StudyMed医師国家試験

「楽にする薬」と「長生きさせる薬」は違う―拡張型心筋症の予後を変える2つの薬

第103回医師国家試験 D問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第103回 D問題 第40問

36歳の男性。息切れと疲労感とを主訴に来院した。2年前から労作時の息切れを自覚していた。意識は清明。脈拍84/分,整。血圧112/72mmHg。胸部聴診でⅢ音を聴取するが,心雑音は聴取しない。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。浮腫を認めない。胸部エックス線写真での心胸郭比66%。心エコー図を別に示す。  この患者の予後を改善するのはどれか。2つ選べ。

第103回 D問題 第40問の問題画像
  1. a.強心薬
  2. b.α遮断薬
  3. c.β遮断薬
  4. d.カルシウム拮抗薬
  5. e.アンジオテンシン変換酵素阻害薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い男性の慢性心不全から背景の心筋疾患を見抜き、そのうえで「予後を改善する薬」を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、心拡大とⅢ音、そして心エコーで左室がどう動いているか。さらに設問が「症状を改善する」ではなく「予後を改善する」と聞いている点が最大のポイントだよ。まずⅢ音の意味から考えてみようか。
医学生医学生
Ⅲ音は若い人だと生理的にも聴こえると、診断学の講義で習いました。36歳だと正常の範囲でしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。小児や若年者では生理的Ⅲ音もありうる。ただ、成人で心胸郭比が66%という著明な心拡大を伴っているなら話は別だ。拡張早期に、容量負荷のかかった硬い左室へ血液が急速に流れ込んで生じる病的Ⅲ音と考えるべきだよ。
医学生医学生
心雑音がないので弁膜症ではなさそうですね。心エコーはどう読めばいいですか。
ドクタードクター
左室の内腔が大きく拡大していて、拡張期と収縮期で左室径がほとんど変わらない。つまり壁がびまん性に動いていない、駆出率の低下した状態だ。壁は厚くなっていないし、左房も拡大している。若年で冠動脈疾患は考えにくく、高血圧や弁膜症を示す所見もないから、拡張型心筋症を考える。
医学生医学生
拡張型心筋症なら、心臓の収縮力が弱いのが問題なので、強心薬で収縮を助けるのが一番効きそうに思えます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴なんだ。強心薬は短期的には血行動態や症状を良くする。でも慢性心不全で長く使うと、心筋の酸素消費が増え、不整脈も誘発されやすい。PDEⅢ阻害薬などの経口強心薬を長期投与した試験では、かえって死亡率が上がった。ジギタリスも入院は減らすけれど、死亡率は変えないんだ。
医学生医学生
心臓を「むち打つ」と、かえって疲れさせてしまうということですね。では、何が予後を良くするんですか。
ドクタードクター
鍵は神経体液性因子だ。心機能が落ちると、体は血圧と心拍出量を保とうとして交感神経系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を持続的に活性化させる。これが短期的には代償になるけれど、長期的には心筋の肥大・線維化・拡大、いわゆるリモデリングを進め、致死性不整脈も招く。この悪循環を断つ薬が予後を改善するんだ。
医学生医学生
それでβ遮断薬とACE阻害薬なんですね。でも、心不全にβ遮断薬というのは、収縮力を落とすので逆に危ない気がしていました。
ドクタードクター
昔はまさにそう考えられていて、禁忌に近い扱いだったんだ。ところがβ遮断薬は心拍数を下げて心筋酸素消費を減らし、カテコールアミンによる心筋障害やリモデリング、心室性不整脈を抑える。長期投与で駆出率がむしろ改善し、死亡率と入院が下がることが大規模試験で証明された。ただしエビデンスがあるのはカルベジロール、ビソプロロール、コハク酸メトプロロールに限られる。
医学生医学生
導入するときに注意することはありますか。
ドクタードクター
陰性変力作用があるから、うっ血のない安定期に少量から始め、数週ごとにゆっくり増量するのが原則だ。今回は浮腫も肺うっ血もない代償された状態なので、導入に向いている。ACE阻害薬のほうは、アンジオテンシンⅡによる血管収縮や心筋の線維化、アルドステロンによる水・ナトリウム貯留を抑え、前負荷・後負荷を下げてリモデリングを防ぐ。症状の有無にかかわらず投与が勧められる薬だよ。
医学生医学生
ACE阻害薬は空咳の副作用が有名ですよね。CBTの過去問でブラジキニンと一緒に出ました。
ドクタードクター
そのとおり。ブラジキニンの分解が抑えられるためで、空咳が出たらARBに切り替える。高カリウム血症や腎機能悪化、血管浮腫にも注意が必要だ。では残りのα遮断薬はどうかな。
医学生医学生
血管を広げて後負荷を下げるなら、心臓には良さそうですが……。
ドクタードクター
理屈ではそう見えるけれど、慢性心不全でプラゾシンに死亡率低下効果はなく、高血圧の試験ではドキサゾシン群で心不全の発症が多かった。反射性に交感神経やRAA系が活性化するのが一因と考えられている。カルシウム拮抗薬も予後は改善しない。特にベラパミルやジルチアゼムといった非ジヒドロピリジン系は陰性変力作用が強く、収縮能の落ちた心臓では悪化させうるから避ける。アムロジピンは死亡率を上げないとされるけれど、使うのは高血圧や狭心症を合併したときに限られる。
医学生医学生
「症状を良くする薬」と「長生きにつながる薬」を分けて覚えるのが大事なんですね。循環器内科の実習で、心不全患者さんの処方がいつも何種類も並んでいた理由がわかりました。
ドクタードクター
まさにそれ。現在の収縮能低下心不全の治療では、ACE阻害薬またはARB、あるいはARNIのサクビトリル・バルサルタン、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、そしてSGLT2阻害薬を早い段階から組み合わせる。利尿薬はうっ血の症状を取る薬として使い分ける。さらに拡張型心筋症では心室性不整脈による突然死のリスクがあるので、高リスク例には植込み型除細動器、QRS幅の広い例には心臓再同期療法を考え、内科治療抵抗性なら補助人工心臓や心臓移植も検討される。
医学生医学生
診断のときにも、心筋炎後やアルコール性、サルコイドーシスなどの二次性を除外する必要がありますよね。
ドクタードクター
そう、冠動脈造影で虚血を除外し、心臓MRIや心筋生検で二次性の原因を探すことも忘れずに。原因によっては治療方針が変わるからね。

まとめ

若年者の著明な心拡大とⅢ音、心エコーでの左室拡大とびまん性の壁運動低下は、拡張型心筋症を示唆します。収縮能が低下した心不全では、交感神経系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の持続的な活性化が心筋リモデリングと致死性不整脈を招くため、これを抑えるβ遮断薬とACE阻害薬が生命予後を改善します。β遮断薬はうっ血のない安定期に少量から導入し、エビデンスのある薬剤を選ぶことが重要で、ACE阻害薬が空咳で使えなければARBで代替します。一方、強心薬・α遮断薬・カルシウム拮抗薬は予後を改善せず、経口強心薬の長期投与や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬はむしろ有害です。現在はMRAやSGLT2阻害薬、ARNIも加えた併用が標準であり、「症状を改善する薬」と「予後を改善する薬」を区別する視点は、心不全診療全体の基本となります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

・36歳の若年男性で、2年前から続く労作時息切れと疲労感がある。ゆっくり進行する運動耐容能の低下であり、慢性心不全を疑わせる経過である。 ・脈拍84/分・整、血圧112/72mmHgと、頻脈性不整脈や高血圧はない。心雑音がないので、弁膜症が主因である可能性は低い。 ・Ⅲ音は拡張早期に心室へ血液が急速に流入する際に生じる低調な音である。小児や若年者では生理的に聴こえることがあるが、成人(おおむね40歳前後以降)で聴取される場合や心拡大を伴う場合は、左室の容量負荷・コンプライアンス低下を示す病的所見と考える。本例は心拡大を伴っており、病的Ⅲ音と判断する。 ・呼吸音正常、肝腫大なし、浮腫なしで、現時点では明らかなうっ血所見は乏しい(代償された慢性心不全の状態)。 ・心胸郭比(CTR)66%は基準(50%以下)を大きく超える著明な心拡大である。 ・心エコー図では左室内腔が拡大し、左房も拡大している。拡張期と収縮期で左室径の差が小さく、壁運動がびまん性に低下している(左室駆出率〈EF〉の低下)。壁の肥厚はみられない。

診断に至るプロセス

左室の拡大とびまん性の収縮能低下を示す心筋疾患であり、年齢的に虚血性心筋症(冠動脈疾患による心筋障害)は考えにくく、弁膜症や高血圧性心疾患を示唆する所見もない。したがって拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)と考えられる。確定には冠動脈造影などで虚血性心疾患を除外し、必要に応じて心筋生検や心臓MRIで二次性心筋症(心筋炎後、サルコイドーシス、アルコール性など)を鑑別する。

設問の考え方

問われているのは「症状を軽くする薬」ではなく「予後(生命予後)を改善する薬」である。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)では、心機能低下に反応して交感神経系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)が持続的に活性化し、これが心筋の線維化・肥大・拡大(リモデリング)を進め、心不全の悪化や致死性不整脈を招く。この神経体液性因子の過剰な活性化を抑える薬剤が、大規模臨床試験で死亡率を低下させることが示されている。代表がβ遮断薬とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬である。一方、心収縮力を強めて短期的に血行動態を改善する薬は、長期的には予後を改善しないか、むしろ悪化させる。

選択肢考察

  1. ×a.  強心薬

    強心薬は心収縮力を高めて症状や血行動態を一時的に改善するが、慢性心不全の生命予後は改善しない。ジギタリス(ジゴキシン)は心不全による入院を減らすものの死亡率は変えないことが大規模試験で示されている。また、ホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬(ミルリノンなど)などの経口強心薬を長期投与すると、心筋の酸素消費増大や不整脈の誘発によりかえって死亡率が上昇したと報告されている。強心薬は急性増悪時や末期心不全での短期的使用が中心である。なお、ジギタリスを長期服用している患者で中止すると心不全が悪化しうることが知られている。

  2. ×b.  α遮断薬

    α遮断薬(プラゾシン、ドキサゾシンなど)は血管平滑筋のα1受容体を遮断して血管を拡張させ、後負荷を下げるため、理論上は心不全に有利にみえる。しかし慢性心不全を対象とした試験ではプラゾシンに死亡率低下効果は認められず、高血圧患者を対象とした試験ではドキサゾシン群で心不全の発症が多かった。反射性の交感神経・RAA系の活性化を招くことが一因と考えられる。主な適応は高血圧(特に早朝高血圧や褐色細胞腫の術前管理)や前立腺肥大症に伴う排尿障害であり、DCMの予後改善薬ではない。

  3. ○c.  β遮断薬

    心不全で過剰に亢進した交感神経刺激から心筋を守る薬剤である。心拍数を下げて心筋酸素消費量を減らし、拡張期を延長させて冠血流と心室充満を改善するほか、カテコールアミンによる心筋細胞障害やリモデリング、致死性心室性不整脈を抑制する。長期投与により左室駆出率が改善し(逆リモデリング)、死亡率と心不全入院が有意に低下することが複数の大規模試験で証明されている。有効性が確立しているのはカルベジロール(α1遮断作用も併せ持つ)、ビソプロロール、コハク酸メトプロロール(徐放製剤)であり、どのβ遮断薬でもよいわけではない。陰性変力作用があるため、うっ血のない安定期に少量から開始し、数週ごとに慎重に増量する。本例は浮腫や肺うっ血がなく導入に適した状態である。

  4. ×d.  カルシウム拮抗薬

    カルシウム拮抗薬はDCMの予後を改善しない。ベラパミルやジルチアゼムなどの非ジヒドロピリジン系は陰性変力作用(心収縮力を弱める作用)が強く、左室収縮能が低下した心不全では症状を悪化させ、予後も悪化させうるため避けるべきである。ニフェジピンなどの短時間作用型ジヒドロピリジン系は反射性交感神経亢進をきたす。アムロジピンなどの長時間作用型ジヒドロピリジン系は心不全患者で死亡率を増やさないとされるが、改善もしないため、高血圧や狭心症の合併時に限って用いられる。

  5. ○e.  アンジオテンシン変換酵素阻害薬

    ACE阻害薬(エナラプリル、リシノプリルなど)はアンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害し、RAA系の過剰な活性化を抑える。アンジオテンシンⅡによる血管収縮・心筋の肥大と線維化、アルドステロンによるナトリウム・水貯留を抑えるため、前負荷・後負荷がともに軽減し、心室リモデリングの進行が抑制される。さらにブラジキニンの分解を抑えることも血管拡張や心保護に寄与する。大規模試験で左室収縮能が低下した心不全の死亡率を低下させることが示されており、症状の有無にかかわらず投与が推奨される。副作用として空咳(ブラジキニン蓄積による)、高カリウム血症、腎機能悪化、血管浮腫がある。空咳などで使えない場合はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)で代替する。

拡張型心筋症(DCM)の概要

左室(ときに両心室)の内腔拡大と、びまん性の収縮能低下を特徴とする心筋疾患である。原因の多くは特発性であるが、一部に遺伝性(家族性)のものがある。心筋炎後、アルコール、アントラサイクリン系抗癌剤などの薬剤、産褥期、頻脈の持続、サルコイドーシス、筋ジストロフィーなどによる二次性の心筋障害も同様の病像を示すため、診断時には虚血性心疾患や弁膜症、高血圧性心疾患とあわせてこれらを除外・鑑別する。 主な臨床像は慢性心不全(労作時息切れ、易疲労感、起座呼吸、浮腫)、心室性不整脈による突然死、心房細動などに伴う血栓塞栓症である。

検査所見

・聴診:Ⅲ音(奔馬調律)、僧帽弁の弁輪拡大による機能性僧帽弁逆流の収縮期雑音 ・胸部エックス線:心拡大(CTR上昇)、うっ血があれば肺血管陰影の増強や胸水 ・心エコー:左室拡張末期径の拡大(成人の目安として約55mm以上で拡大)、壁厚は正常〜菲薄化、びまん性壁運動低下、EF低下、左房拡大 ・血中BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPの上昇 ・心臓MRIの遅延造影は、線維化の分布から二次性心筋症の鑑別や予後評価に有用

HFrEFに対する薬物治療の整理

予後改善が示されている薬剤: ・ACE阻害薬またはARB、あるいはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI:サクビトリル・バルサルタン) ・β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール、コハク酸メトプロロール) ・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA:スピロノラクトン、エプレレノン) ・SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン、エンパグリフロジン) 現在のガイドラインでは、これらを早期から組み合わせて用いることが推奨されている。洞調律で心拍数が高い例ではイバブラジンが心不全入院の抑制に用いられる。 症状改善が主目的の薬剤:ループ利尿薬(うっ血の改善)、ジギタリス(入院減少、心房細動の心拍数調節)。 予後を悪化させうるので避ける薬剤:非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、PDEⅢ阻害薬などの経口強心薬の長期投与、Ⅰ群抗不整脈薬、NSAIDs、チアゾリジン系糖尿病薬など。

非薬物治療

致死性心室性不整脈の既往や高リスク例には植込み型除細動器(ICD)、左脚ブロックなどでQRS幅が広い例には心臓再同期療法(CRT)を行う。内科治療に抵抗する重症例では補助人工心臓や心臓移植が検討される。

POINT

・若年者の心拡大、Ⅲ音、心エコーでの左室拡大とびまん性収縮低下 → 拡張型心筋症(DCM)を考える。 ・収縮能の低下した心不全の予後を改善するのは、交感神経系とRAA系を抑える薬剤(β遮断薬、ACE阻害薬/ARB/ARNI、MRA)とSGLT2阻害薬である。 ・β遮断薬はうっ血のない安定期に少量から導入し、ゆっくり増量する。 ・強心薬(ジギタリス、PDEⅢ阻害薬)、α遮断薬、カルシウム拮抗薬は予後を改善しない。非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬や経口強心薬の長期投与はむしろ有害である。 ・「症状を改善する薬」と「予後を改善する薬」を区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。