StudyMed医師国家試験

泡立つピンクの痰は肺からのSOS―喀痰の色と性状で読み解く肺水腫

第103回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第7問

ピンク色で泡沫状の痰を伴うのはどれか。

  1. a.肺癌
  2. b.肺炎
  3. c.肺水腫
  4. d.肺梗塞
  5. e.気管支喘息

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は喀痰の性状から疾患を推定する問題だ。痰は肺の中で何が起きているかを映す鏡のようなもの。「ピンク色」と「泡沫状」という2つの特徴が、それぞれ何を意味するのかに注目して考えてみよう。
医学生医学生
ピンク色ということは血が混じっているわけですよね。血痰なら肺癌や肺梗塞が思い浮かびます。
ドクタードクター
血液成分が混じっているという読みは正しい。ただ、ポイントは「泡沫状」とのセットなんだ。真っ赤な血痰ではなく、淡いピンクで細かく泡立った痰。これは肺胞の中に液体があふれ、それが呼吸の空気と激しく混ざり合っている状態を示している。
医学生医学生
肺胞に液体があふれる……ということは肺水腫でしょうか。
ドクタードクター
正解。肺水腫では、肺の毛細血管から水分がしみ出して間質、さらに肺胞腔にまで液体がたまる。最も多い原因は左心不全で、左心系の圧が上がると肺静脈・肺毛細血管の静水圧が上昇して液体が押し出される。このとき少量の赤血球も一緒に漏れ出すからピンク色になり、蛋白を含む液体が空気と混ざって石けんの泡のように泡立つんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、救急搬送された心不全の患者さんが座ったまま苦しそうにしていたのを思い出しました。あれが起坐呼吸ですね。
ドクタードクター
そう、横になると静脈還流が増えて肺うっ血が悪化するから、座ると楽になる。ほかにも両側の水泡音、喘鳴、冷汗、チアノーゼを伴うことが多い。胸部エックス線写真では肺門を中心に広がる蝶形陰影やKerley B線、胸水がみられる。
医学生医学生
喘鳴が出るなら、気管支喘息と紛らわしくなりませんか。
ドクタードクター
鋭いね。左心不全による肺うっ血で喘鳴が出る状態は「心臓喘息」と呼ばれるけれど、気管支喘息とは別の病態だ。気管支喘息は好酸球などが関わる気道の慢性炎症で、痰は白く粘り気の強い粘稠痰が典型。粘液栓をつくることもあり、喀痰中にはCurschmannらせん体やCharcot-Leyden結晶がみられることがある。
医学生医学生
病理学の講義でCharcot-Leyden結晶は好酸球由来だと習いました。ピンクの泡とは全然違いますね。
ドクタードクター
その通り。では肺炎はどうだろう。
医学生医学生
細菌性肺炎なら黄色や緑色の膿性痰ですよね。肺炎球菌だと鉄さび色、と覚えています。
ドクタードクター
よく覚えている。好中球などの炎症細胞が多いから膿性になる。ほかにクレブシエラでは赤褐色のゼリー状痰、緑膿菌では緑色の痰が知られている。血が混じることはあっても、ピンクの泡沫状痰は典型ではない。
医学生医学生
肺癌と肺梗塞は、血痰が出るという点では引っかかりそうです。
ドクタードクター
肺癌では腫瘍の脆い血管からの出血で血痰が出やすく、とくに中心型の扁平上皮癌で目立つ。浸潤性粘液性腺癌では大量の粘液性の痰が出ることもある。肺梗塞は深部静脈血栓が肺動脈を詰まらせ、その先の肺組織が出血性に壊死した状態で、突然の呼吸困難や胸膜痛に血痰・喀血を伴う。いずれも血性ではあるけれど、泡立ったピンク色の痰とは性質が違うんだ。
医学生医学生
血痰そのものより、肺胞が液体で満たされているかどうかが決め手なんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。最後に発展知識を押さえよう。肺水腫には心原性のほかに、ARDSや敗血症、高地肺水腫などで血管透過性が亢進する非心原性、低アルブミン血症による膠質浸透圧低下などもある。
医学生医学生
急性心原性肺水腫の患者さんが来たら、まず何をすればいいでしょうか。
ドクタードクター
座位を保って酸素を投与し、必要なら非侵襲的陽圧換気を使う。硝酸薬で前負荷・後負荷を下げ、ループ利尿薬で体液量を是正するのが初期対応の柱だ。ピンク色泡沫状痰は重症の肺水腫を示すサインだから、見たら一刻を争う状態だと考えて動いてほしい。

まとめ

ピンク色で泡沫状の痰は肺水腫に特徴的で、多くは急性左心不全による肺毛細血管静水圧の上昇が原因です。肺胞内に漏れ出た液体に少量の赤血球が混じってピンク色となり、空気と混ざり合って泡立つことでこの性状が生じます。臨床的には起坐呼吸、両側の水泡音、心臓喘息と呼ばれる喘鳴を伴い、胸部エックス線写真では蝶形陰影やKerley B線がみられます。細菌性肺炎の膿性痰や鉄さび色痰、気管支喘息の粘稠痰、肺癌や肺梗塞の血痰など、痰の性状と疾患の対応をまとめて理解しておくことが大切です。喀痰の観察は特別な検査がなくても行える情報源であり、緊急性の高い病態を早期に見抜く臨床判断の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

喀痰の性状は、呼吸器・循環器疾患を推定するための重要な手がかりである。本問では「ピンク色」かつ「泡沫状」という2つの特徴をもつ痰がどの疾患でみられるかが問われている。

ピンク色泡沫状痰が生じる仕組み

肺水腫では、肺の毛細血管から水分が血管の外へしみ出し、肺の間質さらに肺胞腔内にまで液体がたまる。最も多い原因は左心不全(心原性肺水腫)で、左心系の圧が上がると肺静脈・肺毛細血管の静水圧が上昇し、液体が押し出される。このとき少量の赤血球も一緒に漏れ出すため、痰は淡い赤色(ピンク色)を帯びる。さらに、蛋白を含む漏出液が肺胞や気道の中で呼吸の空気と激しく混ざり合うことで、石けんの泡のような細かい泡立ちが生じる。この結果、多量の「ピンク色泡沫状痰」が喀出される。

臨床像

急性の心原性肺水腫では、強い呼吸困難、起坐呼吸(横になると苦しく、座ると楽になる)、頻呼吸、両側の水泡音(coarse crackles)、喘鳴(心臓喘息)、冷汗、チアノーゼなどを伴う。胸部エックス線写真では肺門を中心に広がる蝶形陰影(butterfly shadow)、Kerley B 線、胸水などがみられる。 ほかの選択肢の疾患でも血痰や多量の痰がみられることはあるが、「ピンク色・泡沫状」の組み合わせが典型的なのは肺水腫であり、正解は肺水腫である。

選択肢考察

  1. ×a.  肺癌

    肺癌では、腫瘍が気道の粘膜に露出したり、腫瘍内の脆い血管から出血したりすることで、痰に血液が混じる血痰がみられる。特に太い気管支にできやすい中心型(肺門型)の扁平上皮癌で血痰が出やすい。また、浸潤性粘液性腺癌では粘液性の痰が大量に出ることがある(気管支漏)。しかし、ピンク色で泡沫状の痰は肺癌の典型的な所見ではない。

  2. ×b.  肺炎

    細菌性肺炎では、好中球などの炎症細胞を多く含む黄色〜緑色の膿性痰が典型であり、血液が混じることもある。起炎菌によって特徴的な痰がみられることがあり、肺炎球菌では鉄さび色の痰、クレブシエラ(肺炎桿菌)では赤褐色でゼリー状の痰、緑膿菌では緑色の痰が知られている。ピンク色泡沫状痰は肺炎の典型像ではない。

  3. ○c.  肺水腫

    肺水腫は、肺血管の外(間質や肺胞腔)に異常な量の水分がたまった状態である。主な原因は左心不全による肺毛細血管静水圧の上昇(心原性)で、ほかに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などによる血管透過性の亢進(非心原性)や、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下もある。肺胞内に漏れ出た液体には少量の赤血球が混じるためピンク色となり、空気と混ざり合って泡立つため、ピンク色泡沫状痰が特徴的にみられる。呼吸困難、起坐呼吸、水泡音、喘鳴を伴うことが多い。

  4. ×d.  肺梗塞

    肺梗塞は、主に下肢などの深部静脈にできた血栓が遊離して肺動脈を詰まらせ(肺血栓塞栓症)、その先の肺組織が出血性に壊死した状態である。肺は肺動脈と気管支動脈の二重の血流を受けるため、塞栓症があっても梗塞に至るのは一部に限られる。梗塞が起こると、突然の呼吸困難や胸痛(胸膜に炎症が及ぶと呼吸で増強する胸膜痛)に加え、血痰や喀血がみられる。痰は血性であるが、泡沫状のピンク色痰は典型的ではない。

  5. ×e.  気管支喘息

    気管支喘息は、好酸球などが関与する気道の慢性炎症により、気道が過敏になり発作性に狭くなる疾患である。痰は粘り気の強い粘稠痰が典型で、太い気道を塞ぐ粘液栓(mucus plug)をつくることもある。喀痰中には好酸球が増え、Curschmann(クルシュマン)らせん体や Charcot-Leyden(シャルコー・ライデン)結晶がみられることがある。血管透過性の亢進により漿液性の痰が出ることもあるが、ピンク色泡沫状痰は喘息の特徴ではない。なお、左心不全による肺うっ血で喘鳴を生じる状態は「心臓喘息」と呼ばれ、気管支喘息とは別の病態である。

喀痰の性状と主な疾患

・ピンク色泡沫状痰:肺水腫(特に急性左心不全) ・膿性痰(黄色〜緑色):細菌性肺炎、気管支拡張症、肺化膿症 ・鉄さび色痰:肺炎球菌性肺炎 ・赤褐色ゼリー状痰:クレブシエラ肺炎 ・緑色痰:緑膿菌感染 ・悪臭のある膿性痰:嫌気性菌による肺化膿症・膿胸 ・粘稠痰(白色で粘り気が強い):気管支喘息 ・多量の水様〜粘液性痰(気管支漏):浸潤性粘液性腺癌 ・血痰・喀血:肺癌、肺結核、気管支拡張症、肺梗塞、肺胞出血など ・三層痰(静置すると上層が泡、中層が粘液、下層が膿に分かれる):気管支拡張症、肺化膿症

肺水腫の分類

・心原性肺水腫:左心不全、僧帽弁狭窄症などで肺静脈圧・肺毛細血管圧が上昇する。 ・非心原性肺水腫:ARDS、敗血症、誤嚥、高地肺水腫、神経原性肺水腫などで、肺毛細血管の透過性が亢進する。 ・その他:低アルブミン血症(膠質浸透圧の低下)、リンパ流のうっ滞など。

急性心原性肺水腫への初期対応

座位を保ち、酸素投与(必要に応じて非侵襲的陽圧換気)、硝酸薬による前負荷・後負荷の軽減、ループ利尿薬による体液量の是正などを行う。

POINT

・ピンク色泡沫状痰=肺水腫(多くは急性左心不全)。赤血球を含む漏出液が空気と混ざって生じる。 ・肺水腫では起坐呼吸、水泡音、喘鳴(心臓喘息)、胸部エックス線写真での蝶形陰影を伴う。 ・痰の性状と疾患の対応(膿性痰→細菌性肺炎、鉄さび色痰→肺炎球菌、粘稠痰→気管支喘息、血痰→肺癌・結核・肺梗塞など)をまとめて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。