StudyMed医師国家試験

ステロイドで「起こる病気」と「治す病気」―経口ステロイド長期投与の副作用を整理する

第103回医師国家試験 H問題 第38問(連問)

国試問題にチャレンジ

第103回 H問題 第38問

連問の共通文

次の文を読み,37と38の問いに答えよ。 57歳の男性。発作性の喘鳴を主訴に来院した。 現病歴:1週前から微熱,咳,痰および発作性の喘鳴が出現し,市販の感冒薬を服用したが改善せず,呼吸困難が増強した。 既往歴:2年前から降圧薬を服用している。喫煙歴はない。 現症:意識は清明。体温37.0℃。脈拍92/分,整。心音と呼吸音とに異常を認めない。 検査所見:血液所見:赤血球441万,Hb 15.0g/dL,Ht 45%,白血球10,200,血小板18万。血液生化学所見に異常を認めない。免疫学所見:CRP 1.2mg/dL。ツベルクリン反応陽性。胸部エックス線写真(A)と喀痰のMay-Giemsa染色標本(B)とを別に示す。

 吸入療法を開始したが十分な改善が得られなかったため,経口薬を追加投与することとした。  この経口薬を長期間投与した場合の合併症で頻度が低いのはどれか。

第103回 H問題 第38問の問題画像
  1. a.白内障
  2. b.肺炎
  3. c.糖尿病
  4. d.骨粗鬆症
  5. e.ネフローゼ症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、吸入療法だけでは抑えきれない喘息に経口薬を追加したとき、その薬を長く使うと何が起こるかを問う問題だ。まずは背景の病気を確認して、それから「追加された経口薬は何か」を選択肢から読み解くのがポイントになる。
医学生医学生
感冒様症状の後に発作性の喘鳴が出て、喀痰のMay-Giemsa染色で好酸球が目立つので、気管支喘息だと思いました。
ドクタードクター
その通り。胸部エックス線写真に浸潤影などの明らかな異常がなく、好酸球性の気道炎症が背景にある喘息と考えられる。では、喘息の長期管理の基本薬は何だったかな。
医学生医学生
吸入ステロイド薬です。呼吸器内科の講義で「喘息は気道の慢性炎症だから、まず炎症を抑える」と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。吸入ステロイドで足りなければ長時間作用性β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、長時間作用性抗コリン薬などを足していく。それでもコントロールできない重症例で使われるのが経口ステロイド薬だ。今は先に抗IL-5抗体などの生物学的製剤を検討することも多いけれどね。
医学生医学生
経口薬ならロイコトリエン受容体拮抗薬やテオフィリンもありえますよね。どうしてステロイドと決められるんですか。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。そこで選択肢を見てほしい。白内障、肺炎、糖尿病、骨粗鬆症と並んでいるのは、どれも全身性ステロイドの代表的な副作用だ。出題者は経口ステロイド薬を想定していると読むのが自然だね。つまり「ステロイドの長期副作用ではないものはどれか」を探す問題になる。
医学生医学生
なるほど。そうするとネフローゼ症候群が浮きますね。腎臓内科の実習で、微小変化型のネフローゼの患者さんにプレドニゾロンを使っていました。
ドクタードクター
まさにそこが答えだ。ネフローゼ症候群はステロイドの副作用ではなく、むしろステロイドで治療する病気の代表なんだ。微小変化型ではステロイドが第一選択になる。腎臓や電解質に関わる副作用としては、ミネラルコルチコイド作用によるナトリウム貯留、浮腫、高血圧、低カリウム血症があるけれど、これは高度蛋白尿と低アルブミン血症を主徴とするネフローゼ症候群とは別物だ。
医学生医学生
浮腫つながりで混同しないように注意します。白内障はどんなタイプでしたっけ。
ドクタードクター
ステロイド白内障は水晶体の後嚢の直下が濁る後嚢下白内障が典型で、まぶしさや視力低下を訴える。量が多く期間が長いほど起こりやすい。眼圧が上がるステロイド緑内障もあるから、長期投与中は定期的な眼科受診が勧められるよ。
医学生医学生
肺炎は免疫抑制のせいですね。この人はツベルクリン反応が陽性なのも気になります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ステロイドはリンパ球の機能やサイトカイン産生を抑え、好中球の遊走も妨げるので、細胞性免疫を中心に免疫能が落ちる。細菌性肺炎だけでなく、ニューモシスチス肺炎、真菌感染症、そして結核の再燃にも注意が必要だ。ツベルクリン反応陽性の人に長期投与するなら、結核のチェックは欠かせない。
医学生医学生
糖尿病は、糖新生の促進とインスリン抵抗性の増大でしたよね。
ドクタードクター
その通り。特徴的なのは、空腹時血糖よりも昼から夕方の食後血糖が上がりやすいことだ。朝にステロイドを内服する人が多いので、空腹時だけ測っていると見逃しやすい。
医学生医学生
骨粗鬆症は骨芽細胞の抑制と、カルシウムの吸収低下・排泄増加でしたか。
ドクタードクター
完璧だ。しかもステロイド性骨粗鬆症は、骨密度がそれほど低くなくても椎体骨折が起こりやすい。3か月以上の長期投与が予定されていれば、ビスホスホネート薬などによる予防が推奨されている。
医学生医学生
結局、白内障・肺炎・糖尿病・骨粗鬆症はどれも頻度の高い副作用で、ネフローゼ症候群だけは逆に「ステロイドで治す側」ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、ほかの副作用も臓器別に押さえておこう。満月様顔貌や中心性肥満、脂質異常症、大腿骨頭壊死、ステロイドミオパチー、消化性潰瘍、不眠や抑うつなどの精神症状、皮膚の菲薄化、そして副腎皮質機能の抑制だ。急に中止すると副腎不全を起こすから、必ず漸減する。
医学生医学生
吸入ステロイドでも同じ副作用が起こるんでしょうか。
ドクタードクター
吸入は気道に直接届くので少量で効き、全身への影響はきわめて小さい。主な副作用は口腔カンジダ症や嗄声といった局所症状で、吸入後のうがいで予防できる。だからこそ喘息の長期管理では、経口ステロイドはできるだけ少量・短期間にとどめるのが原則なんだ。増悪時に数日から1週間ほど全身投与する程度なら、長期副作用は問題になりにくいよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、ステロイド内服中の患者さんには自己中断しないよう説明することが大事だと習いました。
ドクタードクター
その姿勢は臨床でとても大切だ。副作用を知ったうえで予防策を講じ、患者さんにも理解してもらうことで、ステロイドは安全に使える薬になる。

まとめ

吸入療法で十分に改善しない喘息に経口薬を追加する場面で、選択肢に白内障・肺炎・糖尿病・骨粗鬆症が並ぶことから、想定されているのは経口ステロイド薬です。ステロイドの長期全身投与では、後嚢下白内障や緑内障、細胞性免疫低下による肺炎・結核再燃・ニューモシスチス肺炎、糖新生促進とインスリン抵抗性による食後高血糖、骨芽細胞抑制による骨粗鬆症などが高頻度に起こります。一方、ネフローゼ症候群は副作用ではなく、微小変化型をはじめステロイドで治療する疾患であり、これが頻度の低い合併症となります。吸入ステロイドの副作用は口腔カンジダ症や嗄声など局所的なものが中心で、経口薬は最小限の量と期間にとどめ、長期投与時は骨・感染・血糖・眼の対策と漸減中止を心がけます。ステロイドが「起こす病気」と「治す病気」を区別して整理しておくことは、多くの診療科で役立つ基礎知識です。

解答・解説

正解はeです

症例の整理

57歳の非喫煙男性が、感冒様症状に続く発作性の喘鳴と呼吸困難の増強で受診した。炎症反応は軽度で、胸部エックス線写真に浸潤影などの明らかな異常はなく、喀痰のMay-Giemsa染色では好酸球が多数みられる。以上から、好酸球性気道炎症を基盤とする気管支喘息と診断される。

治療の流れと「経口薬」の特定

喘息の長期管理の基本は吸入ステロイド薬(ICS)であり、症状に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)などを追加していく。これらを用いても良好にコントロールできない重症例では、経口ステロイド薬の追加が行われる(現在はその前に抗IL-5抗体などの生物学的製剤が検討されることが多い)。 本問では、吸入療法で改善が不十分なため経口薬を追加し、その「長期投与による合併症」が問われている。選択肢に並ぶ白内障・肺炎・糖尿病・骨粗鬆症はいずれも全身性副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)の代表的な副作用であり、追加された経口薬は経口ステロイド薬と考えるのが自然である。

設問の考え方

経口ステロイド薬を長期間使ったときに起こりやすい副作用を思い浮かべ、その中に含まれないもの、すなわち「頻度が低い」ものを選ぶ。ステロイドの副作用は、糖代謝・骨代謝・免疫・眼・消化管・精神・内分泌など多くの臓器にわたるので、機序とあわせて整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  白内障

    ステロイドの長期全身投与では白内障が起こりやすい(ステロイド白内障)。水晶体の後嚢の直下が濁る「後嚢下白内障」が典型で、視力低下やまぶしさを訴える。投与量が多く、期間が長いほど起こりやすい。眼の副作用としては、ほかに眼圧が上がるステロイド緑内障もあり、長期投与中は定期的な眼科受診が勧められる。頻度の高い合併症であり、正解ではない。

  2. ×b.  肺炎

    ステロイドはリンパ球の機能やサイトカインの産生を抑え、好中球の遊走も妨げるため、細胞性免疫を中心に免疫能が低下する(易感染性)。その結果、細菌性肺炎に加えて、ニューモシスチス肺炎、結核の再燃、真菌感染症などの日和見感染が起こりやすくなる。本例はツベルクリン反応陽性であり、長期投与の際には結核の発症・再燃にも注意が必要である。頻度の高い合併症であり、正解ではない。

  3. ×c.  糖尿病

    ステロイドは肝臓での糖新生を促し、末梢組織(筋・脂肪)でのインスリンの効き目を弱める(インスリン抵抗性の増大)。このため血糖が上がり、ステロイド糖尿病を起こす。空腹時血糖よりも昼から夕方の食後血糖が上がりやすいのが特徴である。もともと糖尿病がある人では血糖コントロールが悪化する。頻度の高い合併症であり、正解ではない。

  4. ×d.  骨粗鬆症

    ステロイドは骨をつくる骨芽細胞の働きを直接抑え、骨をこわす破骨細胞の働きを相対的に強める。さらに腸管からのカルシウム吸収を減らし、尿中へのカルシウム排泄を増やす。これらにより骨量が減少し、ステロイド性骨粗鬆症となる。骨密度がそれほど低くなくても椎体骨折が起こりやすいのが特徴で、長期投与(おおむね3か月以上)の予定があれば、ビスホスホネート薬などによる予防が推奨される。頻度の高い合併症であり、正解ではない。

  5. ○e.  ネフローゼ症候群

    ネフローゼ症候群(高度の蛋白尿と低アルブミン血症を主徴とする病態)は、ステロイドの副作用として起こるものではない。むしろ微小変化型ネフローゼ症候群をはじめ、多くのネフローゼ症候群では副腎皮質ステロイドが治療の第一選択薬となる。したがって、経口ステロイド薬の長期投与による合併症として頻度が低いのはこの選択肢である。なお、腎臓や電解質に関する副作用としては、ミネラルコルチコイド作用によるナトリウム貯留・浮腫・高血圧・低カリウム血症があるが、これらはネフローゼ症候群とは別のものである。

全身性ステロイドの主な副作用

・代謝・内分泌:ステロイド糖尿病、脂質異常症、中心性肥満・満月様顔貌(クッシング様症状)、副腎皮質機能の抑制(急な中止で副腎不全を起こす)。 ・骨・筋:骨粗鬆症(椎体骨折)、大腿骨頭壊死(無腐性骨壊死)、ステロイドミオパチー(近位筋の筋力低下)。 ・免疫:易感染性(細菌感染、結核、ニューモシスチス肺炎、真菌、ウイルスの再活性化)。 ・眼:後嚢下白内障、緑内障。 ・消化器:消化性潰瘍(特にNSAIDs併用時)。 ・循環・腎:高血圧、ナトリウム・水分の貯留、低カリウム血症。 ・精神・神経:不眠、多幸感、抑うつ、ステロイド精神病。 ・皮膚:皮膚の菲薄化、紫斑、痤瘡、創傷治癒の遅れ。 ・小児:成長障害。

吸入ステロイド薬と経口ステロイド薬の違い

吸入ステロイド薬は気道に直接届くため、少ない量で効果があり、全身への影響はきわめて小さい。主な副作用は口腔カンジダ症や嗄声などの局所症状で、吸入後のうがいで予防する。一方、経口ステロイド薬は全身に作用するため、上記の副作用が問題となる。このため喘息の長期管理では、経口ステロイド薬はできるだけ少ない量・短い期間にとどめることが原則である。

喘息の増悪時の全身性ステロイド

中等症以上の増悪(発作)では、短期間(数日~1週間程度)の全身性ステロイド投与が行われる。短期間であれば上記の長期副作用は問題になりにくい。

長期投与時の対策

・骨粗鬆症:骨密度測定、ビスホスホネート薬などによる予防。 ・感染症:結核の既往・潜在性結核感染の確認、必要に応じてST合剤によるニューモシスチス肺炎予防。 ・糖尿病:食後血糖を含む血糖の定期的な測定。 ・眼:定期的な眼科検査。 ・中止時:副腎不全を防ぐため漸減する。

POINT

・吸入療法で不十分な喘息に追加する経口薬として、選択肢から想定されるのは経口ステロイド薬。 ・ステロイドの長期副作用:糖尿病、骨粗鬆症、白内障(後嚢下)、緑内障、易感染性(肺炎・結核など)、消化性潰瘍、高血圧、満月様顔貌、精神症状、大腿骨頭壊死、副腎抑制。 ・ネフローゼ症候群はステロイドの副作用ではなく、ステロイドで治療する疾患。 ・吸入ステロイドの副作用は口腔カンジダ症・嗄声などの局所症状が中心。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。