点滴開始10分後の急変―原因探しより先に「止める」が鉄則
第103回医師国家試験 G問題 第52問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。脳梗塞のため入院中である。状態は安定している。栄養補給のための点滴を開始したところ10分後に,突然,悪寒戦慄が出現した。顔面は蒼白。意識は混濁している。 まず行うのはどれか。
- a.点滴中止
- b.抗菌薬投与
- c.頭部造影CT
- d.血液培養検査
- e.副腎皮質ステロイド投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
点滴開始直後に悪寒戦慄、顔面蒼白、意識混濁などの急変が起きた場合、アナフィラキシー、輸液のエンドトキシン汚染、経腸栄養剤の誤投与などが考えられますが、いずれであってもまず行うべきは原因と疑われる点滴の中止です。その際、静脈路は抜かずにルートを交換して生理食塩液などに切り替え、救急処置用の経路として確保します。続いて応援を呼び、気道・呼吸・循環を評価し、アナフィラキシーであれば第一選択のアドレナリン筋注を行い、ステロイドや抗ヒスタミン薬はあくまで補助療法です。抗菌薬、血液培養、頭部CTはいずれも患者の安全を確保した後の対応であり、使用した輸液製剤は原因究明のため保存します。「まず悪化の原因を止め、検査はその後」という優先順位の考え方は、あらゆる急変対応の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・68歳男性。脳梗塞で入院中だが、状態は安定していた。 ・栄養補給目的の点滴を開始して10分後に、突然、悪寒戦慄(ふるえを伴う強い寒気)が出現した。 ・顔面蒼白、意識混濁を伴っている。
何が起きているか
安定していた患者が、点滴開始からわずか10分で急変している。時間的関係から、点滴(薬液そのもの、混入物、投与経路)が原因である可能性が最も高い。顔面蒼白と意識混濁は、末梢血管の収縮や循環不全による脳血流の低下を示唆し、ショック状態に陥りつつあると考えられる。 考えられる病態としては以下がある。 ・アナフィラキシー(薬液成分に対する急性のアレルギー反応) ・輸液の細菌・エンドトキシン(細菌の細胞壁成分で強い発熱・ショックを起こす物質)汚染による発熱反応・敗血症性ショック。悪寒戦慄はこの型に特徴的である。 ・経腸栄養剤など静脈内に投与してはならない製剤の誤投与 ・空気塞栓、輸液の急速投与による反応など いずれの原因であっても、原因と疑われる点滴を体内に入れ続ければ病態は悪化し続ける。
設問の考え方
「まず行うのは」と問われたときは、原因の特定や検査よりも、目の前の患者の悪化を止める処置を優先する。点滴による急変では、最初に行うべきは原因と思われる点滴の中止である。その際、静脈路(留置針)は抜かずに残し、点滴セットごと交換して生理食塩液などに切り替えて、救急処置用の投与経路として確保しておく。そのうえで人を呼び、気道・呼吸・循環(ABC)を評価し、アナフィラキシーであればアドレナリン筋注などの治療に進む。
選択肢考察
- ○a. 点滴中止
点滴開始10分後という時間的関係から、点滴が急変の原因である可能性が最も高い。アナフィラキシー、エンドトキシン汚染、誤投与のいずれであっても、原因物質の流入を直ちに止めることが悪化を防ぐ最優先の処置である。点滴の内容(製剤名、ロット、混注薬、投与経路)を確認して中止し、静脈路は抜去せず、新しいルートで生理食塩液などに切り替えて救命処置に使えるよう確保しておく。
- ×b. 抗菌薬投与
悪寒戦慄から輸液汚染による菌血症・敗血症も鑑別に挙がり、その場合は後に抗菌薬が必要になりうる。しかし、原因の点滴を止めないまま抗菌薬を投与しても汚染物質の流入は続く。また通常の細菌感染症が安定していた患者に10分でこれほど急激に発症することは考えにくく、最初に行う処置ではない。
- ×c. 頭部造影CT
脳梗塞の患者が意識混濁をきたしているため頭蓋内病変(梗塞の拡大や出血)を思い浮かべるかもしれないが、点滴直後の急変で顔面蒼白を伴う経過はショックによる脳血流低下と考えるのが自然である。循環が不安定な患者を検査室へ移動させるのは危険であり、さらに造影剤自体がアナフィラキシーを起こしうる。バイタルサインを安定させた後、頭蓋内病変が疑われる場合に検討する検査であって、まず行うものではない。
- ×d. 血液培養検査
輸液汚染による菌血症が疑われる場合には、抗菌薬投与前に血液培養(2セット)を採取すること、あわせて使用した輸液製剤を保存して培養に提出することが重要である。しかしこれは原因を調べるための検査であり、点滴を中止し患者の安全を確保した後に行う。
- ×e. 副腎皮質ステロイド投与
副腎皮質ステロイドはアナフィラキシーの補助的治療として用いられることがあるが、効果が現れるまで数時間を要し、急性期の症状を速やかに改善する薬ではない。二相性反応(いったん改善した後の再燃)の予防効果も明確には示されていない。アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリンの筋肉内注射であり、何より先に原因の点滴を止める必要がある。
点滴中の急変時の初期対応
1. 原因と疑われる点滴を直ちに中止する(静脈路は残し、ルートを交換して生理食塩液などに切り替える)。 2. 応援を呼ぶ(院内救急コール、救急カートやモニター、除細動器の準備)。 3. 意識・気道・呼吸・循環を評価し、バイタルサインを測定する。心肺停止であれば直ちに心肺蘇生を開始する。 4. ショックであれば仰臥位にして下肢を挙上し、酸素投与、細胞外液の急速輸液を行う。 5. 病態に応じた治療(アナフィラキシーならアドレナリン、敗血症なら培養採取後の抗菌薬など)を行う。 6. 使用した輸液製剤・ルートは廃棄せず保存し、原因究明(汚染や誤投与の確認)に用いる。
アナフィラキシーの治療
・第一選択はアドレナリン0.01 mg/kg(成人では最大0.5 mg、一般に0.3~0.5 mg)の大腿前外側への筋肉内注射。効果が不十分なら5~15分ごとに反復する。 ・補助的治療として、H1受容体拮抗薬(皮膚症状の緩和)、β2刺激薬吸入(気管支攣縮)、副腎皮質ステロイドなどがあるが、いずれもアドレナリンの代わりにはならない。 ・β遮断薬内服中の患者ではアドレナリンの効果が乏しいことがあり、グルカゴンが用いられる。
点滴後に悪寒戦慄をきたす主な原因
・アナフィラキシー/輸注反応(薬剤に対する急性反応) ・輸液汚染による発熱反応・菌血症(エンドトキシンによる悪寒戦慄と発熱、ショック) ・カテーテル関連血流感染症(中心静脈カテーテル留置中の患者でみられる) ・経腸栄養剤の静脈内誤投与(誤接続による医療事故)。現在は経腸栄養ラインに静脈ラインとは接続できない専用規格のコネクタを用いることで誤接続の防止が図られている。 ・輸血であれば、ABO不適合輸血などの急性溶血性輸血反応
POINT
・点滴開始直後の急変では、原因の特定よりも先に、まず点滴を中止する。 ・静脈路は抜かずに残し、生理食塩液などに切り替えて救急処置用のルートとして確保する。 ・アナフィラキシーの第一選択はアドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg)であり、副腎皮質ステロイドや抗ヒスタミン薬は補助療法である。 ・検査(CT、血液培養)は患者の安全を確保した後に行う。 ・使用した輸液製剤は保存し、原因究明に役立てる。
