StudyMed医師国家試験

痛くない、硬い、動かない―触診で見抜くがん転移リンパ節の三拍子

第103回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第15問

がんの転移によるリンパ節腫脹の特徴はどれか。

  1. a.軟らかい。
  2. b.圧痛がない。
  3. c.可動性がある。
  4. d.皮膚に熱感がある。
  5. e.相互の癒合がない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、触診で得られるリンパ節の性状から腫脹の原因を推定する問題だ。リンパ節が腫れる原因は大きく分けて炎症、がんの転移、悪性リンパ腫がある。それぞれで硬さ、痛み、皮膚の熱感、動き、リンパ節同士のくっつき方がどう違うかを整理するのがポイントだよ。
医学生医学生
がんの転移なら、腫瘍がどんどん増えて腫れるので、痛そうな気がしますが……。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、実は逆なんだ。リンパ節が痛むのは主に炎症のとき。細菌感染などで急に腫れると被膜が一気に引き伸ばされ、炎症性メディエーターも出るから痛みや圧痛が出る。がんの転移はゆっくり増大し、炎症反応も伴いにくいので、通常は自発痛も圧痛もないんだ。
医学生医学生
つまり「痛くない」ほうがむしろ怖い、ということですね。
ドクタードクター
その通り。痛くないから患者さん自身が気づくのも遅れやすい。無痛性で硬いリンパ節腫脹は悪性を疑う大事な手がかりだよ。だから正解は「圧痛がない」だ。ほかの性状も一つずつ見ていこう。まず硬さはどうかな。
医学生医学生
OSCEの練習で頸部リンパ節の触診をしたとき、「転移は石のように硬い」と習いました。だから「軟らかい」は違いますね。
ドクタードクター
よく覚えているね。がん細胞が充満して線維化も伴うから、石様硬と表現されるほど硬くなる。軟らかく触れるのは、炎症で浮腫状に腫れた反応性リンパ節の典型だ。では皮膚の熱感は?
医学生医学生
熱感や発赤は血管拡張や血流増加による炎症所見なので、急性リンパ節炎のほうですね。
ドクタードクター
正解。がんの転移では通常、こうした炎症所見は伴わない。次に可動性だ。ここは病理の知識がつながるところだよ。
医学生医学生
病理学の講義で、がんは被膜を越えて浸潤すると習いました。周りの組織に食い込んだら、動かなくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそれ。腫瘍が被膜外へ浸潤すると、皮膚や深部組織に癒着・固定されて可動性が乏しくなる。可動性が良好なのは反応性リンパ節腫脹の特徴なんだ。同じ理由で、隣り合うリンパ節同士も被膜外の腫瘍でつながってしまう。
医学生医学生
だから転移ではリンパ節が癒合して一塊になる、つまり「相互の癒合がない」は誤り、ということですね。
ドクタードクター
その通り。一つひとつ区別して触れられるのは炎症性に多い所見だ。まとめると、転移は硬い、無痛、熱感なし、可動性不良、癒合あり。炎症性はその正反対と覚えると整理しやすい。
医学生医学生
血液内科の実習では、悪性リンパ腫は「消しゴムくらいの硬さ」と教わりました。転移とはまた違うんですね。
ドクタードクター
いい比較だね。悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性、可動性は比較的保たれることが多いけれど、進行すると癒合する。転移ほど石のようには硬くない。もう一つ、結核性リンパ節炎は初期には可動性があっても、進むと周囲と癒着し、乾酪壊死で波動を触れたり皮膚に瘻孔をつくったりすることがある。
医学生医学生
部位も大事ですよね。左鎖骨上窩のリンパ節腫脹はVirchow転移で、胃癌を疑うと消化器内科で教わりました。
ドクタードクター
その通り。胸管を経由して腹部の悪性腫瘍が転移する部位だ。腋窩なら乳癌、鼠径なら下肢・外陰部・肛門、頸部なら頭頸部癌や甲状腺癌というように、部位から原発巣を推定できる。ほかにも、径が大きく長期間縮小しない、高齢である、といった点も悪性を疑う手がかりになる。
医学生医学生
触診で悪性を疑ったら、最終的にはどう確定するんですか。
ドクタードクター
触診はあくまで推定で、確定には穿刺吸引細胞診やリンパ節生検による病理学的評価が必要だ。触診で「これは怪しい」と気づけるかどうかが、早期に精査へつなげられるかの分かれ目になるんだよ。

まとめ

がんの転移によるリンパ節腫脹は、炎症反応を伴わずゆっくり増大するため圧痛や熱感がなく、腫瘍細胞の充満と線維化で石様に硬く、被膜外浸潤により周囲組織に固定されて可動性が乏しく、リンパ節同士が癒合しやすいのが特徴です。これに対し炎症性(反応性)リンパ節腫脹は、軟らかく圧痛・熱感を伴い、可動性が良好で癒合しないという正反対の性状を示し、悪性リンパ腫は弾性硬・無痛性で両者の中間的な所見をとります。左鎖骨上窩のVirchow転移(胃癌など)や腋窩(乳癌)など、部位から原発巣を推定することも重要です。触診はあくまで推定であり、悪性を疑えば穿刺吸引細胞診や生検で確定します。「痛くない硬いしこり」を見逃さない姿勢は、がんの早期発見につながる基本的な診察技能です。

解答・解説

正解はbです

触診で得られるリンパ節の性状から、腫脹の原因(炎症・がんの転移・悪性リンパ腫など)を推定できるかを問う問題である。

触診で評価する項目

リンパ節腫脹を診るときは、部位、大きさ、硬さ、圧痛の有無、表面の皮膚の発赤・熱感、可動性(周囲組織との癒着の有無)、リンパ節同士の癒合の有無を確認する。

がんの転移によるリンパ節の特徴

がん細胞がリンパ節内で増殖すると、線維化を伴って石のように硬くなる。腫瘍の増殖は炎症と異なり急激な被膜の伸展や炎症性メディエーターの放出を伴いにくいため、通常は痛み・圧痛・熱感がない。さらにがんは被膜を越えて周囲へ浸潤するため、周囲組織や皮膚に固定されて動きにくくなり、隣り合うリンパ節同士が癒合して一塊となることが多い。 一方、細菌感染などによる炎症性(反応性)のリンパ節腫脹は、軟らかく、圧痛や熱感を伴い、可動性が保たれ、癒合しないのが典型である。これらを対比すると、がん転移の特徴として正しいのは「圧痛がない」である。

選択肢考察

  1. ×a.  軟らかい。

    誤り。がんの転移リンパ節は、腫瘍細胞の充満と線維化により硬く触れる(石様硬と表現されることがある)。軟らかいリンパ節は、炎症によって浮腫状に腫れた反応性リンパ節腫脹に典型的である。なお、悪性リンパ腫では弾性硬(消しゴム様)と表現されることが多く、転移性ほど硬くない。

  2. ○b.  圧痛がない。

    正しい。がんの転移によるリンパ節腫脹は炎症反応を伴わず、ゆっくり増大するため被膜が急に引き伸ばされることもなく、通常は自発痛も圧痛もない。痛みを伴わないため患者が気づきにくく、無痛性で硬いリンパ節腫脹はむしろ悪性を疑う重要な手がかりとなる。

  3. ×c.  可動性がある。

    誤り。転移したがん細胞はリンパ節の被膜を破って周囲組織へ浸潤するため、リンパ節は皮膚や深部組織に癒着・固定され、可動性が乏しくなる。可動性が良好なのは炎症性(反応性)リンパ節腫脹の特徴である。

  4. ×d.  皮膚に熱感がある。

    誤り。表面の皮膚の熱感や発赤は、炎症に伴う局所の血管拡張・血流増加による所見であり、細菌感染などによる急性リンパ節炎でみられる。がんの転移では炎症所見を伴わないのが通常である。

  5. ×e.  相互の癒合がない。

    誤り。がんの転移ではリンパ節の被膜外へ腫瘍が広がるため、隣接する複数のリンパ節が互いに癒合し、一塊の硬い腫瘤として触れることが多い。相互の癒合がなく一つひとつを区別して触れられるのは、炎症性リンパ節腫脹で多い所見である。

リンパ節腫脹の性状による鑑別

・炎症性(反応性):軟らかい〜弾性軟、圧痛・自発痛あり、発赤・熱感あり、可動性良好、癒合なし。急性に出現し、原因の治療で縮小する。 ・がんの転移:非常に硬い(石様硬)、圧痛なし、熱感なし、可動性不良(周囲と固着)、癒合あり。 ・悪性リンパ腫:弾性硬(ゴム様)、圧痛なし、可動性は比較的保たれることが多いが、進行すると癒合する。 ・結核性リンパ節炎:初期は可動性があるが、進行すると周囲と癒着し、乾酪壊死により波動を触れたり皮膚に瘻孔を形成したりすることがある。

悪性を疑う所見

一般に、径が大きい(目安として1 cmを超え、特に長期間縮小しない)、硬い、無痛性、可動性不良、癒合、年齢が高い、鎖骨上窩など特定部位の腫脹は悪性を疑う手がかりとなる。

部位と原発巣の関係の例

・左鎖骨上窩リンパ節(ウィルヒョウ〈Virchow〉転移):胃癌など腹部の悪性腫瘍が胸管を経て転移する。 ・腋窩リンパ節:乳癌。 ・鼠径リンパ節:下肢・外陰部・肛門の悪性腫瘍。 ・頸部リンパ節:頭頸部癌、甲状腺癌。 確定診断には、リンパ節生検や穿刺吸引細胞診による病理学的評価が必要である。

POINT

・がん転移のリンパ節:硬い、無痛性(圧痛なし)、熱感なし、可動性不良、相互に癒合 ・炎症性のリンパ節:軟らかい、圧痛・熱感あり、可動性良好、癒合なし ・悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性 ・左鎖骨上窩リンパ節転移はウィルヒョウ転移(胃癌など)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。