「疾患なし」を分母に置け―2×2表で解く臨床疫学指標の落とし穴
第103回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
臨床疫学的指標について正しいのはどれか。
- a.ROC曲線は感度と尤度比から描ける。
- b.バイアスとは交絡因子のことである。
- c.信頼区間は相対危険度から計算できる。
- d.検査後確率は対象集団によって変わらない。
- e.特異度は疾病を有さない者のうちの検査陰性者の割合である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
臨床疫学指標は2×2表で「何を分母にとるか」を意識すると整理しやすく、特異度は疾患のない人のうち検査陰性となる割合、感度は疾患のある人のうち検査陽性となる割合です。感度・特異度・尤度比は原則として有病率に依存しない一方、的中率や検査後確率は検査前確率によって変わるため、同じ検査でも対象集団によって陽性の意味が異なります。ROC曲線は縦軸に感度、横軸に1-特異度をとって描き、信頼区間の算出には推定値だけでなく標準誤差が必要です。バイアスは系統誤差の総称で、交絡はその一つとして扱われることが多いものの同義ではなく、解析段階で調整できる点が特徴です。これらの理解は、検査結果の解釈や論文の批判的吟味という日常診療の土台になります。
解答・解説
正解はeです
臨床疫学で用いる基本指標(感度・特異度・尤度比・検査後確率・ROC曲線・信頼区間)と、研究結果をゆがめる要因(偶然誤差・バイアス・交絡)の定義を正確に理解しているかを問う問題である。
考え方
検査の性能は、疾患の有無(真の状態)と検査結果(陽性・陰性)を組み合わせた2×2分割表で整理すると理解しやすい。 ・真陽性(TP):疾患あり・検査陽性 ・偽陰性(FN):疾患あり・検査陰性 ・偽陽性(FP):疾患なし・検査陽性 ・真陰性(TN):疾患なし・検査陰性 感度=TP/(TP+FN)、特異度=TN/(FP+TN)であり、どちらも「真の状態」を分母にとるため、原則として対象集団の有病率に左右されない検査固有の性質である。一方、陽性的中率(PPV)=TP/(TP+FP)のように「検査結果」を分母にとる指標や検査後確率は、有病率(検査前確率)によって変化する。 この枠組みに照らして各選択肢の記述を検討すると、特異度の定義を正しく述べたeが正解となる。
選択肢考察
- ×a. ROC曲線は感度と尤度比から描ける。
誤り。ROC曲線(receiver operating characteristic curve、受信者動作特性曲線)は、検査のカットオフ値を少しずつ変えたときの感度を縦軸に、1-特異度(偽陽性率)を横軸にとって点を結んだ曲線である。尤度比は描画に用いる軸ではない。なお、ROC曲線上のある点と原点を結ぶ直線の傾きは陽性尤度比(感度/(1-特異度))に相当するという関係はあるが、「感度と尤度比から描く」わけではない。
- ×b. バイアスとは交絡因子のことである。
誤り。バイアス(偏り)は、研究の計画・実施・解析の過程で生じ、結果を真の値から一定方向にずらす系統誤差の総称である。代表的なものに選択バイアス(対象者の選び方による偏り)と情報バイアス(思い出しバイアスや測定の誤りなど、情報の収集過程による偏り)があり、交絡はこれらと並ぶ系統誤差の一つとして扱われることが多い。つまり交絡はバイアスの一部を構成し得るが、両者は同義ではない。また、選択バイアスや情報バイアスはデータを集めた後に取り除くことが困難であるのに対し、交絡は交絡因子のデータが得られていれば層別解析や多変量解析によって解析段階で調整できる点も異なる。
- ×c. 信頼区間は相対危険度から計算できる。
誤り。信頼区間(confidence interval)は、標本から得た推定値をもとに、真の値(母数)が含まれると考えられる範囲を確率的に示したものである。例えば95%信頼区間は、推定値±1.96×標準誤差でおおよそ求められ、計算には推定値のばらつきを示す標準誤差(標本の大きさや分散から求める)が必要である。相対危険度の値そのものだけでは幅を決めることはできない。相対危険度にも信頼区間を付けて示すことはできるが、その場合も各群の人数や発生数から標準誤差を求める必要がある。
- ×d. 検査後確率は対象集団によって変わらない。
誤り。検査後確率は、検査結果が出た後にその人が疾患を持つ確率であり、陽性の場合は陽性的中率に一致する。検査前確率(対象集団の有病率)に尤度比をかけ合わせる形(検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比)で求められるため、同じ検査でも有病率の高い集団(例:専門外来の受診者)では陽性時の検査後確率が高くなり、有病率の低い集団(例:一般住民の検診)では低くなる。
- ○e. 特異度は疾病を有さない者のうちの検査陰性者の割合である。
正しい。特異度は、疾患を持たない人のうち、検査で正しく陰性と判定される人の割合であり、真陰性/(偽陽性+真陰性)で表される。特異度が高い検査は偽陽性が少ないため、その検査で陽性となれば疾患が存在する可能性が高く、確定診断(除外ではなく診断の確定、rule in)に有用である。
検査指標の整理
・感度=TP/(TP+FN):疾患ありの人を陽性と判定する割合。高感度の検査で陰性なら疾患を否定しやすい(rule out)。 ・特異度=TN/(FP+TN):疾患なしの人を陰性と判定する割合。高特異度の検査で陽性なら疾患を確定しやすい(rule in)。 ・陽性的中率=TP/(TP+FP)、陰性的中率=TN/(FN+TN):有病率に依存する。有病率が上がると陽性的中率は上がり、陰性的中率は下がる。 ・陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度:感度・特異度から求まるため有病率に依存しない。 ・検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比(オッズ=確率/(1-確率))。
ROC曲線
縦軸に感度、横軸に1-特異度をとる。曲線が左上隅(感度1・偽陽性率0)に近いほど識別能の高い検査であり、曲線下面積(AUC)は0.5(対角線、偶然と同程度)から1.0(完全な識別)までの値をとる。左上隅に最も近い点が、感度と特異度のバランスのよいカットオフ値の目安となる。
誤差の種類
・偶然誤差:標本の大きさを増やすと小さくなる。信頼区間やp値で評価する。 ・系統誤差(バイアス):標本を大きくしても減らない。選択バイアス、情報バイアス、交絡など。 ・交絡:曝露と結果の双方に関連し、かつ曝露から結果への中間因子ではない第三の因子によって見かけの関連が生じる現象。計画段階では無作為化・限定・マッチング、解析段階では層別化・多変量解析で対処する。
POINT
・特異度=疾患のない人のうち検査陰性の割合、感度=疾患のある人のうち検査陽性の割合 ・感度・特異度・尤度比は有病率に依存しないが、的中率・検査後確率は有病率に依存する ・ROC曲線は縦軸が感度、横軸が1-特異度 ・交絡はバイアス(系統誤差)の一種として扱われるが同義ではなく、解析段階で調整可能 ・信頼区間の計算には標準誤差が必要
