「治す」のではなく「暮らせる社会」へ―ノーマライゼーションの本当の意味
第103回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
ノーマライゼーションで正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.障害者の自立
- b.身体機能の正常化
- c.経済的支援の推進
- d.社会的理解の促進
- e.障害者の社会における普通の生活の実現
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ノーマライゼーションとは、障害者を施設に隔離・保護するのではなく、障害のない人と同じように地域社会の一員として普通の生活を送れるようにする理念であり、正常化する対象は身体ではなく生活条件や社会環境です。その柱は、支援を受けつつ自己決定に基づいて暮らす自立、偏見や差別といった心のバリアを取り除く社会的理解の促進、そして社会における普通の生活の実現です。身体機能の回復はリハビリテーションの課題、経済的支援は理念実現の手段の一部であり、理念そのものとは区別されます。1959年デンマークのバンク-ミケルセンに始まり、ニィリエの8つの原理で体系化され、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、インクルージョンなどの関連概念とともに国際的な基本理念となりました。患者さんの退院後の生活まで視野に入れて診療するうえで、医師にとっても欠かせない考え方です。
解答・解説
正解はa, d, eです
本問は、障害者福祉の基本理念であるノーマライゼーション(normalization)の意味を問う問題である。 ノーマライゼーションとは、障害のある人を特別な存在として施設などに隔離・保護するのではなく、障害のない人と同じように地域社会の一員として「普通の(ノーマルな)生活」を送れるようにしていこうという考え方である。ここで「ノーマルにする」対象は障害者の身体そのものではなく、障害者が置かれている生活条件や社会環境である。つまり、障害を治して健常者に近づけることを目指すのではなく、障害があっても当たり前に暮らせるよう社会の側を変えていくことに主眼がある。 この理念を実現するためには、①本人が自らの意思で生活を選び決められること(自立・自己決定)、②障害に対する偏見や差別をなくし、地域の人々の理解を広げること(社会的理解の促進)、③住まい・教育・就労・余暇などで一般の人と同じ生活条件を保障すること(普通の生活の実現)が柱となる。これに対応する選択肢 a、d、e が正解である。身体機能の正常化(b)や経済的支援(c)は、ノーマライゼーションという理念そのものを表す言葉ではない。
選択肢考察
- ○a. 障害者の自立
正しい。ノーマライゼーションでは、障害者が保護や管理を受けるだけの存在ではなく、自分の生活のあり方を自分で選び決める主体として地域で暮らすことを重視する。ここでいう自立とは、必ずしも誰の手も借りずに身の回りのことを全部こなすという意味ではなく、必要な支援を受けながらも自己決定に基づいた生活を送ることを指す。わが国の障害者自立支援法(2005年成立、2006年施行。現在は障害者総合支援法へ改正)も、この理念を基盤の一つとしている。
- ×b. 身体機能の正常化
誤り。「ノーマライゼーション(正常化)」という言葉から身体機能を正常に戻すことと誤解しやすいが、正常化するのは障害者の生活条件や社会環境である。障害が残っていても、段差の解消、情報保障、介助サービスなどの環境整備によって一般の人と同様の生活を送れるようにすることが目的であり、身体機能の回復はリハビリテーション医療の課題として区別される。
- ×c. 経済的支援の推進
誤り。障害年金や各種手当などの経済的支援は、障害者の生活を支えるうえで重要な手段の一つではある。しかし、ノーマライゼーションは金銭を給付すること自体を指す概念ではなく、障害者が地域社会の中で一般の人と同じように暮らし、社会参加できる環境をつくるという理念である。経済的支援は理念実現のための手段の一部にすぎず、ノーマライゼーションの内容そのものとはいえない。
- ○d. 社会的理解の促進
正しい。障害者が地域で普通に暮らすためには、建物や交通などの物理的な障壁だけでなく、偏見・差別・無関心といった意識上の障壁(心のバリア)を取り除くことが欠かせない。地域住民や職場、学校の理解を深めることは、社会のバリアフリー化につながり、ノーマライゼーションの実現に不可欠な要素である。
- ○e. 障害者の社会における普通の生活の実現
正しい。これはノーマライゼーションの定義そのものである。障害者が施設に隔離されるのではなく、住み慣れた地域で、一般の人と同じような住まい、一日・一週間・一年のリズム、教育・就労・余暇の機会をもって暮らせるようにすることが、この理念の最終的な目標である。
ノーマライゼーションの歴史
・1950年代のデンマークで、知的障害者の親の会が大規模施設での隔離的な処遇に異議を唱えたことが出発点である。社会省のバンク-ミケルセンがこれを受けて立法に関わり、1959年の知的障害者に関する法律(いわゆる「1959年法」)に理念が盛り込まれた。このため彼は「ノーマライゼーションの父」と呼ばれる。 ・スウェーデンのニィリエは、一日・一週間・一年の普通のリズム、ライフサイクルに応じた普通の経験、自己決定の尊重、普通の経済水準や住環境など、「ノーマライゼーションの8つの原理」として具体化した。 ・その後、欧米諸国に広がり、国際連合の「障害者の権利宣言」(1975年)、「国際障害者年」(1981年、テーマは「完全参加と平等」)などを通じて、国際的な基本理念となった。
関連する概念
・バリアフリー:障害者や高齢者の生活・社会参加を妨げる障壁(物理的、制度的、文化・情報面、意識上の障壁)を取り除くこと。 ・ユニバーサルデザイン:障害の有無や年齢にかかわらず、はじめから誰もが使いやすいように製品・環境を設計する考え方。 ・インクルージョン(社会的包摂):障害者を含むすべての人を排除せず、社会の一員として包み込む考え方。 ・リハビリテーション:単なる機能回復訓練ではなく、「全人間的復権」を目指すものとされる。
わが国の法制度の流れ
障害者基本法(障害者の自立と社会参加の支援を目的とする)、障害者自立支援法(2005年成立)とそれを改正した障害者総合支援法(2013年施行)、障害者差別解消法(2016年施行)などがあり、国連の障害者権利条約(2006年採択)にも日本は2014年に批准している。
POINT
・ノーマライゼーション=障害者が地域社会の中で、障害のない人と同じように普通の生活を送れるようにすること。 ・正常化するのは「身体」ではなく「生活条件・社会環境」である。 ・柱は、自立(自己決定)、社会的理解の促進(心のバリアの除去)、普通の生活の実現。 ・1959年デンマークのバンク-ミケルセンが提唱し、ニィリエが8つの原理として体系化した。 ・関連用語:バリアフリー、ユニバーサルデザイン、インクルージョン。
