ドキドキは心臓の頑張りの証―貧血の症状を「低酸素」と「代償」に分けて考える
第103回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
貧血への代償機序としての症候はどれか。
- a.浮腫
- b.頭痛
- c.失神
- d.頻脈
- e.便秘
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
貧血ではヘモグロビン減少により動脈血酸素含量が低下し、組織が低酸素に陥ります。症状は、倦怠感・めまい・頭痛・失神など低酸素そのものによるものと、心拍出量を増やして酸素供給を保とうとする代償反応によるものに分けて整理でき、頻脈・動悸、息切れ、収縮期駆出性雑音が後者の代表です。浮腫は代償が限界を超えた高拍出性心不全の結果であり、便秘は鉄剤の副作用などで生じても代償機序とは無関係です。慢性貧血では代償が働くため高度でも無症状のことがある一方、急性出血では代償が追いつかず失神やショックを来しやすい点も重要です。症状を病態生理と結びつけて理解することは、貧血患者の重症度や緊急度を判断する臨床力の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
貧血でみられる症候を、「酸素運搬能の低下そのものによる症状」と「それを補おうとする生体の代償反応による症状」に分けて考えられるかを問う問題である。
貧血の病態
貧血はヘモグロビン(Hb)濃度が低下した状態であり、血液が運べる酸素の量(動脈血酸素含量)が減少する。各組織への酸素供給量は「心拍出量×動脈血酸素含量」で決まるため、酸素含量が減れば組織は酸素不足(低酸素)に陥る。
二つの症状群
・酸素不足そのものによる症状:全身倦怠感、易疲労感、めまい、頭痛、耳鳴、集中力低下、失神など。特に酸素需要の大きい脳や筋肉に症状が現れやすい。 ・代償機序による症状:減った酸素含量を補うため、交感神経が活性化して心拍数と1回拍出量が増え、心拍出量が増大する。これが頻脈・動悸として自覚される。さらに呼吸促進による息切れ、血流増加に伴う収縮期駆出性雑音(機能性心雑音)なども代償反応の表れである。 したがって、代償機序としての症候に該当するのは頻脈である。
選択肢考察
- ×a. 浮腫
誤り。高度の貧血が長く続くと、心拍出量を増やし続けることで心臓に負担がかかり、高拍出性心不全を来して浮腫が出現することがある。しかしこれは代償が破綻した結果(合併症)であり、代償機序そのものによる症候ではない。
- ×b. 頭痛
誤り。頭痛は脳への酸素供給が不足することによって生じる、貧血の組織低酸素症状の一つである。酸素不足を補おうとする反応ではない。
- ×c. 失神
誤り。失神は脳血流による酸素供給が一過性に不十分となって意識を失う現象であり、貧血では低酸素そのものによる症状に分類される。特に急性の大量出血などで代償が追いつかない場合に起こりやすく、代償機序による症候ではない。
- ○d. 頻脈
正しい。Hbが減って血液1 mLあたりの酸素量が低下すると、生体は心拍出量を増やして単位時間あたりに組織へ届ける血液量を増やし、酸素供給を保とうとする。交感神経の緊張により心拍数と心収縮力が増し、これが頻脈として現れ、患者は動悸として自覚する。まさに貧血に対する代償反応の代表的な症候である。
- ×e. 便秘
誤り。便秘は貧血の病態(酸素運搬能の低下)やその代償機序とは基本的に関係しない。なお、鉄欠乏性貧血に対する経口鉄剤の副作用として便秘がみられることや、鉛中毒のように貧血と便秘を併せて来す疾患はあるが、いずれも代償機序とは無関係である。
貧血に対する主な代償機序
1. 心拍出量の増加:心拍数と1回拍出量の増加により組織への血流量を増やす(頻脈、動悸、収縮期駆出性雑音、脈圧の増大)。 2. 血流の再分布:皮膚や腎臓などの血管を収縮させ、脳や心臓など重要臓器へ血流を優先的に回す(皮膚の蒼白は貧血そのものに加え、この血管収縮も関与する)。 3. 酸素解離曲線の右方移動:赤血球内の2,3-BPG(2,3-ビスホスホグリセリン酸)が増加し、Hbが末梢組織で酸素を手放しやすくなる。 4. 呼吸の促進:息切れ(労作時呼吸困難)として自覚される。 5. 赤血球産生の亢進:腎臓からのエリスロポエチン分泌が増加し、骨髄での赤血球産生が促される(造血能が保たれていれば網赤血球が増加する)。
症状の出方の特徴
慢性にゆっくり進行する貧血では代償機序が十分に働くため、Hbがかなり低くても自覚症状が乏しいことがある。一方、急性出血では代償が間に合わず、少ない低下幅でも失神やショックを来しやすい。代償が限界を超えると高拍出性心不全となり、浮腫や呼吸困難が出現する。
POINT
・貧血の症状は「低酸素そのものによる症状」と「代償反応による症状」に分けて整理する ・代償による症候:頻脈・動悸、息切れ、収縮期駆出性雑音 ・低酸素による症候:倦怠感、めまい、頭痛、失神 ・浮腫は代償が破綻した高拍出性心不全の結果であり、代償機序そのものではない
