「飲んだかも」にまず1枚―硬貨誤飲は胸腹部エックス線で居場所を突き止める
第103回医師国家試験 D問題 第48問
国試問題にチャレンジ
2歳6か月の男児。硬貨を飲み込んだかもしれないと,母親に連れられて来院した。発熱,咳および嘔吐はなく全身状態は良好である。 まず行うのはどれか。
- a.胸腹部MRI
- b.胸腹部造影CT
- c.腹部超音波検査
- d.胸腹部エックス線撮影
- e.上部消化管内視鏡検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
硬貨誤飲が疑われる幼児では、咳や嘔吐がなく全身状態が良好であっても、異物の有無と位置を確認する必要があり、まず行うのは頸部から腹部を含む胸腹部エックス線撮影です。硬貨はエックス線不透過性のため、低侵襲・低被曝で迅速に描出でき、食道停滞なら摘出、胃より先で無症状なら経過観察と方針を決められます。CTやMRI、超音波は被曝・鎮静・アーチファクト・評価範囲の点で初回検査に向かず、内視鏡は位置確認後に摘出が必要な場合に行う治療手段です。1円硬貨は写りにくいこと、ボタン電池はダブルリング所見で見分け食道内なら緊急摘出となることもあわせて押さえておきましょう。異物の種類と位置によって緊急度を判断する考え方は、小児救急の現場で直接役立つ基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・2歳6か月の幼児。何でも口に入れる年齢であり、異物誤飲の好発年齢である。 ・「硬貨を飲み込んだかもしれない」という訴えで、誤飲そのものが確定していない。 ・発熱、咳、嘔吐はなく、全身状態は良好である。
考え方
咳(むせ込み)や喘鳴がないことから、気道への誤嚥よりも消化管への誤飲の可能性が高い。また嘔吐や流涎(よだれ)、嚥下困難、胸痛などの食道閉塞を示す症状もなく、緊急処置を要する状態ではない。 しかし、本当に飲み込んだのか、飲み込んだとすれば硬貨はいまどこ(食道・胃・腸、あるいは気道)にあるのかは、その後の方針を決めるうえで必ず確認しなければならない。硬貨は金属でありエックス線を吸収するため、単純エックス線写真で明瞭に描出される。したがって、最初に行うべきは、頸部から腹部までを含めて撮影できる胸腹部エックス線撮影である。短時間・低侵襲・低被曝で、存在の有無と位置を一度に判定できる。
その後の方針
位置が分かれば方針は次のように分かれる。 ・食道内に停滞している場合:食道粘膜の圧迫による潰瘍・穿孔の危険があるため、内視鏡などで摘出する(症状があれば緊急、無症状でも24時間以内が目安)。 ・胃より先(幽門を越える、あるいは胃内)にある場合:硬貨の多くは自然に便とともに排出されるため、無症状であれば経過観察とし、排泄を確認する。 ・写らない場合:誤飲していない、あるいはすでに排出された可能性を考える(ただし後述のように1円玉は写りにくい点に注意)。
選択肢考察
- ×a. 胸腹部MRI
MRI(磁気共鳴画像)は撮像に時間がかかり、幼児では鎮静が必要になることも多い。さらに金属異物は周囲に強いアーチファクト(画像の乱れ)を生じるうえ、磁性をもつ金属であれば強磁場で移動・発熱する危険もある。金属異物の検索にまず用いる検査ではない。
- ×b. 胸腹部造影CT
CT(コンピュータ断層撮影)でも硬貨は描出されるが、単純エックス線写真で十分に位置が分かるものに対して、被曝量の多いCTを最初に行う必要はない。まして造影剤は炎症や血管病変・臓器の血流を評価する目的で使うものであり、金属異物の同定には不要で、造影剤アレルギーや腎障害のリスクを負うだけである。穿孔などの合併症が疑われる場合に考慮される検査である。
- ×c. 腹部超音波検査
超音波は消化管内のガスに妨げられるため、腸管内の小さな硬貨を探し出すのは困難である。また腹部超音波では胸部(食道・気道)に硬貨がある場合を評価できない。誤飲した硬貨で最も問題となるのは食道停滞であり、そこを評価できない検査は最初の検査として不適切である。
- ○d. 胸腹部エックス線撮影
硬貨は金属でエックス線不透過性であるため、単純エックス線写真で存在と位置を簡便かつ迅速に確認できる。頸部から肛門までを含むように撮影し、食道・胃・腸のどこにあるか、あるいは気道にないかを判定する。正面像で円形に見えるか、側面像を加えて気管か食道かを区別できる。ボタン電池との鑑別(二重の輪郭)にも役立つ。結果により摘出か経過観察かを決められるため、最初に行う検査として最適である。
- ×e. 上部消化管内視鏡検査
内視鏡は食道などに停滞した硬貨を摘出する際に用いる治療手段であるが、幼児では全身麻酔や鎮静を要し侵襲が大きい。硬貨がすでに十二指腸より先に進んでいれば摘出の必要はなく、そもそも誤飲していない可能性もある。まずエックス線で位置を確認し、摘出が必要と判断した場合に行うものであり、最初に行う検査ではない。
小児の異物誤飲の概要
乳幼児(特に生後6か月〜3歳前後)は手に取ったものを口に入れるため、異物誤飲が多い。わが国ではタバコ、医薬品、硬貨、玩具、ボタン電池などが代表的である。
異物の種類と緊急度
・ボタン電池:食道に停滞すると放電によりアルカリが生じ、数時間で粘膜の化学熱傷・穿孔を起こしうる。食道内なら直ちに摘出する。エックス線では縁が二重に見える(ダブルリング、ハロー所見)ことが硬貨との鑑別点である。胃内でも症状があれば摘出を考慮する。 ・磁石(複数個):腸管壁を挟んで互いに引き合い、圧迫壊死・穿孔・瘻孔を起こすため、摘出を検討する。 ・鋭利な異物(針、画鋲など):消化管穿孔の危険があり、摘出を考慮する。 ・硬貨:食道停滞でなければ多くは自然排出される。 ・タバコ:ニコチン中毒が問題となる。
硬貨の停滞しやすい部位
食道の生理的狭窄部、とくに第1狭窄部(輪状咽頭筋の高さ、食道入口部)で停滞しやすい。胃に入った硬貨は多くが自然に排出される。
エックス線撮影の注意点
・食道内の硬貨は正面像で円形(面)に見えることが多い。気管内異物は側面像で位置関係を確認する。 ・1円硬貨はアルミニウム製でエックス線透過性が比較的高く、写りが淡く見落とされやすい。 ・エックス線透過性の異物(プラスチック玩具など)は写らないので、写らないことが誤飲の否定にはならない。
気道異物との区別
咳込み、喘鳴、呼吸困難、片側の呼吸音減弱などがあれば気道異物を疑う。気道異物(ピーナッツなど)は多くがエックス線透過性で、呼気時の患側肺の過膨張や縦隔の偏位(チェックバルブ)が手がかりになる。
POINT
・硬貨誤飲疑いでは、まず胸腹部(頸部〜腹部)エックス線撮影で存在と位置を確認する。 ・食道に停滞していれば摘出(内視鏡など)、胃より先なら無症状であれば経過観察で自然排出を待つ。 ・ボタン電池は食道内なら緊急摘出。エックス線での二重輪郭が硬貨との鑑別点。 ・CT・MRI・超音波・内視鏡は最初の検査として不適切。 ・1円硬貨(アルミニウム)は写りが淡いことに注意。
