StudyMed医師国家試験

蝶形紅斑の女性の眼底に浮かぶ白い綿―ループス網膜症が告げる疾患活動性

第103回医師国家試験 D問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第103回 D問題 第28問

32歳の女性。右眼の視力低下を主訴に来院した。1年前から両上肢の関節の朝のこわばり,発熱および蝶形紅斑があった。1か月前から症状が増悪してきた。矯正視力は右眼0.8,左眼1.0である。右眼の眼底写真を別に示す。  みられるのはどれか。

第103回 D問題 第28問の問題画像
  1. a.斑状出血
  2. b.軟性白斑
  3. c.網膜新生血管
  4. d.漿液性網膜剝離
  5. e.桜実紅斑〈cherry-red spot〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、全身疾患を背景にした視力低下で、眼底写真に「実際に写っている所見」を選ぶ問題だ。まず病歴から背景疾患を推定し、そのうえで写真を素直に読むこと。この2段階を意識しよう。若い女性で、朝のこわばりを伴う関節症状、発熱、蝶形紅斑がそろっている。何を考える?
医学生医学生
膠原病の講義で、若年女性に関節炎と蝶形紅斑があればまず全身性エリテマトーデスと習いました。
ドクタードクター
その通り。SLEは自己抗体と免疫複合体によって皮膚、関節、腎臓、中枢神経、血液など多臓器が障害される病気だ。しかも1か月前から全身症状が悪化していて、そこに視力低下が加わっている。疾患活動性が上がっている時期だ、という点を押さえておこう。
医学生医学生
SLEで目にも症状が出るんですね。眼科の臨床実習では、糖尿病網膜症の患者さんばかり見ていた気がします。
ドクタードクター
眼病変は意外と多いんだ。代表はループス網膜症で、免疫複合体の沈着や血管炎、抗リン脂質抗体による血栓傾向で網膜の細い血管が傷む。では写真を見てみよう。視神経乳頭の周りから上下の血管アーケードに沿って、境界がぼんやりした白くふわっとした病変がいくつも散らばっている。これは何かな。
医学生医学生
白い病変というと白斑ですね。硬性白斑と軟性白斑の区別がいつも曖昧で……。
ドクタードクター
そこは大事な区別だね。硬性白斑は血管から漏れた血漿の脂質や蛋白が網膜の外網状層に沈着したもので、境界がはっきりした黄白色の小さな点として見える。一方、軟性白斑は綿花状白斑とも呼ばれ、境界が不鮮明で綿毛のように見える。今回の白い病変はふわっとしていて境界がぼやけているから、軟性白斑だ。これが正解になる。
医学生医学生
軟性白斑は、どうして白く見えるんでしょうか。
ドクタードクター
網膜の細小動脈が詰まると、神経線維層が虚血に陥る。すると神経節細胞の軸索の中を流れる物質輸送、つまり軸索流が途絶え、運ばれていた物質がその場に溜まって白く濁って見えるんだ。生理学で習った軸索輸送が、ここでつながってくる。SLEの血管障害による眼底所見として、軟性白斑は最も代表的なものだ。
医学生医学生
では斑状出血はどうですか。血管が傷むなら、出血していてもおかしくない気がします。
ドクタードクター
いい疑問だ。実際、ループス網膜症で網膜出血を伴うこともある。斑状出血は網膜の深い層にできる、境界が比較的はっきりした赤い出血で、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症で目立つ。ただ、この写真には赤い出血巣は写っていない。設問は「みられるのはどれか」だから、起こりうるかどうかではなく、写っているかどうかで判断するんだ。
医学生医学生
なるほど。網膜新生血管も、重い虚血なら起こりそうですね。
ドクタードクター
その通りで、広い範囲が虚血になるとVEGFが産生され、網膜表面や乳頭上に脆い異常血管ができる。増殖糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の進行例が典型で、SLEでも重症の血管閉塞例ではありうる。でもこの写真では認めない。細かな新生血管を見つけるには、フルオレセイン蛍光眼底造影で色素の漏出を確認するのが有用だ。
医学生医学生
漿液性網膜剝離は原田病で出てくる所見だと、CBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。網膜の下に液体が溜まって網膜が浮き上がる状態で、原田病や中心性漿液性脈絡網膜症が代表だ。SLEでも脈絡膜の血管障害やステロイド投与に伴って起こることはあるけれど、写真に隆起は見当たらない。最後の桜実紅斑はどうだろう。
医学生医学生
網膜中心動脈閉塞症とTay-Sachs病ですね。網膜全体が白く濁る中で、中心窩だけが赤く見えるという。
ドクタードクター
完璧だ。中心窩は網膜が薄いから、脈絡膜の赤みが透けて見えるんだ。Niemann-Pick病などのリソソーム病でも見られる。今回は網膜がびまん性に濁ってはいないので該当しない。
医学生医学生
背景疾患からSLEを考え、写真では境界不鮮明な綿毛状の白斑を見つけて軟性白斑と判断する、という流れですね。他の選択肢はSLEで起こりうるものも混ざっているので、ひっかけに注意が必要だと感じました。
ドクタードクター
まさにそこが出題の狙いだ。発展知識も押さえておこう。ループス網膜症の出現は全身の疾患活動性の高さを反映するとされ、重症例では網膜の動脈や静脈が閉塞する血管閉塞性網膜症に進むことがある。抗リン脂質抗体陽性例や中枢神経ループスを伴う例で多いとされるから、眼底所見をきっかけに全身の評価を見直すことが大切だ。
医学生医学生
SLEの治療に使う薬でも、目に副作用が出ることがありますよね。
ドクタードクター
いい指摘だ。副腎皮質ステロイドでは白内障や緑内障、ヒドロキシクロロキンでは網膜症が問題になるから、定期的な眼科検査が欠かせない。それから、軟性白斑はSLEに特有ではなく、高血圧網膜症、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、HIV網膜症、貧血や白血病でも見られる。「軟性白斑を見たら網膜の細小血管の虚血を考え、原因となる全身疾患を探す」と覚えておこう。

まとめ

若年女性に多関節炎・発熱・蝶形紅斑がそろえば全身性エリテマトーデス(SLE)を考え、その眼底所見の代表が軟性白斑(綿花状白斑)です。軟性白斑は網膜細小動脈の閉塞によって神経線維層が虚血に陥り、軸索流が途絶えて生じる境界不鮮明な綿毛状の白色病変で、境界鮮明な黄白色の硬性白斑(脂質・蛋白の沈着)とは成り立ちが異なります。ループス網膜症は疾患活動性の高さを反映するとされ、重症例では血管閉塞性網膜症に進むことがあるため、全身評価のきっかけとなります。斑状出血や新生血管、漿液性網膜剝離はSLEでも起こりえますが、「みられるのはどれか」では写真に実際に写っている所見を選ぶことが重要で、桜実紅斑は網膜中心動脈閉塞症やTay-Sachs病などの所見です。軟性白斑を手がかりに背景の全身疾患を探る視点は、眼科と内科をつなぐ臨床推論の基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

患者は32歳の女性である。1年前から、両上肢の関節の朝のこわばり(関節炎を示唆)、発熱、蝶形紅斑(両頬から鼻背にかけて蝶が羽を広げたように広がる紅斑)が続いており、1か月前から増悪している。若年女性に多関節炎・発熱・蝶形紅斑がそろえば、まず全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)を考える。今回は右眼の視力低下(矯正0.8)を訴えて来院した。

眼底写真の読み方

右眼の眼底写真では、視神経乳頭の周囲から上下の血管アーケード(網膜の主な動静脈が弓状に走る部分)に沿って、境界がぼんやりとした白色でふわっとした病変が複数散在している。これが軟性白斑(綿花状白斑、cotton-wool spot)である。明らかな出血、新生血管、網膜の隆起(剝離)、中心窩だけが赤く浮かび上がる像はみられない。

診断と設問の考え方

SLEでは免疫複合体の沈着や血管炎、抗リン脂質抗体による血栓傾向などにより網膜の細小血管が障害され、ループス網膜症を生じる。その代表的な所見が軟性白斑であり、SLEの活動性が高い時期に出現しやすい。本例は全身症状が増悪している時期に視力低下と軟性白斑が出現しており、SLEの疾患活動性上昇に伴うループス網膜症と考えられる。 設問は「写真にみられる所見」を問うているので、SLEで起こりうる所見であっても写真に写っていないものは選ばない、という点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  斑状出血

    斑状出血は網膜の深層(内顆粒層付近)に生じる、境界が比較的はっきりした円形〜斑状の赤い出血で、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症で目立つ。ループス網膜症でも網膜出血を伴うことはあるが、本写真には赤色の出血巣は認められない。

  2. ○b.  軟性白斑

    写真では視神経乳頭周囲から血管アーケード、黄斑部にかけて、境界不鮮明な綿毛状の白色病変が散在しており、軟性白斑(綿花状白斑)である。網膜の細小動脈が閉塞して神経線維層が虚血に陥ると、神経節細胞の軸索内の物質輸送(軸索流)が途絶え、輸送物質が停滞・蓄積して白く濁って見える。SLEによる血管障害(ループス網膜症)で最も代表的な眼底所見であり、本例の全身症状とも合致する。

  3. ×c.  網膜新生血管

    網膜新生血管は、広い範囲の網膜虚血によって血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が産生され、網膜表面や乳頭上に脆弱な異常血管が発生するものである。増殖糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の進行例で問題となり、SLEでも重症の血管閉塞例では起こりうる。しかし本写真では認めない。細かな新生血管の検出には、フルオレセイン蛍光眼底造影で蛍光色素の漏出をみるのが有用である。

  4. ×d.  漿液性網膜剝離

    漿液性網膜剝離は、網膜の下に液体がたまって網膜が浮き上がる状態で、眼底写真では境界のある隆起や色調の変化としてみられる。中心性漿液性脈絡網膜症や原田病(Vogt-小柳-原田病)が代表的であり、SLEでも脈絡膜の血管障害(ループス脈絡膜症)や副腎皮質ステロイド投与に伴って生じることがある。しかし本写真にはそのような隆起は認められない。

  5. ×e.  桜実紅斑〈cherry-red spot〉

    桜実紅斑は、網膜全体が白く混濁する中で、網膜が薄く脈絡膜の赤みが透けて見える中心窩だけが赤く浮かび上がる所見である。網膜中心動脈閉塞症で網膜が虚血性に浮腫・混濁した場合や、Tay-Sachs病・Niemann-Pick病などのリソソーム病で網膜神経節細胞に脂質が蓄積した場合にみられる。本写真では網膜のびまん性混濁はなく、該当しない。

全身性エリテマトーデス(SLE)の概要

自己抗体(抗核抗体、抗二本鎖DNA抗体、抗Sm抗体など)と免疫複合体により、皮膚・関節・腎臓・中枢神経・血液・漿膜など多臓器が障害される自己免疫疾患である。20〜40歳代の女性に多い。代表的症状として、発熱・全身倦怠感、蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏、口腔潰瘍、非破壊性の関節炎、漿膜炎(胸膜炎・心膜炎)、ループス腎炎、精神神経症状、血球減少などがある。検査では低補体血症(C3、C4、CH50の低下)が疾患活動性の指標となる。

SLEの眼病変

・ループス網膜症:軟性白斑が最も多く、網膜出血、網膜血管の狭細化を伴うことがある。重症例では網膜動脈・静脈の閉塞(血管閉塞性網膜症)をきたし、抗リン脂質抗体陽性例や中枢神経ループスを伴う例で多いとされる。網膜症の出現は全身の疾患活動性の高さを反映する。 ・ループス脈絡膜症:脈絡膜の血管障害による漿液性網膜剝離。 ・その他:乾性角結膜炎(Sjögren症候群の合併)、上強膜炎・強膜炎、視神経炎。 ・治療薬による障害:副腎皮質ステロイドによる白内障・緑内障、ヒドロキシクロロキンによる網膜症(定期的な眼科検査が必要)。

軟性白斑と硬性白斑の違い

・軟性白斑(綿花状白斑):境界不鮮明で綿毛状。網膜神経線維層の虚血による軸索流の途絶が原因。数週〜数か月で消退する。高血圧網膜症、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、SLE、HIV網膜症、貧血・白血病などでみられる。 ・硬性白斑:境界鮮明な黄白色の小斑点。血管から漏れ出た血漿中の脂質・蛋白が網膜外網状層に沈着したもの。糖尿病網膜症や高血圧網膜症で黄斑部に輪状・星芒状に並ぶことがある。

桜実紅斑をきたす疾患

網膜中心動脈閉塞症、Tay-Sachs病、Niemann-Pick病、Sandhoff病、GM1ガングリオシドーシス、シアリドーシスなど。

POINT

・若年女性+多関節炎+発熱+蝶形紅斑 → SLEを考える。 ・SLEの眼底所見の代表は軟性白斑(綿花状白斑)で、疾患活動性の高さを反映する。 ・軟性白斑は網膜細小動脈閉塞による神経線維層の虚血(軸索流の途絶)、硬性白斑は漏出した脂質・蛋白の沈着。 ・桜実紅斑は網膜中心動脈閉塞症やTay-Sachs病・Niemann-Pick病などでみられる。 ・「みられるのはどれか」では、疾患で起こりうる所見ではなく、写真に実際に写っている所見を選ぶ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。