その数字は週数に見合っているか―妊婦健診の「ものさし」で異常を見抜く
第103回医師国家試験 G問題 第9問
国試問題にチャレンジ
異常所見はどれか。
- a.妊娠8週で超音波検査上胎児心拍動を認める。
- b.妊娠20週で胎動を自覚できない。
- c.妊娠28週で胎児推定体重が600gである。
- d.妊娠30週で羊水指数〈AFI〉が10cmである。
- e.妊娠36週で児頭大横径〈BPD〉が90mmである。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
妊婦健診の所見は、週数ごとの基準と照らし合わせて評価します。胎児心拍は妊娠6週前後から確認でき8週で見えるのは正常、胎動自覚は初産婦で18〜20週ごろと個人差が大きく20週で自覚がなくても異常とはいえず、AFI 10cmや36週でBPD 90mmも正常範囲です。一方、28週の推定体重の平均は約1,100〜1,200gであり、600gは23〜24週相当にとどまるため胎児発育不全を強く疑います。その際はまずCRLなどで週数を再確認し、胎児・胎盤・母体の各要因の検索と、羊水量や血流ドプラ、NSTによる胎児well-beingの評価を進めます。主観的な指標と客観的な計測値を区別し、「週数に見合っているか」で判断する視点は、妊婦健診での異常の早期発見に直結します。
解答・解説
正解はcです
妊娠経過の評価では、「その週数で何が見えるはずか」「その週数で胎児はどのくらいの大きさか」という基準を頭に入れておき、提示された所見がその基準から外れているかを判断する。本問は、胎児心拍の確認時期、胎動自覚の時期、胎児推定体重、羊水量(羊水指数)、児頭大横径という、妊婦健診で日常的に扱う指標について、週数ごとの目安を問うものである。 考え方としては、各所見を「正常範囲内」「個人差の範囲」「明らかな逸脱」に振り分ける。胎動の自覚のように母体の感じ方に依存する主観的な指標は、多少遅れても直ちに異常とはしない。一方、超音波で測定される胎児推定体重や児頭大横径は週数ごとの基準曲線(平均値と標準偏差)と比較して評価し、平均から大きく外れた値は胎児発育不全などを疑う所見となる。 5つの所見のうち、週数の基準値から明らかに外れているのは妊娠28週で推定体重600gという所見であり、これは概ね妊娠23〜24週相当の大きさにとどまっている。
選択肢考察
- ×a. 妊娠8週で超音波検査上胎児心拍動を認める。
正常所見である。経腟超音波では、胎嚢(GS)は妊娠4〜5週、胎芽と心拍動は妊娠6週前後から確認でき、妊娠8週には正常妊娠であればほぼ確実に心拍動が見える。むしろ妊娠8週で心拍動を確認できなければ、週数の誤り(排卵の遅れなど)がない限り流産(稽留流産など)を疑う異常所見となる。
- ×b. 妊娠20週で胎動を自覚できない。
異常とはいえない。妊婦が胎動を初めて感じる時期は、経産婦で妊娠16〜18週ごろ、初産婦で妊娠18〜20週ごろとされ、腹壁の厚さ、胎盤の付着部位(前壁付着では感じにくい)、母体の感受性などで大きく個人差がある。妊娠20週の時点で自覚がなくても、超音波で胎児の心拍や体動が確認できれば問題はない。
- ○c. 妊娠28週で胎児推定体重が600gである。
異常所見である。妊娠28週の胎児推定体重の平均はおよそ1,100〜1,200gであり、600gは平均の約半分にすぎない。600gという値は妊娠23〜24週ごろの平均に相当し、標準偏差を大きく下回るため、胎児発育不全(FGR)を強く疑う。まず最終月経や妊娠初期の頭殿長(CRL)による週数の再確認を行い、週数が正しければ、胎児側要因(染色体異常、先天感染など)、胎盤・臍帯要因、母体要因(妊娠高血圧症候群など)の検索と、羊水量・血流評価による胎児well-beingの評価が必要となる。
- ×d. 妊娠30週で羊水指数〈AFI〉が10cmである。
正常範囲である。羊水指数(AFI:amniotic fluid index)は、子宮を臍部を中心に上下左右の4区画に分け、各区画で超音波により測った羊水ポケットの最大垂直深度を合計した値である。5cm以下で羊水過少、およそ24〜25cm以上で羊水過多と判定するのが一般的であり、10cmは正常である。
- ×e. 妊娠36週で児頭大横径〈BPD〉が90mmである。
正常範囲である。妊娠36週の児頭大横径(BPD:biparietal diameter)の平均はおよそ87〜88mmで、正常範囲は概ね80〜93mm程度である。90mmはやや大きめではあるが基準範囲内に収まる。なお、正期産の成熟児のBPDは約90〜95mmである。
妊娠週数と主な所見の目安
・妊娠4〜5週:経腟超音波で胎嚢(GS)が見え始める。 ・妊娠6週前後:胎芽と心拍動が確認できる。 ・妊娠8〜11週:頭殿長(CRL:crown-rump length)を測定し、分娩予定日を確定・修正するのに最も適した時期である(個体差が小さいため)。 ・妊娠16〜20週:胎動を自覚する(経産婦の方が早い)。 ・妊娠20週:子宮底は臍下2横指程度。
胎児推定体重(EFW:estimated fetal weight)のおおよその平均値
・妊娠24週:約650g ・妊娠28週:約1,100〜1,200g ・妊娠32週:約1,700〜1,800g ・妊娠36週:約2,500g ・妊娠40週:約3,000〜3,200g EFWは、BPD、腹囲(AC)、大腿骨長(FL)の3つの計測値から計算式で求める。日本では基準値の−1.5SD以下を胎児発育不全(FGR)の目安とする。
羊水量の評価
・AFI:4区画の最大羊水深度の合計。5cm以下で羊水過少、おおむね24〜25cm以上で羊水過多。 ・最大羊水深度(MVP):最も深い羊水ポケットの垂直径。2cm以下で羊水過少、8cm以上で羊水過多。 羊水過少は胎児の腎尿路異常や前期破水、胎盤機能不全を、羊水過多は消化管閉鎖や母体糖尿病などを示唆する。
胎児発育不全(FGR)
胎児の発育が週数相当より明らかに遅れている状態である。原因は胎児因子(染色体異常、先天感染、奇形症候群)、胎盤・臍帯因子(胎盤機能不全、臍帯付着異常)、母体因子(妊娠高血圧症候群、喫煙、低栄養、膠原病)に分けられる。評価には胎児計測の反復、羊水量、臍帯動脈や中大脳動脈の血流ドプラ、ノンストレステスト(NST)などを用いる。
POINT
・胎児心拍動は妊娠6週前後から確認でき、妊娠8週で見えなければ異常を疑う。 ・胎動自覚は初産婦で18〜20週、経産婦で16〜18週ごろと個人差が大きく、20週で自覚がなくても異常ではない。 ・胎児推定体重の目安:28週で約1,100〜1,200g、36週で約2,500g、40週で約3,000g。28週で600gはFGRを疑う。 ・AFIは5cm以下で羊水過少、約24〜25cm以上で羊水過多。 ・妊娠36週のBPDは約88mm前後で、90mmは正常範囲。
