胆汁が届かないと何が困る?―ミセルで読み解く脂質とビタミンKの吸収障害
第103回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
胆汁うっ滞で吸収が障害されるのはどれか。2つ選べ。
- a.糖質
- b.脂質
- c.蛋白質
- d.カルシウム
- e.ビタミンK
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胆汁酸は脂肪を乳化して膵リパーゼの働きを助け、分解産物を混合ミセルとして小腸上皮まで運ぶため、胆汁うっ滞では脂質と脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収が障害されます。ビタミンK欠乏は凝固因子II・VII・IX・Xの活性化を妨げてPT延長やPIVKA-II上昇を招き、閉塞性黄疸では経口では吸収されにくいため静脈内投与で補正します。糖質と蛋白質は水溶性の単糖・アミノ酸・ペプチドとして輸送体で吸収されるため胆汁酸を必要とせず、カルシウムも直接の吸収障害は受けませんが、長期の胆汁うっ滞ではビタミンD欠乏やカルシウム石けん形成を介して骨病変をきたしえます。胆汁酸とミセルの役割を理解しておけば、膵外分泌不全や短腸症候群など他の脂肪吸収障害の病態も同じ視点で整理できます。
解答・解説
正解はb, eです
本問は、胆汁(とくにその主成分である胆汁酸)が消化・吸収のどの過程に必要かを問う問題である。 胆汁うっ滞とは、肝細胞での胆汁の生成・分泌から、胆管を通って十二指腸へ流れ出るまでのいずれかの段階が障害され、胆汁が腸管に十分届かなくなった状態をいう。原因には、肝内胆汁うっ滞(原発性胆汁性胆管炎、薬物性肝障害など)と、閉塞性黄疸(総胆管結石、膵頭部癌、胆管癌などによる胆管の閉塞)がある。 胆汁酸は両親媒性(水にも油にもなじむ性質)の分子で、腸管内で脂肪を細かく乳化して膵リパーゼが働きやすくし、さらに分解産物である脂肪酸・モノグリセリドを取り込んで「混合ミセル」という微小な集合体を作る。このミセルが水っぽい腸管内腔を通って小腸上皮の表面まで脂質を運ぶことで、はじめて脂質が効率よく吸収される。脂溶性ビタミン(A・D・E・K)も同じミセルに溶け込んで吸収される。 したがって胆汁が腸に届かなくなると、脂質と脂溶性ビタミンの吸収が障害される。一方、糖質・蛋白質は膵液や小腸刷子縁の酵素で分解され、水溶性の単糖・アミノ酸・ペプチドとして輸送体により吸収されるため、胆汁酸を必要としない。よって、脂質(b)とビタミンK(e)が正解である。
選択肢考察
- ×a. 糖質
誤り。糖質(でんぷんなど)は唾液・膵液のアミラーゼで二糖類やオリゴ糖に分解され、さらに小腸刷子縁の二糖類分解酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなど)で単糖(ブドウ糖、ガラクトース、果糖)となる。単糖は水溶性で、ナトリウム依存性グルコース輸送体(SGLT1)や促進拡散型輸送体(GLUT5など)によって小腸上皮に取り込まれる。この過程に胆汁酸は関与しないため、胆汁うっ滞で糖質の吸収は障害されない。
- ○b. 脂質
正しい。食事中の脂質の大部分はトリグリセリド(中性脂肪)である。胆汁酸は脂肪滴を乳化して表面積を広げ、膵リパーゼによる脂肪酸とモノグリセリドへの分解を助ける。さらに胆汁酸は分解産物を取り込んだ混合ミセルを形成し、小腸上皮まで運ぶ。上皮細胞内でトリグリセリドに再合成された脂質はカイロミクロンとしてリンパ管へ送られる。胆汁うっ滞で腸管内の胆汁酸が不足するとミセル形成ができず、脂質の吸収が低下して脂肪便(白っぽい灰白色便・悪臭のある便)を生じる。なお中鎖脂肪酸は水溶性が比較的高く、ミセルを介さずに吸収されて門脈へ入るため、胆汁うっ滞時の栄養補給に利用される。
- ×c. 蛋白質
誤り。蛋白質は胃のペプシン、膵液のトリプシン・キモトリプシンなどのプロテアーゼ、小腸刷子縁のペプチダーゼによって、アミノ酸やジペプチド・トリペプチドに分解される。これらは水溶性で、アミノ酸輸送体やペプチド輸送体(PEPT1)によって吸収される。胆汁酸はこの過程に関与しないため、胆汁うっ滞で蛋白質の吸収は障害されない。蛋白質の消化吸収障害が問題となるのは、むしろ膵外分泌不全(慢性膵炎など)の場合である。
- ×d. カルシウム
誤り。カルシウムはイオンとして主に十二指腸・上部空腸で吸収され、この吸収に胆汁酸そのものは必要ない。吸収を促進するのは活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)であり、胆汁酸が減少してもカルシウムが直接吸収できなくなるわけではない。ただし、長期の胆汁うっ滞では脂溶性ビタミンであるビタミンDの吸収が低下するため、二次的にカルシウム吸収が落ちる。また脂肪便があると、吸収されない脂肪酸がカルシウムと結合して不溶性の石けん(カルシウム石けん)を作り、カルシウムの吸収を妨げる。これらの結果として、原発性胆汁性胆管炎などの慢性胆汁うっ滞では骨粗鬆症や骨軟化症が問題となる。しかし本問で問われている「胆汁が不足することで直接吸収が障害されるもの」には当たらない。
- ○e. ビタミンK
正しい。ビタミンKは脂溶性ビタミンであり、脂質と同様に胆汁酸の混合ミセルに溶け込んで吸収される。したがって胆汁うっ滞では吸収が低下し、ビタミンK欠乏状態となる。ビタミンKは肝臓で凝固因子II(プロトロンビン)、VII、IX、Xが働けるようにする(γ-カルボキシ化する)ために必要なので、欠乏するとプロトロンビン時間(PT)の延長、ヘパプラスチンテストの低下、PIVKA-II(ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン)の上昇がみられ、出血傾向を来す。第IX・X因子も低下するため活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)も延長しうる。閉塞性黄疸で手術や胆道ドレナージを行う前には、経口では吸収されにくいためビタミンKを静脈内投与して凝固能を補正する。
胆汁酸の生成と腸肝循環
胆汁酸は肝細胞でコレステロールから合成され(一次胆汁酸:コール酸、ケノデオキシコール酸)、グリシンやタウリンと抱合されて胆汁中に分泌される。胆嚢に蓄えられた後、食事刺激(コレシストキニン)により十二指腸へ排出される。脂質の吸収を助けた後、胆汁酸の大部分(約95%)は回腸末端で再吸収され、門脈を経て肝に戻り再利用される。これを腸肝循環という。
胆汁うっ滞でみられる主な変化
・脂肪吸収障害:脂肪便、体重減少 ・脂溶性ビタミン欠乏:A(夜盲)、D(骨軟化症・骨粗鬆症)、E(神経障害)、K(出血傾向、PT延長) ・血液・尿の変化:直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症、尿中ビリルビン陽性、灰白色便、ALP・γ-GTPの上昇、血清総コレステロールの上昇(リポ蛋白Xの出現) ・皮膚瘙痒感(血中に蓄積した胆汁酸などが関与)、黄色腫
脂溶性ビタミンの覚え方
脂溶性ビタミンはA、D、E、Kの4つ(「ADEK」)。これらは胆汁うっ滞のほか、膵外分泌不全や短腸症候群など、脂肪吸収障害を来す病態で欠乏しやすい。
POINT
・胆汁酸は混合ミセルを形成し、脂質と脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収に必須である。 ・胆汁うっ滞では脂質と脂溶性ビタミンの吸収が障害され、脂肪便やビタミンK欠乏(PT延長、PIVKA-II上昇)を来す。 ・糖質・蛋白質の吸収には胆汁酸は不要である。 ・カルシウムの吸収に胆汁酸は直接必要ないが、長期の胆汁うっ滞ではビタミンD欠乏などを介して骨病変を来しうる。 ・閉塞性黄疸の患者ではビタミンKの静脈内投与で凝固能を補正する。
