舌圧子は最後に―「泣かせない順番」が決める4か月健診の診察術
第120回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
4か月の乳児健康診査の際,診察方法で適切でないのはどれか。
- a.体重測定のため,衣類を脱がせる。
- b.股関節の診察のため,おむつを外す。
- c.啼泣するため,保護者に抱かせながら聴診する。
- d.口腔内の観察のため,診察の冒頭で舌圧子を用いる。
- e.胸の挙上の確認のため,診察台の上に腹臥位にする。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳幼児の診察は、触れずにできる観察から始め、聴診・腹部触診、股関節や反射の診察へと進み、舌圧子による口腔・咽頭観察や耳鏡など最も嫌がられる手技は最後に回すのが原則です。冒頭で舌圧子を使うと啼泣してその後の聴診や発達評価が困難になるため不適切であり、泣いて口を開けた機会に観察することもできます。一方、体重は衣類もおむつも外して裸で測定し、股関節はおむつを外して開排制限や皮膚溝の左右差、Allis徴候を確認し、聴診は保護者に抱いてもらって落ち着いた状態で行うのが適切です。4か月健診の要は首のすわりで、腹臥位での頭・胸の挙上と引き起こし反応で評価します。「泣かせない順番」と「正確に測る準備」を意識することは、健診だけでなく小児診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
4か月児健康診査(乳児健診)で、正確な所見を得るための診察の進め方が問われている。乳児は言葉で協力してくれないため、「正確に測る・見る」ための準備(脱衣、おむつを外すなど)と、「泣かせずに診る」ための工夫(診察の順序、保護者の抱っこの活用など)の両方が重要になる。
診察順序の原則
乳児がいったん泣き出すと、心音・呼吸音の聴診や腹部の触診は難しくなり、表情や自発運動の観察も不正確になる。そのため、乳幼児の診察は次の順で進めるのが基本である。 1. 触れずにできる観察(顔色、表情、機嫌、自発運動、呼吸の様子) 2. 静かな状態が必要な診察(聴診、腹部触診) 3. 多少刺激のある診察(股関節の開排、原始反射や姿勢反応、引き起こし反応など) 4. 最も嫌がられる診察(舌圧子を用いた咽頭・口腔の観察、耳鏡による鼓膜の観察) つまり、強い不快を与える手技ほど後に回す。この原則から外れているものを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 体重測定のため,衣類を脱がせる。
適切である。4か月児の体重は6〜7kg前後で、1日あたりの増加量は20〜30g程度にすぎない。衣類やおむつは数十〜数百gあり、着たまま測ると発育の評価(成長曲線上の位置や増加不良の判定)を誤らせるほどの誤差になる。乳児の体重は裸(衣類もおむつも外した状態)で測るのが原則である。脱衣によって皮膚の状態(湿疹、あざ、虐待を疑う外傷の有無)も同時に観察できる。
- ×b. 股関節の診察のため,おむつを外す。
適切である。4か月児健診は発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH、旧称は先天性股関節脱臼)のスクリーニングの重要な機会である。おむつを外し、股関節と膝を90度屈曲させて外側に開く開排位で開排制限がないかを確認するほか、大腿部や鼠径部の皮膚のしわの左右差、仰臥位で両膝を立てたときの膝の高さの差(Allis徴候)などを観察する。おむつを着けたままではこれらを正しく評価できない。
- ×c. 啼泣するため,保護者に抱かせながら聴診する。
適切である。乳児は見知らぬ環境や診察台に寝かされることで泣きやすく、泣いている間は呼吸音が泣き声にかき消され、心拍も速くなって心雑音の評価が難しくなる。保護者に抱いてもらうと安心して落ち着くことが多く、その状態で聴診するのは合理的な工夫である。必ずしも診察台に寝かせる必要はない。
- ○d. 口腔内の観察のため,診察の冒頭で舌圧子を用いる。
適切でない(正解)。舌圧子で舌を押し下げて口を開かせる操作は、乳幼児が最も嫌がる手技の一つである。診察の最初に行うと強く泣き出し、その後の聴診や腹部触診、自然な状態での運動発達の観察が困難になる。口腔・咽頭の観察は、耳鏡による診察などとともに診察の最後に回すのが原則である。なお、乳児が泣いて大きく口を開けたときには舌圧子を使わずに口腔内を観察できることも多い。
- ×e. 胸の挙上の確認のため,診察台の上に腹臥位にする。
適切である。4か月児健診の中心的な評価項目は首のすわり(頸定)であり、腹臥位にすると頭を持ち上げ、さらに前腕で上体を支えて胸まで持ち上げられるか(on elbows)を観察できる。4か月ではこの姿勢がとれるのが一般的で、頭部の挙上の程度や筋緊張(低緊張・過緊張)の評価に役立つ。首のすわりは仰臥位からの引き起こし反応(頭が体幹に遅れずについてくるか)と合わせて判定する。
4か月児健康診査のおもな確認項目
・身体計測:体重、身長、頭囲、胸囲を測定し、成長曲線で評価する。体重は出生時のおよそ2倍になる時期である。 ・粗大運動:首のすわり(頸定)。3〜4か月でみられ、4か月児では大多数が完成している。5〜6か月でもすわらない場合は発達遅滞や神経筋疾患を考えて精査する。 ・精神・社会性:あやすと声を出して笑う、動くものを左右180度追視する、声の方向を向く。 ・微細運動:持たせたガラガラを握って振る、手を口に持っていく、両手を正中で合わせる。 ・股関節:開排制限、大腿・鼠径部皮膚溝の左右差、Allis徴候。リスク因子(女児、骨盤位分娩、家族歴、寒冷地・冬生まれなど)があれば超音波検査などの二次検診につなぐ。 ・その他:大泉門の大きさと膨隆・陥凹、心雑音、腹部腫瘤、停留精巣、皮膚所見(乳児血管腫、色素斑など)、眼位・眼振、原始反射の状態(Moro反射などが消失に向かっているか)。
主な運動発達の目安
首のすわり:3〜4か月、寝返り:5〜6か月、ひとり座り:7〜8か月、はいはい:8〜9か月、つかまり立ち:9〜10か月、つたい歩き:10〜11か月、ひとり立ち:11〜12か月、ひとり歩き:1歳〜1歳3か月、走る:1歳6か月〜2歳、片足立ち:3歳、片足跳び(ケンケン):4歳、スキップ:5歳。
主な精神発達・微細運動の目安
追視:2〜3か月、あやし笑い:3〜4か月、人見知り:6〜8か月、手を伸ばして物をつかむ:5〜6か月、母指と示指でつまむ:9〜10か月、意味のある単語:1歳前後、要求の指さし:1歳前後、二語文:2歳、名前・年齢が言える:3歳。図形の模写は円が3歳、四角が4歳、三角が5歳が目安である。
乳幼児診察のコツ
・最初は離れた位置から観察し、警戒心を与えない。 ・聴診器は手で温めてから当てる。 ・保護者の膝の上や抱っこで診察できる部分はそうする。 ・不快な手技(舌圧子、耳鏡、採血など)は最後に回す。
POINT
・乳幼児の診察は「観察 → 聴診・触診 → 刺激の強い手技」の順で行い、舌圧子による口腔・咽頭の観察は最後に回す。 ・体重は裸で測定し、股関節はおむつを外して開排制限・皮膚溝の左右差を確認する。 ・泣かせないことが正確な聴診の前提であり、保護者に抱かせての聴診は適切な工夫である。 ・4か月児健診の要は首のすわりで、腹臥位での頭・胸の挙上と引き起こし反応で評価する。
