消えない「打ち身」は危険信号―高齢者の頭に広がる紫斑と血管肉腫
第103回医師国家試験 D問題 第47問
国試問題にチャレンジ
90歳の男性。頭部の皮疹を主訴に来院した。7か月前に頭部に紫紅色斑が出現し,次第に拡大,隆起し,出血するようになった。頭部の写真(A)と同部の病理組織H-E染色標本(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.血管肉腫
- b.グロムス腫瘍
- c.海綿状血管腫
- d.毛細血管拡張性肉芽腫
- e.Kasabach-Merritt症候群
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
高齢者の頭部や顔面に打撲のような紫斑が現れ、消えずに広がって結節・潰瘍・出血を起こす場合は、皮膚血管肉腫を疑って生検します。病理では異型内皮細胞が膠原線維の間を割って不規則につながる血管腔を作り、CD31、CD34、ERGなどの血管内皮マーカーが陽性になります。グロムス腫瘍は爪下の有痛性小結節、毛細血管拡張性肉芽腫は外傷後に急速に増大する出血しやすい小結節、海綿状血管腫は先天性の静脈奇形、Kasabach-Merritt現象は乳幼児の血管性腫瘍に伴う血小板消費であり、好発年齢・部位・経過で区別できます。血管肉腫は肺転移による血気胸を起こしやすく予後不良なため、「消えない紫斑」を見逃さない早期の疑いが何より重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・患者背景: 90歳の男性で、病変は頭部にある。 ・経過: 7か月前に紫紅色の斑として現れ、月単位で広がり、盛り上がって、出血するようになった。生まれつきの病変ではなく、高齢になってから新しく出て、進行し続けている。 ・臨床写真(A): 頭頂部に、黒い痂皮(かさぶた)をかぶった出血性の潰瘍・結節がある。その周りには、境界のはっきりしない暗紫紅色から褐色の斑が広がり、前頭部にかけて小さな紫斑状の病変が散らばっている。打撲による紫斑に似ているが、消えずに広がっていく点が異なる。 ・病理組織(B): 真皮の膠原線維の間を割るように、不規則な形の血管腔が網の目のようにつながって増えている。その血管腔の内側を、核が大きく濃く染まる異型内皮細胞が裏打ちしている。血管腔の中には赤血球が見られる。血管内皮に由来する悪性腫瘍の像である。
診断に至る考え方
「高齢者」「頭部や顔面」「紫斑のような紅斑が徐々に拡大し、結節や潰瘍を形成して出血する」という組み合わせは、皮膚血管肉腫の典型である。初期は打撲による皮下出血、丹毒、湿疹などと間違えられやすい。「打撲の心当たりがない」「数週たっても消えない」「広がり続ける」紫斑を高齢者の頭部に見たら、この疾患を疑って生検する。血管の良性腫瘍や脈管奇形は小児期に発症することが多く、90歳で新たに発生して進行することはまれである。病理で異型内皮細胞が不規則な血管腔を作って増えていることを確認すれば、診断が確定する。
選択肢考察
- ○a. 血管肉腫
血管肉腫は、血管内皮細胞に由来する悪性腫瘍である。皮膚に生じるものの多くは、高齢者の頭部や顔面に発生し、男性にやや多い。紫斑に似た紅斑として始まり、周りに広がりながら結節、潰瘍、出血を起こす。病理組織では、異型内皮細胞が真皮の膠原線維の間を割って進み、不規則につながる血管腔を作る。免疫染色ではCD31、CD34、ERGなどの血管内皮マーカーが陽性になる。本例の年齢、部位、経過、臨床像、組織像はいずれも血管肉腫に合う。肺などへ転移しやすく(血気胸の原因にもなる)、皮膚悪性腫瘍の中でも予後が特に悪い。
- ×b. グロムス腫瘍
グロムス腫瘍は、動静脈吻合部(グロムス装置)にある平滑筋に似たグロムス細胞に由来する良性腫瘍である。手指の爪の下によく発生し、数mm大の小さな青紫色から紅色の結節として見える。強い痛み、圧痛、寒冷刺激で痛みが強まることが特徴である。病理では、血管の周りに、核が丸く均一な細胞が密に並ぶ。高齢者の頭部に広がる出血性の紫斑・結節とは、部位も臨床像も合わない。
- ×c. 海綿状血管腫
海綿状血管腫は、壁が薄く拡張した大きな血管腔が集まった病変である。出生時から、あるいは小児期から存在することが多い。皮下の青紫色で柔らかい腫瘤として触れる。現在の国際分類(ISSVA分類)では、多くが静脈奇形に分類される。組織では、内皮細胞に異型はなく、腫瘍細胞が組織を割って進む像もない。90歳で新たに発生し、数か月で広がって出血する経過はとらない。
- ×d. 毛細血管拡張性肉芽腫
毛細血管拡張性肉芽腫(化膿性肉芽腫、病理学的には分葉状毛細血管腫)は、毛細血管が増えてできる良性の病変である。小さな外傷がきっかけになることがあり、数週で急に大きくなる。鮮紅色で表面がびらんを伴う、有茎性またはドーム状の小結節で、非常に出血しやすい。小児の顔面や手指、成人の手指、妊婦の歯肉などによくみられる。病変は1 cm程度までの単発の結節であることが多く、周りに紫斑状の斑が広がることはない。組織では、分葉状に集まった毛細血管の増生がみられ、内皮細胞に異型はない。
- ×e. Kasabach-Merritt症候群
Kasabach-Merritt症候群(現在はKasabach-Merritt現象と呼ばれる)は、乳幼児の大きな血管性腫瘍の中で血小板が捕まって消費され、重い血小板減少と消費性凝固障害(播種性血管内凝固、DICに近い状態)を起こす病態である。かつては海綿状血管腫などの巨大血管腫に合併するといわれた。しかし現在は、主にカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫に合併すると考えられており、通常の乳児血管腫や静脈奇形には起こらない。本例は90歳であり、血小板減少などの凝固異常の記載もない。
皮膚血管肉腫の要点
・好発: 高齢者(70歳以上が多い)の頭部や顔面。紫外線や加齢との関連が指摘されている。ほかに、乳癌の手術や放射線照射の後にリンパ浮腫が長く続いた上肢に生じる型(Stewart-Treves症候群)や、放射線照射後に生じる型がある。 ・臨床像: 最初は打撲による紫斑に似た斑で、痛みやかゆみに乏しいため、受診や診断が遅れやすい。進むと、結節、潰瘍、出血、痂皮を形成し、周りに衛星病変ができる。肉眼で見える範囲を越えて腫瘍が広がっていることが多い。 ・病理: 真皮の膠原線維の間を割るように、不規則につながる血管腔が増える(膠原線維を裂くような増殖)。血管腔の内側を異型内皮細胞が裏打ちする。分化が低いものでは、充実性に増える紡錘形の細胞や類上皮様の細胞が主体になる。免疫染色ではCD31、CD34、ERG、FLI-1などが陽性になる。 ・転移と予後: 肺への血行性転移が多く、多発する薄壁の空洞影や、それに伴う血気胸を起こすことがある。リンパ節への転移もある。5年生存率は低く、皮膚悪性腫瘍の中でも特に予後が悪い。 ・治療: 十分な安全域をとった切除と放射線療法を中心に行う。化学療法ではタキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)がよく使われ、エリブリンやパゾパニブなども使われる。
血管系の皮膚腫瘍・脈管奇形の整理(好発年齢と部位)
・乳児血管腫(いちご状血管腫): 生後まもなく現れて増大し、多くは幼児期に自然に小さくなる。治療にはプロプラノロール内服が使われる。 ・毛細血管奇形(単純性血管腫、ポートワイン母斑): 生まれつきある平らな赤い斑で、自然には消えない。Sturge-Weber症候群に伴うことがある。 ・静脈奇形(海綿状血管腫): 生まれつきある柔らかい青紫色の腫瘤。 ・化膿性肉芽腫: 外傷の後に急に大きくなる、出血しやすい赤い小結節。 ・グロムス腫瘍: 爪の下にできる有痛性の小結節。 ・老人性血管腫(cherry angioma): 中高年の体幹にできる、数mm大の赤い丘疹で良性。 ・Kaposi肉腫: ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)が関与する。高齢男性の下肢や、HIV感染者に生じる紫紅色の斑や結節である。 ・血管肉腫: 高齢者の頭部や顔面にできる、紫斑のような拡大性の病変。
POINT
・高齢者の頭部や顔面に、打撲のような紫斑が現れて消えずに広がり、結節、潰瘍、出血を起こせば、血管肉腫を疑う。 ・病理では、異型内皮細胞が膠原線維の間を割って不規則な血管腔を作る。CD31、CD34、ERGなどが陽性になる。 ・肺転移(血気胸)を起こしやすく、予後は非常に悪い。 ・グロムス腫瘍は爪の下の有痛性結節、化膿性肉芽腫は外傷後に急に大きくなる出血しやすい赤い小結節である。海綿状血管腫(静脈奇形)は生まれつきある病変である。 ・Kasabach-Merritt現象は、乳幼児のカポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫に伴う血小板の消費である。
