聞こえの障害は胎内から始まる―先天性サイトメガロウイルス感染症と母子感染の「臓器対応表」
第103回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
母子感染で難聴と関連するのはどれか。
- a.麻疹ウイルス
- b.水痘ウイルス
- c.パルボウイルス
- d.単純ヘルペスウイルス
- e.サイトメガロウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母子感染による難聴と関連する代表的な病原体は、サイトメガロウイルス、風疹ウイルス、梅毒トレポネーマです。なかでも先天性サイトメガロウイルス感染症は最も多い先天性感染症で、遺伝以外の原因による先天性感音難聴として最多とされ、出生時に無症状でも遅れて難聴が出たり進行したりするのが特徴です。診断は生後3週以内の尿からのウイルス核酸検出で行い、新生児聴覚スクリーニングで要再検となった児では本症を調べることが勧められます。パルボウイルスB19は胎児貧血・胎児水腫、水痘は先天性水痘症候群と周産期の重症水痘、単純ヘルペスウイルスは産道感染による新生児ヘルペスと、病原体ごとの障害を対応させて整理することが、TORCH症候群の理解と妊婦への予防指導の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
テーマの要点
母子感染とは、妊娠中(経胎盤)、分娩時(産道)、出生後(母乳など)に母から児へ病原体がうつることである。胎内で感染すると、病原体によって特徴的な臓器障害が起こる。難聴(主に内耳の障害による感音難聴)と関連する病原体として重要なのは、次の3つである。 ・サイトメガロウイルス(CMV) ・風疹ウイルス ・梅毒トレポネーマ なかでも先天性CMV感染症は最も頻度の高い先天性感染症であり、遺伝以外の原因による先天性感音難聴として最も多い。
正解を導く考え方
病原体ごとに「胎児・新生児に何が起こるか」を対応させて覚えておく。パルボウイルスB19は胎児貧血と胎児水腫、水痘は先天性水痘症候群(皮膚の瘢痕、四肢の低形成など)と分娩前後の重症水痘、単純ヘルペスウイルスは主に産道感染による新生児ヘルペス、麻疹は流産・早産と新生児麻疹である。いずれも難聴を代表的な障害とはしない。選択肢の中で母子感染による難聴と明らかに結びつくのは、サイトメガロウイルスである。
選択肢考察
- ×a. 麻疹ウイルス
妊婦が麻疹にかかると、重症化しやすく(肺炎など)、流産・早産・死産が増える。しかし、風疹のように特定の先天異常を起こすことは確認されていない。分娩直前に母親が発症すると、新生児が麻疹を発症すること(新生児麻疹)がある。先天感染による難聴の原因としては扱わない。なお、麻疹にかかった後の合併症として中耳炎があるが、母子感染とは関係がない。
- ×b. 水痘ウイルス
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に妊娠初期〜20週ごろまでに初めて感染すると、まれに(2%程度)先天性水痘症候群が起こる。症状は、皮膚の神経の走行に沿った瘢痕、四肢の低形成、眼の異常(脈絡網膜炎、白内障、小眼球)、小頭症、大脳皮質の萎縮などで、難聴は代表的な症状ではない。また、分娩の5日前から分娩後2日までに母親が水痘を発症すると、母親からの抗体(移行抗体)が児に届かないまま児が感染するため、新生児が重症の水痘になりやすい。その場合は免疫グロブリンやアシクロビルを投与する。
- ×c. パルボウイルス
ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスである。赤血球のもとになる細胞(赤芽球系前駆細胞)に感染して増えるため、胎内で感染すると強い胎児貧血が起こり、心不全から非免疫性胎児水腫や子宮内胎児死亡に至ることがある。胎児貧血は、超音波検査で中大脳動脈の最高血流速度が上がっていることから推定でき、必要なら胎児輸血を行う。ただし、形態異常や難聴を起こすことは通常ない。
- ×d. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)の母子感染は、ほとんどが分娩時の産道感染であり、新生児ヘルペスを起こす。新生児ヘルペスは、表在型(皮膚・眼・口の病変)、中枢神経型(脳炎)、全身型(肝炎、播種性血管内凝固など)に分けられ、全身型は死亡率が高い。予防として、分娩時に性器の病変がある場合は帝王切開を選び、発症した児にはアシクロビルを静注する。胎内感染はまれであり、難聴は母子感染の代表的な障害としては扱わない。
- ○e. サイトメガロウイルス
サイトメガロウイルス(CMV)は、先天性感染症のなかで最も多く、出生児のおよそ0.3%前後が先天感染していると推定されている。感染児の1〜2割程度は、出生時に症状がある(症候性)。症状は、胎児発育不全、小頭症、脳室の周りの石灰化、脈絡網膜炎、肝脾腫、黄疸、血小板減少による点状出血などである。感音難聴は症候性の児に多いが、出生時に症状のない児でも生後しばらくしてから発症したり、進行したりすることがあるのが特徴である。胎内感染は、妊婦が初めて感染したときに最も起こりやすいが、再感染や再活性化でも起こりうる。
母子感染と児にみられる主な障害
・CMV:小頭症、脳室周囲石灰化、脈絡網膜炎、感音難聴、肝脾腫、黄疸、点状出血、発達の遅れ ・風疹(先天性風疹症候群):白内障、先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、感音難聴の3つが主な症状である。妊娠20週ごろまで、特に妊娠初期の感染でリスクが高い。 ・トキソプラズマ:水頭症、頭蓋内の散在性石灰化、脈絡網膜炎(古典的3徴) ・梅毒(先天梅毒):早期先天梅毒では皮疹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻炎(鼻閉)がみられる。晩期先天梅毒ではHutchinsonの3徴(Hutchinson歯、実質性角膜炎、内耳性難聴)がみられる。 ・パルボウイルスB19:胎児貧血、胎児水腫 ・水痘:先天性水痘症候群、分娩前後の感染による新生児の重症水痘 ・HSV:新生児ヘルペス(主に産道感染) これらの先天性感染症は、頭文字をとって TORCH症候群(Toxoplasma、Others[梅毒、水痘、パルボウイルスB19など]、Rubella、Cytomegalovirus、Herpes simplex)とまとめられる。
先天性CMV感染症の診断と治療
診断は、生後3週以内に採取した尿からCMVの核酸(PCR法)を検出することで行う。生後3週を過ぎると出生後の感染と区別できないためである。日本ではこの尿検査が保険で認められている。3週を過ぎてから疑われた場合は、保存しておいた臍帯(へその緒)や新生児マススクリーニングの乾燥濾紙血からCMVの核酸を調べることで、後から先天感染だったかを推定できる。症候性の児には抗ウイルス薬(バルガンシクロビルの内服など)を投与し、聴覚や発達の予後の改善をねらう。
新生児聴覚スクリーニングとの関係
自動聴性脳幹反応(自動ABR)などを用いた新生児聴覚スクリーニングで「要再検」となった児では、先天性CMV感染症がないかを調べることが勧められる。
予防
CMVには実用化されたワクチンがない。妊婦へは、おむつ交換の後に手を洗う、幼い子どもと食器を共有しない、子どもの唾液に触れた後は手を洗う、などの衛生対策を伝える。一方、風疹は妊娠前にワクチンで予防できる(生ワクチンのため妊娠中は接種しない)。
POINT
・母子感染による難聴といえば、CMV、風疹、梅毒の3つである。 ・先天性CMV感染症は最も多い先天性感染症であり、遺伝以外の原因による先天性感音難聴として最も多い。難聴が遅れて発症したり進行したりすることがある。 ・先天性CMV感染症の診断は、生後3週以内の尿でCMV核酸を検出することによる。 ・パルボウイルスB19は胎児水腫、水痘は先天性水痘症候群(皮膚瘢痕・四肢低形成)、HSVは新生児ヘルペス(産道感染)と対応させて覚える。 ・先天性風疹症候群の3徴は白内障、心疾患(動脈管開存症)、感音難聴である。
