「飲むワクチン」はどれ?―英語の疾患名と接種経路で読み解くポリオワクチン
第103回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
予防にoral vaccineを使用するのはどれか。
- a.Japanese encephalitis
- b.German measles
- c.whooping cough
- d.poliomyelitis
- e.measles
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
oral vaccineは経口ワクチンのことで、選択肢の中ではポリオ(poliomyelitis)に経口弱毒生ワクチン(OPV、Sabin)があり、出題当時の日本の定期接種でも用いられていました。OPVは腸管粘膜免疫を誘導でき流行阻止に優れる一方、まれにワクチン関連麻痺を起こすため、日本では2012年に注射の不活化ポリオワクチン(IPV)へ切り替えられ、現在は五種混合ワクチンとして接種されています。日本脳炎(Japanese encephalitis)・百日咳(whooping cough)は不活化ワクチン、麻疹(measles)・風疹(German measles)はMR生ワクチンで、いずれも注射で接種し、現在の日本で経口投与する定期接種ワクチンはロタウイルスワクチンです。ワクチンの「種類(生・不活化・トキソイド)」と「接種経路」を区別して整理し、疾患名の英語表記とあわせて覚えることが、国試対策にも保護者への説明にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
「oral vaccine」は経口ワクチン、すなわち注射ではなく口から飲ませて接種するワクチンである。本問は、英語で書かれた疾患名を日本語に置き換えられるかという医学英語の力と、それぞれの疾患に対するワクチンの種類・接種経路を知っているかという予防接種の知識を同時に確認している。
解き方
まず各選択肢を訳す。Japanese encephalitis は日本脳炎、German measles は風疹、whooping cough は百日咳、poliomyelitis は急性灰白髄炎(ポリオ)、measles は麻疹である。 次に、それぞれのワクチンの投与経路を思い出す。日本で使われる日本脳炎・風疹・百日咳・麻疹のワクチンはいずれも注射で接種する。一方、ポリオには経口で投与する弱毒生ワクチン(OPV:oral poliovirus vaccine、Sabin ワクチン)が存在し、出題当時(2009年)の日本の定期接種はこの OPV を用いていた。したがって正解は poliomyelitis である。
現在の状況
日本では2012年9月に定期接種が OPV から注射で接種する不活化ポリオワクチン(IPV)へ切り替えられ、同年11月からはジフテリア・百日咳・破傷風と組み合わせた四種混合ワクチン(DPT-IPV)が導入された(さらに2024年4月からはヒブワクチンも加えた五種混合ワクチンが定期接種に用いられている)。そのため、現在の日本の制度に当てはめると、選択肢の中に経口ワクチンで予防する疾患は存在しないことになる。ただし世界的にはポリオ流行地域を中心に OPV が今も使われており、「ポリオには経口生ワクチンがある」という知識自体は重要である。なお、現在の日本の定期接種で経口投与するワクチンはロタウイルスワクチンである。
選択肢考察
- ×a. Japanese encephalitis
日本脳炎である。日本脳炎ウイルスはコガタアカイエカが媒介するフラビウイルスで、予防には不活化ワクチンを注射(日本では皮下注)で接種する。経口ワクチンではない。なお、旧来のマウス脳由来ワクチンと重い副反応である急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関連が疑われ、2005年に積極的勧奨が差し控えられた。その後、細胞培養で製造した乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが2009年に承認され、2010年度から積極的勧奨が再開されている。
- ×b. German measles
風疹である(rubella とも呼ぶ)。予防には弱毒生ワクチンを用い、日本では通常、麻疹と組み合わせた麻疹風疹混合ワクチン(MR ワクチン)を皮下注で接種する。定期接種は1歳時(第1期)と小学校入学前の1年間(第2期)の2回である。出題当時は、2008年度から5年間の時限措置として中学1年相当(第3期)と高校3年相当(第4期)にも接種機会が設けられていた。経口投与ではないので誤りである。
- ×c. whooping cough
百日咳である(pertussis とも呼ぶ)。「whoop」は、連続する咳の発作の後に息を吸い込むときのヒューという笛のような音(吸気性笛声)を指す。予防には百日咳菌の成分を用いた不活化ワクチン(無細胞ワクチン)を注射で接種する。出題当時はジフテリア・破傷風と組み合わせた三種混合ワクチン(DPT)、2012年からはポリオを加えた四種混合ワクチン(DPT-IPV)、2024年からはヒブも加えた五種混合ワクチンとして接種される。経口ワクチンではない。
- ○d. poliomyelitis
急性灰白髄炎(ポリオ)である。ポリオウイルスは経口感染し腸管で増殖した後、一部で脊髄前角細胞を侵して弛緩性麻痺を起こす。ポリオワクチンには、Sabin が開発した経口弱毒生ワクチン(OPV)と、Salk が開発した注射用の不活化ワクチン(IPV)の2種類がある。OPV は飲ませるだけで接種でき、腸管粘膜の免疫(分泌型 IgA)も誘導できるため、集団での流行阻止に優れる。出題当時の日本の定期接種は OPV であったため、本選択肢が正解となる。一方、OPV にはまれに弱毒株が神経毒性を取り戻してワクチン関連麻痺(VAPP)を起こす欠点があり(数百万回の接種に1例程度)、日本では2012年9月に IPV へ切り替えられた。現行制度の下では日本での接種は注射であり、この点は押さえておく必要がある。
- ×e. measles
麻疹(はしか)である(rubeola とも呼ぶ)。予防には弱毒生ワクチンを用い、日本では MR ワクチンとして1歳時(第1期)と小学校入学前の1年間(第2期)の2回、皮下注で接種する。2回接種は2006年度から導入され、2008年度からの5年間は中学1年相当(第3期)・高校3年相当(第4期)の追加接種も行われた。経口ワクチンではない。「German measles(風疹)」と「measles(麻疹)」は名前が似ているが別の疾患である点に注意する。
ワクチンの種類
・生ワクチン:病原体を弱毒化したもの。体内で増殖するため強い免疫が得られるが、免疫不全者・妊婦には原則禁忌。例:麻疹、風疹、MR、水痘、おたふくかぜ、BCG、ロタウイルス、経口ポリオ(OPV)、黄熱。 ・不活化ワクチン:病原体を殺したもの、またはその成分を用いたもの。複数回の接種が必要なことが多い。例:日本脳炎、不活化ポリオ(IPV)、百日咳(無細胞)、インフルエンザ、B型肝炎、ヒブ、肺炎球菌、HPV。 ・トキソイド:細菌の毒素を無毒化したもの。例:ジフテリア、破傷風。
接種経路
日本のワクチンの多くは皮下注または筋注で接種する。BCG は経皮接種(管針法)、ロタウイルスワクチンは経口接種である。かつての経口生ポリオワクチンも経口であった。海外では経口コレラワクチンや経口腸チフスワクチンなども使われている。
疾患名の英語
・Japanese encephalitis:日本脳炎 ・German measles / rubella:風疹 ・measles / rubeola:麻疹 ・whooping cough / pertussis:百日咳 ・poliomyelitis / polio:急性灰白髄炎(ポリオ) ・mumps:流行性耳下腺炎 ・chickenpox / varicella:水痘 ・diphtheria:ジフテリア、tetanus:破傷風
予防接種法の考え方の変化
予防接種はかつて罰則付きの義務接種であったが、1994年の改正で努力義務(勧奨接種)となった。社会全体を感染症から守る集団防衛の考え方に加え、個人を守る個人防衛の考え方が重視されるようになった。
POINT
・oral vaccine=経口ワクチン。出題当時の日本では経口生ポリオワクチン(OPV、Sabin)が定期接種に用いられていた。 ・日本では2012年9月に不活化ポリオワクチン(IPV、注射)へ切り替えられ、DPT-IPV(四種混合)、2024年からは五種混合として接種されている。 ・現在の日本の定期接種で経口投与するのはロタウイルスワクチン。 ・German measles(風疹)と measles(麻疹)、whooping cough(百日咳)など、疾患名の英語を確実に覚える。
