抗性との関連を述べた選択肢が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝CT値は増加する。

    脂肪はCT値が負(おおむね−100 HU前後)の低吸収物質であるため、脂肪が蓄積した肝臓のCT値は低下する。正常では単純CTで肝臓は脾臓と同等かやや高い吸収値を示すが、脂肪肝では肝実質が脾臓より低吸収となり(肝/脾CT値比が1未満)、相対的に肝内の血管が周囲より高吸収に浮かび上がって見える。したがって「増加する」は誤りである。なお、腹部超音波では肝実質のエコー輝度上昇(bright liver)、肝腎コントラストの増強、深部エコーの減衰、肝内脈管の不明瞭化がみられる。

  2. ×b.  肝硬変には進行しない。

    単純な脂肪沈着のみの段階は原因の除去(禁酒、減量など)で改善しうる可逆的な変化であるが、すべてが良性に経過するわけではない。アルコール性では飲酒の継続によりアルコール性肝炎・肝線維症を経て肝硬変に至る。非アルコール性の脂肪性肝疾患でも、一部は肝細胞の風船様変性や炎症を伴う脂肪肝炎(従来のNASH〈非アルコール性脂肪肝炎〉、現在はMASH〈代謝機能障害関連脂肪肝炎〉と呼ばれる)へ進展し、線維化が進むと肝硬変に至る。したがって誤りである。

  3. ×c.  肝細胞癌を合併しない。

    脂肪肝から脂肪肝炎、肝硬変へと進展した例では肝細胞癌の発生リスクが高まる。アルコール性肝硬変はもちろん、代謝機能障害に関連した脂肪肝炎も肝細胞癌の重要な原因であり、ウイルス性肝炎の治療進歩に伴って、近年わが国では非ウイルス性(アルコール性・代謝性)肝細胞癌の割合が増加している。また、脂肪肝炎では肝硬変に至る前の段階からも肝細胞癌が発生しうる点が特徴である。したがって誤りである。

  4. ○d.  インスリン感受性が低下する。

    肥満、特に内臓脂肪型肥満では、肥大した脂肪細胞からの遊離脂肪酸放出の増加や、TNF-αなどの炎症性アディポカインの増加とアディポネクチンの減少が起こり、全身の骨格筋・肝臓でインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)。インスリン抵抗性があると代償的に高インスリン血症となり、肝臓での脂肪合成が促進され、また脂肪組織からの遊離脂肪酸の肝臓への流入が増えるため、肝細胞に中性脂肪がたまる。さらに脂肪がたまった肝臓自体でもインスリンの作用が低下し、肝糖産生が抑制されにくくなる。このように脂肪肝とインスリン感受性の低下は互いに悪循環を形成しており、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧を合併しやすい。よって正しい。

  5. ×e.  肝にコレステロールが沈着する。

    脂肪肝で肝細胞内に蓄積する脂質の主体は中性脂肪(トリグリセリド)であり、コレステロールではない。肝細胞には、肝臓への遊離脂肪酸流入の増加、肝での脂肪酸合成の亢進、脂肪酸のβ酸化の低下、超低比重リポ蛋白(VLDL)としての肝外への分泌障害などによって、中性脂肪が脂肪滴としてたまる。よって誤りである。

脂肪性肝疾患の分類と名称の変遷

・アルコール性:長期の多量飲酒によるもの。アルコール性脂肪肝 → アルコール性肝炎・肝線維症 → アルコール性肝硬変と進展しうる。 ・非アルコール性:従来はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれ、炎症や線維化を伴わない単純性脂肪肝(NAFL)と、炎症・肝細胞障害を伴い進行しうるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に分けられてきた。2023年に国際的な名称変更が行われ、肥満・糖尿病・脂質異常などの代謝異常を伴う脂肪性肝疾患はMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、その脂肪肝炎はMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)と呼ばれるようになった。代謝異常と一定量以上の飲酒が併存するものはMetALDと分類される。

脂肪肝炎の病理

大滴性脂肪沈着に加え、肝細胞の風船様変性、小葉内炎症、Mallory-Denk体、肝細胞周囲の線維化などがみられる。確定診断は肝生検によるが、実際には血液検査を用いたスコア(FIB-4 indexなど)やエラストグラフィによる肝硬度測定で線維化の程度を評価することが多い。線維化の進行度が予後を最もよく規定する。

画像所見のまとめ

・単純CT:肝実質のCT値低下、肝が脾より低吸収(肝/脾CT値比<1)、脈管の相対的高吸収。 ・腹部超音波:高輝度肝(bright liver)、肝腎コントラスト増強、深部減衰、脈管の不明瞭化。

治療

基本は原因への対策であり、アルコール性では禁酒、代謝性では食事療法・運動療法による減量(体重の7〜10%程度の減量で脂肪肝炎・線維化の改善が期待できる)である。合併する糖尿病、脂質異常症、高血圧の治療も併せて行う。

POINT

・脂肪肝は肝細胞に中性脂肪(トリグリセリド)が蓄積した状態(コレステロールではない) ・CTでは肝のCT値が低下し、脾より低吸収になる ・肥満に伴う脂肪肝はインスリン抵抗性(インスリン感受性低下)と密接に関連する ・脂肪肝炎(NASH/MASH)やアルコール性肝障害では肝硬変・肝細胞癌に進展しうる ・名称はNAFLD/NASHからMASLD/MASHへ変更された

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。