麻疹・水痘・結核―「空気でうつる3つ」を押さえれば院内感染対策は怖くない
第103回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
麻疹と同様の感染経路別予防策を行うのはどれか。2つ選べ。
- a.結核菌
- b.A群レンサ球菌
- c.水痘・帯状疱疹ウイルス
- d.多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉
- e.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
院内感染対策は、全患者に行う標準予防策を土台に、病原体の伝播様式に応じて空気・飛沫・接触の感染経路別予防策を上乗せする二段構えです。麻疹は直径5μm以下の飛沫核で広がる空気感染の代表で、同じ空気感染予防策の対象は水痘(播種性や免疫不全者の帯状疱疹を含む)と結核であり、陰圧個室・医療従事者のN95マスク・移動時の患者のサージカルマスクが要点です。A群レンサ球菌やインフルエンザ、風疹、ムンプスなどは飛沫感染でサージカルマスクで対応し、MRSAやMDRPなどの耐性菌は接触感染で手指衛生と手袋・ガウンが中心になります。「空気感染は麻疹・水痘・結核」を確実に押さえ、経路ごとの対策を対応づけて覚えることが、実習や臨床の現場で自分と患者を守る基本となります。
解答・解説
正解はa, cです
テーマ
病院内での感染対策は、すべての患者に共通して行う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」を土台とし、そのうえで病原体ごとの伝播様式に応じて「感染経路別予防策」を上乗せするという二段構えになっている。感染経路別予防策は、空気感染予防策・飛沫感染予防策・接触感染予防策の3つに分けられる。
麻疹の感染経路
麻疹ウイルスは空気感染(飛沫核感染)をする代表的な病原体である。患者の咳やくしゃみで出た飛沫から水分が蒸発すると、直径5μm以下の微小な粒子(飛沫核)が残る。飛沫核は軽いため長時間空気中を漂い、空調の気流に乗って離れた場所まで運ばれるので、同じ部屋にいなくても感染が起こりうる。
正解を導く考え方
したがって本問は「空気感染予防策の対象となる病原体を2つ選ぶ」問題と読み替えられる。空気感染予防策の対象として押さえるべき代表は、麻疹ウイルス・水痘(帯状疱疹)ウイルス・結核菌の3つである。この3つを覚えていれば、選択肢のうち結核菌と水痘・帯状疱疹ウイルスが該当することがすぐにわかる。残りは、A群レンサ球菌が主に飛沫感染、MDRPとMRSAが接触感染の代表であり、それぞれ別の予防策の対象となる。
選択肢考察
- ○a. 結核菌
結核菌は、肺結核(特に喀痰塗抹陽性例や空洞を伴う例)の患者が咳をすることで生じる飛沫核を吸い込むことで感染する、空気感染の代表的な病原体である。そのため麻疹と同じく空気感染予防策の対象となり、陰圧個室への収容と、医療従事者のN95マスク着用が必要となる。
- ×b. A群レンサ球菌
A群レンサ球菌(化膿レンサ球菌)による咽頭炎・猩紅熱・肺炎などは、咳やくしゃみの際に出る比較的大きな飛沫(直径5μmより大きい粒子)を介して伝播するため、飛沫感染予防策の対象である。また、広範な皮膚病変や熱傷創の感染では、病変部との接触によって広がるため接触感染予防策も加える。いずれにしても空気感染予防策の対象ではない。
- ○c. 水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘は空気感染をするため、麻疹と同じく空気感染予防策の対象となる。水疱内容にもウイルスが含まれるため、水痘では空気感染予防策に加えて接触感染予防策も行い、全ての皮疹が痂皮化するまで継続する。帯状疱疹については、播種性の帯状疱疹や免疫不全者に生じた帯状疱疹では空気感染予防策と接触感染予防策が必要となる。一方、免疫能が正常な人の限局した帯状疱疹では、病変を覆ったうえで接触感染予防策(と標準予防策)で対応するのが一般的である。
- ×d. 多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉
多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:カルバペネム系・アミノグリコシド系・フルオロキノロン系の3系統に耐性を示す緑膿菌)は、医療従事者の手指や、共用の医療器具・環境表面を介して患者から患者へ広がる。すなわち接触感染予防策(手指衛生の徹底、手袋・ガウンの着用、器具の患者専用化など)の対象であり、空気感染予防策の対象ではない。
- ×e. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉
MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は院内感染の原因菌として最も代表的な薬剤耐性菌であり、主に医療従事者の手指や環境表面を介した接触感染で伝播する。したがって接触感染予防策の対象である。なお、MRSA肺炎で喀痰量が多い場合などは飛沫への配慮を加えることもあるが、空気感染予防策の対象にはならない。
標準予防策と感染経路別予防策
標準予防策は、血液・体液・分泌物・排泄物(汗を除く)、傷のある皮膚、粘膜はすべて感染の可能性があるものとして扱うという考え方に基づき、感染症の有無にかかわらず全患者に行う。手指衛生、状況に応じた手袋・ガウン・マスク・ゴーグルの着用、咳エチケットなどがこれに含まれる。 感染経路別予防策は、感染力が強い病原体や疫学的に重要な病原体を保有している(または疑われる)患者に対し、標準予防策に加えて行う。患者そのものを遠ざけるという発想ではなく、病原体が広がる経路を断つことを目的としている。
3つの感染経路と予防策
1. 空気感染(飛沫核感染) ・伝播する粒子:直径5μm以下の飛沫核。長時間空中を漂い、遠くまで広がる。 ・代表的な病原体:麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌。 ・主な対策:陰圧に管理された個室(空気感染隔離室)への収容。室内の空気は屋外に排気するか、HEPAフィルター(高性能微粒子フィルター)を通して再循環させる。医療従事者は入室時にN95マスクを着用する。患者が部屋を出る必要があるときは患者にサージカルマスクを着けさせる。麻疹・水痘では、抗体を持つ(免疫のある)職員が優先してケアにあたる。 2. 飛沫感染 ・伝播する粒子:咳・くしゃみ・会話、気管内吸引などで生じる直径5μmを超える飛沫。およそ1〜2mの範囲で落下するため遠くへは届かない。 ・代表的な病原体:インフルエンザウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、百日咳菌、髄膜炎菌、マイコプラズマ、A群レンサ球菌(咽頭炎・猩紅熱・肺炎)、アデノウイルスなどの気道系ウイルス。 ・主な対策:個室収容または同じ病原体の患者を同室にまとめる(コホーティング)。ベッド間隔を十分にとる。医療従事者は患者に近づく際にサージカルマスクを着用する。特別な空調は不要である。 3. 接触感染 ・伝播様式:患者との直接接触、または汚染された手指・器具・環境表面を介した間接接触。 ・代表的な病原体:MRSA、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス・ロタウイルス(おむつ使用者や失禁患者)、疥癬、流行性角結膜炎など。 ・主な対策:手指衛生の徹底、手袋・ガウンの着用、聴診器や血圧計などの器具の患者専用化、環境表面の清拭・消毒。
複数の予防策を組み合わせる例
水痘や播種性帯状疱疹は空気+接触、広範な皮膚病変を伴うA群レンサ球菌感染症は飛沫+接触のように、病原体と病態によっては複数の予防策を併用する。
空気感染する病原体の特徴
空気感染は個人や一施設の努力だけでは防ぎきれない面があり、予防接種(麻疹・水痘ワクチン)や、結核における接触者健診などの地域・行政ぐるみの対策が重要となる。
POINT
・空気感染予防策の対象は「麻疹・水痘(播種性/免疫不全者の帯状疱疹を含む)・結核」の3つを確実に覚える。 ・空気感染予防策の要点は、陰圧個室・医療従事者のN95マスク・患者移動時のサージカルマスク。 ・飛沫感染:インフルエンザ、風疹、ムンプス、百日咳、髄膜炎菌、マイコプラズマ、A群レンサ球菌など。サージカルマスクで対応する。 ・接触感染:MRSA、VRE、MDRP、ESBL産生菌、C. difficile、疥癬など。手指衛生と手袋・ガウンで対応する。 ・飛沫核は直径5μm以下で長時間浮遊、飛沫は5μm超で1〜2m程度で落下する。
