風邪薬で息ができない―アスピリン喘息の「その後」に何をするか
第103回医師国家試験 D問題 第45問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。突然の呼吸困難を主訴に来院した。今朝から感冒様症状があり市販薬を服用した。服用30分後から強い息切れが出現した。1年前から間欠的に夜間・早朝の息切れと咳とを自覚していた。胸部全体にwheezesを聴取する。来院後の治療によって症状は消失した。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.鼻腔の観察
- b.アスピリンの使用禁止
- c.感冒時に別の市販薬投与
- d.感冒時に同じ市販薬少量投与
- e.血清抗アスペルギルス抗体測定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喘息の素地がある成人が、感冒薬や解熱鎮痛薬の内服直後に喘息発作を起こした場合は、NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息、N-ERD)を考えます。機序はIgEを介さないCOX-1阻害によるシステイニルロイコトリエンの過剰産生であり、アスピリン以外のNSAIDsや少量投与、貼付薬などの外用剤でも発作が起こりうるため、NSAIDs全般を避けるよう指導します。好酸球性副鼻腔炎や鼻茸、嗅覚障害の合併が多く、鼻腔の観察と耳鼻咽喉科との連携が重要です。発作治療ではコハク酸エステル型ステロイドの急速静注で悪化しうる点にも注意が必要です。日常的に使われる薬が命に関わる発作を起こしうることを知り、問診と服薬指導に生かすことが、安全な診療につながります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・1年前から、夜間や早朝に息切れと咳が繰り返し出ていた。症状が日内で変動し、発作的に起こる点は気管支喘息の典型像であり、本例にはもともと喘息の素地があったと考えられる。 ・今朝の感冒様症状に対して市販薬を飲み、その30分後から強い呼吸困難が起こった。 ・胸部全体でwheezes(笛声音。狭くなった気道を空気が通るときの連続性の高い音)が聞かれ、びまん性の気道狭窄、つまり喘息発作の状態である。 ・治療後には症状が消えており、可逆性の気道狭窄であったといえる。
診断
市販の総合感冒薬や解熱鎮痛薬には、アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が含まれることが多い。喘息の素地がある成人が、NSAIDsを飲んでから短時間(多くは1時間以内)で強い喘息発作を起こした経過から、アスピリン喘息(アスピリン以外のNSAIDsでも同様に起こるため、現在はNSAIDs過敏喘息、NSAIDs-exacerbated respiratory disease: N-ERDとも呼ばれる)と考えられる。
設問の考え方
発作が治まった後の対応として問われているのは、(1) この病態に合併しやすい疾患を評価すること、(2) 再発を防ぐために原因薬を避けることの2点である。N-ERDは IgEを介するアレルギーではなく、シクロオキシゲナーゼ(COX)-1 を阻害する薬理作用によって起こる過敏症である。そのため、アスピリンに限らず COX-1 阻害作用をもつNSAIDsはすべて発作の原因になりうる。また、量を減らしても安全にはならない。
選択肢考察
- ○a. 鼻腔の観察
N-ERDには、好酸球性の慢性副鼻腔炎と鼻茸(鼻ポリープ)が高い頻度で合併する。嗅覚障害を伴うことも多い。そのため、鼻腔を観察し、鼻茸や副鼻腔炎があるかどうかを確認することは、診断を裏づけ、治療方針を立てるうえで重要である。気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、NSAIDs過敏の三つの組み合わせは古くから知られている(Samter の三徴)。また、上気道の炎症を治療すると喘息のコントロールも良くなるため、耳鼻咽喉科と連携して評価する意味は大きい。
- ○b. アスピリンの使用禁止
アスピリンは COX-1 を強く阻害するので、N-ERDの患者では重い発作、ときに致死的な発作を誘発しうる。使用を禁止し、本人にもそのことを伝える必要がある。実際には、アスピリンだけでなく COX-1 阻害作用をもつ他のNSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシンなど)も同じように避ける必要がある。貼付薬や塗り薬、坐薬、点眼薬といった全身投与以外の剤形でも発作が起こりうることを指導する。お薬手帳などで情報を共有し、医療機関を受診するたびに申告するよう指導することも大切である。
- ×c. 感冒時に別の市販薬投与
市販の総合感冒薬や解熱鎮痛薬の多くには、アスピリン、イブプロフェン、エテンザミドなどのNSAIDsが配合されている。N-ERDは特定の薬に対するアレルギーではなく、COX-1 を阻害する作用そのものが原因で起こる。そのため、商品や成分が変わっても、NSAIDsが含まれていれば同じように発作を起こす危険が高い。成分を確認せずに「別の市販薬」を勧めるのは不適切である。解熱鎮痛薬が必要なときは、医師が安全性を判断して処方する。
- ×d. 感冒時に同じ市販薬少量投与
N-ERDの患者では、ごく少ない量のNSAIDsでも発作が誘発されうる。量を減らしても安全とはいえず、発作の原因となった薬を再び使うことは危険である。原因薬を確かめるための負荷試験(内服負荷試験など)は、重い発作を起こす可能性があるので、救急対応ができる専門施設で慎重に行う検査であり、日常の感冒時に自分で試してよいものではない。なお、専門施設ではアスピリン減感作療法が行われることもあるが、厳密な管理のもとで行う特殊な治療であり、本選択肢とは全く別のものである。
- ×e. 血清抗アスペルギルス抗体測定
血清の抗アスペルギルス抗体(沈降抗体)や、アスペルギルス特異的IgEの測定は、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)を疑うときに行う検査である。ABPAは、コントロールの悪い喘息に、末梢血好酸球の増加、血清総IgEの著しい高値、移動する肺浸潤影、中枢性気管支拡張、粘液栓などを伴う病態である。本例は、NSAIDsと考えられる薬を飲んだ直後に起こった発作で、ABPAを疑わせる所見はない。今回の病態を評価するための検査としては的外れである。
NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)の概要
・頻度: 成人喘息の約5~10%を占める。多くは20~40歳代に発症し、女性にやや多い。小児ではまれである。 ・機序: COX-1 が阻害されると、アラキドン酸からプロスタグランジンE2(PGE2。気管支拡張と抗炎症に働く)がつくられにくくなる。その結果、アラキドン酸代謝がリポキシゲナーゼ系に傾き、システイニルロイコトリエン(強い気管支収縮と血管透過性の亢進を起こす)が過剰につくられる。IgEを介したアレルギー反応ではないため、皮膚テストや特異的IgEでは診断できない。 ・症状: NSAIDsを使ってから通常1時間以内に、鼻汁、鼻閉、喘息発作が起こる。顔面の紅潮や結膜の充血、腹痛・下痢などの消化器症状を伴うこともある。 ・合併症: 好酸球性副鼻腔炎、鼻茸、嗅覚障害の合併が多い。喘息は重症化しやすい。
避けるべき薬と比較的安全な薬
・避ける: アスピリンを含め、COX-1 阻害作用の強いNSAIDs全般(内服、坐薬、注射、貼付薬、塗り薬、点眼薬を含む)。 ・比較的安全: アセトアミノフェン(1回300 mg以下では比較的安全とされるが、量が多いと発作を起こしうる)、COX-2 選択的阻害薬(セレコキシブなど。ただし絶対に安全とはいえない)、塩基性の消炎鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬など。 ・発作治療時の注意: コハク酸エステル型の静注用副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾンコハク酸エステル、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルなど)は、急速に静注すると発作を悪化させることがある。リン酸エステル型(デキサメタゾン、ベタメタゾン)を点滴でゆっくり投与するのが望ましい。医薬品添加物(パラベンなどの防腐剤)や、食品・医薬品中の一部の着色料・香料で症状が悪化することもある。
長期管理
通常の喘息と同様に、吸入ステロイドを中心とした長期管理を行う。ロイコトリエン受容体拮抗薬が特に有効とされる。重い症例や、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎が治りにくい症例では、抗IL-5抗体や抗IL-4受容体α抗体などの生物学的製剤が使われる。鼻茸には内視鏡下副鼻腔手術を行うことがある。
POINT
・喘息の素地がある成人が、感冒薬や解熱鎮痛薬を飲んだ直後に喘息発作を起こしたら、NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息、N-ERD)を考える。 ・機序は COX-1 阻害によるシステイニルロイコトリエンの過剰産生で、IgEを介さない。そのため、アスピリン以外のNSAIDsや少量の投与でも発作が起こる。 ・好酸球性副鼻腔炎、鼻茸、嗅覚障害の合併が多いので、鼻腔を観察する。 ・NSAIDs全般を避け(貼付薬なども含む)、市販薬の成分に注意するよう指導する。 ・発作時にコハク酸エステル型ステロイドを急速静注すると、発作が悪化しうる。
