正常粘膜の下に潜む紡錘形細胞―bridging foldが導くGISTの診断
第103回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。健康診断の上部消化管造影で異常を指摘され来院した。上部消化管内視鏡写真(A)と生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.胃ポリープ
- b.胃癌
- c.胃MALTリンパ腫
- d.GIST〈gastrointestinal stromal tumor〉
- e.迷入膵
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胃の隆起性病変では、まず上皮性病変か粘膜下腫瘍かを見分けることが出発点です。正常粘膜に覆われたなだらかな隆起にbridging foldを伴えば粘膜下腫瘍を考え、頂部のdelleは増大に伴う潰瘍形成を示し、出血の原因にもなります。生検で紡錘形細胞の密な増殖があればGIST・平滑筋腫・神経鞘腫が候補となり、胃で最多のGISTはKIT(CD117)・DOG1陽性で、desmin陽性の平滑筋腫やS-100陽性の神経鞘腫と区別します。治療は腫瘍を破らない完全切除が原則で、リンパ節郭清は通常不要、高リスク例や切除不能・再発例ではイマチニブが用いられます。内視鏡形態と組織像を段階的に組み合わせる考え方は、消化管腫瘍全般の鑑別の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳男性。健康診断の上部消化管造影で異常を指摘されたのみで、自覚症状ははっきりしない。 ・上部消化管内視鏡(A):胃内腔に向かってなだらかに盛り上がる表面平滑な隆起性病変で、表面は周囲と同じ正常な胃粘膜に覆われている。周囲の粘膜ひだが腫瘤の上に橋を架けるように伸びる所見(bridging fold)を伴い、頂部には臍のようなくぼみ(delle)がみられる。 ・生検組織(B、H-E染色):細長い紡錘形の細胞が密に増殖しており、束状・柵状の配列を示す。
診断へのプロセス
1. 胃の隆起性病変では、まず上皮性病変(ポリープ、腺腫、癌)か、上皮の下から粘膜を持ち上げている非上皮性病変(粘膜下腫瘍)かを見分ける。 2. 表面が正常粘膜で覆われ、なだらかな立ち上がりとbridging foldを伴う形態は、粘膜より深い層(主に固有筋層や粘膜下層)から発生した粘膜下腫瘍の典型像である。これにより胃ポリープや胃癌のような上皮性病変は考えにくくなる。頂部のdelleは、腫瘍の増大に伴って表面の粘膜が虚血に陥り、びらん・潰瘍化したものと解釈され、出血の原因にもなる。 3. 胃の粘膜下腫瘍の代表はGIST(消化管間質腫瘍)、平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫、迷入膵、カルチノイド(神経内分泌腫瘍)、悪性リンパ腫などである。このうち生検で紡錘形細胞の増殖がみられるのはGIST、平滑筋腫、神経鞘腫で、胃ではGISTが最も頻度が高い。 4. 以上から、本例はGISTと診断するのが最も妥当である。確定には免疫組織化学染色でKIT(CD117)やDOG1の陽性を確認し、平滑筋腫(desmin・α-SMA陽性、KIT陰性)や神経鞘腫(S-100陽性、KIT陰性)と区別する。
設問の考え方
内視鏡の「正常粘膜に覆われた隆起+bridging fold+delle」で粘膜下腫瘍と判断し、生検の「紡錘形細胞の密な増殖」からGISTを選ぶ、という二段階で考える。
選択肢考察
- ×a. 胃ポリープ
胃ポリープ(過形成性ポリープ、胃底腺ポリープなど)は粘膜上皮由来の隆起であり、表面は発赤調や周囲とは異なる性状の上皮に覆われ、粘膜下腫瘍のようななだらかな立ち上がりやbridging foldは示さない。大きさも多くは2 cm未満である。組織像も腺窩上皮や胃底腺の過形成であり、紡錘形細胞の増殖とは異なる。
- ×b. 胃癌
胃癌は粘膜上皮から発生する悪性腫瘍で、病変表面に癌が露出するため、表面は不整で正常粘膜には覆われない。進行癌で周囲のひだが変化する場合も、ひだの先細り・中断・棍棒状の肥厚・融合といった所見であり、腫瘤に架かるbridging foldとは異なる。組織像も異型腺管や印環細胞などの上皮性腫瘍細胞であり、紡錘形細胞の増殖ではない。
- ×c. 胃MALTリンパ腫
MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫)は低悪性度のB細胞リンパ腫で、Helicobacter pylori感染と関連が深い。内視鏡像は早期胃癌(0-IIc型)に似た褪色調の陥凹、びらん・多発潰瘍、敷石状粘膜、粘膜下腫瘍様の隆起など多彩である。組織では小型〜中型のリンパ球様腫瘍細胞がびまん性に増殖し、腺管上皮に浸潤して破壊するlymphoepithelial lesion(リンパ上皮性病変)が特徴であり、紡錘形細胞の増殖ではない。
- ○d. GIST〈gastrointestinal stromal tumor〉
GISTは消化管の筋層に存在するCajal介在細胞(消化管運動のペースメーカー細胞)またはその前駆細胞に由来する間葉系腫瘍で、胃に最も多く発生する。筋層から発生して内腔側に発育するため、正常粘膜に覆われbridging foldを伴う粘膜下腫瘍の形をとり、大きくなると頂部にdelleや潰瘍を形成する。組織学的には紡錘形細胞(一部は類上皮様細胞)が束状・柵状に密に増殖し、本例の内視鏡像・生検像のいずれにも合致する。免疫染色でKIT(CD117)やDOG1が陽性となり、CD34も多くで陽性を示す。
- ×e. 迷入膵
迷入膵(異所性膵)は、本来の膵臓と連続しない場所に膵組織が存在する先天的な異常で、胃では前庭部の大弯側に多い。粘膜下腫瘍の形をとり、頂部に導管の開口部に相当する陥凹(中心臍窩)を伴うことがある点は本例に似る。しかし病変の本体は膵の腺房・導管(時にランゲルハンス島)であり、組織で紡錘形細胞の密な増殖がみられることはない。また粘膜下にあるため、通常の生検では表面の胃粘膜しか採取されず診断がつかないことも多い。
GISTの概要
・定義:主に消化管に発生する紡錘形ないし類上皮様の細胞からなる間葉系腫瘍で、免疫組織化学的にKIT(CD117)またはDOG1が陽性のもの。 ・発生部位:胃(約60〜70%)>小腸>大腸・食道の順。中高年に多い。 ・病因:多くはKIT遺伝子の機能獲得型変異、一部はPDGFRA遺伝子変異による。受容体型チロシンキナーゼが常に活性化し、細胞増殖が止まらなくなる。 ・症状:小さいうちは無症状で、検診や他疾患の検査で偶然見つかることが多い。大きくなると消化管出血(吐血・下血・貧血)、腹部腫瘤、腹痛などを生じる。 ・診断:内視鏡で粘膜下腫瘍を確認し、超音波内視鏡(EUS)で発生層(主に第4層=固有筋層)や内部性状を評価する。組織採取には超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)が有用で、免疫染色でKIT・DOG1陽性を確認する。CTで大きさ、壁外発育、転移の有無を評価する。 ・悪性度評価:腫瘍径、核分裂像数、発生部位(胃より小腸の方が悪性度が高い)、腫瘍破裂の有無でリスク分類を行う。 ・治療:原則は外科的切除で、腫瘍を破らないように完全切除する。リンパ節転移はまれなため、系統的リンパ節郭清は通常不要で、胃では部分切除(腹腔鏡下手術を含む)が選ばれることが多い。再発リスクの高い症例では術後にイマチニブ(KITなどを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬)による補助療法(通常3年間)を行い、切除不能・転移・再発例ではイマチニブが第一選択である。イマチニブ耐性例ではスニチニブ、レゴラフェニブなどが用いられる。
粘膜下腫瘍の内視鏡所見
・なだらかな立ち上がりで、表面は周囲と同様の正常粘膜。 ・bridging fold:周囲のひだが腫瘤の上に架かるように伸びる。 ・delle:頂部のくぼみ・潰瘍。GISTなどの増大に伴う潰瘍形成のほか、迷入膵の導管開口部としてもみられる。 ・脂肪腫はクッションサイン(鉗子で押すと凹む)が陽性で黄色調を呈する。
POINT
・正常粘膜に覆われた隆起+bridging fold → 粘膜下腫瘍。 ・胃の粘膜下腫瘍で紡錘形細胞の増殖 → まずGISTを考える。 ・GISTはCajal介在細胞由来で、KIT(CD117)・DOG1陽性。平滑筋腫(desmin陽性)、神経鞘腫(S-100陽性)と鑑別する。 ・治療は完全切除(リンパ節郭清は通常不要)。高リスク例の術後補助療法、切除不能・再発例にはイマチニブ。 ・MALTリンパ腫はlymphoepithelial lesion、迷入膵は膵組織の存在で区別する。
