しゃべり続けたかと思えば凍りつく―興奮と昏迷が入れ替わる緊張病症候群
第103回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
22歳の男性。発言にまとまりがないことを主訴に父親に伴われて来院した。視野に入る事物に関連付け「私は石だ。神をつくることができる」と言い,奇妙な姿勢のままブツブツとしゃべり続けた。しゃべっていたかと思うと,全く質問に答えず,身じろぎもせず一点をじっと見つめる状態となった。 考えられるのはどれか。
- a.離人症
- b.偽認知症
- c.見当識障害
- d.緊張病症候群
- e.錐体外路症状
対話形式の解説
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ドクターまとめ
緊張病症候群(カタトニア)は、昏迷・緘黙・カタレプシー・蝋屈症・拒絶症・常同症・反響症状・興奮などを示す状態像で、興奮と昏迷が短時間で入れ替わるのが特徴的です。意識は清明で見当識は保たれることが多く、離人症(主観的な現実感の喪失)、偽認知症(うつ病などによる見かけ上の認知症)、見当識障害(時・場所・人の認識障害)、錐体外路症状(パーキンソニズムなど)とは定義の上で区別されます。統合失調症が代表的な背景疾患ですが、気分障害や脳炎などの身体疾患でも生じるため、身体疾患の除外が重要です。治療はベンゾジアゼピン系薬が第一で、無効例には電気けいれん療法を考え、脱水や血栓症などの身体合併症や悪性症候群との鑑別にも注意します。状態像を表す精神医学用語を正確に理解することは、診断の出発点であり、安全な初期対応にも直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・22歳の男性で、発言にまとまりがないことを主訴に家族に連れられて受診している(本人に病識が乏しいことがうかがえる)。 ・「私は石だ。神をつくることができる」:目に入った物に次々と話がつながり、話の筋道が失われている。思考のまとまりが失われた連合弛緩(滅裂思考)であり、内容には誇大的・妄想的な色彩もある。 ・奇妙な姿勢をとったままブツブツとしゃべり続ける:不自然な姿勢を保ち続ける姿勢保持(カタレプシーに近い状態)と、衝動的・常同的な発語。 ・急に質問に全く答えなくなり、身じろぎもせず一点を見つめる:意識は保たれているのに外界への反応や自発的な動きが消失した昏迷と、発語のない緘黙(かんもく)である。
診断へのプロセス
青年期の発症で、連合弛緩などの思考障害と、奇妙な姿勢・昏迷・緘黙といった精神運動面の著しい異常がみられる。精神運動の異常は、興奮(まとまりなく話し続ける・動き回る)と昏迷(全く動かず反応しない)が短時間のうちに入れ替わっており、これは緊張病(カタトニア)の典型的な特徴である。背景疾患としては年齢・思考障害から統合失調症が最も考えやすい。
設問の考え方
本問は病名ではなく、症例に現れている「状態像」を表す用語を選ばせている。各選択肢の用語の定義を正確に押さえ、症例の記述(奇妙な姿勢、興奮と昏迷の交代、緘黙)と照らし合わせれば、緊張病症候群が選べる。
選択肢考察
- ×a. 離人症
離人症(離人感・現実感消失)は、自分の身体・思考・感情が自分のものではないように感じたり(離人感)、周囲の世界がベールを隔てたように現実味なく感じられたり(現実感消失)する体験である。本人は「そう感じる」という違和感として自覚し、現実検討は保たれているのが特徴である。統合失調症やうつ病、不安症などでもみられるが、本例の記述は本人の主観的体験ではなく、滅裂な発言や姿勢・運動の異常であり、離人症を示す所見はない。
- ×b. 偽認知症
偽認知症(仮性認知症)は、実際には器質的な認知機能障害がないのに、認知症のように見える状態を指す。代表は高齢者のうつ病でみられるうつ病性仮性認知症で、思考制止や意欲低下のために質問に「わからない」と答えたり、物忘れを自ら強く訴えたりする。また拘禁状況などの強いストレス下で、的外れな応答(例:2+2に5と答える)を示すGanser症候群も偽認知症(偽痴呆)の一型とされる。本例の滅裂思考、奇妙な姿勢、昏迷はこれらとは異なる。
- ×c. 見当識障害
見当識障害とは、時間・場所・人物など、自分が置かれている状況を正しく把握できなくなる状態である。意識障害(せん妄など)や認知症で典型的にみられる。本例では日時や場所がわからないといった所見は示されておらず、統合失調症の緊張病状態では基本的に意識は清明で、見当識も保たれていることが多い。
- ○d. 緊張病症候群
緊張病症候群(カタトニア)は、意志・運動の表出が著しく障害される状態像である。主な症状として、昏迷(意識は保たれるが外界に反応せず動かない)、緘黙、カタレプシー(他人にとらされた姿勢や不自然な姿勢を長く保ち続ける)、蝋屈症、拒絶症、常同症、衒奇症(わざとらしい奇妙な動作)、反響言語・反響動作、しかめ顔、そして目的のない激しい興奮がある。本例の「奇妙な姿勢のまましゃべり続ける」「急に全く応答せず身じろぎもせず一点を見つめる」は、興奮と昏迷・緘黙・姿勢保持の組み合わせであり、緊張病症候群に合致する。
- ×e. 錐体外路症状
錐体外路症状は大脳基底核を中心とする運動調節系の障害で生じる症状で、パーキンソニズム(無動・筋強剛・安静時振戦・姿勢反射障害)、ジストニア、アカシジア(静座不能)、遅発性ジスキネジアなどが含まれる。精神科領域では抗精神病薬の副作用として重要である。本例は服薬歴の記載もなく、筋強剛や振戦などの神経学的所見も示されていない。昏迷や奇妙な姿勢は精神症状としての緊張病によるものと考えるのが妥当である。
緊張病(カタトニア)の位置づけ
かつて統合失調症は病像により破瓜型(解体型)・緊張型・妄想型などの病型に分けられ、緊張病症候群は主に緊張型統合失調症の症状とされていた。緊張型は20歳前後に比較的急に発症し、緊張病性興奮と昏迷を繰り返すが、個々のエピソードは数日〜数週間で軽快しやすく、予後は他の病型より比較的良いと考えられてきた。 現在のDSM-5(およびDSM-5-TR)では統合失調症の病型分類は廃止され、緊張病は特定の疾患に限らない状態像として扱われる。統合失調症のほか、双極性障害・うつ病などの気分障害(実際には頻度が高い)、脳炎(抗NMDA受容体脳炎など)、代謝性疾患、薬物などの身体的原因でも生じるため、身体疾患の除外が重要である。DSM-5では、昏迷、カタレプシー、蝋屈症、無言症、拒絶症、姿勢保持、わざとらしさ、常同症、外的刺激の影響によらない興奮、しかめ面、反響言語、反響動作の12症状のうち3つ以上で緊張病と判断する。
治療と注意点
・ベンゾジアゼピン系薬(ロラゼパムなど)がよく奏効し、診断的治療にもなる。無効例や重症例では電気けいれん療法(ECT)が有効である。 ・昏迷が続くと摂食・飲水ができず、脱水・低栄養、深部静脈血栓症、肺塞栓などの身体合併症を起こしうる。 ・発熱、自律神経症状を伴う致死性緊張病や、抗精神病薬投与時の悪性症候群との鑑別・合併に注意する(悪性症候群は高熱、筋強剛、意識障害、CK上昇を示す)。
統合失調症の主な症状(参考)
・陽性症状:幻覚(とくに幻聴)、妄想、まとまりのない会話(連合弛緩・滅裂思考)、ひどくまとまりのない行動、緊張病性の行動。 ・陰性症状:感情の平板化、意欲低下、思考の貧困、社会的引きこもり。
POINT
・緊張病症候群=昏迷・緘黙・カタレプシー・蝋屈症・拒絶症・常同症・反響症状・興奮などを示す状態像。 ・興奮と昏迷が短時間で入れ替わるのが特徴的。意識は清明で見当識は保たれる。 ・統合失調症だけでなく、気分障害や身体疾患(脳炎など)でも起こる。 ・治療はベンゾジアゼピン系薬、無効例にはECT。悪性症候群との鑑別に注意。 ・用語の定義:離人症=現実感の喪失、偽認知症=うつ病などによる見かけ上の認知症、見当識障害=時・場所・人の認識障害、錐体外路症状=パーキンソニズムなど。
