泡立つピンクの痰は肺からのSOS―喀痰の色と性状で読み解く肺水腫
第103回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
ピンク色で泡沫状の痰を伴うのはどれか。
- a.肺癌
- b.肺炎
- c.肺水腫
- d.肺梗塞
- e.気管支喘息
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ピンク色で泡沫状の痰は肺水腫に特徴的で、多くは急性左心不全による肺毛細血管静水圧の上昇が原因です。肺胞内に漏れ出た液体に少量の赤血球が混じってピンク色となり、空気と混ざり合って泡立つことでこの性状が生じます。臨床的には起坐呼吸、両側の水泡音、心臓喘息と呼ばれる喘鳴を伴い、胸部エックス線写真では蝶形陰影やKerley B線がみられます。細菌性肺炎の膿性痰や鉄さび色痰、気管支喘息の粘稠痰、肺癌や肺梗塞の血痰など、痰の性状と疾患の対応をまとめて理解しておくことが大切です。喀痰の観察は特別な検査がなくても行える情報源であり、緊急性の高い病態を早期に見抜く臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
喀痰の性状は、呼吸器・循環器疾患を推定するための重要な手がかりである。本問では「ピンク色」かつ「泡沫状」という2つの特徴をもつ痰がどの疾患でみられるかが問われている。
ピンク色泡沫状痰が生じる仕組み
肺水腫では、肺の毛細血管から水分が血管の外へしみ出し、肺の間質さらに肺胞腔内にまで液体がたまる。最も多い原因は左心不全(心原性肺水腫)で、左心系の圧が上がると肺静脈・肺毛細血管の静水圧が上昇し、液体が押し出される。このとき少量の赤血球も一緒に漏れ出すため、痰は淡い赤色(ピンク色)を帯びる。さらに、蛋白を含む漏出液が肺胞や気道の中で呼吸の空気と激しく混ざり合うことで、石けんの泡のような細かい泡立ちが生じる。この結果、多量の「ピンク色泡沫状痰」が喀出される。
臨床像
急性の心原性肺水腫では、強い呼吸困難、起坐呼吸(横になると苦しく、座ると楽になる)、頻呼吸、両側の水泡音(coarse crackles)、喘鳴(心臓喘息)、冷汗、チアノーゼなどを伴う。胸部エックス線写真では肺門を中心に広がる蝶形陰影(butterfly shadow)、Kerley B 線、胸水などがみられる。 ほかの選択肢の疾患でも血痰や多量の痰がみられることはあるが、「ピンク色・泡沫状」の組み合わせが典型的なのは肺水腫であり、正解は肺水腫である。
選択肢考察
- ×a. 肺癌
肺癌では、腫瘍が気道の粘膜に露出したり、腫瘍内の脆い血管から出血したりすることで、痰に血液が混じる血痰がみられる。特に太い気管支にできやすい中心型(肺門型)の扁平上皮癌で血痰が出やすい。また、浸潤性粘液性腺癌では粘液性の痰が大量に出ることがある(気管支漏)。しかし、ピンク色で泡沫状の痰は肺癌の典型的な所見ではない。
- ×b. 肺炎
細菌性肺炎では、好中球などの炎症細胞を多く含む黄色〜緑色の膿性痰が典型であり、血液が混じることもある。起炎菌によって特徴的な痰がみられることがあり、肺炎球菌では鉄さび色の痰、クレブシエラ(肺炎桿菌)では赤褐色でゼリー状の痰、緑膿菌では緑色の痰が知られている。ピンク色泡沫状痰は肺炎の典型像ではない。
- ○c. 肺水腫
肺水腫は、肺血管の外(間質や肺胞腔)に異常な量の水分がたまった状態である。主な原因は左心不全による肺毛細血管静水圧の上昇(心原性)で、ほかに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などによる血管透過性の亢進(非心原性)や、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下もある。肺胞内に漏れ出た液体には少量の赤血球が混じるためピンク色となり、空気と混ざり合って泡立つため、ピンク色泡沫状痰が特徴的にみられる。呼吸困難、起坐呼吸、水泡音、喘鳴を伴うことが多い。
- ×d. 肺梗塞
肺梗塞は、主に下肢などの深部静脈にできた血栓が遊離して肺動脈を詰まらせ(肺血栓塞栓症)、その先の肺組織が出血性に壊死した状態である。肺は肺動脈と気管支動脈の二重の血流を受けるため、塞栓症があっても梗塞に至るのは一部に限られる。梗塞が起こると、突然の呼吸困難や胸痛(胸膜に炎症が及ぶと呼吸で増強する胸膜痛)に加え、血痰や喀血がみられる。痰は血性であるが、泡沫状のピンク色痰は典型的ではない。
- ×e. 気管支喘息
気管支喘息は、好酸球などが関与する気道の慢性炎症により、気道が過敏になり発作性に狭くなる疾患である。痰は粘り気の強い粘稠痰が典型で、太い気道を塞ぐ粘液栓(mucus plug)をつくることもある。喀痰中には好酸球が増え、Curschmann(クルシュマン)らせん体や Charcot-Leyden(シャルコー・ライデン)結晶がみられることがある。血管透過性の亢進により漿液性の痰が出ることもあるが、ピンク色泡沫状痰は喘息の特徴ではない。なお、左心不全による肺うっ血で喘鳴を生じる状態は「心臓喘息」と呼ばれ、気管支喘息とは別の病態である。
喀痰の性状と主な疾患
・ピンク色泡沫状痰:肺水腫(特に急性左心不全) ・膿性痰(黄色〜緑色):細菌性肺炎、気管支拡張症、肺化膿症 ・鉄さび色痰:肺炎球菌性肺炎 ・赤褐色ゼリー状痰:クレブシエラ肺炎 ・緑色痰:緑膿菌感染 ・悪臭のある膿性痰:嫌気性菌による肺化膿症・膿胸 ・粘稠痰(白色で粘り気が強い):気管支喘息 ・多量の水様〜粘液性痰(気管支漏):浸潤性粘液性腺癌 ・血痰・喀血:肺癌、肺結核、気管支拡張症、肺梗塞、肺胞出血など ・三層痰(静置すると上層が泡、中層が粘液、下層が膿に分かれる):気管支拡張症、肺化膿症
肺水腫の分類
・心原性肺水腫:左心不全、僧帽弁狭窄症などで肺静脈圧・肺毛細血管圧が上昇する。 ・非心原性肺水腫:ARDS、敗血症、誤嚥、高地肺水腫、神経原性肺水腫などで、肺毛細血管の透過性が亢進する。 ・その他:低アルブミン血症(膠質浸透圧の低下)、リンパ流のうっ滞など。
急性心原性肺水腫への初期対応
座位を保ち、酸素投与(必要に応じて非侵襲的陽圧換気)、硝酸薬による前負荷・後負荷の軽減、ループ利尿薬による体液量の是正などを行う。
POINT
・ピンク色泡沫状痰=肺水腫(多くは急性左心不全)。赤血球を含む漏出液が空気と混ざって生じる。 ・肺水腫では起坐呼吸、水泡音、喘鳴(心臓喘息)、胸部エックス線写真での蝶形陰影を伴う。 ・痰の性状と疾患の対応(膿性痰→細菌性肺炎、鉄さび色痰→肺炎球菌、粘稠痰→気管支喘息、血痰→肺癌・結核・肺梗塞など)をまとめて覚える。
