泣かせたら負け?―乳児診察は「静かな診察から、嫌がる診察は最後に」
第103回医師国家試験 F問題 第3問
国試問題にチャレンジ
乳児の診察で最後に診るのはどれか。
- a.大泉門
- b.咽頭
- c.心音
- d.肝
- e.深部反射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児は診察に協力できず、一度泣き出すと心音・呼吸音の聴診、腹部触診、腱反射、大泉門の評価が正確にできなくなるため、「泣かせない診察を先に、泣かせる診察を後に」行うのが原則です。特に大泉門は泣くだけで正常でも緊張・膨隆し、頭蓋内圧亢進との区別が難しくなるので、安静時に評価する必要があります。舌圧子を用いる咽頭の視診は不快感と嘔吐反射を伴い、ほぼ確実に泣かせるため、耳鏡による鼓膜の観察とともに診察の最後に行います。保護者に抱いてもらう、聴診器を温める、入室時に触れずに全身状態を観察するといった工夫も含め、診察の順序を意識することが小児の所見を正確にとるための基本になります。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】乳児を診察するときの順序の原則を問う問題である。
考え方
乳児は診察の意味を理解できず、いったん泣き出すと心音・呼吸音の聴診、腹部の触診、神経学的診察などの所見が正確にとれなくなる。そこで乳児の診察では、次の原則で順序を組み立てる。 ①まず、触れずにできる観察(顔色、機嫌、活気、呼吸の様子、姿勢、皮膚の色など)を行う。 ②次に、静かな状態が必要な診察(心音・呼吸音の聴診、腹部の触診、腱反射など)を、泣き出す前に済ませる。保護者に抱いてもらったままでもよい。 ③最後に、苦痛や不快感を与えて泣かせやすい診察(舌圧子を用いた咽頭の視診、耳鏡による鼓膜の観察など)を行う。 選択肢のうち、舌圧子を口に入れる必要があり、乳児が最も嫌がって泣きやすいのは咽頭の診察であるから、これを最後に行う。
選択肢考察
- ×a. 大泉門
大泉門は触診で大きさ・緊張・膨隆や陥凹の有無を評価する。膨隆は髄膜炎や水頭症などの頭蓋内圧亢進、陥凹は脱水を示唆する。ただし、激しく泣くと正常でも大泉門は緊張・膨隆するため、泣いた後では頭蓋内圧亢進との区別が難しくなる。安静時に評価する必要があり、泣かせる診察より前に行う。
- ○b. 咽頭
乳児は自分から口を大きく開けて協力することができないため、咽頭の視診には多くの場合舌圧子を用いる。舌圧子を舌に押し当てると不快感や嘔吐反射が生じ、乳児はほぼ確実に泣き出す。泣いた後は聴診・触診・反射の評価が困難になるため、咽頭の診察は耳鏡による鼓膜の観察などとともに診察の最後に行う。
- ×c. 心音
乳児の心拍数はもともと120~140/分前後と速く、泣くとさらに増加するうえ、泣き声で心音や心雑音が聞き取れなくなる。呼吸音の聴診も同様である。正確に評価するには乳児が静かなうちに行う必要があり、診察の早い段階で行う。
- ×d. 肝
肝臓の大きさ(肋骨弓下で何cm触れるか)や硬さは腹部の触診で評価する。泣くと腹筋が緊張して腹壁が硬くなり、肝臓の辺縁や腫瘤を触れにくくなるため、泣かせる前に行う。一般に胸部の聴診に続けて腹部の視診・聴診・触診を行う。
- ×e. 深部反射
深部腱反射(膝蓋腱反射など)は、筋肉の力が抜けてリラックスした状態でないと正しく評価できない。泣いて体に力が入っていると反射の亢進・減弱を判断しにくくなるため、泣かせるような診察より前に行う。
乳児診察の一般的な流れ
①入室時の観察:表情、機嫌、活気、顔色、呼吸の様子(多呼吸、陥没呼吸、呻吟の有無)、姿勢や自発運動。 ②問診:保護者から、発熱や哺乳状態などの全身症状と、咳・嘔吐・下痢などの臓器ごとの症状を分けて聴取すると整理しやすい。 ③身体診察(静かな状態が必要なものから):大泉門の触診、胸部の聴診(心音・呼吸音)、腹部の聴診・触診(肝・脾の大きさ)、頸部リンパ節の触診、結膜の観察、神経学的診察(腱反射、原始反射、筋緊張)など。細かな順序は医師により多少異なる。 ④最後に行うもの:舌圧子を用いた咽頭・口腔の視診、耳鏡による鼓膜の観察など、苦痛を伴い泣かせやすい手技。
乳児を泣かせない工夫
・保護者に抱いてもらったまま、あるいは膝の上で診察する。 ・聴診器は手で温めてから当てる。 ・玩具などで注意をそらしながら診察する。 ・眠っている場合は、起こさないうちに聴診を済ませる。
関連知識
・大泉門は通常1歳6か月ごろまでに閉鎖する。 ・乳児の正常心拍数はおよそ120~140/分、呼吸数はおよそ30~40/分で、年長児や成人より速い。
POINT
・乳児の診察は「泣かせない診察を先に、泣かせる診察を後に」が原則である。 ・聴診(心音・呼吸音)、腹部触診、大泉門の触診、腱反射は泣く前に行う。 ・舌圧子を使う咽頭の視診や耳鏡による鼓膜の観察は最後に行う。
