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働く筋肉は酸素を奪い取る―酸素解離曲線が右へずれる理由

第103回医師国家試験 G問題 第10問

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第103回 G問題 第10問

ヘモグロビン酸素解離曲線が右へシフトするのはどれか。

  1. a.H+濃度の低下
  2. b.Na+濃度の上昇
  3. c.Cl-濃度の上昇
  4. d.CO2濃度の上昇
  5. e.2,3-DPG濃度の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ヘモグロビン酸素解離曲線を右へずらす因子を問う問題だ。ポイントは「右方シフトとは何を意味するか」を理解すること。丸暗記ではなく、体の中でどんな場面に起こるかをイメージできれば迷わない。まず、曲線がS字状になる理由を覚えているかな。
医学生医学生
生理学の講義で、ヘモグロビンの4つのサブユニットに協同性があるからと習いました。1つ酸素がつくと、残りもつきやすくなるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。では右方シフトは、同じ酸素分圧で比べたとき飽和度がどうなる状態だろう。
医学生医学生
曲線が右にずれるので……同じ分圧なら飽和度は低くなります。つまり酸素を離しやすい?
ドクタードクター
正解。酸素親和性が下がって、組織に酸素を手放しやすくなる状態だ。指標としては飽和度50%になる酸素分圧、P50が上がる。正常は約27mmHgだね。逆の左方シフトは親和性が上がって酸素を離しにくくなり、P50は下がる。
医学生医学生
右方シフトの因子は、CBTの前に語呂合わせで覚えた気がしますが、正直あやふやです。
ドクタードクター
語呂より、運動中の筋肉を思い浮かべるといい。筋肉は熱を出し、CO2や乳酸を作って、酸素をたくさん欲しがっている。そこでヘモグロビンが酸素を手放しやすくなるのは理にかなっているよね。だから右方シフトの因子は、H+上昇つまりpH低下、CO2上昇、体温上昇、そして2,3-DPGの上昇の4つだ。
医学生医学生
そう考えると、CO2濃度の上昇がまさに右方シフトですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。機序は2つある。1つは、CO2が赤血球内の炭酸脱水酵素で炭酸を経てH+と重炭酸イオンになり、増えたH+が酸素親和性を下げること。これをボーア効果という。もう1つは、CO2がグロビン鎖のN末端に直接結合してカルバミノヘモグロビンをつくり、脱酸素型を安定化させることだ。
医学生医学生
H+濃度の低下は、ボーア効果の逆なので左方シフトということですか。
ドクタードクター
そう。H+は脱酸素型、いわゆるT型のヘモグロビンに結合してその構造を安定させるから、H+が減ればアルカローシスとなり曲線は左へ動く。2,3-DPGの低下も同じ考え方で左方シフトだ。2,3-DPGは赤血球の解糖系の側路で作られ、脱酸素型の2本のβ鎖の間の空洞に結合してT型を安定させる。
医学生医学生
2,3-DPGが下がる場面というと、どんなときでしょうか。
ドクタードクター
代表例は長期保存した輸血用赤血球だ。保存中に2,3-DPGが減るので、大量輸血のあとは組織への酸素放出が一時的に悪くなることがある。逆に高地順応や慢性貧血では2,3-DPGが増えて右方シフトし、少ないヘモグロビンでも組織に酸素を届けやすくしているんだ。
医学生医学生
Na+やCl-の上昇は、電解質だからpHに影響しそうで迷いました。
ドクタードクター
気持ちはわかる。でもNa+は主に細胞外液の陽イオンで、ヘモグロビンの酸素親和性を調節する因子ではない。Cl-も、赤血球でCO2運搬に伴う重炭酸イオンとの交換、つまりクロライドシフトに関わるけれど、それはCO2を運ぶ仕組みであって、Cl-濃度の上昇そのものが右方シフトの原因として扱われることはないよ。
医学生医学生
右方シフトの4因子を押さえておけば、ほかは「その逆」か「関係ない因子」に分けられるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として左方シフトの代表も押さえよう。胎児ヘモグロビンは2,3-DPGと結合しにくいので親和性が高く、胎盤で母体から酸素を受け取りやすい。一酸化炭素中毒では、一部のヘムにCOが結合すると残りの部位の酸素親和性が上がって左方シフトし、酸素をさらに離さなくなって組織低酸素が悪化する。
医学生医学生
救急科の実習で、CO中毒の患者さんはパルスオキシメータの値があてにならないと教わりました。
ドクタードクター
大事な注意点だね。一般的なパルスオキシメータはCOヘモグロビンを酸素化ヘモグロビンと区別できないから、SpO2が見かけ上正常に出てしまう。血液ガスのCOオキシメトリーで確認する必要がある。それから、ボーア効果と表裏の関係にあるのがホールデン効果。ヘモグロビンが酸素を手放すとCO2やH+を結合しやすくなる現象で、組織では酸素放出とCO2取り込みが、肺ではその逆が互いに促し合っているんだ。

まとめ

ヘモグロビン酸素解離曲線の右方シフトは、酸素親和性が低下してP50が上昇し、組織へ酸素を放しやすくなる状態です。原因はH+上昇(pH低下)、CO2上昇、体温上昇、2,3-DPG上昇の4つで、代謝が盛んな運動中の筋肉の環境と一致すると考えると覚えやすくなります。CO2上昇は、H+産生によるボーア効果とカルバミノヘモグロビン形成の両方を通じて右方シフトを起こします。H+低下や2,3-DPG低下(保存血の大量輸血など)は左方シフトを起こし、胎児ヘモグロビンや一酸化炭素中毒も左方シフトの代表例であり、Na+やCl-は曲線を動かす因子としては扱われません。酸素運搬の生理を理解しておくことは、呼吸不全や貧血、中毒、輸血の場面での組織酸素化を考える基盤になります。

解答・解説

正解はdです

ヘモグロビン(Hb)酸素解離曲線は、横軸に酸素分圧(PO2)、縦軸にHbの酸素飽和度(SO2)をとったグラフで、S字状(シグモイド)の形を示す。S字状になるのは、Hbの4つのサブユニットのうち1つに酸素が結合すると、残りのサブユニットの酸素親和性が高まる「協同性(アロステリック効果)」があるためである。 曲線の「右方シフト」とは、同じ酸素分圧で比べたときに飽和度が低くなる、すなわちHbの酸素親和性が低下して酸素を手放しやすくなる状態を指す。指標としては、飽和度50%となる酸素分圧(P50、正常は約27mmHg)が上昇する。逆に「左方シフト」は親和性が上昇し、酸素を離しにくくなる状態で、P50は低下する。 右方シフトを起こす因子は、代謝が盛んで酸素を必要としている組織の環境と一致する。すなわち、①H+濃度の上昇(pH低下)、②PCO2の上昇、③体温上昇、④赤血球内2,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸、2,3-BPGともいう)の増加である。これらを覚えておけば、選択肢はそれぞれ「右方シフト因子の逆(左方シフト)」か「曲線に直接関与しない因子」かに分けられ、CO2濃度の上昇だけが右方シフトを起こすと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  H+濃度の低下

    H+濃度の低下はpHの上昇(アルカローシス)を意味し、曲線は左方へシフトする。H+は脱酸素型Hb(T型)のヒスチジン残基などに結合してT型を安定化し、酸素親和性を下げる。したがってH+が増えると右方シフト、減ると左方シフトとなる。このpHによる影響をボーア効果という。

  2. ×b.  Na+濃度の上昇

    Na+は主に細胞外液の陽イオンであり、Hbの酸素親和性を調節する因子ではない。Na+濃度の変化それ自体によって酸素解離曲線が右方にシフトすることはない。

  3. ×c.  Cl-濃度の上昇

    Cl-は、臨床的に酸素解離曲線を右方へ動かす因子としては扱われない。赤血球ではCO2運搬に伴うHCO3-とCl-の交換(クロライドシフト)が起こるが、これはCO2運搬のしくみであり、Cl-濃度の上昇そのものが右方シフトの原因として挙げられることはない。

  4. ○d.  CO2濃度の上昇

    CO2濃度が上昇すると曲線は右方へシフトする。機序は2つある。第一に、CO2は赤血球内の炭酸脱水酵素によりH2CO3を経てH+とHCO3-になるため、H+が増えてボーア効果により酸素親和性が低下する。第二に、CO2はHbのグロビン鎖のN末端アミノ基と結合してカルバミノHbを形成し、脱酸素型Hbを安定化させる。活動中の組織ではCO2が多く産生されるため、この仕組みによって組織で酸素が効率よく放出される。高CO2血症(呼吸性アシドーシス)でも同様に右方シフトとなる。

  5. ×e.  2,3-DPG濃度の低下

    2,3-DPGが低下すると曲線は左方へシフトする。2,3-DPGは赤血球の解糖系の側路で産生され、脱酸素型Hbの2本のβ鎖の間にある中心空洞に結合してT型(低親和性の構造)を安定化させる。したがって2,3-DPGの増加は右方シフト、減少は左方シフトとなる。2,3-DPGが低下する代表例は長期保存した輸血用赤血球であり、大量輸血後は組織への酸素放出が一時的に悪くなる。

右方シフトと左方シフトの原因の整理

右方シフト(酸素親和性低下、P50上昇、組織へ酸素を放しやすい) ・H+上昇(pH低下、アシドーシス) ・PCO2上昇 ・体温上昇(発熱、運動中の筋肉) ・2,3-DPG上昇(高地順応、慢性貧血、慢性低酸素血症、甲状腺機能亢進症など) 左方シフト(酸素親和性上昇、P50低下、酸素を放しにくい) ・H+低下(pH上昇、アルカローシス) ・PCO2低下(過換気) ・体温低下 ・2,3-DPG低下(保存血の大量輸血、低リン血症など) ・胎児ヘモグロビン(HbF):2,3-DPGとの結合が弱いため親和性が高く、胎盤で母体血から酸素を受け取りやすい ・一酸化炭素(CO)中毒:COHbが生じると残りのヘム部位の酸素親和性が上がり、曲線は左方にシフトして組織低酸素を悪化させる ・メトヘモグロビン血症

覚え方

運動中の筋肉を思い浮かべるとよい。筋肉は熱を産生し(体温上昇)、CO2と乳酸を産生して(PCO2上昇、pH低下)、酸素を多く必要とする。このような環境で曲線が右にずれ、Hbが酸素を多く手放すのは合目的的である。

ボーア効果とホールデン効果

・ボーア効果:H+やCO2の増加によりHbの酸素親和性が低下する現象(酸素の放出を促す)。 ・ホールデン効果:Hbが酸素を放すと、CO2(カルバミノHb)やH+を結合しやすくなる現象(CO2の運搬を促す)。 両者は表裏の関係にあり、組織では酸素放出とCO2取り込みが、肺では酸素取り込みとCO2放出が互いに促進し合う。

臨床的意義

右方シフトでは組織への酸素供給が有利になる一方、同じPaO2でも飽和度(SpO2)が低めに出る。還元Hbが増えるため、チアノーゼは出現しやすくなる。

POINT

・右方シフト=酸素親和性低下=P50上昇=組織で酸素を放しやすい。 ・右方シフトの4因子:H+上昇(pH低下)、PCO2上昇、体温上昇、2,3-DPG上昇。 ・CO2上昇はH+の産生(ボーア効果)とカルバミノHb形成の両方を通じて右方シフトを起こす。 ・左方シフト:アルカローシス、低体温、2,3-DPG低下(保存血)、HbF、CO中毒。 ・Na+、Cl-は酸素解離曲線を動かす因子としては問われない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。