切るべきか、切らざるべきか―脳血管障害の治療選択を病態から読み解く
第103回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
治療法の選択で正しい組合せはどれか。2つ選べ。
- a.橋出血 ―― 穿頭血腫除去
- b.脳動脈瘤 ―― 開頭クリッピング
- c.脳ヘルニア ―― 高圧酸素療法
- d.出血性脳梗塞 ―― 血栓溶解療法
- e.内頸動脈狭窄 ―― 内膜剥離術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脳血管障害の治療選択は、病態と治療目的を考えると整理しやすくなります。脳動脈瘤は破裂・再破裂の予防のために開頭クリッピング術やコイル塞栓術を行い、内頸動脈の高度狭窄にはプラークを除去する頸動脈内膜剥離術(CEA)やステント留置術(CAS)を行います。一方、橋出血は重要な神経構造が密集するため血腫除去の適応がなく保存的治療が原則であり、脳ヘルニアは頭部挙上、浸透圧利尿薬、減圧術などで頭蓋内圧を下げる治療を行い、高圧酸素療法は適応になりません。出血性脳梗塞では出血を助長する血栓溶解療法は禁忌です。部位ごとの手術適応やrt-PAの禁忌を理由とともに理解しておくことは、脳卒中診療の初期判断を誤らないための基盤になります。
解答・解説
正解はb, eです
本問は、代表的な脳血管障害とそれに対する治療法の対応を問う基本問題である。各疾患について「どんな病態か」「治療の目的は何か」を考えると、組合せの正誤を判断しやすい。 ・脳動脈瘤:破裂すればくも膜下出血を起こす。治療の目的は破裂(または再破裂)の予防であり、瘤の入口を閉じる外科的・血管内治療が行われる。 ・内頸動脈狭窄:頸部の内頸動脈起始部に生じる粥状硬化(アテローム硬化)による狭窄で、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の原因となる。狭窄を解除する外科的治療(内膜剥離術)や血管内治療(ステント留置)の対象となる。 ・橋出血:脳幹の出血であり、手術による血腫除去の適応はなく保存的治療が原則である。 ・脳ヘルニア:頭蓋内圧が上がり脳組織が押し出される状態で、治療は頭蓋内圧を下げることである。 ・出血性脳梗塞:梗塞巣に出血を伴った状態であり、出血を助長する血栓溶解療法は禁忌である。 したがって、正しい組合せは b(脳動脈瘤―開頭クリッピング)と e(内頸動脈狭窄―内膜剥離術)である。
選択肢考察
- ×a. 橋出血 ―― 穿頭血腫除去
誤り。橋出血は脳幹出血の代表で、高血圧性脳出血の約10%を占める。橋には意識を保つ網様体や呼吸・循環の中枢、運動・感覚の伝導路が密集しており、手術で到達すること自体が重篤な神経損傷を招くため、血腫除去術の適応はない(脳卒中治療ガイドラインでも脳幹出血に対する血腫除去は勧められていない)。治療は降圧、呼吸・循環管理、脳浮腫対策などの保存的治療が中心であり、脳室穿破による急性水頭症を伴う場合に脳室ドレナージが考慮される程度である。なお、穿頭(頭蓋骨に小さな孔をあける)による血腫除去は、慢性硬膜下血腫で標準的に行われる手術であり、被殻出血などでは定位的血腫吸引術や内視鏡下血腫除去術として用いられることがある。
- ○b. 脳動脈瘤 ―― 開頭クリッピング
正しい。開頭クリッピング術は、開頭して顕微鏡下に動脈瘤の頸部(ネック:親血管とつながる根元の部分)に金属製のクリップをかけ、瘤内への血流を遮断して破裂を防ぐ手術である。破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血では、再破裂が発症後早期(とくに24時間以内)に多く致命的となるため、できるだけ早期に再破裂予防処置を行う。もう一つの選択肢は、カテーテルを用いて瘤内にプラチナ製のコイルを詰める血管内治療(コイル塞栓術)であり、瘤の部位・形状、患者の年齢や全身状態に応じてどちらかを選ぶ。未破裂脳動脈瘤でも、大きさ(5〜7mm以上など)、形状の不整、症状の有無、部位などから破裂リスクが高いと判断されれば治療の対象となる。
- ×c. 脳ヘルニア ―― 高圧酸素療法
誤り。脳ヘルニアは、血腫・腫瘍・脳浮腫などによって頭蓋内圧が亢進し、脳組織が硬膜の仕切り(大脳鎌、小脳テント)や大後頭孔を越えて押し出される状態で、脳幹が圧迫されれば生命に関わる。治療は頭蓋内圧を下げることであり、頭部を約30度挙上する、気道確保と適切な換気(過換気は一時的な手段として用いる)、浸透圧利尿薬(マンニトール、濃グリセリン)の投与、原因となる血腫や腫瘍の除去、外減圧術(頭蓋骨を外して脳の逃げ場をつくる)、内減圧術(損傷した脳組織の一部を切除する)などが行われる。高圧酸素療法には直接的に頭蓋内圧を下げる作用はなく、脳ヘルニアの治療法ではない。高圧酸素療法の代表的な適応は、一酸化炭素中毒、減圧症、動脈ガス塞栓症、ガス壊疽などである。
- ×d. 出血性脳梗塞 ―― 血栓溶解療法
誤り。出血性脳梗塞(出血性梗塞)は、閉塞していた血管が再開通した際に、虚血でもろくなった血管壁から血液が漏れ出し、梗塞巣の中に出血が生じる病態である。心原性脳塞栓症で起こりやすい。血栓溶解療法(遺伝子組換え組織型プラスミノゲン・アクチベータ〈rt-PA〉であるアルテプラーゼの静注など)は、線溶を促進して出血を増悪させるため、頭蓋内出血がある状態では禁忌である。血栓溶解療法は、発症4.5時間以内の急性期虚血性脳梗塞で、CTなどで出血を否定したうえで行う治療である。また出血性梗塞を来した場合は、抗凝固薬や抗血小板薬の開始・継続も慎重に判断する必要がある。
- ○e. 内頸動脈狭窄 ―― 内膜剥離術
正しい。頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)は、頸部を切開して内頸動脈を一時的に遮断し、血管の内側に付着した粥腫(プラーク)を内膜ごと取り除いて狭窄を解除する手術である。症候性(TIAや脳梗塞を起こした)の高度狭窄(NASCET法で70%以上)では、抗血小板療法などの内科治療に加えてCEAを行うことが強く勧められ、中等度狭窄や無症候性の高度狭窄でも条件によって考慮される。手術リスクが高い患者(高齢、重い心疾患、頸部の放射線治療歴、再狭窄など)では、カテーテルを用いた頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)が選択されることもある。いずれの場合も抗血小板薬の投与や、高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙などの危険因子の管理を併せて行う。
脳出血の部位と手術適応の目安
・被殻出血:神経症状が中等症で血腫量が多い(31mL以上など)場合に血腫除去術を考慮する。 ・小脳出血:最大径3cm以上で神経症状が増悪している、または脳幹圧迫・水頭症を来している場合は手術適応となる。 ・皮質下出血:脳表からの深さが1cm以下のものは手術を考慮する。 ・視床出血、脳幹(橋)出血:血腫除去の適応はない(脳室穿破による水頭症には脳室ドレナージを考慮)。 ・血腫量が少ない例や、深昏睡の例は手術適応とならない。
頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアへの対応
頭部挙上(約30度)、気道確保と適切な換気、浸透圧利尿薬(マンニトール、濃グリセリン)、鎮静、原因病変の除去、外減圧術・内減圧術、髄液ドレナージなど。
脳動脈瘤の治療
開頭クリッピング術と血管内治療(コイル塞栓術)の2本柱。破裂例では再破裂予防を早期に行い、その後は脳血管攣縮や水頭症の管理が重要となる。
頸動脈狭窄の治療
内科治療(抗血小板薬、スタチン、危険因子の管理)を基本とし、高度狭窄では頸動脈内膜剥離術(CEA)または頸動脈ステント留置術(CAS)を行う。
血栓溶解療法(rt-PA静注)の主な禁忌
頭蓋内出血(出血性梗塞を含む)の存在、くも膜下出血、コントロール不良の著しい高血圧、最近の大手術・頭部外傷、出血傾向など。
POINT
・橋出血(脳幹出血)は血腫除去の適応がなく保存的治療が原則。 ・脳動脈瘤は開頭クリッピング術またはコイル塞栓術で破裂・再破裂を予防する。 ・脳ヘルニアは頭蓋内圧を下げる治療(頭部挙上、浸透圧利尿薬、減圧術など)を行い、高圧酸素療法は適応ではない。 ・出血性脳梗塞では血栓溶解療法は禁忌。 ・内頸動脈高度狭窄には頸動脈内膜剥離術(CEA)やステント留置術(CAS)を行う。
